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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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シュナイデルという騎士

二日連続で軽い熱中症になりました……(´•ω•`)

 

 昨日のアリオクとの戦いの疲れも癒え、初夏の騒がしい虫の音が朝からうるさく鳴くのを聞きながら起きる。すると虫の音だけじゃなく、部屋の外からも何やら騒ぐ男性の声が聞こえてきた。どうやら宿の食堂から聞こえてくるみたいだ。


「だから詳しく説明しろと言っているのだ、私は!」

「だからぁ、何度も言ってます通り、セイル村の人間はギルドの職員とここに泊まっている冒険者の方達を残して全滅しましたぁ!」

「だからそれを詳しく説明しろと言っているのだ! 村の城壁が破壊されているし、村の中央にも巨大な穴が空いている……! 東の小国群のどこかの国の攻撃を受けたのではないのか!?」


 相手の男性が誰かは分からないけど、応対しているのは、昨夜はお楽しみでしたね、のアリエスさんだ。何を一人で楽しんでいたのかはご想像にお任せします。

 そのアリエスさんは僕の眷属になって鼻を啜る事はなくなったみたいだけど、喋り方は直らなかったみたいだね。うん、どうでもいいか。


「……朝っぱらから騒がしいわね。あ、ルウちゃんおはよう」

「アニーさんもおはよう! ライムは……うん、まだ寝てるね。あと少しだけ寝かしてあげよう、昨夜の事で疲れてるだろうし」

「ええ、そうね。それよりも何事かしら?」


 騒ぐ声に目を覚ましたアニーさんと朝の挨拶を交わし、何事かと二人で部屋の外へと出る。僕の言葉の通り、気持ち良く眠っているライムはもう少し寝かしておく。


「おや? おはようございます、ルウ。ルウもあの声で起きましたか」

「ったくよぉ、朝っぱらから騒ぐなっての! なあ!」


 僕達女性陣が泊まる『羊の間』の対面の部屋『鶏の間』からも、タイミング良くガルバとジャッシュさんが出てきた。話の内容から、どうやら二人も騒ぐ声に起こされたらしい。

 いつでも平常心でイケメンに生まれ変わったガルバはともかく、ジャッシュさんは無理やり起こされたのか機嫌が悪い。

 あ、ジャッシュさんはハムスターの獣人だから夜行性なのかな? それで本来なら眠りに就くこの時間帯は機嫌が悪いのかも。……そんな訳ないか。


「おはようジャッシュにガルバ君。とにかく行ってみましょ?」

「ああ、そうだな……!」

「おはようございます、アニーさん」

「おはよう、ガルバにジャッシュさん。うん、そうだね。とにかく行ってみよう」


 起きないライムはそのままに、騒ぎの元凶がいると思われる食堂へと僕達四人は向かった。


 うん、当然すぐに食堂に着いた。それ程大きい宿じゃないからすぐだよね。だからこそ声で目が覚めたんだし。


「君たちか、ここに泊まっているという冒険者達は!」


 僕達が食堂に着いて早々、全身を鈍色の鎧で包み込んだ騎士風の男に声を掛けられた。と言うか、騎士だね、うん。

 胸に竜に対峙する騎士の紋章が刻印されたプレートアーマーを着てるって事は、王国守護軍の騎士だね。騎士だけに声も大きいけど、少し動くだけでガチャガチャと鳴る鎧の音も騒がしい。


「君たちなら詳しく教えてくれそうだ。この村でいったい何が起きたのだ! 何故、ギルド職員と君たち以外の人間が居ない!? 知ってるならば教えてくれ!!」


 恐らく三十歳前後のその騎士は、僕達を見るなり興奮気味に訊ねてくる。


「おいおい、人に訊ねる時は自分の身分を明かす事が先なんじゃねぇか? 騎士のおっさんよ」


 一頻りがなり立てる様に訊ねてきた騎士に、騒がしい声で起こされて機嫌の悪いジャッシュさんが言う。

 ジャッシュさんの言葉にその通りだと思うと共に、まだおっさんじゃないよと心でツッコミを入れておく。


「お……!? 誰がおっさんか!!」


 ほらね? 騎士が怒った。

 しかし、ジャッシュさんの言葉が功を奏した様で、騎士の男は自らの所属と身分を明かした。


「私の名は【シュナイデル】! 栄えあるラディアス王国の第三守護軍に所属する騎士である! 第三守護軍の将軍である【ガーランド】様の命を受け、セイル村に第三守護軍が駐留する旨を告げる為に本軍に先駆けて来たのだ! それが来てみればこの有り様だ……! これではバアルゼブブとやらの討伐よりも、小国群に備える方が大事ではないか!」

「守護軍、だと!? 偶然か? それとも……ブツブツ……」


 騎士の男……第三守護軍のシュナイデルと名乗った男の答えに対し、ジャッシュさんはブツブツと何かを呟いている。

 しかしそれよりも気になる言葉がシュナイデルさんの話にあった。


 バアルゼブブの討伐。シュナイデルさんは今確かにそう言っていた。


 僕達は今回のアリオクの件について、バアルゼブブと言う男が元凶であるとギルドに報告して、そしてギルドから王国に働きかけてもらおうと思っていたのだ。

 それが僕達の行動よりも早く、既に守護軍は動いていたらしい。どうして王国にバアルゼブブの事が知れ渡っていたのかと、不思議に思う。

 しかしそこで、不意に僕の脳裏に母様の顔が浮かぶ。

 そう言えば、母様が言ってたっけ……守護軍を派兵してもらってバアルゼブブを討つって。

 それでこその守護軍のこの動きの早さか。うん、納得した。


 僕の考えはともかく、アリエスさんは騒がしくしてしまった事を僕達に謝ってきた。


「あ、ルウちゃん達。ごめんねぇ、うるさくしちゃって。この人が私の話を信じてくれないのよぉ……」

「アリエスさん、おはよう! ……そうみたいだね。とにかく僕が説明するから、アリエスさんは飲み物を用意してくれると嬉しいな」

「了解ぃ! 果実水と紅茶があるみたいだけどぉ、どっちがいいかなぁ?」

「あ、果実水でお願いします。それじゃ……えっと、シュナイデルさんでしたっけ? 宿の女将さんが居ないのでアレですけど、そちらの席で説明するから座って下さい」

「む? 了解した」


 アリエスさんから応対を受け継ぎ、僕はシュナイデルさんを席へと促した。騎士を立たせたままってのも礼儀に欠けるだろうしね。


 食堂の席へと座るシュナイデルさんを待ち、僕達も順に席へと着く。六人がけの丸いテーブルに座り、アリエスさんの果実水を待って話を始める。その後アリエスさんも席へと着いた。


「えっと……今回の件ですけど、まず僕達は完全に被害者だという事を初めに言っておきます。それと言うのも──」


 そうして、僕は今回の件について話し始めた。


 手紙を届ける依頼を受けてセイル村を訪れた事。

 道中、セイル村の守衛と思われる男が肉のスライムに変化して襲って来たのを討伐した事。

 ギルドの職員さん以外の対応が可笑しかった事。

 祭りがあるので参加してくれと誘われたので、アリエスさんを除く僕達全員が参加した事。


 そして、その祭りで村人全てが肉のスライムに変化して僕達へと襲い掛かってきた事。


 それらを詳しく説明した所で、僕は喉を潤す為に一口果実水を飲む。うん、美味しい。


「ううむ……信じられんが、信じるしかあるまいな。それに、王都の件とも繋がっている様に思える。話を続けてくれ」


 僕が果実水を飲むのを待って、シュナイデルさんは続きを促してくる。僕も続きを答えていく。


「分かりました。それで、肉のスライムに変化した村人と家畜達全てが襲い掛かってきた訳ですが、肉のスライム一体一体は大して強くはなかったので、何とか僕達で倒す事が出来ていました。しかしある程度の数の肉のスライムを倒すと、奴らは危機感を持ったのか、何体かが融合してより強力な個体へと進化したのです。それでも僕達は力を合わせて倒していきました。その時です、城壁を破壊されたのは。どうやら僕達に敵わないと悟った融合して大きくなった肉のスライムの内の一体が逃げていたらしく、その肉のスライムが城壁に逃げ道を遮られ、そこで自爆したみたいなんです。僕達はあまりの衝撃に驚きました。自爆もそうですが、その威力にもです。それからというもの、より慎重に肉のスライムの討伐を進め、残り一体という所で再び自爆を許してしまいました。僕達に被害が出なくて安心しましたが、それが地面に出来たあの穴の原因です。しかし、よく倒せたと思いますよ、あの肉のスライムの群れを。二度と戦いたくないですね」


 僕は、肉のスライムと化した村人との戦いからアリオクまでの戦いの真実をシュナイデルさんに話さなかった。上手く誤魔化して話せたと思う。

 でも、それは当然だよね、僕が人狼になって殲滅したなんて言える訳がない。言っても信じないだろうけど、わざわざ自らの危険を呼び込む様な真似は出来ないよね。


 僕の説明を聞き終えたシュナイデルさんは驚いた表情を浮かべていたけど、何度か頷いた後アプルの果実水を一口飲み、口を開いた。


「な、なるほど……! 村人の事は残念としか言いようがないですが、あなた方が無事で何よりでした。それと、今回の件について協力いただけた事を感謝致します。えっと……?」

「あ、僕はルウファって言います。右隣りに座ってるのがパーティメンバーのガルバで、更にその隣りがジャッシュさん、僕の左隣りがアニーさんで、そしてアリエスさんです」

「これはご丁寧にどうも。ではルウファさん、今回の件の協力、改めて感謝致します。後ほど軍の方から謝礼も出るので、どこに住んでるのかだけお教え下さい」


 謝礼が出るのか。途中から嘘を言ってただけなのに、謝礼を貰うとなるとさすがに気まずい。

 それにバアルゼブブは僕が殺すにしても、守護軍の騎士達にはこの国の為に頑張って欲しい気持ちがある。

 僕達に謝礼を用意するなら、その分を国を護る事に使って欲しい。微々たるものだろうけど、やっぱり謝礼は貰えないね。


「僕達は冒険者として生活してるので、謝礼は構いません。一応連絡する事もあると思うので、住所だけは教えておきます」

「分かりました。お若いお嬢さんなのに出来たお方ですな」

「当然ですよぉ! だってルウちゃん……ガイアスさんの娘さんですよぉ? しっかりしてて当然じゃないですかぁ!」


 !?


 黙っておこうと思ってた事をアリエスさんは見事にバラしてくれやがりました。このむっつり受付嬢は何を考えているのかと問いたい。頭の中はソレの事だけでいっぱいのくせに、余計な一言はやめて欲しい。


 しかしこの流れはアカン……! アカンやつやん!


「何と!? それは真ですかな、ルウファどの!」


 く、口調が変わってますよ、シュナイデルさん?


「ならば、是非とも我らが将軍のガーランド様に会って頂きたい! それに、ルウファどの達がバール村から依頼で来られたのであれば帰るのもバール村のはずでしょう。そちらには第一守護軍と第五守護軍がバアルゼブブの討伐で駐軍しているはずなので、我が第三守護軍の連絡部隊が定期連絡のおりにルウファどの達をお送り致します。我らの連絡部隊の軍馬であれば、バール村までは二日から三日で行けるでしょう!」

「え!? そんなに早くバール村に着けるんですか!? 分かりました、ガーランド様って人に会います僕! ……みんなもそれで良いよね?」


 シュナイデルさんの口調が変わった事に初めは面倒に巻き込まれると思ったけど、どうやらその心配はなさそうだ。

 それに、話を聞く分には間違いなく徒歩よりも早く帰れるんだから話に乗らない手はないよね。

 そう思い、僕は即決しちゃったんだけど、みんなの意見も大事だ。


 ……みんなはどうなんだろうか?


「俺はどっちでも良いが、早く帰れるに越した事はないな。賛成だ」

「わたしもジャッシュと同じ意見よ、ルウちゃん」


 ジャッシュさんとアニーさんは僕に賛成みたいだ。


「私もルウに賛成です。今はともかく、元々体力には自信がありませんでしたからね。恐らく、この場にいないライムも賛成するでしょう」

「私はぁ……うん、ガイアスさんに会ってみたいしぃ、一緒に着いていくよぅ。……支部長に許可取らないと、だけどねぇ」


 やっぱりガルバも賛成だった。アリエスさんが何故か着いて来る気まんまんだけど、まぁアリエスさんも眷属になったんだから、母様との顔合わせも必要だよね。


「かたじけない、ルウファどの! それでは私は報告の為一旦戻らせて頂きます。それでは後ほど……!」


 僕達みんなの賛成の意見を聞いた所でシュナイデルさんは席を立ってそう言うと、右拳を左胸に当てる仕種をしてから『長閑な田舎亭』を後にした。あの仕種は騎士の礼なのかな? ビシっとしててカッコ良いね。


 ともあれ、


「……んじゃ、部屋に戻ってもっかい寝るか」

「そうね。ライムちゃんもまだ寝てるし、ガーランドって人が来るまではもう一度寝ましょうか」

「私はぁ、支部長に許可を取って来ますぅ!」


 眠そうに話すジャッシュさんはともかく、僕達はラディアス王国第三守護軍のガーランド将軍に会う事になった。

 将軍がどんな人なのかは気になるけど、とりあえずもう一回僕も寝よう。ガーランド将軍が来るまで時間があるだろうしね。


 ガーランド将軍が良い人だと良いなぁ。そんな事を考えながら部屋に戻った僕は、幸せそうに眠るライムの顔を見ながら二度寝をするのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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