新たな眷属
熱中症になりました……
皆さんもくれぐれも熱中症にはお気を付け下さい……!
「あぅわぅあうぅ……がるるる、わぉん! (それじゃ血をあげるけど……気持ち悪くても、飲んでね!)」
僕の新たな眷属になりたいと言うガルバとライム、そしてアリエスさんの為に人狼へと僕は変身する。変身のあまりの激痛に、宿の床に水溜まりを作ってしまった。
女将さんやその家族がアリオクの犠牲となってしまった為に無人となったけど、もしも女将さん達が今も生きていれば僕はこっぴどく怒られた事だろう。
ともあれ、僕は自らの左手首をドラゴンナイフで切り裂き、迸る血を宿の食堂にある大皿へと注いでいく。一定量の血を注いだ所で、僕の手首は超回復により瞬く間に傷が塞がった。そうして、僕はわうわう吠えながら気持ち悪くても飲んでねと告げたのだ。
ガウガウ言っても伝わらないけど、こういうのはとにかく気持ちが大事だ。言葉は分からなくても、きっと意味は通じたはずだ。むしろ、親友なんだからライムとガルバにはしっかりと理解して欲しい。
それはともかく、後は僕の血を飲んだ三人が新たな眷属として生まれ変わるのを見守るだけだ。
ん?
いや、ちょっと待て。
このまま僕の血を飲んで、ライム達が僕の眷属になるのはいい。その覚悟は既に出来ている。
しかしこのまま僕の血を飲むと、すぐに変身が始まり、ワーウルフ特有の筋骨隆々の大きな体になってしまう。母様の時がそうだった。
するとどうなるか。答えは着ている服などが破けてしまう。つまり、人間の姿に戻った時に全裸という事だ。
……非常に拙い。
僕からすれば、同じ女性であるライムとアリエスさんは問題ない。しかしガルバは男の子だ。
前世が男の子だった僕はガルバのシンボルを見ても何とも思わないけど、ライムはきっと悲鳴を上げる事だろう。大人のアリエスさんは……うん、悲鳴を上げながらもしっかりと見てそうだ。
と言うか、ガルバだって自分のシンボルを異性には見られたくないはずだ。
「あぉ〜ん! がるるるる、がうわぉ〜ん!(ストップ! 服が破けるから、飲むなら部屋で裸になってから飲んで!)」
「どうしたんですか、ルウ?」
「今さら嫌って言ってもライムは飲むよ! ……飲むのに覚悟がいるけど」
「……ジュル? 眷属になるのはダメって事ですかぁ? ジュル?」
くっ! やはり伝わらないか!
どうすればいい!? 何か……何か手はないか!?
ッ!!
そうだ! 僕は文字を書けるんだから、文字で伝えればいい!
僕は三人が勝手に僕の血を飲まない様に血を注いだ皿ごと移動し、宿の記帳に使う紙を見付けてそこにさっき思い付いた事を書いて三人に見せる。文字には、血を飲む時は部屋で裸で飲んでね、と書いた。理由ももちろん書いている。
それを見たライム達は三者三様の表情を浮かべながらも、僕の字を読み納得してくれた。
ふぅ、危ない所だった。ともあれこれで安心だ。
それから皿の中の僕の血を、食堂の棚から取り出した三個のコップに移し替えていく。量は大まかだけど三等分だ。
「わうわうがうぅ! (一人で飲んでね!)」
わうわう言いながら、僕は血を注いだコップを三人に渡す。もちろん、三人とも快く頷いて了承してくれた。
そうして三人が『長閑な田舎亭』のそれぞれ部屋に一人で入るのを見届けた後、三人が眷属となるのを食堂の椅子に座って待つ事にする。
椅子がギシギシ悲鳴を上げるけど、何とか僕の体重を支えてくれている。こう見えて僕、体重は何と200セキもあるのだ。五年くらい前に測ったっきりだけど、恐らくそのままのはずだ。
あ、人狼形態でだよ? 神狼形態だと、たぶん300セキはあるだろうね。
それはさておき、三人が眷属となって部屋から出てくるその時を待つ。気分は妻の出産を待合室で待つ夫の気分だ。……経験した事ないけど。
一人でそんな風にソワソワしていると、アニーさんが隣の席に座り、僕へと話し掛けてきた。
「ねぇ、ルウちゃん。ルウちゃんの眷属になるとワーウルフや狼になれるんでしょ? やっぱり開放感とか凄いのかな?」
アニーさんの問いに、僕は首肯で答える。文字で伝える方が良いだろうけど、書くのが面倒だ。
「やっぱりそうなのね! やった♪」
「お、お前……! そういう趣味があったのかよ!?」
「だって……普通外で裸になんてならない訳でしょ? それに、夜営の時……すっごく燃えるんだから♪」
「……ソ、ソウダナ」
…………。
……惚気けるなら僕のいない所でお願いします。
──アォオオオオオオオオオ〜ン!!
──ガルルルォオオオオオオ〜ン!!
──キャオオオオオオオ〜〜ン♡
ジャッシュさんとアニーさんが惚気けるのをジト目で眺めていたら、三人が入った部屋からそれぞれ吠え声が聞こえてきた。僕の新たな眷属が産声を上げたらしい。
最初の吠え声は感じからしてライムだろう。僕の人狼の声よりもハスキーな感じだ。
次の低音が響く吠え声は間違いなくガルバだね。意外と良い声をしている。友達じゃなかったら惚れてたかもしれない。
となると、最後はアリエスさんだけど…………嬌声なのは気のせいだと思いたい。うん、忘れよう。
「今の声は!? ……本当にワーウルフになれるんだね、ルウちゃんの血を飲むと」
「ああ、確かにな……!」
まだ人間のジャッシュさんとアニーさんは、やはり人間の根源から来る恐怖があるんだろうね。頭では理解してるんだろうけど、体が若干震えている。
でも、それもその内無くなるだろう。自分達の番になれば、ね。
ジャッシュさん達を見ながらそんな事を考えてると、部屋に続く通路から三人が姿を見せた。
先頭はライムだ。空を思わせる蒼い体毛が美しいその体は、人狼の母様と同じくらいで身長190セルト程あり、それでも女の子特有の丸さを帯びている。額にはもちろん、僕の眷属の証となる黒い毛で炎の紋様がある。
二番目は、ガルバ……だよね?
全身を白い体毛に覆われた人狼形態のガルバだけど、恐ろしく巨体となっていた。僕がガルバだと疑うのも理解出来るだろう。
僕やライムの体毛よりもガルバの体毛は長く、それによってシンボルが上手い具合いに隠れている。額には黒毛の炎の紋様があるにはあるけど、炎と言うよりメッシュと言った方がしっくりくる。
それよりも語るべきはやはりその巨体だろう。何とガルバは、身長が3・5メルト、体重は500セキはあろうかと言う見事な体格となっていたのだ。ミイラのイメージはどこに行ったのかと言いたい。
通路をよく通れたなと思うと同時に、今も食堂の天井に肩が当たっている為窮屈そうである。
そして最後……嬌声を上げていたアリエスさんだけど、どうしてそうなった?
体毛は髪の色と同じピンク色なのは許せる。額の黒毛の炎の紋様もだ。それらはもちろん許せるんだけど、アリエスさん……あなたはどうすれば人狼になる血を飲んで、人狐の様な見た目になるんですか!? 尻尾もフワモコで狐を連想させるものが生えてるし……!
体の大きさは人間の時とほぼ同じの150セルトで、豊満だった体付きはシュッとしたスタイルに変わっている。
そして極め付きはやはりその顔だろう。間違いなく人狐に間違われる顔付きだ。
大きな三角の耳に尖った鼻先、切れ長の目は正に狐である。……不思議だ。
『ライム、ガルバ、そしてアリエスさん。僕の今の言葉が分かるかな? 眷属の宗主として、僕は君たちの新たな誕生を祝福するよ!』
ともあれ、僕は新たな眷属となった三人に向けて声を掛ける。同じ人狼……一人だけ微妙だけど、同じ人狼になったのだ。言葉も通じるはずだ。
『うん、ありがとう、ルウ! 凄いね、これ! ライム、凄い力を感じるよ……!』
蒼い体毛が美しいライムは、そう言って手を握ったり開いたりを繰り返している。その度に腕の筋肉が盛り上がり、言葉にした様に力が漲るのを感じているんだろう。
『ま、まさかこの私がこれ程の変化をするとは思いませんでした……。しかし、見た目通りの力もそうですが、何よりも強大なマナを感じます……! 私は今まで以上に魔法を使いこなせる事でしょう!』
まるで白熊と言った方が正解な気がするガルバも、どうやら僕の眷属になった事を喜んでくれてるみたいだ。後で魔法の唱え方が人間とは違う事を教えなきゃね。
『……ワーウルフになるのは冗談だったのにぃ。あ、でも鼻水が出なくなったぁ! しかもセクシーボディにもなったし、気持ち良かったし、やっぱり正解だったかもぉ♡』
…………。
何も言うまい。
『それじゃそろそろ人間の姿に戻ってもらうけど、戻り方は分かるよね? 分からなくても、人狼に変身した時の感覚を逆に辿れば人間に戻れるからね』
僕は三人にそう言い、部屋に戻って人間の姿に戻ってもらった。
いつまでも人狼の姿だと、ジャッシュさんとアニーさんが会話に入れないだろうし、居心地も悪いだろうからね。
僕も人間の姿に戻り、しばらく三人が部屋から出てくるのを待った。二回の変身による激痛で作ってしまった水溜まりは既に掃除済みだ。
「タイプは違うけど、ワーウルフが四体も揃うと壮観だったわね」
「確かになぁ。さすがの俺もビビったぜ」
「あはは。でも、二人だっていずれは人狼になるんでしょ? その時になれば僕達の気分がよく分かると思うよ」
ジャッシュさん達とそんな雑談しながらも三人を待っていると、ようやく一人目のガルバが元の姿で食堂に戻ってきた。さすがのガルバも、すぐに変身してみせた母様と違って手間取ったらしい。しかしその表情は……あれ? ミイラじゃなくなってる!?
痩けていた頬がふっくらとして、肌にも張りがある。妙に鋭くなった目付きも自信が溢れていて、何か、イケメンに見える。
だから僕はガルバに訊ねる。
「ガルバ、だよね?」
「ええ、そうですが? 何か変わりましたか?」
「嘘でしょ!? ガルバ君がイケメンになってる!」
「マジかよ!?」
アニーさんもジャッシュさんもガルバの変貌ぶりに驚いていた。付き合いが長い僕が一番驚いてるんだから当然だよね。
「か、変わったなんてものじゃないよガルバ! ちょっと待ってね、今僕の手鏡を出すから」
自分で確認してもらう方が早いと、僕は背嚢の中から母様と母娘になる切っ掛けとなった手鏡を取り出してガルバに渡した。
ガルバは手鏡に映る自分の顔を見て驚愕している。そりゃ驚くよね。うん、ガルバをもうミイラとは呼べなくなった。……心の中だけでしか呼んでなかったけど。
「これが……私、ですか……(ポッ)」
!?
「おっ待たせ〜!! ねぇねぇ、見てよルウ! ライムのお腹が綺麗に割れてるの! これもルウの眷属になったお陰ね、ありがとうルウ! って、え!? もしかしてガルバなの!? 凄くカッコ良くなってる!」
ガルバが自分の顔を見て顔を赤らめたのはともかく、ライムがお腹を見せながら元気に戻ってきた。と言うか、ライムもぽっちゃり体型がスレンダー体型に変わっている。
そのお陰もあって、元々素材が良かったライムの顔は美少女と言っても可笑しくはないものへと変わっていた。ま、負けてなんかないからね!
僕の謎の敗北感をよそに、ガルバとライムは互いの見た目の変化を褒め合い、色々と話し合っている。やはり身体能力の事がメインとなっているみたいだ。
そんな二人にジャッシュさんとアニーさんも加わって話に花が咲いているけど、僕はそこには参加せずにアリエスさんが戻ってくるのを待つ。
アリエスさんは部屋に入ったきり、一向に戻ってくる気配がない。
……もしかして、人間の姿に戻れなくなったのではないだろうか。
もしもそうだとしたら大変だ。僕は食堂からアリエスさんが入った部屋に行き、扉をノックしようとした。
……うん、そっとしておこう。
部屋の中からは、アリエスさんの艶かしい嬌声と荒い息遣いが微かに聞こえていた。
なりふり構わずに扉を開けなくて良かった。もしも開けていたら……
……うん、そっとしておこう。大事な事なので二回言った。
「もう夜も遅いから、そろそろ寝ましょ? 明日は急いでバール村に戻らないといけないし」
「そうだな。アニーの言う通りだ! この件をギルド本部に報告し、大至急動いてもらわねぇとヤバい事になる。そんで、王都にも伝えてもらえりゃ守護軍が動くはずだ。んじゃ、早く寝ろよお前ら!」
結局アリエスさんが部屋から出てこないまま寝る為に一旦解散となり、僕達はそれぞれ『羊の間』と『鶏の間』に別れて眠りに就いた。
同室のライムやアニーさんもやはり疲れていたのか、実にあっさりと眠っていた。特にライムは人狼に種族が変わったのもあって余計に疲れたんだろうね。
僕ももちろん、アリオクとの戦いで疲れたからすぐに眠った。《グリムリッパー》を忘れずに唱えたのは言うまでもない。見られても驚かれない様にそれも含めて全てを話したからね。
そうしてぐっすりと眠り、疲れも癒えた所で目を覚ます。
昨夜はあんな事があったのにも拘わらず、初夏を彩る虫の音や小鳥の囀りはいつも通りに聞こえてくる。
さて、今日も頑張りますか。
そんな意味を込めて背伸びをしてベッドから起き上がると、部屋の外から何やら騒がしい声が宿中に響き渡っていた。
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