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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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ゴブリン五体の討伐・2

フォレストスライムの味はピーチゼリーを想像して下さい!

 

 ゴブリン五体の討伐という、冒険者として初めてとなる依頼を受けて神滅の森へとやって来たパーティ猛き白狼こと僕達三人は、その初日の成果をゴブリン一体だけの討伐と、かなりの物足りなさを感じながら夜営となった。

 僕達の実力上さすがに一日で終わるとは思ってなかったけど、まさか初日の討伐がゴブリン一体とは先が思いやられる。

 だけど、何事もポジティブシンキングだ、明日はきっとゴブリンの討伐も進む事だろう。


 明日に思いを馳せつつも、僕は夜営の準備を進める。

 ちなみにだけど、神滅の森の中はドラゴン平原を抜かせば夜営を出来る様な開けた場所がほとんどないので、適当に草を刈ってそこを夜営の場所としている。


「あれ? ねぇ、ルウ……この棒ってどこに付けるんだっけ?」


 夜営の準備の途中、ライムが僕へと問い掛ける。


「あ、ライム……それは二つを繋げて軸とするんだよ! あと、そこはしっかりと留めないとダメだからね?」


 ライムの問い掛けに、僕は丁寧に答えた。


「さすがはルウですね。ガイアスさんの教えを受けてるだけはあります。なるほど、こうですね。出来ました」


 僕とライムのやり取りに、ガルバが作業をしながらも感心していた。


 僕達は今何をしているのかと言うと……夜営の為の一人用テントを組んでいる所である。

 知っているとは思うけど、僕達は全員が十歳の子供であり、そして本格的な冒険者活動を始めたばかりの駆け出し冒険者だ。当然、夜営などは初めて経験する出来事である。……僕以外は。


 そうなると、当然テントの組み方をライムとガルバはほとんど知らない。しかも二人がそれぞれ組もうとしてる一人用テントは、姉のレイラさんやガルバが両親に買ってもらったばかりの新品である。新品ともなれば、色々とゴワゴワしていたり、留め具の関節部が固くて取り付け辛かったりする訳で……とにかく二人はテントを組むのにも悪戦苦闘している所だ。

 ちなみに僕達のテントは、パイプの様な棒を組み立ててその上から幌布を被せるタイプの物だ。組み終わった形は四角錐……つまり、ピラミッドの様な形となる。一番オーソドックスなタイプと呼べるテントだね。


 僕はと言うと、既にテントを組み終わっている。僕が持って来たテントは母様のお下がりという事で組みやすいし、テントの組み方は何度も母様に指導されているからお手の物だ。なんなら、目を瞑っていたって組めるぐらいだ。


 ふふん、そんなのは嘘だ! まだまだ素人同然の僕に目を瞑ってテントを組むなんて事が出来るはずない。まぁ、母様は出来るらしいけどね。何でも出来る母様はとても素敵だと思います!


 …………。


 ラディアス王国の守護軍に入ると真っ暗闇の中でテントを組む訓練があって、それが出来ないともう一度騎士見習いからやり直させられるなんて話を母様から聞いたけど、普通に組み上げるだけで悪戦苦闘しているライムには頑張れとしか言えない。

 ライムが僕と冒険者活動をいつまで続けるか分からないけど、その間に出来る様になれば良いね。


「やっと……出来たぁーッ! ……あ」


 守護軍に入団希望のライムについて考えていたら、そのライムが自らが組み上げたテントを前に出来たと叫んだ。しかしその直後……留め具の繋ぎが不十分だったのか、見事にテントが潰れていた。……だからしっかりと留めてって言ったのに。


「ずるいよルウ! 手伝ってくれても良かったじゃん……!」

「初めにちゃんと教えたよ? それに、テントくらい目を瞑ってでも組めないと守護軍に入れないって母様が言ってたんだから、ライムはもっと頑張らないとだね」

「ラディアス王国の守護軍ですか。やはり精鋭だけあって、テントを組む様な初歩的な事でも厳しい掟があるのですね……」

「むー……そんな事言ったって、ライムまだ子供だし……ブツブツ……」


 ライムも何とかテントを組み終わり、枯れ枝を集めてヒートストーンで火を熾して焚き火にし、それを囲みながらの僕達の会話である。ブツブツ言ってるライムは放っておこう。

 夜営の準備を始めてからここまで2時間程。時間を掛けすぎだよね。辺りは既に真っ暗だ。

 まぁ、これから回数を重ねて慣れていけば夜営の準備にも手間を掛ける事もなくなるだろう。何事も精進あるのみ、だね。


「ライム、それにルウ。見張りの順番はどうします?」


 背嚢に入れて持って来ていた携帯食料……まぁオークの干し肉と保存の利く黒パンだけど、それを食べ終えてから少ししてガルバがそう言い出した。

 確かに、夜の神滅の森で全員が一斉に寝るのは危険だ。必ず一人は起きていて魔物の接近などに注意しないといけないだろう。じゃないと、魔物に襲われて死んでしまう事にもなりかねない。


 これが一人で活動している様な高ランク冒険者ならば、簡易的な結界を張る魔道具などを用意すれば問題ない。それと、お金をたくさん持っている様な冒険者パーティもだ。お金があれば結界の魔道具を買えば済む話だしね。


 しかし、僕達みたいな駆け出し冒険者にそんな物を買う余裕は無い。乗合馬車にも乗れない程なのだ。

 ならばどうすれば良いかと言うと、ガルバの言うように時間を決めて順番に一人ずつ見張ればいい。

 一人が見張りをして、残りはその間に寝る。順番が来れば一人目は二人目を起こして見張りを代わり、今度は二人目が見張りをする……という事を繰り返すのだ。

 そうすれば全員が均等に睡眠をとる事が出来、次の日に疲れを残す事なく活動出来るという訳だ。


「じゃあ、ライムが最初ね! あとは二人で決めなよ」

「あ、ずるい! 一番楽な順番を選ぶなんて!」

「こういうのは早い者勝ちよ、ルウ!」

「じゃあ私は三番目にします」

「ガルバ!?」

「という事は……ルウは二番目に決まりね! そうと決まれば、ほら! 二人とも早く寝なさいよ!」

「ひ、酷い……!」


 見張りについて考えている間に順番が決まってしまった……!


 今の僕達の会話でも分かる通り、一番最初に見張る方が断然楽なのだ。その次が最後である。

 大概の夜の見張りは三交代制だ。何故かと言えば、それが最も効率よく睡眠が取れるからだ。

 それを踏まえて考えて欲しい。一番目ならば見張りが終わってしまえば朝まで眠れる。三番目ならば、明け方近くまで眠れるだろう。

 ならば二番目はと言うと……眠り始めたと思ったら起こされて見張りをし、明け方近くになって三番目と交代して朝まで眠る。だけど、明け方に寝ようとしても中々寝付けず、中途半端な睡眠を余儀なくされるのだ。つまり、あまり寝られないという事になる。

 そして、僕はその一番嫌な時間帯の見張りをやらされる事になってしまったのだ。

 ライムは早い者勝ちだと言ったけど、次回はしっかりと話し合って順番を決めようと僕は心に誓いながら眠りに就いたのだった。


「ルウ? 起きて? 起きなさいよ、ルウ!」

「あと……少し……寝か、せて……」

「ダメよ! ちゃんと決めたでしょ!? 焚き火の薪が一度燃え尽きたら交代するって!」


 ようやく眠り始めたと思ったら、もうライムに起こされた。

 人狼や神狼の時は魔物が夜に僕を襲う事は無かったから何も考えずに眠れたけど、弱い人間の姿だとそうもいかない。とは言え、変身なんてしたくないし、変身なんてしたらライムやガルバと友達ではいられなくなる。

 なんてダラダラと考えてても仕方ないからそろそろ起きなくちゃね。……ライムに怒られそうだし。


「早く起きなさい、ルウ! ガイアスさんに言ってお尻を叩いてもらうわよ!?」

「い、今起きたからそれだけはやめて!?」


 母様のお尻叩き……考えるだけでお尻が割れそうになる。既に虎と馬(トラウマ)になっている……。


「やっと起きたわね、ルウ。じゃ、あとはよろしく!」

「あ、ライム、この時間まで何かに気付いたとか襲われたとかしてないよね?」


 一人用テントから出てライムとそんなやり取りをする。見張りの引き継ぎにおける報告だ。

 これをしっかりとやっておかないと、もしかしたら取り返しのつかない事にもなりかねない。実は強力な魔物に囲まれていたりとか。


「そうねぇ……あ、フォレストスライムが一体だけ現れたから始末しといたわよ? それじゃ……ふわぁ〜あ……おやふみ〜」

「……おやすみ、ライム」


 おやすみの挨拶を交わし、ライムは自ら組み上げた一人用テントの中へと入っていった。寝てる間にテントが崩れないか少し心配だ。……いや、むしろ崩れてくれた方が面白いかな?


 しかしなるほど、フォレストスライムが一体だけか。

 フォレストスライムなら動きも遅いし、僕達三人の誰が戦っても楽に勝てるだろう。見れば、焚き火から少し離れた所にフォレストスライムの成れの果てがあった。


「あ〜あ、勿体ない。生きてる内に食べるのが一番美味しいのに。さて、僕も気を引き締めて見張りをしますかね。……《グリムリッパー》!」


 焚き火に新たな薪をくべて、それを交代の目安とした後、僕はおもむろに《グリムリッパー》を唱える。僕の目の前にはボロボロの漆黒のローブに身を包み、手には巨大な死神の鎌を持った半透明のスケルトンが現れた。


「視覚……よし、繋がったね。感覚は……感覚も良し」


 僕はそのまま焚き火の傍に座り、並列思考で繋がった《グリムリッパー》に辺りの警戒をさせる。例え何も斬れない巨大な死神の鎌を持っていようとも、視界が繋がっていれば対処のしようはある。そう思って、人間形態だけに使える魂魄魔法を僕は唱えたのだ。お気に入りだしね。


「あとはガルバの順番まで焚き火を眺めてるだけだね。…………あ、おしっこしてくるか」


 寝る前にも一応したけど、起きると不思議と催してくるよね。

 おっと、漏らす前に早くしてこないと。


「ふぅ……。ドラゴンローブの下は何も履いてないからおしっこするのは楽だね。いちいち脱がなくてもローブを捲るだけで出来るし」


 そんな事を呟きつつも用を済まし、僕は焚き火の傍へと戻る。するとその時、《グリムリッパー》の視界にフォレストスライムの姿が映った。


「おしっこしといて良かったね。万が一お腹に体当たりでも受けたら危なく漏らしちゃう所だったよ。良し……! じゃ、殺りますか!」


 腰から〈双竜剣〉を抜き放ち、それを両手に一本ずつ持って構える。本当はフォレストスライムを食べたい所だけど、さすがにライムとガルバが近くで寝てるのにそんな事は出来ない。

 だから今回は僕が母様から学んだ双剣を披露するとしよう。


 ……などと思った時が僕にもありました。


「え……?」


 思わず呆気にとられた。僕がそうなっても仕方ないと思う。

 だって……《グリムリッパー》が勝手に動いてフォレストスライムをあっさりと仕留めたんだから。


「あの鎌って斬れないんじゃなかったっけ!?」


 並列思考により《グリムリッパー》の視界から得た情報はこうだ。

 僕の意思に関係なく動いた……いや、フォレストスライムの傍へと瞬間移動した《グリムリッパー》はその手に持つ巨大な死神の鎌を振りかぶると、何の躊躇いもなくフォレストスライムの体を穿いた。

 しかし穿かれたはずのフォレストスライムの体には傷が無く、何かやったのかと言わんばかりに平然としていた。

 しかし次の瞬間、フォレストスライムの体から風属性の緑色をした魂が浮かび上がり、それを《グリムリッパー》は再び振りかぶっていた死神の鎌で斬り裂いたのだ。そして、フォレストスライムの魂はその死神の鎌へと吸い込まれる様にして消えていった。

 僕が驚いて、斬れないんじゃなかったっけ、と叫んで驚いてしまうのも仕方ない事だろう。


「まさか《グリムリッパー》の鎌って……物質は斬れずに、魂だけを斬り裂く鎌だったの……!?」


 厨二魂全開な《グリムリッパー》の知られざる能力に、僕はしばらく焚き火の傍で呆然と立ち尽くしていた。

お読み下さり、ありがとうございます。

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