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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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十歳になりました!

本日二話目です、ご注意下さい。

 

 母様と僕の二頭で訪れたドラゴン平原。僕達は何をしにここまで来たのかと言うと、それは……母様が僕の眷属となった事による能力の検証を行う為だ。


『確かにあるわね、テンペストドラゴンの遺骸が……。アレ……ルウが殺して喰らったのよね? ……美味しかった?』


 ドラゴン平原に辿り着き、かつて僕が倒してその肉を喰らったドラゴンの骨を見ての母様の言葉である。

 しかし、何故母様の口から美味しかったのかとの質問が出てくるのか。やはり僕の眷属となった事で、より狼の本能が芽生えたとでも言うのだろうか。

 謎が深まるけど、その検証の為にドラゴン平原まで来たのだ。ならば、さっそく検証に入るとしよう。


『うん! すっごく美味しかったよ、母様! ドラゴンのお肉を食べた一ヶ月は至福を味わったね……ジュル……!』


 ……思い出したら涎が垂れた。条件反射とは実に面白いものだ。


『母さんも食べたかったわ……血が滴るドラゴン……ジュル……!』


 うーん。やはり狼としての本能が芽生えいるみたいだね、母様も。

 という事は、人間の姿の時はともかくとして、狼形態や人狼形態の時は生肉を食べても平気だという事だろうか?

 その辺りの検証を進めるのも良いだろう。


『じゃあ母様、母様の能力をフルに使って狩りをしてみて? 万が一勝てない魔物が現れても僕がすぐに助けるからその点は安心してね、母様』

『分かったわ、ルウ。それじゃ……行ってくる!』


「グルォオオオオォォォォンッ!!」


 母様の能力の検証をする為に、僕は母様に狩りの許可を出した。母様は快くそれを了承し、美しい遠吠えを上げて駆け出していく。どうやら、既に美味しそうな匂いを感じ取っていたみたいだ。一直線に駆け出す姿に迷いは無かった。


『《スピリット・グリフォン》!』


 魂魄魔法の《スピリット・グリフォン》を唱え、半透明のグリフォンを作り出す。そして並列思考によりグリフォンを操り、僕は上空からグリフォンの視界を通して母様の狩りの様子を見ていく。


 母様の進む方向には、オークとオーガの間の子である身長が4メルト程で厚い脂肪が特徴のトロルの姿が見えていた。母様の嗅覚がどれ程鋭いかは分からないけど、美味いか不味いかが匂いで分かる感覚は鋭いみたいだ。さすがは母様だね。


 さて、母様の狩りのお手並みを拝見するか。


「ウォオオオォォン!」


「グオッ!? ガアアアアアッ!!」


 威嚇なのか、母様はトロルの背後を取り立ち止まると、そのトロルに向けて咆哮を上げる。対してトロルは、背後からの母様の声に驚いた様だけど、相手が普通より多少は大きいくらいの狼だと分かったのか威嚇をし返している。


 母様は人間の時も戦いに慣れていたので、トロルの対応も恐らく計算の内だったんだろう。トロルが威嚇の咆哮を上げた瞬間に、母様は僕の眷属としての瞬足を発揮する。うん、僕の速度の十分の一くらいだね。

 僕からしたら母様の速度は遅いけど、トロルからすれば遥かに速い。母様の速度に翻弄されたトロルは母様の姿を捉えようと右往左往している。あ、母様はそんなトロルの隙を突いて左足の踵へと噛み付き、そして喰いちぎった。


「グオオオオッ!!」


 アキレス腱を喰いちぎられたトロルは痛みに叫びを上げる。そして、自らの重い体重を支えきれずに地面へと倒れた。当然母様は下敷きにならない様にトロルの傍から既に離れている。


「グルルル……ワォオオオォォン!」


 驚いた……!


 倒れたトロルにすぐに噛み付くと思っていたのに、母様は油断せずに魔法を唱えた。人間形態じゃないから呪文を唱えない本能で放つ魔法だ。

 毛並みが美しい真っ赤な体毛は属性を表しているのか、母様は口から炎の砲弾を放つ。次いで、その体に炎を纏う母様。

 うん? 所々に炎の渦が見える事から、風属性も含まれている様だ。人間から僕の眷属となった母様の魂は、もしかしたら風と炎の二つの属性を有しているのかもしれない。

 それはともかく、燃え盛る火炎の鎧を纏う母様のその姿はやはり美しい。


 炎の砲弾と自らの体に纏う炎風の二段構えの母様の攻撃だ。トロルはあっという間にその命を散らしていった。


 さすが母様と言いたい所だけど、やはり懸念もある。それを母様に伝える為、《スピリット・グリフォン》を解除後、僕は母様の下へと向かった。


『ああ……美味しいッ!! 何ていう美味しさなの!? こんな美味しいお肉があったなんて……!』


 母様がトロルを仕留めた現場に僕が着くと、既に母様はトロルの肉を喰らい始めていた。恍惚とした表情を浮かべた真っ赤な狼の姿は、どこか扇情的で、欲情に駆られたメスの様にも見える。それ程までに母様は肉を喰らうという快感に浸っているのだろう。


『どう? 初めての生肉の味は?』


 母様に感想を聞いてみる。


『あ……ルウ。うん、こんな世界があったなんて本当にビックリ。母さん、人間をやめて正解だったわ!』


 …………。


 ……そ、そうですか。喜んでもらえて僕も何よりです、母様……。


 それはさておき、母様に僕が懸念に思った事を伝えよう。


『所で母様、さっきの狩りで母様は魔法を使ったみたいだけど、やっぱり体内のマナを使ってたみたいだね。自然界に漂うマナは使えないのかな?』


 僕が懸念に思っていた事はその事だ。

 さっきの母様の狩りの時、魔法を使用した後に息切れにも似た症状が窺えた。つまり、マナ切れだ。

 狼形態や人狼形態の時に使う魔法は、僕の眷属となった母様ならば人間の時よりもより強力になっているはずだ。マナの使用量もそれに比例して多くなる。

 となれば、自然界のマナを使えなければたちまちマナ切れを起こし、意識を失って倒れてしまう。それが戦闘中ならば死を意味する。


 だから僕は母様に確認したのだ。


『自然界のマナ……? 何それ? そんなもの、母さん何も感じないわよ?』


 やはり僕の懸念は正しかった。だから僕は母様に注意を促す。

 僕の眷属になった事を喜んでる母様だ。これからも狼形態や人狼形態には変身するだろう。伝えるのはその為の注意点だ。


『母様……これからは狼形態や人狼形態で魔法を使う時にはマナのコントロールを精密に行って下さい。じゃないと、マナ切れを起こしてとても危険です。だから、狼形態と人狼形態でその訓練をして下さい』

『そっかぁ、確かにルウの言う通りね。トロルを倒した時、確かにクラっとしたものね。うん、分かったわ。神狼としてのルウが言うんだもの、眷属として母さんはそれに従うわ』

『ありがとう、母様! それじゃあ、僕も食べていい? さっきから母様ばかり食べてずるい!』

『もちろんよ! 一緒に食べましょ!』


 注意点も伝えたし、母様もそれについて納得してくれた。とりあえずはこれで安心と、僕は母様と二頭でトロルのお肉を美味しく食べるのだった。


 ☆☆☆


「それじゃ、母さんちょっと行ってくるわ!」

「人に見られない様に注意してね?」

「分かってるわよ……!」


 全裸になって家を出て、母様は僕との会話を終えると真っ赤な体毛が美しい狼形態へと変身する。その額には僕の眷属を表す炎の形をした黒い体毛が生えている。

 今では母様も変身に慣れたもので、足元に水溜まりを作る事はなくなった。あの激痛に慣れるなんて母様は凄いよね。僕には無理だ。


「ワォオオオォォン!」


 そして遠吠えの後、疾風の様に走り出す母様。目的地は神滅の森のドラゴン平原だ。どうやらあの検証後、母様はトロルの味を気に入ったらしい。うん、美味しいもんね、トロル。僕も好きだ。


 母様が僕の眷属となり、その能力の検証をドラゴン平原で行ってから五年の月日が流れた。今では僕も10歳になっている。


 そうそう、あの検証後にもう一つ母様について分かった事があった。それは、歳を取らなくなった事だ。むしろ、若返ったと言っても過言では無い。

 今では、母様の見た目は20歳前後と言っても通用するだろう。32歳相応の見た目のレイラさんからは羨ましがられている。

 今後も経過観察は必要だけど、僕の眷属になるともしかしたら寿命が伸びるのかもしれない。


 あ、ちなみにだけど、僕は母様の検証を行った時から一回しか変身していない。だって、痛いんだもん。

 痛いのもあるけど、変身するのは幸せを守る時以外はやめたのだ。毎日平和だから変身する必要もないし。


 ともあれ、僕は母様を見送った後家へと入り、結界の魔道具にマナを込めてから眠りに就く。今夜のお風呂は既に済ましてある。もちろん、母様が狩りに行ってる数日間もお風呂は欠かさないだろう。

 僕の眷属となった母様の嗅覚は更に鋭くなっているのだ。一日でもお風呂に入らないと、すぐにバレて尻叩きの刑に処されてしまう。お尻が二つに割れるのはゴメンだ。


 …………。


 そうだ、この五年の間に僕は母様から双剣を学んだ。力は人間形態の弱点とも言える年相応にしか出ないけど、双剣の技術は母様から免許皆伝を貰っている。カッコ良いんだよ、僕。舞を踊る様に双剣を扱えるんだから。


 あ、魔法についても言っておく事がある。

 人間の魔法は威力は弱いけど、それなりには使える様になっている。夜にしか使えない《スピリット》や《ソウルウルフ》は以前説明した通りだけど、ラックって名前の冒険者が起こした事件の時に吸収した人間30人分の黒い魂で新たな魂魄魔法を使える様になった。

 しかもその魂魄魔法を使えるのは人間形態の時のみ。それもやはり夜の間だけである。

 さっき説明した一回だけ変身したというのは、その検証を行ったからだ。


「《グリムリッパー》!」


 眠るまでの間にソレを唱える。僕の目の前に現れたのは、漆黒のボロボロのローブに身を包む半透明なスケルトンだ。その手には巨大な死神の鎌を持っている。……厨二病は健在である。

 名前を《グリムリッパー》としたのは、死神のイメージと、その巨大な鎌で切り裂くという所から切り裂き魔を意味するリッパーを掛け合わしたからだ。ふふん、カッコ良いでしょ?


 ちなみに《グリムリッパー》の能力は分からない。死神の鎌は見せかけなのか何も切り裂く事は出来ないし、操作しても凄く動きが遅い。厨二病の僕が生み出した幻想が形となって現れたのかもしれないね。カッコ良いから気に入ってるけど。


 五年の間に変わった所はこんな所かな?


 …………。


 身長は140セルトにまで伸びたぞ? 胸は…………膨らんでいない。


 …………。


 顔はより凛々しくなって、美少女や美少年といった中性的な美しさになったかな。


 …………。


 髪の毛は母様に短くする様に言われたからショートヘアにしているよ。


 …………。


 ……。


 あ、そう言えば……満月の時に月に浮かんで見えるあの花模様、母様は見えないと言っていた。どうやら僕だけにしか見えないらしい。母様が眷属になってから聞いてみたのだ、同じ人狼なら見えるのかってね。

 その事が何を意味するのかは分からないけど、僕にしか見えないならば何かの意味があるのだろう。もしかしたら、僕が神狼から人狼、そして人間へと変身出来る様になった事とも繋がってるかもしれない。

 それとも……僕の前世がこの世界とは違う世界の人間だったって事による影響なのか。ま、その内分かる時が来るかもね。


 ともあれ、今度こそ寝るか。


 明日は友達と初めて依頼を受ける日だ。寝不足は失敗に繋がる。

 僕は《グリムリッパー》を解除し、平和の象徴……健やかなる眠りへと落ちていくのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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