ギルドには緊急依頼が出されましたが、僕達は下水路掃除の依頼を受けます
バール村には下水路があります……!
ライムとガルバによって、貧乳猫獣人さんにも暴露されてしまった僕の恥ずかしい秘密。僕の心はノックアウト寸前だ。
「し、仕方なかったんです……! ですが、これであの男についてはギルドが何とかしてくれるでしょう」
さっきから涙が止まらない僕へと、ガルバは諭す様に話し掛けてくる。
「そ、そうよ、ルウ……! さっきのは仕方なかったのよ! だって……ライムが怖くて漏らしたって言うより、ガイアスさんの娘のルウが怖くて漏らしたって言った方がギルドも信用してくれるでしょ? だから咄嗟にライムはそう言ったの! ……決してライムが漏らした事を隠そうとかした訳じゃないよ?」
……事の元凶ライムがまことしやかにそう吐かしやがります。
情けは人の為ならずと言うけど、まさか恩を仇で返されるとは思わなかった。
バアルゼブブと名乗った男に恐怖し、あの男が去った安心感から漏らしてしまったライムを慮って自分も漏らした事があるって話をライムにしたのに、まさかライムの件を僕がやらかした事にされるとは。
後悔先に立たず、とはこの事だったよ……。
「ぐすっ……もういいよ……僕は漏れキャラとして後世まで語り継がれても、ライムの事は絶対に秘密にしておくから……ぐすっ……」
「うっ!? ご、ごめんなさい……!」
恥ずかしさと情けなさで泣いてしまった僕だけど、いつまでもギルド併設酒場で愚痴を言ってても仕方ない。
馬車で神滅の森から帰って来たからまだ夕暮れ前だけど、そろそろ家に帰らないと母様が寂しがる。報酬も受け取ったしね。
「でも……本当に良いの? 今回の達成報酬の金貨2枚を全部僕が貰っちゃっても……?」
「も、もちろんよ! ルウには馬車代を出してもらったんだし、それに……ルウにばっかり恥ずかしい思いをさせちゃったんだから……」
「ええ、私もライムと同じ意見です。ライムがあの話をエリスさんにして、それに私が乗った時にこうすると決めてました。慰謝料としては少ないでしょうが、私たちのせめてもの償いです」
そう、なんと今回のオーク一体の討伐報酬は全て僕の物となったのだ。理由はライムとガルバの言葉通り、僕の恥ずかしい秘密を貧乳猫獣人さんに暴露してしまった罪滅ぼしである。
しかし、
「だけど、パーティ預金の方はどうするの? まだ銀貨4枚しか貯まってないよ? それに、ライムとガルバだってお菓子とか買いたいだろうし、僕一人で全部貰うのは気が引けちゃうよ」
さすがの僕も全部を貰うのは気が引ける。だから二人に意見を求めたのだ。
「じゃあこうしましょう。金貨2枚の内1枚は預金にしましょう。元々私とライムがルウに借りてた状態です。今回は三人で出し合って馬車に乗った事にして、その分を預金に充てれば良いでしょう。それで残りの金貨1枚ですが、やはりそれはルウが受け取って下さい。今回の報酬が貰えなくても、どちらにせよ私は構いません。私は報酬を貯めて、いずれマイキーさんの所で私だけの杖やローブを作ってもらいたいのです。ですから、今回の報酬を貰っても貯めるだけで使う予定もないので、私は構わないと言ったのです」
「そうね……ライムも別にお金に困ってないから、やっぱり今回の報酬はルウが受け取れば良いと思うよ。それに、ガルバの言う様に馬車代をそのままパーティ預金とすれば問題ないでしょ! って事で、ルウがどうするかは分からないけど、今回の報酬はルウの好きにしなよ!」
なるほど……!
ガルバが言う様に馬車代を三人で出した事にすれば、一応三人とも報酬は受け取った事になる。それに、パーティ預金も貯まるしね。
なら、ガルバの言う通りにしよう。それが一番だと僕も思う。
「分かった。じゃあガルバの案を参考にして、金貨1枚をギルド銀行に預金とするよ。残りは……そうだね、今飲み食いした分を僕が払って、残りは悪いけど貰う事にするね」
「「うん!」」
という訳で、飲み食いした代金の銀貨2枚をギルド併設酒場へと払い、残りの内金貨1枚は預金とし、更に残った銀貨8枚を僕は財布としている皮袋にしまった。うん、金貨1枚が入ってるだけよりも枚数が多いから、何となく嬉しいね。
あれ? 結局僕って損してる……?
…………。
ま、いっか。これからも依頼を受けるんだし、ランクが上がればもっと稼げる様にもなる。今回の金額なんてすぐに取り戻せるさ。
ともあれ、僕達は依頼達成の打ち上げを終え、それぞれ家路へとついた。
☆☆☆
「そんな男がいたんだ。分かった、母さんもそいつを見掛けたら注意するわね」
家に帰り、僕は今回の依頼中に起きた出来事を順を追って母様へと話した。
ライムがリーダーになると駄々をこねた事や、その後ライムにリーダーを任せた事。
ゴブリンを見事な連携で倒した事や、瀕死のコボルトに遭遇した事。
そして、オークを倒した事と、その後の討伐証明の剥ぎ取りを任せられて嫌な思いをしながらシンボル一式を切り取った事。
それらを話し終えて、最後にバアルゼブブと名乗ったあの男の事を母様に話したのだ。母様の言葉は全てを話し終えた時のものである。
もちろん、ライムが漏らしてしまった事は話してない。絶対秘密にするって言ったんだから、僕がそれを人に話す事はない。誰かさんと違って、約束は守ってなんぼだよね……!
「うん、本当に気を付けてね母様。人狼や狼の姿で森に狩りに出てる時なら倒すなり逃げるなりは簡単に出来ると思うけど、もしも人間の姿の時……それも、周りに他の人間がいる時にはそうもいかないだろうしね。……人前で変身なんて出来ないんだからさ」
「分かってるって! それに、ルウの今の言葉はそのままルウにも当てはまるわよ? ルウが正体を現せばどんな相手でも負けないと思うけど、今の姿のルウは本当にか弱い女の子なんだからね? ルウも当然人前では正体を現さないだろうし」
母様に対して注意勧告したはずなのに、見事にブーメランとなって僕に返ってきた。……解せぬ。
「それよりもほら! ご飯も食べたんだし、早くお風呂に入るわよ! ルウ……いくら依頼中って言っても、夜営の時に体を拭かなかったでしょ!? ルウももう年頃の女の子なんだから、そんなに臭くしてちゃダメでしょ! 母さんが綺麗にしてあげるから観念しなさい!」
…………。
「返事は!?」
「は、はい!」
「よろしい! さ、お風呂の用意は出来てるから行くわよ!」
…………。
……母様が匂いに敏感なのは知ってたけど、更にとんでもないテクニシャンだったのは知らなかった。何がどうなったのかはご想像にお任せします。
「はぁ〜〜……。女の子の体って不思議だよなぁ……。この分だと、将来どうなっちゃうのか怖いよ僕。……あ、《グリムリッパー》! うん、いつ見ても惚れ惚れするよね! それに、並列思考が成長したのか寝てる時でも意識は繋がってるし。ホント、便利だよね! さて、と……おやすみ〜」
自分の部屋でベッドで横になり、いつもの様に《グリムリッパー》を唱える。女の子の体云々の話は聞き流して欲しい。
しかし僕の言葉通り、《グリムリッパー》の死神然とした姿は本当にカッコ良い。それに、寝てる間も《グリムリッパー》と繋がっている為、例え僕の寝てる隙を突いて何かが起きてもすぐに対処出来るのが強みだ。
「あ! 寝る前にトイレに行かなくちゃ……! もう僕は漏らさないぞ、絶対!」
トイレでおしっこをして部屋へと戻り、今度こそ眠りに就く。何だかんだで体的にも精神的にも疲れた僕は、それこそあっという間に夢の彼方に旅立つのだった。
☆☆☆
一夜明けて、僕は今日もバール村の冒険者ギルドへとやって来た。隣には何故か母様もいる。
ちなみに、昨夜はしっかりとトイレに行ったのでおねしょはしていない。……たまにしちゃうけど、それは絶対に内緒だ。特にライムだけには……!
「やっぱり出てるわね……緊急依頼」
掲示板コーナーにて母様はそう呟く。
僕と母様が見ている掲示板は青銅級ランクの掲示板だ。その青銅級の掲示板には【人を喰らう男の捜索及び討伐依頼】と記された依頼が張り出されている。
その依頼は、鉄級ランク以外のランク全てに張り出されていた。
「母様は僕の話でこれを予想してたから今日はギルドに来たの?」
神妙な面持ちで依頼を眺める母様に、僕はその事を尋ねた。
「ええ、そうよルウ。昨夜聞いたルウの話だと、その男は人を喰らうって言うじゃない。だったら危険なんてものじゃないわ。良く考えてみて、ルウ。例えば、人間の姿の男がバール村に居るとするわよ? そしてその男が誰にも気付かれずに人を喰らう……とっても恐ろしいと思わない? だから、それを危惧したギルドは重大な案件として受け止めて、そして今回の件を緊急依頼として掲示板に張り出したんだと母さんは思うの」
僕の恥ずかしい秘密が貧乳猫獣人さんにバレただけはあったみたいだ。
母様が言う様に、ギルドは僕達の報告をとても危険視してくれたのだろう。
貧乳猫獣人さん……いや、エリスさんも良い仕事をしたよね。これであの男の事も無事に解決する事だろう。
となれば、
「ねぇルウ……ガイアスさんとのお話は終わったのよねぇ? じゃ、今回の依頼を選びましょ!」
僕と母様の後ろにいるライムがそう言うのも当然の事だろう。
「ですが、あの男の件が解決しなければ、神滅の森関連の依頼は受けられません。そうすると、このバール村の中での依頼を受けるか、もしくは隣りのセイル村に手紙を届ける依頼辺りになりますが?」
ライムが居るとなれば、当然ガルバも付いてくるのは言うまでもないよね。
「そうね、ルウ達は鉄級ランクなんだからあまり危なくないのを選びなさい。あたしはこの緊急依頼を受けてみるわ」
なるほど、母様は僕の昨夜の話を聞いてこの依頼が出される事を予想し、それで緊急依頼を受ける為に今日は僕と一緒に来たのか。
そう言えば、母様のランクってどの辺なんだろうか?
母様がかなり有名人で、しかも人間の中では強いって事は分かってたけど、実際にその辺りの事は聞いた事がなかったし、僕も冒険者としてやっぱり母様のランクは気になる。
「所で母様……母様のランクは何なの? 僕、今まで聞いた事ないよ?」
実の家族になったのに、そんな事も知らないなんて変だよね。だから今更だけど母様に聞いてみた。
「ちょ!? なんでガイアスさんの娘のルウが知らないのよ!?」
「確かにその通りだと私も思いますし、だからこそ信じられません……!」
僕は母様に聞いたのに、何故かライムとガルバからそんな事を言われてしまった。……解せぬ。
「そっかぁ、そう言えば母さんのランクをルウに言った事なかったわよね。母さんのランクはね? 神金級ランクよ? うふふ、凄いでしょ!」
ッ!?
神金級ランク、ですと!?
冒険者の格付けの最高ランクである神金級ランク。鉄級ランク、青銅級ランク、銀級ランク、金級ランク、白金級ランク、魔銀級ランクと上がり、冒険者の最高峰に位置する実力を認められた者だけがなる事が出来るという神金級ランク。
まさか母様がその神金級ランクだとは思わなかった。でも、それを踏まえて考えてみれば、母様がラディアス王国の守護軍に顔が利くのも分かる気がした。
「凄いや、母様! だから守護軍の人にも顔が利くんだね!」
「え、ええ、そうよ? と、とにかく母さんはこの緊急依頼を受けるから、ルウ達も依頼を受けちゃいなさい」
何故か挙動不審になる母様。……何か変な事を言ったんだろうか、僕は。
ともあれ、僕達も受ける依頼を早く決めねば。せっかくギルドに来たのに、依頼も受けずに帰りたくはない。
「それじゃ、ライムはこれを選んでおいたわよ!」
「……またライムはその様な依頼を選ぶんですか……。まぁ、危険は全くといって良い程ありませんがね」
うん、ライムが僕と母様が話し込んでる間に掲示板をうろちょろしてたのは知ってた。
さて、ライムはどんな依頼を選んだのかな?
「…………」
「何で黙ってるのよ、ルウ?」
「ライム……ルウもこの依頼の大変さが分かったからですよ」
ライムが選んだ依頼……それは、このバール村を流れる下水路の掃除だった。
そう、下水路。生活排水や、トイレで用を足した排泄物を魔導排水処理施設へ送る為の水路の事だ。当然、バール村の地下にそれは造られている。
その下水路の掃除という依頼をライムは選んだのだ。達成報酬は金貨5枚。ランクは鉄級ランクのみとなっている。
「報酬が良いし、バール村での依頼なんだから安全よ! それに、リーダーのライムが選んだんだから文句は言わせないわ!」
……という訳で僕達猛き白狼は、リーダーライムの指示で強制的にこの依頼を受ける事になってしまった。
……鼻が曲がってしまわないかとても心配だ。
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