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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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セイル村・4

予想してた方も多いでしょうが、ええ、その通りです!

四面楚歌です!(胸を張る作者!)

 

「よく来たねぇ、待ってたよ……ジュル……」

「祭りの主役が来なきゃ始まらないからな……ジュル……」

「昼間は店の方でどうも……ジュル……」


 祭りが行われる村の中央付近の牧草地へ行くと盛大に篝火が焚かれていて、そこに集まったたくさんの村人達が僕達を歓迎してくれた。次々と掛けられる声に、なんだか妙に照れてしまう。


「凄いたくさんの人が集まってるね! もちろんバール村よりは少ないけど、それでも一箇所にこれ程集まってるのはライム、初めてだよ!」

「そうですね、私も初めての経験です。こうして人が集まるというのは、何をしなくても興奮してくるものですね……!」


 たくさんの人が集まる中で、ライムとガルバも興奮気味にそう話す。うん、僕も照れてる場合じゃないね。せっかくの祭りなんだから、この雰囲気を楽しまなくちゃ。


 少しずつ上気していく気分の中、篝火の炎に照らされた牧草地に集まる人達を僕はそれとなく見ていく。


 農家の老夫婦、特産品の店主、昼間はあまり見掛けなかった子供達に、酪農家のおじさんおばさんがたくさんいる。

 もしかして、セイル村に住む全員が集まってるんじゃないだろうか。少なくても数百人はこの場に集まっていた。あ、宿の女将さんとその家族の人達もいつの間にか来てる。


 そんなたくさんの村人を見ていく内に、僕はギョッとしてしまう。


「何で!? 牛や羊、それに鶏まで集まってるよ!?」


 驚いて思わず口にしちゃったけど、よく見ると村人を囲む様に家畜類までがいた。

 祭りは人間だけのものかと思っていたけど、この世界では家畜なども祭りに参加させるのだろうか?


「きっとあの中から祭りで神に捧げる供物を選ぶのよ。もしかしたら、この祭りは豊作祈願の祭りなのかもね」


 家畜類がいる事に驚いていた僕に、アニーさんがそう説明してくれた。


 なるほど。神に供物を捧げる事で豊作を願ったのが祭りの起源だと、前世の何かの本で読んだ事がある。

 つまり、セイル村の祭りもそういう事なんだろうね。

 神に供物を捧げて祈り、そして、その後は命に感謝しながら供物を食して奉納とする。

 そんな祭りに参加出来るなんて、僕達は運が良かったよね。バッチリのタイミングでセイル村に来れて良かった。


 次第に村人達のボルテージが上昇していく。遂に祭りが始まるのかな?


「ようこそ祭りへ。主役が来なくちゃ祭りが始まらんからな」

「ああ、デニス! さっそく始めようぜ!」


 いよいよ祭りが始まるのかとワクワクしていたら、村人達の人垣が割れて、そこから二人の男が僕達の傍へと近付いてきた。見れば、二人は僕達に祭りの事を教えてくれた男達だった。

 その二人は、どうやら僕達を主役として扱ってくれるらしい。淡い赤色の髪をした細面の男がそう言っている。

 豊作祈願と僕達の歓迎を兼ねた祭りという事なのかな? そう考えると恥ずかしいけど、嬉しくもなるよね。


「やっとだ! やっと喰えるぞ!」

「私も我慢するのが辛かったんだよね!」

「ああ、全くだ!」

「何せ……この村以外から来たご馳走だからなぁ!」


 オレンジ髪のぽっちゃりした男の言葉で村人のボルテージが最高潮になっていく。遂に祭りが始まるみたいだ。ご馳走を食べられると、村人達は口々に喜びを爆発させていた。


「ブモーー!!」

「ンメ”エエエ!!」

「コケーコッコッコ!!」


 村人達の興奮にあてられたのか、次々に家畜達も興奮し出している。暴れて村人を襲わないか心配になってくる。

 ともあれ、正に村を挙げての祭りの様相を呈してきた。その活気に僕も徐々に興奮してくる。


 しかし──


「やっと始まんのか……ッ!? ──ッ!! う、嘘だろ……?」


 ──興奮の坩堝と化す村人達の姿は次第に崩れ始め、やがて、口だけがあるグロテスクな赤黒い肉のスライムに変化を遂げる。今朝方遭遇した、あの守衛さんが変化した時と同じだ。

 特産品店の主人、牛舎を見せてくれた酪農家の老夫婦、村の通りで遊んでいた子供たち、『長閑な田舎亭』の女将さんまで、この場に集まる全ての村人が肉のスライムへと変わっていく。

 しかし、それは村人だけじゃない。村人達を囲む家畜までもが肉のスライムへと変化していた。それも、やはり口だけの肉のスライムへと。

 悪夢の様な光景に、ジャッシュさんは力なく呟いていた。


 肉のスライムと化した村人や家畜達は、粘液状のヨダレで糸を引く口を開けながら、うぞうぞモゾモゾと蠢く様に襲い掛かって来る。数百体の肉のスライムが押し寄せる光景に、僕は背筋が凍ってしまう。

 祭りが始まるという楽しい気分は一転、一瞬にして恐怖へと塗り替えられてしまった。


「くっ! まさかあの予想が正しかったとは! とにかくこの場を凌がなければ──! 〖土の精霊(ノーム)に乞い願う。我は汝の友であり、古き友人である。我がマナを糧として差し上げよう。それを以て我と我が友を強固な壁で守りたまへ! 《大地の壁(アースウォール)》!〗」


 肉のスライムと化した村人達が襲い来る中、ガルバの傍に現れた土色をした半透明のオッサン坊やの土の精霊(ノーム)が、僕達の周りを囲む様に巨大な土の壁を創り上げる。精霊による防御魔法だ。土の壁の耐久値を超えるか、ガルバのマナが続く限りは肉のスライムから僕達を護ってくれるだろう。


 しかし助かった。ガルバの咄嗟の精霊魔法がなければ、僕達の命はあの一瞬で終わっていただろう。

 だけどこの状況をどうにかしないと、結局は同じ事だ。死を先送りしただけに過ぎない。


「わたし達の危惧してた通りだったわね……。まさかルウちゃんが言ってた様に人間から魔物に変化するなんてね……」


 アニーさんは苦々しげにそう呟く。


「家畜達がいると分かった時点で精霊魔法の準備をしておいて正解でした」


 僕達のパーティが誇る頭脳担当兼ご意見番のガルバはさすがだ。

 ガルバのその判断がなければ、今頃は全員が肉のスライムに喰らわれていただろう。


「あの時の野盗も、もしかしたら肉のスライムになりかけてたのかなぁ……。だから斬った感触がスライムみたいな手応えだったのかも」


 ライムは、初めて人を斬った経験をした野盗戦の事を振り返っていた。

 今思い返せば、確かにライムの言う事にも納得出来る。悲鳴を上げずにただ殺されていくなんて、僕も変だと思った。


「アイツら一体一体はそんな強くねぇんだろ? だったら、俺が突っ込むからその間にお前らは逃げろ。そんくらい、獣人の俺なら可能なはずだ……! ガルバが唱えた魔法……精霊魔法だろ、これ? 精霊魔法は強力な分、マナの消費がハンパねぇって聞いた。もってもあと少しだろ? ガルバの顔色の悪さを見りゃ、俺でもそんくらい分かる。ガルバが完全にマナ切れを起こす前に行動を起こすしか、俺らに生き残る道はねぇ!」


 村人の変化に呆然としていたジャッシュさんは、意を決した様な表情で僕達にそう言った。


「何を言ってるのよ、ジャッシュ!? そんなのはダメよ! 絶対にダメ! あんたが死んだら、わたしのお腹の子はどうするのよ……!」


 ジャッシュさんの言葉に、アニーさんは目に涙を浮かべながら反対する。


「だったら尚更だ! ……って、え!? お、俺の子が出来たのか……? うおおおおっしゃああああ!! やったぜ! そうかぁ……遂に俺も親父かぁ……! 名前はどうする? やっぱり『アッシュ』か? ────。……やっぱ、俺が突っ込むしかねぇな。頼むお前ら! アニーを守ってこっから逃げてくれ! そんで、バール村に戻ってギルドに報せてくれ。これから生まれてくる俺のガキの為にも、この化け物共をこのままにゃしておけねぇ!」

「あんたが残るんならわたしだって残るわ! 何だかんだ言っても、わたしはあんたに惚れて結婚したんだから……!」

「アニー……」


 そう言い合ったジャッシュさんとアニーさんは、互いを慈しむ様に抱き合う。

 普段は互いに貶しあってるけど、心ではやっぱり愛し合ってたんだね。


 しかしそっか、アニーさんのお腹の中には子供がいるのか。ハムスターの獣人のジャッシュさんとの子供だから双子以上が生まれてきそうだ。緊迫した状況だから、余計に和んだ気持ちになっちゃったよ。


「諦めるのはまだ早いですよ、アニーさんにジャッシュさん。──ルウ! あなたの魔法ならばこの状況でも何とか出来ますよね? あなたの《特異魔法(ユニークスペル)》である、古代召喚魔法ならば……!」


 抱き合うジャッシュさん達に希望を持たせる様に、ガルバは僕に確認してくる。

 更にガルバは続ける。


「あなたの魔法ならば、例えあの肉のスライムが数百体いようとも討伐出来るはずです……! だからこそあの魔法を使えると私に打ち明けたのですよね? 魔法を専門とする私に気遣って、私の劣等感を刺激しない様にして語るルウの表情がそれを物語っていました。そして、今こそあの力を解放する時です!」


 ガルバは全てを納得した様な表情で、僕に《スピリットウルフ・フェンリル》の使用を促してきた。


 確かにガルバの言う通り、《スピリットウルフ・フェンリル》ならば一瞬で肉のスライム達を殲滅する事も可能だ。ただし、それは神狼の姿でならばと後に続く。

 今の人間の姿の僕では強大な力の《スピリットウルフ》を唱える事が出来ない。だからこそ、守衛さんが変化した肉のスライムに一度丸呑みされてしまったのだ。

 本来の力であれば丸呑み所か、《スピリットウルフ・フェンリル》が近寄った瞬間には相手を焼滅させる威力がある。それこそ、僕が一歳の時に戦ったドラゴンクラスじゃなければ耐える事は出来ないだろう。本来の《スピリットウルフ・フェンリル》はそれ程の威力だ。


 それを踏まえて、僕はガルバに返答する。


「無理だよガルバ。ガルバが精霊魔法を解除してもしなくても、あの魔法じゃこの状況を覆す事は出来ないよ。ガルバも見てたでしょ? あの時だって丸呑みにされて、それから少ししてようやく倒せたって事を。ガルバからすればあの魔法は確かに強力に見えたかもしれないけど、数百体の肉のスライムに囲まれた今じゃあっという間に僕達は取り込まれて殺されるよ……」


 僕は俯きながらも、しっかりと説明した。僕の魔法じゃこの窮地を脱出する事は出来ない、と。


「そ、そうでしたか……。無理を言ってすみません……はぁ……はぁ……」

「え? 説明にあった魔法ってルウの魔法だったの!? ライム、てっきりガルバの精霊魔法だと思ってたよ。それでルウがトドメを刺したって思ってた……」

「うん、わたしもライムちゃんと同じ様に思ってたわルウちゃん。でも……どっちにしてもわたし達が助かる事は無理そうね。ジャッシュ……愛してるわ。死ぬ時はあんたの傍がいい」

「いや、俺と俺のガキの為に、アニーは生きてくれ! 俺が突っ込めば、お前らくらい逃がす事は出来る……!」

「ダメだよ、ジャッシュさん! ライム達みんなで戦えばきっと何とかなるよ!」

「はぁ……はぁ……そ、そろそろ……限界が近付いて、来ました……はぁ……はぁ……。どうするにせよ、覚悟を……!」


 僕の無理だと言う言葉に、みんなは口々に言い合う。


 しかし、僕の無理だと言う言葉にはまだ続きがある。全員が助かる方法は残されている、と。

 その方法ならば間違いなく全員が助かるだろう。それに、肉のスライムも殲滅する事が出来る。


 その代償が人間の社会での生活を捨てる事になっても、みんなの命には代えられないよね。うん、僕も覚悟を決めたよ。


 ライム。色々と恥ずかしい秘密を暴露されて切ない思いをしたけど、今まで僕と遊んでくれてありがとう。親友になれて嬉しかった。


 ガルバ。頼りない僕をいつも影から支えてくれてありがとう。ミイラみたいな見た目はともかく、性格は好きだったよ。


「一つだけこの状況を覆す方法があるよ……!」


 心でライムとガルバに別れを告げ、俯いていた顔を上げて僕はそう切り出した。

お読み下さり、ありがとうございます。

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