セイル村・2
ストックが底を尽きかけている為、お盆休みは書き溜めしなければ……!
「確かに手紙を確認しました。これで依頼は完了となりますが、手続きの関係上バール村のギルド本部で報酬は受け取って下さい。お疲れ様でした……ジュル……」
セイル村のギルド支部にて、ジャッシュさんとライムはそれぞれ運んでいた手紙を提出した。手紙を受け取った受付嬢はそう言って、事務的な手続きを終える。無事に届けられて良かった。
しかしなるほど、手紙などを届ける依頼は届けた時点で一応は完了になるけど、依頼を受けた場所まで戻らないと報酬は受け取れないのか。
母様に聞いた話だと、商人の護衛などは目的地に着いた段階で完全に完了となる為、その場所のギルドで報酬は受け取れるらしい。まぁ、依頼人である商人が一緒に移動したんだから当たり前だね。
とんでもなく遠い所まで護衛で訪れて、そこで報酬を受け取れなかったら誰も護衛依頼なんて受けないだろうし、僕も受けたくない。
あれ? でも、拠点に戻って来るのにその報酬を使っちゃったら稼ぎが減っちゃうよね?
あ、そっか! 拠点まで移動する商人を見つけて、その護衛依頼を受ければ良いのか。
……まぁ今の僕達がそんな事を心配しても仕方ないね。商人の護衛依頼を受けられるのは最低でも銀級ランクからだし。
ん? そう言えば、すっごく遠くまで手紙を届ける場合はどうなるのかな?
あ、遠くまで手紙を届ける場合は商人に預けるのか。……それくらいすぐに気付けよとの苦情は受け付けない。
ともあれ、僕達はギルド支部を後にし、今日泊まる為の宿屋へと向かう。
宿屋はジャッシュさん達の行きつけの宿があるらしく、その宿屋へと向かってるらしい。
ジャッシュさん曰く「オーク肉のミルク煮が絶品だぜ!」との事だ。イメージ的にホワイトシチューが頭に浮かぶけど、とにかく久しぶりのマトモな料理だ。非常に楽しみである。……携帯食料は飽きました。
「ねぇ、ルウ。さっきの受付のお姉さんの様子なんだけど……変じゃなかった?」
通りを歩きながら夕食に思いを馳せていたら、ライムが小声でそう聞いてきた。
「そう? 特に変には感じなかったけど……」
僕はライムにそう返す。
変と言えば、受付嬢の言葉に感情が無かった様に感じたけど、僕達がセイル村のギルドに来たのは初めてなんだからそんな対応でも変ではないだろう。僕が受付嬢でも、初対面ならそんな対応をすると思うし。
「確かにライムの言う通りですね。私も少し変だと思いました」
僕とライムの話を聞いていたガルバが横から話に入ってくる。
女の子同士の話に入ってくるのは失礼だよ、ガルバ?
もしも乙女の秘密的な話だったらどうするのさ。……ライムの年齢的にそんな話はしないだろうけど。
「ガルバも感じたんだ。ライムね、不思議に思ったんだけど……ジャッシュさんとアニーさんは何度もセイル村に来てるはずよね? それなのにニコッともしないで事務的な対応ってどうなのかなって思っちゃって……」
「私も気になったのはそこです。ジャッシュさん達はあの受付嬢を選んで手紙を渡してました。つまり、あの受付嬢はジャッシュさん達にとっては顔見知りだったはずです。それなのにあの受付嬢はニコリともしないで事務的に受け答えをしてました。……そんな事ってあるでしょうか?」
ライムとガルバは僕にも分かる様に理由を話してくれた。
そう言われてみれば、確かにあの受付嬢の対応は可笑しかったと思える。
しかし、こうも考えられないだろうか。……凄く真面目な対応をしていた、と。
ギルドの受付だって立派な仕事だ。ならば真面目な人ならば仕事に集中するあまり、知り合いに対しても素っ気ない態度を取る事だってあるはずだ。
それを踏まえ、僕はライムとガルバに言葉を返す。
「あのお姉さんの対応が事務的なのは、きっと仕事に真面目な人だからだよ! むしろ、エリスさんが不真面目すぎるから、二人があのお姉さんとエリスさんを比べて変に感じたんだと思うよ? 考えすぎだって!」
「そうかなぁ……」
「そうでしょうか? ですが、ルウの言い分も分かります。私たちも初めてセイル村に来た訳ですし、昨夜の件もあったので少し過敏になってるのかもしれませんね」
「うーん……そうだね、ライムが気にしすぎただけだよね。うん、今の話は忘れよう!」
二人も納得したみたいだね。それよりも、初めてのセイル村なんだから楽しまなくちゃ!
前世で僕は、こんなに長閑な田舎には来た事がなかった。まぁ病弱だったから仕方ないけどね。
それはともかく辺りに視線を向ければ、畑や牛、羊や鶏がたくさんいる。セイル村に暮らす人達の家もアルプスの民家を思わせる家ばかりだ。
酪農業のお陰で嗅覚が少し麻痺してるけど、田舎そのものの匂いがしていて感動すら覚える。
僕が母様と暮らすログハウスも良いけど、やっぱり田舎の風景は格別だよね。
「おーい、お前ら! ここだ、ここ! ここが今晩泊まる【長閑な田舎亭】だ! いつまでもダラダラくっちゃべってねぇで早く来い!」
「ちょっとジャッシュ! ルウちゃん達は初めてセイル村に来たんだからやっぱり気になるのよ、色々とね? だから少しは自由にさせてあげなさいよ!」
「お、おお……! それもそうか。守衛が居ねえもんだから、俺も少しばかし気を張りすぎたみてぇだな。まぁとにかくまずは部屋を取って、自由行動はそれからだな」
ギルドの受付嬢の対応について話していたら、ジャッシュさんに急かされた。しかし、そんなジャッシュさんをいつもの様にアニーさんが宥める。相変わらずに息ピッタリだ。
ともあれ、僕達はジャッシュさんの言葉に従い、ジャッシュさんが紹介する宿屋へと入った。
「女将さん、二人部屋を一つと三人部屋を一つ頼む」
ジャッシュさんのお勧めの宿屋……『長閑な田舎亭』に入るなり、ジャッシュさんは女将さんに部屋を頼む。
二人部屋と三人部屋という事は、二人部屋にはジャッシュさんとガルバが泊まり、三人部屋には僕、ライム、アニーさんが泊まるって事だね。
「分かりました。二人部屋が【鶏の間】で、三人部屋が【羊の間】になります。鍵は中から閂をかける事になってますので、夜眠る際にはご注意下さい。ではお部屋に案内します」
「おいおい、女将? いつもの活気はどうしたんだ? いつもだったら、盛ってんじゃねぇよこのうすらバカが! とか言ってただろ?」
「……そちらに初見のお客様がいるので、当宿の良さを知っていただく為です、ご了承を……ジュル……」
「? ……変な女将だな。まぁいい、とにかく頼む」
何だかジャッシュさんと女将さんの様子が変だけど、それは女将さんが言ってた様に、僕達が初めてこの宿に泊まるからだよね。宿からしたら、初めの印象はやっぱり大事だと思う。
その時に良い印象を持ってくれれば、次にセイル村に訪れた時も泊まろうって気になるもんね。……まぁ、料理が美味しいとかお風呂が素敵だとかの要素もあるけど。
「こちらが『鶏の間』で、二人部屋でございます。それで対面になりますが、こちらが『羊の間』で三人部屋です。それでは……ごゆっくり……ジュル……」
四十代と思われる恰幅の良い女将さんが案内してくれた部屋に着いた。
『長閑な田舎亭』は平屋の宿の為、フロント兼食堂の奥へと続く通路の先が宿泊する部屋となっていた。女将さんは案内の言葉を述べると、そのまま食堂の方へと引き返していく。
扉の間隔からして、通路を奥に向かって右側が二人部屋や一人部屋となっていて、左側が三人部屋以上の大部屋となっているらしい。
「んじゃ、俺とアニーは『鶏の間』で、お前ら三人は『羊の間』な!」
!?
「ちょっとジャッシュさん!? ライムとルウは女の子なんだよ!? 普通は女の子と男の人で分かれるでしょ!?」
「そうよ、ジャッシュ! 夜営の時は一人用テントだったから良かったけど、こういう場合は男と女で分かれるもんでしょ!」
そ、そうだよね……!
いくら僕達が十歳の子供だって言っても、ガルバは男の子なんだから一緒に泊まるのは恥ずかしい。と言うか、僕はガルバの前では着替えが出来ないんだから、一緒の部屋に泊まるのは無理だ。ドラゴンローブの下は何も付けてないし。
……僕達が一緒じゃなければアニーさんとジャッシュさんも仲良く同じ部屋に泊まれたんだろうけど、今回は諦めてくださいジャッシュさん。
「何を今更……って、分かった、分かったって! んじゃガルバ、お前と俺は『鶏の間』だ。それと各自、部屋で荷物を置いたら夜まで自由行動だ。ただ、例の件もある。あまり個人で行動しないようにな」
ライムとアニーさんの反論によって何とか部屋割りも決まり、僕達はそれぞれの部屋で一息入れる。背嚢を背負ってるとやはり疲れるよね。
背嚢を下ろして一息入れた所で、アニーさんは口を開いた。
「この宿はお風呂が無いけど、言えばお湯を用意してくれるからそれで体を拭くのよ」
「えー!? お金を取るのにお風呂も無いの!? ライム、お風呂に入りたかったなぁ……」
「仕方ないよライム。それに夜営と比べれば安心して体が拭けるんだからさ、それだけでもありがたいって思わなくちゃ」
「そうだけどさぁ……。でも、ルウの言う通りだよね。魔物に襲われる事もないし、ガルバやジャッシュさんに警戒する事もないんだからまだマシだよね」
…………。
うん、ライムもやっぱり女の子だよね。
かく言う僕も、いくら前世が男の子だったとは言え今や立派な女の子だ。ガルバ達男性に、裸になって体を拭く所を見られたら恥ずかしく感じる。……何だか不思議な感じだけどね。
「あ、ルウちゃん達も外に出るでしょ? 背嚢の中に大事な物が入ってるんなら、それは持ってた方が良いわよ?」
それぞれが寝るベッドを決め、そのベッドの枕元に背嚢を置いてからお風呂についての話をしてたら、アニーさんは宿に泊まる時の注意点について教えてくれた。
前世では病弱だった為に旅行などに連れて行ってもらえなかったけど、話には聞いた事があった。泊まる部屋に大事な物は置いておくな、と。
特に財布などを部屋に置いたままにしておくと、中身を盗まれて大変な事になるのだとか。宿の仲居さんがベッドメイクで部屋を訪れ、財布の中身だけを盗んでしまう事もあるらしい。
財布ごと盗まれるならば犯人が捕まる可能性が高いけど、中身だけを盗まれると中々捕まらないのだとか。しかも少額だと盗まれた本人も気付かないなんて事もあるって聞いた。
つまりアニーさんはその事を教えてくれてるんだね。
まぁ、背嚢の中にはテントや薬草くらいしか僕は入れてないから置いておいても問題は無いね。
「準備はオッケーかしら? それじゃ行きましょうか!」
「「うん!」」
僕は背嚢から特に何も出さず、ライムは財布としている小さな革袋を背嚢から取り出して持つ。外に出る用意は万全だ。
それを確認したアニーさんが外へ行こうと促し、僕とライムは元気に返事を返した。
いよいよセイル村の探索だ。セイル村は田舎な為に特に見る物はなさそうだけど、それでもやっぱりワクワクするよね。
「よし、それじゃ行くか! 俺とアニーは知り合いの所に顔を出してくるから、お前らは好きな所を見てこい。それとさっきも言ったが、決して一人で行動するなよ? 例の件もあるが、人攫いの類いもいるかもしんねぇからな」
「そうね、ジャッシュの言う通りよ。ルウちゃん達は可愛いんだから、特に人攫いには気を付ける事。分かった?」
「「「はい!」」」
「この宿の夕飯は夕暮れの鐘が鳴った時だから遅れるんじゃねぇぞ? 遅れたら俺が食っちまうからな! んじゃ、な!」
セイル村の探索をする前に、僕達はジャッシュさんとアニーさんから注意点を聞く。人攫いについては僕は良く分かってるので、一層気を引き締めた。
夜ご飯を食べられちゃうのは嫌だけど、ジャッシュさんも僕達の帰りが遅くなると心配だからそう言ったのだろう。
ともあれ、僕は気を引き締めながらも、セイル村の田舎の雰囲気を堪能するにはどこに行けば良いのかと思いを巡らせるのだった。
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