オーク一体の討伐・2
「この依頼をお願いします、エリスさん!」
どこかデジャヴュを感じるセリフで、【青銅級―2】と記された木札を提出するライム。そのライムのセリフでも分かる通り、依頼申請カウンターで僕達の相手をする受付嬢は貧乳猫獣人さんだ。……エリスさんというのが貧乳猫獣人さんの本名らしい。
……え? 知ってるだろうって? ソウデスネ。
「……また青銅級? しかも今回はオークを相手にするつもりなの!? やめた方が良いと思うけどな、このエリス姉さんは」
やはり絶壁な胸をカウンターに無理やり乗せて、眉間に皺を寄せながらエリスさんは僕達を諭しにかかる。うん、見ないようにしてるのにどうしてもソコに目が行ってしまう。もしかして……わざとなのかな?
前世でこんな話を聞いた事がある……人に見られれば見られる程大きくなると。
だけど、僕は確信を持って言える事がある。そんなのは絶対に嘘であると。
人に見られたら大きくなるって言うならば、今頃エリスさんの胸はとんでもない巨乳になっているはずだ。むしろ、エリスさんじゃなくて巨乳さんと改名してるかもしれない。
しかし、母様を差し置いて僕にはそんな事を認める事が出来ない。だって……母様のおっぱいが大きいのはたくさんの愛が詰まっているからね!
…………。
「ええ、私たちはこの依頼を受けるつもりです。それに、この依頼もゴブリン五体の討伐する依頼と同じでペナルティはありませんし、もしも無理だと判断すれば逃げれば良いだけです。私たちはまだまだ子供……何事も経験して学び、そして成長するのが子供の特権というものですよ」
僕がエリスさんのおっぱいについて頭を悩ませていたら、ガルバがとても真面目な事をエリスさんに告げていた。
ぼ、僕だってガルバと同じ事くらい考えられるからね!
「そういう事よ、エリスさん! それに、今回はオーク一体だけなんだからライム達なら楽勝よ! ね、ルウ!」
何が、ね、ルウ! なんだか。オークは僕達が一人だと全然勝てない相手なんだよ、ライム? 三人で戦っても勝てるかどうか分からないのに楽勝だなんて言わないで欲しい。
ま、それはともかく、僕も真面目に考えられる事を証明してみせよう。
「うん。ライムの言う事はともかくとして、ガルバの言う事は僕もその通りだと思うんだ、エリスさん。それに僕達だっていずれはランクも上がるだろうし、オークの一体くらい楽に討伐出来る様にもなる。だからこそ、その為の訓練も兼ねてこの依頼をみんなで選んだんだよ!」
「ちょっと、ルウ!? なんでライムの話はともかくなのよ!? ……それに選んだのはライムだったし……ブツブツ……」
「うふふ、分かったわ。確かにそうよね……冒険者なんだから、冒険してなんぼって事よね! 分かりました、パーティ猛き白狼によるオーク一体の討伐の依頼申請を受理します。この依頼もゴブリン五体の討伐依頼と同じで期限は無いけど、一週間経っても達成報告がなければ失敗とみなします。と言っても、ゴブリンの依頼の時みたいに失敗したからと言って他の冒険者に笑われる事はないから安心してね? それじゃ、ギルドカードを渡してね」
僕がガルバと同じ様に考えられるって事を証明した形で、エリスさんは僕達の依頼申請を受理してくれた。ブツブツ言うライムは放っておく。それよりもエリスさんは今の言葉の中で名言を口にしていた。
冒険者は冒険してなんぼ。
冒険者という言葉は、危険を冒す者という意味がある。
危険を冒して魔物や未開の地に挑み、その結果として報酬や名誉を得る者の事だ。
その事をちゃんと理解しているエリスさんはやはりギルドの受付嬢なんだろうね。何だかんだ言っても、僕達の事を心配しながらも成長を願ってくれている。
良い人だよね、エリスさんって。
いつも僕達の相手をしてくれるし、面倒も見てくれる。心配もしてくれるし、成長を願ってもくれる。足りない物があるとすれば……胸の大きさだけだね。うん、頑張ってエリスさん!
エリスさんの胸の事ばかり考えてしまったけど、その間にも依頼申請は続き、程なくして申請受理手続きは終わった。
「はい、これでギルドカードは最後ね。それじゃ気を付けるのよ? オークはゴブリンよりも大きくて力も強いから、勝てないと思ったら迷わず逃げる様にね? それでは無事に依頼の達成を祈ってます。頑張ってね!」
「「「はい!」」」
こうして、僕達は正式にオーク一体の討伐の依頼を開始した。
二回目の依頼だから前回よりも緊張しなかったけど、余計な事ばかり考えてしまった。……エリスさんのおっぱいの事だ。
エリスさんのおっぱいの事を余計な事と思ってしまった事がバレたら大変な事になりそうだけど、きっとその内そんな事も考えなくなる……と思う。
…………。
ともあれ、依頼を受けた僕達は神滅の森へ向かう為、ギルドを後にした。
「恒例の荷物チェーック! ドンドンドンパフパフパフ!」
バール村の門前広場にて、ライムが突然そう叫ぶ。周りの人達に一斉に視線を向けられて恥ずかしい。僕は顔が赤くなるのを感じた。
そんな古臭いセリフを吐いたライムに、僕は遂に頭が沸いたのかと問いたい。荷物チェックは必要だけど、叫ばなくても良いと思う。……ライムは恥ずかしくないのだろうか。
それはさておき、人通りの邪魔にならない様に、僕達は広場の端に行って背嚢を下ろす。下ろす時にどっこいしょと言ってしまったのは愛嬌と受け止めて欲しい。
……さて、忘れ物はないかな?
「まずは一人用テントでしょ? それと替えの下着類と布類……アクアストーンにヒートストーン、それから……携帯食料ね!」
「……ライム、前回と同様に薬草が抜けてますよ?」
うーむ、デジャヴュを感じる。となれば、この後に続くライムの言葉はきっと、
「そんなの森で集まれば良いじゃない!」
……予想通りでした。
そんなライムは放っておくとして、薬草採取をするかどうかをガルバに聞く。
「僕は前回の残りがまだあるけど、どうするの? オークは油断ならない相手だからもう少し集めた方が良いかな、ガルバ?」
前回のゴブリン五体の討伐において、少しだけ僕のうっかりミスの傷を治すのに使ったけど、それ以外はほとんど手付かずで残っている。
ちなみに薬草は採取してからおよそ一ヶ月は回復薬として使える。まぁ採取したての状態よりは効能が落ちてくるけどね。
それでも前回の採取からまだ数日しか経っていないので、薬草の回復力はまだまだ落ちてはいない。つまり、怪我さえしなければ薬草採取はしなくても良いのだ。
だからこそ僕はガルバに聞いてみたのだ。リーダーのガルバなら適切な判断をしてくれるからね。
「ちょっとルウ? そこはリーダーのライムに聞くべき所じゃないの!?」
!?
リーダーはガルバで決まりだと思っていた僕にライムは驚くべき事を吐かしてきやがりました。あまりの驚きに僕はライムを思わず二度見してしまった。
そして、僕は自分の考えをライムへと伝えた。
「いや、リーダーはどう考えてもガルバでしょ!? 僕達に上手く指示を出してくれるし、エリスさんにも率先してちゃんとした意見を述べられるし。どう考えてもガルバしかリーダーはいないと僕は思ってるんだけど!?」
前回のゴブリンの依頼の時も、今回のオークの依頼申請の時も、エリスさんはガルバの言葉で納得した様子を見せていた。つまり、エリスさんだってガルバがリーダーだと判断してるって事だ。
「私がリーダーですか……。良いでしょう、快く引き受けます。ライムもルウも私の指示にはしっかり従って下さいね?」
「ちょっとガルバ!? ライムはまだ認めてないわよ!? ルウ! あんたも何か言いなさいよ!」
いや、僕がガルバを既にリーダーとして認めてるんだから、何かを言えって言われても、ガルバ、リーダー頑張ってね! って事しか言えないよ。
「ガルバ、頼りにしてるからね! リーダー頑張って!」
……そのまんま言ってしまった。
「ルウ!? くっ……! それなら今回の依頼でライムがリーダーに相応しいって事を証明してみせるわ! そしたらライムをリーダーと認めなさいよ!」
「まぁ、私はどちらでも良いのですがね。ルウが推薦してくれた以上は頑張るつもりですが、もしもライムの方が相応しいと私が感じたならば喜んでリーダーを譲りましょう」
「聞いた、ルウ! ライムのリーダーらしさをこれでもかってくらい証明してやるんだから見てらっしゃい!」
「わ、分かったよライム。じゃあ、薬草はどうするの?」
「もちろん、採取するわよ! 薬草は軽いから荷物として嵩張らないし、いざと言う時に足りないと困るしね! ……返事は!」
「「はい!」」
「よろしい! それじゃさっさと行くわよ! ライム達は歩きなんだからキビキビ行動しないと夜になっちゃうわ!」
…………。
先が思いやられそうと感じたのは決して僕だけじゃないよね。
何だか出発前にかなり疲れた気がするけど、とにかく神滅の森に向けて歩くとしますかね。
「お、さっそく森に向かうんだな。頑張れよ、ルウファちゃん! それではギルドカードを拝見します」
「ちょっとバルデスさん!? ライムだっているんだから、ルウにばっかり挨拶しないでよ!」
…………。
「ははは、これは一本取られちゃったな! ライムちゃんもガルバ君も頑張ってきなさい! これで良いかな? 良し、三人ともギルドカードに異常はない様だ。出村を許可します。それじゃ気を付けて行きなさい」
「いつもライムがうるさくてすみません、バルデスさん。それでは頑張ってきます」
「ちょっとガルバ!? ふん! 早く行くわよ!」
…………。
……ライムがすみません、バルデスさん。その内きっと礼儀正しくなると思うので、その時までは生暖かい目で見てやって下さい……。
「何してんの、ルウ! 置いてくわよ!?」
「い、今行くよ! それじゃバルデスさん、またね!」
「ああ、またなルウファちゃん」
こうして僕達はライムのリーダー試験……もとい、オーク一体の討伐の為にバール村を出発した。
これから神滅の森に着くまでの五時間あまり、きっとライムは色々と口を出してくる事だろう。
それでも、こんな事も冒険者としての醍醐味だ。僕は全てを楽しみながら頑張るつもりだ。
とにかく、今回の依頼も頑張るぞ!
そんな事を考えながら、先を進むライムとガルバの下へと僕は駆け足で向かうのだった。
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