忘れられない日・2
不適切な表現があった為修正致しました。
話の流れは変わりませんので、ご了承下さい。
「ああ、実はな……こういう事だよ! お前がガイアスの娘って事を恨むんだなぁ!」
騎士崩れの様な顔をした冒険者に話を聞こうと近付いた僕は、その冒険者の男がそう言った直後に、背後から忍び寄っていた別の誰かに頭から大きな布の袋を被せられた。
「え? きゃああああああ!!」
直後、僕は冒険者の男ともう一人の誰かに袋ごとロープの様な物で縛りあげられる。身動き出来ない結ばれ方をしているらしく、手足を上手く動かす事が出来なかった。人を攫う事に慣れているその手際に、僕は戦慄する。
「嫌だ! 助けて! 僕なんか攫っても母様がお前らを許さないんだから、こんな事はやめ……──ッ!?」
「うるせぇ、大人しくしやがれ! この……! いいから黙れぇッ!!」
「あうっ……ッ……!」
袋に入れられ、身動き出来ない僕は、お腹に強い衝撃を受けた。どうやら殴られたらしい。その拍子に、僕は我慢していたおしっこを漏らしてしまう。下半身が濡れていく感触に気持ち悪さを感じながら……僕の意識は薄れていった──
☆☆☆
──あれ? 僕は何で寝てるんだろう?
確か、今日は母様とバール村で冒険者登録をしていたはずなのに。
あれ……!? おねしょしちゃってるよ、僕……。これじゃ、また母様に叱られちゃうなぁ。はぁ……バレない内に処理すれば、お尻叩きは免れるかなぁ。でも母様、匂いに敏感なんだよなぁ。
それにしても、下半身が濡れて気持ち悪いや。いい加減起きて脱がないと……。
ッ!? 動けない!?
「うー! むぐぅー!」
それに、口に何かを噛まされて喋る事が出来ない!
「うるせぇぞ、このクソガキがぁ!!」
「あぐぅっ! ……うー……むー……」
「うぇぇっ!? く、臭ぇ!! このガキ……小便だけじゃなく糞まで漏らしやがった!」
この声……聞いた記憶がある。確か……そうだ、あの騎士崩れの様な冒険者の男の声だ。ギルドで僕を突き飛ばし、レイラさんの店のトイレの前で僕に声を掛けたあの男の声。
──思い出した……! そうだ、僕はこの男に攫われたんだった。そして袋詰めにされて……。
だから何も見えないし、身動き出来ないのか。いつの間にか手足まで縛られてるし。
それにしても酷い。袋詰めの五歳児の女の子のお腹を力一杯蹴るなんて……そりゃ出ちゃうよ……大っきい方……だっ、て……。
──お腹の痛みと、お尻に広がる排泄物の不快な感触に苛まれながら、僕の意識は再び闇へと落ちていった。
☆☆☆
「ガイアスにはちゃんと伝えたんだろうな?」
「ああ、任せろ。今夜、神滅の森に一人で来いと伝えた」
「……どんな顔してやがった?」
「傑作だったぜ? 何せ……あのガイアスが目に涙まで浮かべて取り乱したんだからな! お前達にも見せたかったぜ」
複数の男達の話し声で、僕の意識は現実へと引き戻された。相変わらず僕は袋の中に詰め込まれたままの状態らしい。漏らしてしまった僕の排泄物の匂いが袋の中に充満して、まるで鼻のすぐ近くで嗅いでいる様に感じるのがその証拠だ。
それにしてもお尻や股間が気持ち悪い。お腹を蹴られてからどれだけ意識を失っていたのか分からないけど、排泄物がベッタリと付着してる部分が酷く痒く感じる。かぶれてしまってるかもしれない。
自分の体の状態に辟易していると、一際声の大きい男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「そろそろ時間だ。いいかお前ら! 手筈通りにやれば俺たちゃ大金持ちだ! それに……ガイアスのあの体も蹂躙出来るってもんだ……! それとけったくそ悪いが、このクソガキが趣味の奴もいるだろう。ガイアスが来る前までなら好きにしろ。だが、決して殺すなよ? コイツが死んじまえば、間違いなく俺たちゃガイアスに一瞬で殺される。分かったかぁ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
男達の会話から、どうやら僕は神滅の森の辺りにいるらしい。もしかしたら、僕が母様に拾われた辺りかもしれない。
しかし、僕を攫った犯人は騎士崩れの冒険者ともう一人の仲間だけかと思ったけど、どうやらもっとたくさんの男達がいるみたいだ。何かの組織なのかな……って、人攫いの組織だよね、きっと。
(ごめんなさい、母様。僕が気を抜いて油断さえしなければ、母様に迷惑をかける事なんてなかったのに)
(僕が攫われさえしなければ、母様に心配をかける事もなかったのに)
(ごめんなさい……母様……)
心の中で、母様への罪悪感ばかりが湧き上がってくる。何度母様に心で謝っても、その罪悪感が晴れる事はなかった。
そんな僕へと、人攫いの組織の誰かの声が近付いてきた。
「へっへっへ! 殺さなきゃ自由にしても良いんだよなぁ?」
「……好きだなぁ、お前も。殺さなきゃどうでもいい、そんなクソガキなんてなぁ」
「了解♪ 恨むんならお前の母ちゃんを恨めよ? ちょっと連れてくぜ、このガキ!」
ッ!?
「うー! むー! むぐぅー!」
(体を持ち上げられた!? いや、この声はあの騎士崩れの声だ……! ぼ、僕をどこに連れて行く気なんだ!?)
心の中で、僕はそう取り乱す。そして、
(助けて、母様……!)
母様へと助けを求めてしまった。
心で母様に助けを求めても無理だとは分かっている。だけど、今の僕には母様に縋る事しか出来なかった。幼女の姿の僕では、力を振り絞っても年相応の力しか出ないからだ。
それでも、身動きの取れない体を芋虫の様に動かし、僕は精一杯の抵抗をする。しかし騎士崩れは、僕の抵抗を意にも返さずに僕を持ち上げると、自らの肩へと担ぎ上げた。
騎士崩れの肩の上でお腹を圧迫されながら、僕はどこかへと連れられていく。騎士崩れの足音から察するに、僕は森の中へと連れて行かれてる様だった。
「へっへっへ、この辺りまで来りゃアイツらまでこのガキの声も聞こえねぇだろう。そらっ!」
「むぐぅー! うぐぅ……!」
肩に担いだ袋詰めの僕を、騎士崩れは地面へと無造作に落とした。地面に背中を打つ痛みに呻き声が零れる。
この後、僕はどうなってしまうんだろうか。何をされるんだろうか。真っ暗な袋の中で、恐怖だけが膨らんでいく。
「今、袋から出してやるぜ? 苦しかったよなぁ?」
そう言いながら、騎士崩れは僕を袋の中から出してくれた。久しぶりとなる視界には森の木々が映り、ここがやはり神滅の森の中だと分かった。時刻は分からないが、闇に覆われている森の木々の枝葉の隙間からは月が見えていた。
騎士崩れの男はもしかして、僕を助けようとしてるのだろうか。いや……それは有り得ない。助けるつもりならば、初めから僕を攫う事はしないだろう。
それを示す様に、騎士崩れは腰の後ろに差していたナイフを抜き、僕へとそれを向けてきた。
「うへぇ、すげぇ臭ぇな……だが、それがたまらねぇ! つうか、やっぱ服が邪魔だなぁ……。動くなよ? 動いたらうっかり殺しちまうぞ? なんてなぁ! へっへっへっへ」
騎士崩れはそう言いながら、母様が今日の僕の為に選んでくれた服をそのナイフで切り裂いた。それも……下着代わりに巻いている下半身の布ごと。
僕の体は一糸纏わぬものとなり、排泄物で汚れた下半身を含めて、僕の全てが騎士崩れへと晒されてしまった。恥ずかしさと悔しさから、僕の目には涙が滲む。
やはり、騎士崩れは僕を助けようなんてこれっぽっちも思ってなかった。この男は僕を……そういう目で見ていたのだ。今の騎士崩れの行動と言葉でハッキリとそれが分かった。
「ああ……! たまらねぇ! こんくらいのガキが汚物まみれでよぉ、それで俺を縋る様な目で見つめてきやがる……! たまらねぇが……本番はガイアスを殺ってからだな。お楽しみは後に取っておくっつうのも悪くねぇからなぁ……!」
僕の姿に興奮を覚えたのか、騎士崩れは欲望にまみれた顔でそう言った。そして、僕はこれから起こるであろう出来事を想像し、恐怖から失禁してしまう。体の芯から僕は震えていた。
(怖い……! 嫌だ! 母様、助けて……!)
この場にいないと分かっていても、今日まで僕を育て、そして守ってくれた母様に助けてくれと縋ってしまう。それ程までに僕は恐怖し、騎士崩れに怯えていた。
「へっへっへ……」
──その騎士崩れの笑い声を聞いた瞬間、恐怖が限界に達したのか僕の理性は失われ、僕の体は意思に反して変化を始めていた。
「ううう……! うぐぐグゥ──! グルルルアアアアッ!!」
「な、何だ!? このガキ……恐怖で気が狂いやがったのか!? ──ッ!? ひぃッ!!」
恐怖で痛みが麻痺していたのか、それとも理性が失われた事で体のリミッターが外れたのか……僕の体は意思とは関係なく、身長が2・5メルトもある人狼のものとなっていた。
それに伴い、僕の体を縛っていたロープは弾け飛び、猿轡は噛み切れたのかするりと地面へと落ちる。
ああ、何ていう開放感だろう。まるで、全てのしがらみから解き放たれたみたいに感じる。あるがままの姿でいる事が、こんなにも気持ちの良いものだったなんて……!
しかし、何故僕はこの男のなすがままにされていたんだろうか。自らの情けなさに虫唾が走る。人間なんて、僕の餌にしかならないのに。
「な、何だ……ワーウルフだったのか、驚かせやがって……! だがこれで、ガイアスを堂々と殺せる事が出来るってもんだ。何せ、ワーウルフのガキを匿って育ててたんだからなぁ! まぁガイアスを殺すにしても、有り金を全ていただいて、その体を弄んだ後にだけどな! ……だが、さすがにこの俺もワーウルフを一人で相手になんて出来やしねぇ。だがコイツはまだガキだ。そこで大人しくしてるんなら、命ばかりは助けてやらん事もないぞ? どうだ? 何なら俺がお前を飼ってやる……お前の人間の姿はたまんねぇからなぁ……!」
騎士崩れは僕の姿に驚いていたが、直後、くだらない事をベラベラと喋りだした。僕の姿に狼狽えたまま凄んでみせても、今の僕にはちっとも怖くはない。むしろ、耳を穢す様なその声に僕は苛立ちを覚えた。
だから──
『……うるさい』
「な、何だ!? な、何をする気だ! こっちに近付くんじゃねぇ! な!? やめッ──ッ……!」
──騎士崩れの頭を片手で掴み、そのまま握り潰した。
頭部を失った騎士崩れは体を痙攣させると、そのまま力なく死んでいく。何故この男にあれ程の恐怖を抱いていたのか不思議に思う。
こうして見ると、まるでゴミみたいな様に感じる。以前命の無駄にしない為にも殺した相手は食べると言ったけど、こんなに汚い人間は食べたくない。
……ま、いっか。コイツ汚いから捨てよ。こんな汚いの、食べたらお腹壊しちゃうだろうし。
……ん? 黒い魂……?
こんな色の魂なんて初めて見る。穢れた人間に相応しい色だね。それよりも、吸収したくなくても僕の体は吸収しちゃうんだね、汚いなぁ。
あ、残りの奴らも殺さなくちゃ。じゃないと、母様が穢されちゃうよ。
だから、一人だって逃がしちゃダメだ。
『《ソウルウルフ》! 《ヴァーユ》、《アグニ》、《タイダル》、《アース》!』
僕は《ソウルウルフ》を四体作り出し、それぞれに属性を纏わせた。僕自身の力よりは劣るけど、属性を纏わせれば攻撃力はかなり近付く。まぁ、人間を殺すのに《ソウルウルフ》はオーバーキルだけどね。
うん、久しぶりに発動してみたけど、僕の能力に衰えはない様だね。さあ……狩りの時間だ。
並列思考によりその四体と視覚と行動を共有し、僕を攫った男達を逃がさない様にその周囲へと走らせる。
四体の《ソウルウルフ》は森を出ると速やかに男達の周囲へと散開し、包囲網を完成させた。準備は完了だ。
後は、僕がゆっくりと狩りをすればいい。
『逃がさないよ。お前達は……僕の餌だ』
森の中でそう呟き、地を蹴り一瞬で加速する。その加速によって、目に映る景色が立体から平面へと変わる。
そして──僕は男達の前へと瞬時に姿を現した。
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