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月の華  作者: 桜華
第一章 生きていく為に!
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何と、異世界転生でした!

 

 牛蛙の水球の直撃を受けた僕は吹き飛ばされ、近くの樹木の幹へと叩き付けられてしまった。幸いな事に骨は折れておらず、どうやら打撲で済んでるみたいだ。


『ゲホゲホッ……ッ! な、なんであんな水球が!? 威嚇で口から水や毒を飛ばす生き物がいる事は知ってたけど、あんな水球を吐き出す生き物……それも牛蛙なんて聞いた事ない!』


 打撲で痛む体を起こし、驚きと痛みから文句を口にする。そんな僕に向かって、牛蛙から二発目の水球が放たれていた。


「ギャンッ!!」


 再び僕の体は樹木の幹へと叩き付けられた。顔面に水球の直撃を受けてしまったからか、意識が朦朧とする。


『牛蛙だからって甘く見てた……に、逃げないと……!』


 ふらつく体に朦朧とする意識。そんな僕を仕留めるつもりなのか、牛蛙の口の辺りに三発目の水球が浮かんでいるのが見えた。

 何とか逃げようと、ふらつく体を横に向けた瞬間、三発目の水球が僕の体を捉える。内蔵の拉げる痛みと共に、僕の体は三度樹木の幹へと叩き付けられていた。


 し、死ぬ。もうダメだ。

 数百メートルの高さから落ちて奇跡的に無傷で助かったけれど、今度こそ終わりだ。次を喰らったら確実に死ぬだろう。痛みやダメージでぼやける視界の先では牛蛙が四発目の水球を放とうとしてる姿が見えていた。


「ンモーウッ!」


 牛に似た鳴き声を上げると共に、牛蛙は僕へのトドメとなる四発目の水球を放つ。何とも気の抜ける鳴き声を上げた牛蛙だけど、その声には強者の色が滲んでいる。僕は死を覚悟した。


 ──これは夢だろうか。それとも幻であろうか。


 四発目の水球が目前に迫り、死を覚悟して薄れゆく意識の中で、僕は不思議な光景を目の当たりにしていた。

 僕の体から柔らかな淡い光が浮かびあがると、迫る水球を弾き飛ばし、その後淡い光は次第に大きな犬のシルエットを形作っていた。いや、鋭い顔の造形から狼なのかもしれない。

 僕を包む光る狼のシルエットをぼんやりと眺めていると、更に不思議な事が起きた。体の痛みやダメージが和らぎ、安心感に満たされたのだ。


『もしかして……母さん……なのかな? 母さんが来てくれたのなら、もう安心だね』


 安心感からか、僕の意識はそこで途切れてしまった──。


 ☆☆☆


 ──どれくらい意識を失ってたのだろうか。気付けば、光る狼のシルエットも見えないし、体の痛みも全て回復している。

 牛蛙を見付けた時に中天にあった太陽がかなり傾いているから、今の時刻はだいたい午後三時過ぎくらいだろうか? うっすらと橙色に染まる空は、春の夕暮れを告げ始めている。


『ッ!? 母さん! それに牛蛙は!?』


 ふとそこで、意識を失う前の事を思い出し、母さんを探すと同時に牛蛙を警戒する。すると目の前の水辺……牛蛙がいた辺りには、頭部の無い蛙の死体が横たわっていた。


『牛蛙の頭が喰い千切られている……?』


 恐る恐る近付き牛蛙の死体を確認すると、頭部だけが何者かに喰い千切られていた。不思議な事に、傷口には若干の焦げた跡も見られる。


『母さん……が倒してくれた……のかな? でも、それにしてはあの光の理由に説明が付かない。それに牛蛙が僕に放ったあの水球……。まるで魔法みたいだった……』


 牛蛙が水球を放った時の事を思い出してみる。

 確か……口を大きく開けて、開けた口の先にモヤモヤしたのが見えて……次の瞬間には水球になってた。

 それが大砲の様に僕に向かって放たれて……そして僕に直撃して、木の幹に吹き飛ばされた。


『どう考えても、そうとしか思えない……! アレは間違いなく魔法だ。魔法だよ!』


 水球が魔法となると、あの牛蛙は何なのだろうか?

 僕の知識にある生物の中に、当然魔法なんて使える生物はいない。それは人間だってそうだった。

 だとすれば、逆に魔法を使える生物はいたのだろうか。いや、いないはずだ。

 という事は、あの牛蛙は魔物であり、角の生えた兎も魔物と仮定すればどうだろうか。

 そしてそこから導き出される答えは……?


『間違いない! この世界は僕の知る地球なんかじゃない! 異世界だ! 僕は異世界に転生したんだ!!』


 まさか夢だろうか?

 だけど、あの痛みは決して夢なんかじゃない。そして僕の体が子犬である事も夢じゃないんだ。……子犬って事は夢であって欲しかったけど。


『じゃあ、あの狼みたいなシルエットの光は……? もしかして、僕の魔法なの!?』


 しかも、僕の記憶が確かならば、あの狼の光に包まれている間は痛みやダメージが回復していた。


『じゃあ、巣穴から落ちて死にかけたのって夢じゃなくて現実? でもそれしか考えられないよね……。きっとあの時も今回も、僕の魔法が命を守る為に無意識に発動したんだ! そうに違いない! いや、それだけじゃない……! 牛蛙の魔物の頭が喰い千切られてるのは、きっと僕の魔法が倒してくれたからだ!』


 ワクワクしてきた! か弱い子犬として転生した事は少し残念だけど、魔物がいて、魔法がある世界……異世界に転生出来たんだから、すっごく嬉しいし、それに凄く楽しみだ!

 明らかとなったその事実を前に、僕の尻尾は千切れんばかりに激しく振られていた。


 神様ありがとう! 僕の夢を叶えてくれて!


 前世の夢、父さんと母さんに親孝行する夢はもう叶えられないけど、異世界転生の夢は叶ったんだから、愛読してたラノベの主人公たちみたいに頑張って生きていきます!


『そうとなれば、さっそく腹拵えをして色々試さないと!』


 ……で、さっそく牛蛙を食べてみようとしたけど、これって……毒、無いよね? 食べたら実は毒があって、呆気なく死んでしまうかも。

 せっかく異世界転生出来たんだから、毒であっさり死ぬなんて絶対に嫌だ。


『くんくん……匂いは大丈夫そうだけど……。…………。うぅ〜〜〜……ええいっ! 男は度胸だ! いただきますっ!!』


 千切れている首(?)の辺りの匂いを嗅いでみても生臭い以外毒かどうかなんて分からないので、少し躊躇った後、一思いに噛み付いた。……太腿に。

 内蔵は何となくまだ抵抗があったし、毒があるならきっと内蔵だろう。それに前世の記憶の中に、牛蛙は足の部分を食していたってのがあるから、太腿ならば間違いなく食べられると思った事も一つの要因だ。

 ともあれ、僕は牛蛙の太腿を骨ごと噛み千切り、バリボリと噛み砕いて飲み込んだ。


『──ッ! 美味しい! 何この美味しさ! ジューシー且つ濃厚で、それでいて後味はサッパリしてる。鶏のささみに味は似てるけど、とにかく美味しい! しかも、何故だか塩味を感じる。血に含まれる塩分のおかげなのかな?』


 そんな事を口走る程に牛蛙は美味しかった。気付いたら、いつの間にかその体まで食べ尽くしていた程だ。


『もっと食べたい! でも、魔法を試してみたいし、時間も時間だし……。…………。今日は一旦、あのほうれん草の寝床に帰ろう。そして魔法の練習をするんだ。そうして、魔法を自由自在に使える様になれば僕はきっと敵無し……あの角の生えた兎にも必ず勝てるはず!』


 牛蛙を食べ終わり、そう言いながらほうれん草の寝床へと向かう。お腹がいっぱいになったから気分は上々だ。尻尾だって元気に揺れている。

 ホントはもっと牛蛙を食べたかったけど、太陽は既に傾き過ぎているし、森の中はかなり薄暗くなってきている。もうじき日も暮れるだろう。そうしたら牛蛙を探そうにも真っ暗で見付からないだろうし、そういう訳で時間的に無理だ。

 更に、夜に移動するのはとても危険だ。夜は危険な動物がいっぱいいる事が確かだし、魔物の存在を知ってしまったからには、恐らくその魔物も夜に現れる奴らの方が危険に違いない。

 僕が魔法を使いこなせる様になれば、恐らく夜の魔物でさえ勝てるだろう。それまでは夜は大人しくしていた方が正解のはずだ。


 ともあれ、しばらくはこの辺りに棲息する牛蛙の魔物を捕食して過ごし、完全に魔法を使いこなせる様になったら改めて僕を飼ってくれる人間を探して旅立とう。室内犬としての優雅な暮らしはしてみたい。

 人間に室内犬として飼われたならば、好きな時に食べて、好きな時に眠る。正に夢の生活を送れるだろう。


『そんなささやかな夢の為にも魔法を使いこなし、必ずこの森を抜けなくちゃ!』


 そんな事を呟きつつ、僕はほうれん草の寝床へと足取りも軽く帰るのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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