セイル村・1
さて、いよいよセイル村に到着します。
果たして鬼が出るか蛇が出るかは、ご想像にお任せします!
「さて、いったい何があった?」
「そうよ、ルウちゃん。報告はしっかりね」
人間から変化を遂げた肉のスライムを《スピリットウルフ・フェンリル》で倒した後、騒ぎを聞き付けテントから出て来たジャッシュさんとアニーさんはそう訊ねてくる。
ライムもテントから出て来たけど……うん、半分寝てるね。目を擦りながらも目は閉じられている。
ともあれ、僕は今の出来事を説明する為に口を開く。……前に、僕はジャッシュさんとアニーさんに服装の乱れを指摘する。
「ジャッシュさん、アニーさん。まずはしっかりと服を着てから聞いて欲しいな」
「何だと……ッ!?」
「ルウちゃんはいったい何を──ッ!! きゃっ!?」
二人は僕の言葉で自らの姿を確認し、大急ぎでテントの中へと戻っていった。
そんな二人がどんな格好で居たかと言うと、ジャッシュさんはまだ許せる範囲である上半身が裸の状態で、アニーさんは完全にアウトとなる上も下も下着一枚の姿だった。しかも若干透けている。それもあって、アニーさんはスタイルが抜群だけに僕とガルバには目に毒だ。
女の子の僕はともかく、紳士なガルバがさっきから目を逸らしているのに、それに気付かなかったなんてどれだけ夢中だったのかと言いたい。
……依頼中だよ、二人とも? 盛りのついた猫じゃあるまいし、自分達のテントの中とは言え僕達みたいな子供が近くにいるのに夜の営みはダメでしょうが。
そんな事を考えてる間に、二人はマトモな格好になってテントから出て来た。二人でお揃いの青の軽鎧に身を包んでいる。
そして、二人は何食わぬ顔で口を開く。
「さて、いったい何があった?」
「そうよ、ルウちゃん。報告はしっかりね」
!?
こ、この二人、全て無かった事にしやがりました!
くっ……! これが大人になるって事なのか!?
いくら恥ずかしいとは言え、何も無かった事にするとは、大人とは実に浅ましい生き物なんだね……!
「……? あ、おはようルウ。ライムが寝てる間に何かあったの?」
「あ、やっと起きたんだねライム。うん、これから説明するから、ライムもしっかり聞いていてね」
「うん、分かった」
大人の浅ましさはともかく、ライムが完全に目を覚ました所で、僕はガルバと共にさっきの出来事を詳しく説明した。
説明を聞くに従い、次第に驚愕の表情を浮かべるジャッシュさん達三人。うん、そうなって当然だよね。
何せ、人間がグロテスクな肉のスライムに変化したんだから。
僕だって、得体の知れない匂いがしなかったら驚き過ぎて漏らしてたかもしれない。少しだけ出たのは内緒だ。
「つー事はだ……セイル村は何かやべぇ事になってるかもしれねぇって事か……」
「そうね、ルウちゃんの話が本当なら、だけど。もっかい確認するけど、本当に王国の紋章が刻印された革鎧を身に付けてたの?」
やっぱり信じられないよね。だけど全て本当の事だ。
僕はアニーさんの質問に答える。
「僕だって信じられなかったけど、全部本当の事だよ。ガルバだってそれは確認してるし」
「ええ、間違いなくルウの言った通りですね。その事からも分かる通り、やはりセイル村では何かが起きてると考えるのが妥当でしょう。ですが、私たちの依頼はセイル村に手紙を届ける事……つまり、ここで届けずにバール村に引き返してしまったら依頼は失敗になります。だからこそ、私とルウはジャッシュさん達と相談をしているのです」
「そこよね、問題は……」
僕とガルバの説明を受け、アニーさんは悩む。ジャッシュさんは既に頭から煙を出しているのは言うまでもない。
「だったらさ、行けば良いじゃない! もしかしたら守衛の人だけがそうなったのかもしれないし。それに、ルウとガルバにも倒せたんでしょ、その肉のスライム。だったらライムだって倒せると思うし、もしも無理そうだったら逃げれば良いよ!」
アニーさん、僕、ガルバが悩む中、我らが猛き白狼のリーダーライムがそう提案する。
今回、僕は得体の知れない匂いに恐怖を感じて《スピリットウルフ・フェンリル》を発動して倒したけど、確かにあの程度の動きならば素の僕だって、ライムだって倒せるはずだ。あれよりももう少し強かったとしても、ガルバと三人で力を合わせれば十分に対処は出来たと思う。
だから、
「そうだね……うん、ライムの言う通りだよ。実はあの守衛さんだけが可笑しくなったのかもしれないし、もしかしたらあの肉のスライムが守衛さんに化けてここに現れたのかもしれない。行ってみたら、実はセイル村は何もなかったって事もあるもんね。それを確認もしないでバール村に逃げ帰ったんじゃ、手紙も届けられないのかって笑われちゃうよ。だから、このままセイル村に行こう!」
僕はみんなに向けてそう言った。
冒険者は冒険してなんぼ、だよね。ライムの言葉で僕は大事な事を思い出せたよ。
「そうね、確かにその通りよ! さすがルウちゃん、ガイアスさんの娘さんなだけはあるわね♪」
「アニーさん! 提案したのはライムだよ!? 褒めるならライムを褒めて!」
「そうね、ライムちゃんもさすがね!」
「えへへ♪」
「ライムはさすが私たちのリーダーですね。ですが、何が起こるか分からないのも冒険です。気を引き締めてセイル村へと向かいましょう」
「「「うん!」」」
ガルバの締めの言葉にアニーさん、僕、ライムが元気良く返事をする。
色々と悩んだけど、とりあえずは良い雰囲気に戻る事は出来た。
鬼が出るか蛇が出るかは分からないけど、それを含めての冒険者だ。冒険者の名に恥じない結果を出してみせるのは当然だよね。
「ん? 話は終わったか? よーし、んじゃ、朝飯食べて、準備を整えたら出発だ!」
頭から煙を出してたジャッシュさんが復活し、何故か場を仕切り始める。
うん、冒険者らしいと言えばらしいけど、もう少し頭を使って欲しいと思うのは僕だけじゃないよね?
まぁ、獣人は脳筋特性が多いから仕方ないけど、それでも空気は読んで欲しい。
だけど、ジャッシュさんの言葉で僕達の雰囲気が更に軽くなったのはありがたい。緊張が解れたとも言う。
ともあれ朝食を食べ終えた僕達は、その後テキパキと夜営の跡を片付けてセイル村への最後の道程を進み始めた。
ロック山からセイル村にかけての風景はバール村近辺とは違い、見渡す限りの平原だった。
平原と言えばドラゴン平原を思い出すけど、ドラゴン平原が草原の部類に入るとすれば、セイル村までの平原は芝生の庭園を感じさせるものだった。……ゴルフ場といった方が伝わるかな?
芝生特有の爽やかさを感じる平原の中にも時おり樹木が生えていて、あの木は何の木なんだろう気になる木だよねなんてフレーズも頭に浮かんでくる。
そんな事を考えながらも僕達はセイル村に続く街道を歩き続け、やがてセイル村を守る大きな城壁が視界に入ってきた。
「よしお前ら、あれがセイル村だ。たぶん大丈夫だと思うが、例の件があるから気を抜くなよ!」
セイル村が見えてきた段階で、ジャッシュさんは僕達の気を引き締めるべく忠告してくる。言われなくても、僕とガルバは当事者なんだから既に気を引き締めている。
「ジャッシュ……改めて言わなくてもルウちゃん達は分かってるわよ……」
「そ、そんな事は俺だって分かってる! だけどなぁ、改めて言えば更に気を引き締めるだろ? 俺はそう言いたかったんだよ!」
「ふーん……ま、そういう事にしといてあげるわ」
相変わらずなジャッシュさんとアニーさんの漫才を見ながらも、僕はセイル村の様子を見ていく。
城壁の高さはバール村と同じくらいだけど、それ以上に見えてる範囲が広い。つまり、セイル村はバール村よりも面積が大きいという事だ。
話には聞いていたけど、あの城壁の中には広大な田畑や牧草地がある為に面積が大きいんだろう。つまり、農業や酪農業の為に造られた村って事だね。
主な作物はパンの原料である小麦らしい。正確には小麦じゃないけど、小麦と言った方が伝わるのでそう言った。
他には根菜類や葉物類も作られているらしいけど、それよりも、やはり牛や羊、鶏などのミルクや紡績品、卵などの二次生産がメインと言えるかもしれない。肉類はオーク肉などの魔物肉が流通してるから、わざわざ牛などを殺して食べる事はしないんだろうね。異世界あるあるだ。
と、セイル村に関するおさらいはここまでにしよう。そんな事を考えてる間にもセイル村に向かって歩いていたから、既に門は目の前だ。
「守衛の姿がねぇな……」
「やっぱりルウちゃんの言った通りかしらね……」
「でも、門が開いてるから、ライム達は中に入れるよ?」
「そうですね……。注意しながら中に入ってみましょう」
セイル村の門を前にして、ジャッシュさん達は辺りを警戒しながら小声で会話する。守衛さんの姿が見えないだけに、やはり不気味に感じる。
僕もジャッシュさん達が警戒するのに倣い、嗅覚に集中する。肉のスライム、もしくは肉のスライムが化けた人間がいるならば、甘酸っぱい様な変な匂いで分かるはずだ。
「動物の糞尿の匂いばっかりだぁ……うぇ……」
みんなに聞こえない様に小声で呟く。酪農業が盛んなセイル村だけに、小麦などの肥料にもそれらを使用してるんだろうね。セイル村の門の中からはそれらの匂いがしていた。
「何だかルウちゃんの様子が変だけど、とにかく中に入ってみるわよ!」
「アニーの言う通りだ。とにかく中に入って、んで、セイル村のギルド支部に向かうぞ!」
「「「はい!」」」
嗅覚から意識を切り替え、僕達猛き白狼はジャッシュさんの言葉に返事をした。……匂いで鼻が麻痺した事は内緒だ。
ともあれ、恐る恐るセイル村の門を抜け、中の様子を確認する僕達。
しかしセイル村の中は僕達が想像した様な事はなく、いたって普通の田舎の景色が広がっていた。
畑仕事をする人々に、牛などの世話をする人々……その世話をする牛や羊と遊ぶ子供達の姿がそこにはあった。
「どうやらわたし達の考えすぎだったみたいね。守衛が居なくて物騒だけど、とにかく普通の人間みたいで安心したわ」
「確かにな。んじゃ、ギルド支部に手紙を届けて、その後は宿屋に一泊してバール村に帰るか!」
とりあえずセイル村の様子にホッとした僕達は、ジャッシュさんの言う通りにギルド支部を目指してセイル村の長閑な通りを歩くのだった。
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