ゴブリン五体の討伐と報告
「……本当に? そんなに大きなフォレストスライムなんて聞いた事ないわよ?」
バール村の冒険者ギルドにて、僕達をいつも相手にしてくれる貧乳猫獣人ことエリスさんへと、僕達はゴブリン五体の討伐完了の報告をした。もちろん、ゴブリンの討伐証明となる耳を五対……計十個の耳も提出している。
僕達の報告を受けたエリスさんは、今日もカウンターの上に無理やり胸を乗せて寂しい胸をより大きく見せようとしている。無駄な努力をするエリスさん、今日もお疲れ様です!
そんなエリスさんはいつもの依頼申請受付けカウンターではなく、今日は依頼達成報告カウンターにて業務をしていた。そのエリスさんを見つけて、その窓口の列へと僕達は並んだのだ。やはり知っている人の方が報告しやすいからね。
そうしてガルバが言っていた通り、ゴブリンが集落を築きつつある事の他にフォレストスライムの異常発生についても報告した。さっきの言葉はその際のエリスさんのものである。
言葉でも分かる通り、エリスさんは巨大なフォレストスライムについて全く信じてくれなかった。
確かに実物を見てないと信じてはくれないと思うけど、いくら鉄級ランクとは言え、実際に戦った僕達が言うんだから少しは信用して欲しい。
信じる者は救われるじゃないけど、エリスさんは信じる心を忘れたからおっぱいが大きくならなかったんだと僕は思うよ?
「……何でわたしの胸を見てるのよ、ルウファちゃん?」
「…………。見てないですよ?」
「……その間は何かな?」
「今日もエリスさんは美人さんだなぁって思っただけですよ?」
「……ふーん」
コンプレックスを抱いている人は自分の欠点に対して人の視線を多く感じると言うけど、どうやら本当の事だったみたいだ。うん、あまり見ないようにしよう。じゃないと、将来僕にブーメランとして戻って来そうな気がする。
「しかし巨大なフォレストスライムが現れたのは事実です、エリスさん。そして異常発生についても間違いないと思います。私達が二日間で倒したフォレストスライムの数は夜の見張りも含めて実に十体にも及びます。神滅の森の深い所ならフォレストスライムもそれなりの数は居るでしょう。しかし、私達の実力では浅い所が関の山……森の深い所には当然行けるはずもない。それなのにフォレストスライムが森の浅い所に十体も現れたのです。何回も言いますが、これは明らかな異常事態の予兆ではないかと私は思うのです……!」
崩れ掛けた場の雰囲気を戻す様に、ガルバが改めてその事をエリスさんに報告する。
さすがはリーダー(仮)ガルバだ、仲間の危機を察知して助けてくれたみたいだ。そんな頼りになるガルバに痺れる憧れるぅ……!
…………。
冗談はともかく、ガルバの言う様にフォレストスライムが浅い所に大量に現れるのは可笑しな事である。
何故ならば、フォレストスライムは人間があまり訪れない様な自然溢れる場所を主な棲息域としているのだ。にも拘らず今回、僕達の実力でも訪れる事が出来る森の浅い所に十体のフォレストスライムが現れた。何かが起きてるとしか思えない。
フォレストスライムが僕達でも相手に出来る程に弱い魔物だから今回は問題なく討伐出来たけど、もしもフォレストスライムが強力な魔物ならば、今回の事案はバール村も決して楽観視は出来ないだろう。
少し……嫌な予感がする。
僕がそんな事を思っている間にも依頼達成の手続きが終わったらしい。エリスさんは僕達のギルドカードを例のカードリーダーらしき魔道具に通し終わり、順に僕達へとギルドカードを返しながら口を開いた。
「確かに他の冒険者からもフォレストスライムの異常発生については報告が寄せられてるわね……。分かったわ、ゴブリンの集落の件とフォレストスライムの件についてはギルドで情報を精査後、改めて依頼として掲示板に貼り出します。あなた達も報告ありがとね。それと、今回のゴブリン五体の討伐の達成を確かに確認しました。達成報酬の金貨1枚は報酬受取りカウンターにて受け取って下さい。この木札を提出すれば貰えるからね? それじゃ次の依頼も頑張ってね!」
「「「はい!」」」
僕達三人は揃って良い返事をする。
何はともあれ、初めてとなるゴブリン五体の討伐依頼を無事に達成出来たのだ。フォレストスライムの異常発生はともかく、今はそれだけで十分だろう。
その後僕達はエリスさんから渡された依頼達成の木札を報酬受取りカウンターに提出し、達成報酬となる金貨1枚を受け取った。
ちなみに三人で均等に分ける為に、銅貨を60枚と銀貨を4枚にしてもらった。
銀貨はパーティの為の資金としてパーティ名義のギルド銀行の預金とし、残りの銅貨を一人20枚ずつに分けた。日本の価値に換算すれば、預金が四千円で、一人が受け取る金額が二千円ずつって事だね。
みんなで分けた報酬を受け取った際、思わず顔がニヤけたのは言うまでもないよね。凄く嬉しかった。
「それにしてもラッキーだったわよね!」
報酬を受け取った後、僕達は達成祝いという事でギルド併設酒場で打ち上げを行う事にした。併設酒場の中は他の冒険者達の賑わいで溢れていた。僕達と同じく依頼達成の打ち上げを行っているのだろう。……それとも残念会かな?
空いている三人がけの丸いテーブル席へと僕達はそれぞれに座り、アプルジュースとオーク肉の串焼きを三人分注文する。そうして注文した品物が届くまでの間、ライムはそんな事を口にしたのだ。
ライムが言うラッキーな事とは、巨大なフォレストスライムに取り込まれていたゴブリン三体の討伐証明である両耳を剥ぎ取った後に起きた出来事の事だ。あの場所に、何と瀕死のゴブリンが一体だけで現れたのだ。ホント、ラッキーとしか言えない出来事だった。
「確かにラッキーでしたけど、それにしてもルウはもう少し落ち着いて下さい。討伐証明の剥ぎ取りが終わったばかりで気を抜いていたという事も分かりますが、瀕死のゴブリンが現れた事に驚いて、それで自らを傷付けていては先が思いやられますよ?」
「……面目ない」
ガルバが言う様に、僕は瀕死のゴブリンが現れた時に驚いて、剥ぎ取りに使用していたドラゴンナイフでうっかり自分の手を傷付けてしまったのだ。ドラゴンローブの左胸にあるホルダーにしまおうとしてる最中に手を滑らせるという単純なミスだった。
いつぞやの時みたいにバッサリと手首を切り落とす事はなかったけど、手の甲をスパッと切ってしまっていた。幸いな事に、採取していた薬草とガルバの治癒魔法のお陰で大事には至らなかったけど、見た目通りの能力しかない昼間だったんだから、本当に気を付けなきゃダメだよね。うん、反省した。
「薬草が役に立ったんだから良かったわよね。それにガルバの治癒魔法があったからこそ傷跡も残らず綺麗に治ったんだから、ルウはもっとガルバに感謝しないとね!」
「私だけの治癒魔法じゃ綺麗に治すのは無理でしたね。しかし、森に入って最初に薬草採取していた事が功を奏しました。まぁとにかく、ルウも次回からはこんな事は起こさない様に注意するでしょうし、ライムもルウと同じ事を起こす可能性があるんですから、ライムも注意して下さいね?」
「わ、分かってるわよ! あの時はルウと同じでライムもビックリしちゃったけど、何とか落ち着いて瀕死のゴブリンに対処出来たんだからもういいじゃない!」
「ま、まあまあ二人とも……! ほら、アプルジュースと串焼きが来たみたいだからその辺にしときなよ」
「「ルウがそれを言うな!」」
「……はい」
……二人してツッコまなくても良いのに。
「さて、それでは私達の初依頼の初成功を祝って……乾杯!」
「「乾杯!!」」
何はともあれ、ガルバの乾杯の音頭の後、僕達は美味しいオークの串焼きに舌鼓を打ち、甘いアプルジュースで喉を潤した。
場末のおっさんじゃないけど、仕事の後の一杯は格別な感じがして凄く美味しかった。ゆくゆくはアプルジュースじゃなくて本物のお酒で祝杯をあげたいものだね。
そんな事を思いつつも、僕達はしばらく歓談を交わすのだった。
ちなみにオーク肉の串焼き一本が銅貨3枚で、アプルジュースが一杯で銅貨2枚だった。量もそれなりにあったので、人間の姿の僕も満足でした!
☆☆☆
ライムとガルバに別れを告げ、僕は一人草原のログハウスへと帰ってきた。
僕達がギルドに報告を行ったのは夕暮れ時で、その後の打ち上げを終えたのが時刻にして夜の7時過ぎ。その時間だと本来ならばバール村の門は閉まっているのだけど、僕は母様の娘という事で守衛のバルデスさんにこっそりと通してもらっているのだ。
ただし、一度閉まったバール村の正門を開けるのではなく、守衛用の小さな扉を使ってバール村から出たんだけどね。
「まずはお風呂の用意をして……あ、結界の魔道具にもマナを込めなきゃ」
家に入って背中に背負った背嚢を下ろして呟く。言葉にするのはやらなきゃいけない事の確認の為だ。
言葉にした通り、僕はお風呂の用意をしてから結界の魔道具へとマナを込める。うん、今夜の分は込められたかな。
「しかしあの瀕死のゴブリン、所々を何かに喰い千切られたっぽい傷だったけど……まさか母様じゃないよね……?」
結界の魔道具にマナを込めた後、僕はお風呂に入る為にフェンリルコートとドラゴンローブを脱ぎながらそう独り言ちる。武器類は当然自分の部屋に置いてきた後だ。
一昨日、母様はドラゴン平原に行ってくると言って家を出た。母様の好物となったトロルを狩って、その生肉を堪能する為だ。
その母様がまさかゴブリンなんて襲うはずもないし、ましてや人間に見られる可能性が高い森の浅い所にいるはずもない。きっとあの瀕死のゴブリンは他の魔物に襲われたんだよね。例えば……コボルトとか。
コボルトと言えば、オークと双璧を成すファンタジー作品に数多く登場する魔物の代表格だ。僕もラノベで読んで良く知っているし、実際に食べた事もある。もちろん、コボルトの魂を吸収してその力も得ている。
オークが豚頭人身の魔物ならば、コボルトは狗頭人身の魔物である。身長は150セルト前後のゴブリンよりも高く、およそ160セルト前後ある。ガルバと同じくらいの身長だね。
コボルトの習性としては、野犬と同じく群れをなして獲物を狩るという事が挙げられるだろう。まぁこれは普通の狼などにも言える事だけどね。
しかしコボルトの方が狼より質が悪い。ゴブリンと同じく多少の知恵が働くし、何より鋭い牙の他に武器となる物を手に持ち集団で襲って来るのだ。その為、討伐推奨ランクは最低でも青銅級ランクからと言われている。
「うん、あのゴブリンはきっとコボルトに襲われたに違いない! そう考えると、僕達はコボルトに襲われなくて良かったよね……! 遭遇してたら全員死んでたかもしれないし……。まぁそんな事になる前に変身するけどね」
お風呂で体を綺麗に洗い、湯船に浸かりお湯の温かさにホッとした後にそう結論付けた。
軽い性格の母様とは言え、森の浅い所をうろちょろして人間に見られるかもしれないという愚を犯すはずはない。アレは間違いなくコボルトの仕業だろう。
「フォレストスライム……食べたかったなぁ」
両手でお湯を掬い、掬ったお湯が手の隙間から落ちていく様子を見ながら呟く。チャプチャプと湯船にお湯が落ちる音が耳に心地好い。
「今度母様が狩りに行く時は僕も一緒に行こうかなぁ……。でも痛いんだよなぁ、変身……。さて、体も温まったし、そろそろお風呂から出て寝よう」
湯船からザバァと勢い良く立ち上がり、僕は浴室を後にする。
脱衣場で体の水気をしっかりと拭き取り、ワンピースタイプの白い寝巻きに袖を通す。もちろん髪の毛もちゃんと拭いている。
「次の依頼を受けるのは三日後ってライムが言ってたし、明日は母様の畑のお手入れしないとね……ふわぁ〜あ……おやふみ〜……。あ! 《グリムリッパー》! うん、やっぱりカッコ良い!」
ベッドに入り、寝ようとした所で《グリムリッパー》を唱える事を忘れてたのを思い出し、そして唱える。ベッドの傍には死神然とした姿が現れる。
僕はその姿に惚れ惚れしながらも、魔物に襲われる心配もない安心な眠りへと落ちていくのだった。
お読み下さり、ありがとうございます。
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