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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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◎ラディアス王国守護軍の出兵

三人称視点です。

 

「若く見えるのは努力の結果よ! ルウの事は……うん、考えておくわ。それよりも、ヤバい事が起きてるのよ! このままだとこの国だけじゃなくて、世界が大変な事になるわ! だからアイツを……バアルゼブブを倒す為に守護軍を出して!」


 ラディアス王国の現国王リカルドの冗談を含めた挨拶代わりの言葉に、ガイアスは語尾を荒くそう告げる。

 ただの冒険者であるガイアスがおいそれとリカルドに会う事は無いだろうが、それでも平和な日常であればルウファを連れてリカルドに会う事もガイアスは了承しただろう。

 しかし、その平和な日常がバアルゼブブによって脅かされようとしているのだ。バアルゼブブを倒さない限り、ルウファを連れてリカルドに会う事は出来ないだろう。


「……バアルゼブブ? 誰だ、そいつは?」


 ルウファの事はともかく、ガイアスの言葉にリカルドは尋ね返す。今まで聞いた事が無い名前に、リカルドは眉を顰める。

 もしもそのバアルゼブブとやらがガイアスに対して不埒な事をしでかすのであれば、リカルドは国を挙げて誅殺する事も厭わないという構えである。

 国王が個人に対してその様な行動を取れば、間違いなく後世において不名誉な烙印を押されるだろう。だが、リカルドは至って真面目である。血は繋がっていなくても、シスコンと呼べる性格をリカルドはしていた。


 そんな危ない雰囲気のリカルドをよそに、ガイアスはカミトに話した事をリカルドへも説明する。


 愛娘のルウファが襲われそうになった事。

 ギルドに緊急依頼としてバアルゼブブの討伐が出された事。

 その依頼を受けガイアスが神滅の森を調査し、いくつもの魔物の集落が根こそぎ消滅していた事。


 そして……テンペストドラゴンの骨を喰らい、その力をバアルゼブブは吸収した事。


 それらを事細かくリカルドにガイアスは説明した。もちろん、実際に戦った感想やその恐ろしさも伝えている。


「全てを喰らう……か。確かにそのバアルゼブブとやらを放っておけばこの国は滅ぶだろうな」


 ガイアスの説明を聞き終えたリカルドは、ゴクリと唾を飲み込み事態の深刻さを理解する。


「リカルド様……ガイアス様の件と、今回王都を騒がせている件……何か関係があるやもしれません」


 ガイアスの説明を聞き、眉間に皺を寄せて何かを考えていたファーレンハイトがリカルドへと進言する。

 ファーレンハイトは、王都で起きている件を知らないガイアスにも分かる様に語り始めた。元々、ファーレンハイトとラダニスの二人がリカルドの執務室を訪れていたのはその件についての報告と相談の為であった。


「最近王都で騒ぎになっている件ですが、人間がスライムに変化し、そして人を襲うとあります。襲われた人はおよそ一日後に発見されるのですが、それまでと様子が変わり、やはり何日後かにはスライムの様に変化して人を襲うというのです。当初は私もただの噂……それも質の悪い噂の類だと思ってました。しかし、目撃情報が後を絶たないのです。つまり私が言いたいのは、バアルゼブブという者が全てを喰らうのと、スライムに変化する人間がじわりじわりと王都を侵食する様が似ているという事です。もしかすると、そのバアルゼブブが大元の元凶かもしれないと私は考えます。スライムに変化する人間は人を襲うごとに強さを増すそうです。ガイアスさんが説明したバアルゼブブの特性と良く似てますよね? 私は宰相として、この国……ひいては世界を守る為に守護軍の派兵を認めます」

「むぅ……確かにそう考えれば喰らうという点においては類似しているな……! リカルド様が決断なされば我が守護軍はいつでも出撃致しますが、如何されますかな? カミト、いつでも出撃出来る準備は整えてあるな?」


 ファーレンハイトの話に頷くラダニスは、守護軍の出兵はいつでも出来るとリカルドへと決断を求める。カミトに確認をとったのは、同意を求める為である。


「お任せ下さい、ラダニス様。私が率いる第一守護軍から【アドラス】率いる第五守護軍……通称【魔導部隊】まで、いつでも出兵出来る様に訓練しております。今すぐリカルド様が出撃命令を出されれば、次の鐘がなるまでには出撃致しましょう!」


 軍務大臣ラダニスの言葉に胸を張ってそう答えるカミト。

 ラディアス王国守護軍が精鋭中の精鋭であるという自信が、そのカミトの言葉からは滲んでいる。


「で、どうなのリック? 守護軍の派兵はしてくれるの? してくれないの?」


 宰相ファーレンハイト、軍務大臣ラダニス、現第一守護軍将軍カミトの言葉を聞き、ガイアスはリカルドに決断を迫る。


「…………」


 しかしリカルドは、無言のままに眉間に皺を寄せて考える。


 王都民を襲うスライムに変化する人間。

 ガイアスが言う、全てを喰らうというバアルゼブブという者。

 その二つを天秤に掛ければ、まず間違いなくバアルゼブブの方が危険であろう。何せ、テンペストドラゴンの力をもバアルゼブブは使えるというのだから。


 しかし、果たして本当に全軍を挙げてバアルゼブブに対処しても良いのか。

 答えは否だ。

 全守護軍を動員して事に当たれば、確かにバアルゼブブの件は楽に解決するだろう。

 だが、そうなれば西の帝国……メサイア帝国が幸いとばかりにラディアス王国を狙う可能性が高い。

 それだけでは無く、東の小国群のいくつかの国も領土を拡げる為に軍を起こすかもしれない。


 しばらく考えに耽り、それらを吟味した上で、賢王リカルドは決断を下す。


「第一守護軍及び、第五守護軍をバアルゼブブの討伐にあてる。第二守護軍は王都の守護並びにスライム化する人間の炙り出しと対処を、第三守護軍は小国群に近いセイル村へと派遣し、第四守護軍はバール村よりも西の【ユーダ砦】でメサイア帝国に対する楔とする。これは勅命である! 即刻バアルゼブブを含む全てを解決し、我がラディアス王国の平和を死守せよ!」


「「「はっ!」」」


 リカルドが下した勅命に、宰相ファーレンハイト、軍務大臣ラダニス、第一守護軍将軍カミトが右拳を左胸に当てる騎士の礼で応える。


「ありがと、リック! 愛してるわ!」

「よ、よさんかバカもの! ま、まぁ、今回の件が終わったら若返りの秘訣を教えるのと、お前の愛娘のルウファに会わせるのが条件だぞ?」

「うふふ、そうね、考えとくわ!」


 ガイアスも全守護軍がバアルゼブブに派兵されるとは思ってなかったが、それでも予想していたよりも多くの派兵を決断したリカルドに感謝を込めて礼を言う。

 愛してると言うのはもちろん本当に愛してるという意味では無い。親愛の意味を込めてガイアスは言うのである。

 性格が軽いガイアスならではの言葉ではあるが、それを以前から言われているリカルドは照れると同時に可愛くも感じ、それも理由の一つでガイアスを妹の様に思っているのだ。


 ともあれ、ガイアスの礼の言葉にリカルドは、若返りの秘訣とルウファに会わせろと求める。

 若返りはともかく、ルウファはリカルドからすれば言わば姪の様なものだ。ガイアスが自らの命よりも大切に思っているルウファにリカルドも会ってみたくて仕方ないのである。

 ガイアスからたまに送られてくる手紙にはいつもルウファの事ばかりが書かれている。だからこそリカルドもルウファに会いたいと思う。


 ……貴族にさえまだ会った事がないルウファが国王リカルドに会ったらどうなるか。粗相をしないか心配である。


 こうして、国王リカルド=ラディアスの勅命の下、バアルゼブブを討伐する為の守護軍の派兵が決まった。それぞれが勅命を遂行する為にリカルドの執務室を後にする。

 宰相ファーレンハイトは軍事活動における金の工面に走り、軍務大臣ラダニスは守護軍に所属する全騎士に向けた命令書を作成する。


 バアルゼブブと直接当たる事になる第一守護軍将軍カミトはガイアスと共に、第五守護軍将軍のアドラスの所へと向かった。


「ねぇ、カミト。アドラスも一緒に行くって事は『禁呪』の使用も辞さないって事よね? って事はよ? 『スクロール』の使用もオッケーよね?」


 白獅子城の右前足にあたる建物……つまり守護軍が詰める場所へと向かう最中、ガイアスはカミトにその事を確認する。


「……当然ですガイアスさん。リカルド様も恐らくそれをお考えになったからこそ勅命を発したのでしょう。恐らくファーレンハイト様も各方面に通達するでしょうし、ラダニス様の命令書にもその事が記載されるでしょう。ともあれ、間違いなくバアルゼブブという者はこの世から消え去る事でしょう……余程の化け物でもない限り」


 対するカミトは、ガイアスの言葉に肯定する。その姿は、やはり将軍としての威厳に溢れている。

 第五守護軍、通称魔導部隊が出撃するのだ、『禁呪』の使用や『スクロール』の使用は前提として組まれているのは当然であった。

 だからこそ、リカルドも即刻という言葉を勅命に組み入れたのだ。即刻とはすなわち、速やかに解決せよとの事に他ならない。

 バアルゼブブをこのまま放置すれば取り返しのつかない事になる恐れを危惧しての、即刻という言葉である。


「それにしてもアドラスかぁ。あの子……少しは()()()になったかしら……」

「……ええ、幾分かは」

「何よ、その間は?」

「まぁ会えば分かりますよ。とにかく急ぎますよ!」


 リカルドの勅命から『禁呪』などの会話をし、最後にアドラスの話題に触れた所でカミトは先を急いだ。ガイアスはそのカミトの様子を訝しむが、まぁ会えば分かるかと独り言ちてその後を追う。


 程なく守護軍が詰める建物へと着き、その内の第五守護軍に与えられた【魔導研究所】の前にガイアスとカミトは立った。

 そしてカミトは扉の前にて大声を掛ける。何故扉を開けないのかはガイアスも理解済みだ。


「アドラス! 第五守護軍に出撃の勅命だ! 即刻準備をし、速やかに第二正門前に集まれ!」

「え〜〜〜!? 今古代魔法の研究で忙しいのに〜〜!! ……きゃっ!?」


 ──ドゥゥゥンッ!!


「……何か嫌な音が聞こえてきたけど……あの子、相変わらずなのね」

「……耳が痛いですね」


 何かが爆発する様な音が研究施設の中から響き、アドラスが悲鳴をあげる。

 ガイアスの言葉でも分かる通り、アドラスは根っからの研究者を地で行くタイプの人間である。今回の様な爆発など日常茶飯事だ。カミトが扉を開けずに声を掛けたのはこの為である。


「とにかく遅れずに集まれ! 勅命だからな? 決して遅れるな! 遅れたら……研究費は減らされるからな? さ、私達も用意をしに行きましょう」

「カミトはともかく、あたしはこのままの格好だから第二正門前で待ってるわよ?」

「そ、そうでしたね……。では、後ほど」


 アドラス率いる第五守護軍にも声を掛け、カミトも自分の第一守護軍の為に与えられた部署へと向かう。その際にガイアスを誘ったのはかつての名残りか。


 そうしてラディアス王国各守護軍は各々の準備を進め、一時間程で出撃出来る態勢を整えて第二正門前に整列する。

 簡易的ではあるが出兵式を行う為、国王リカルドの姿がそこにはあった。


「──で、あるからして、今回の出兵となった。余は国王として守護軍に所属する全騎士に告ぐ! バアルゼブブなる者を速やかに討伐し、この国を護れ! ……出撃──ッ!!」


『『『『『うおおおおおおおお!!!!』』』』』


 今回の目的を述べ、騎士を鼓舞した国王リカルドの号令の下、バアルゼブブ討伐の為に守護軍が白獅子城より出撃していく。跳ね上げ式の第二正門はリカルドの号令と同時に開かれている。

 第一、第五守護軍は神滅の森に最も近いバール村を目指し、第三守護軍は小国群方面のセイル村を目指す。

 第二守護軍は王都のスライム化する人間を探る為に市街地へと散らばり、第四守護軍はメサイア帝国に睨みを利かせる為にユーダ砦へと進軍していく。

 守護軍に所属する各騎士の表情は引き締められ、国王リカルドの勅命を遵守する闘志を秘めている。


 それら守護軍を見守るリカルドの表情はきっと事を成し遂げるものと信じて疑わぬものであり、それは宰相ファーレンハイトや軍務大臣ラダニスも同様であった。

 第一守護軍と行動を共にするガイアスさえも、これならばバアルゼブブを討伐出来るだろうと信じて疑わなかった。


 ──そう、この時までは。

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