バール村へ
先日、あっという間にブクマが60件を超えて嬉しく思っていたのに、何と……早くも70件を超えてました!
ありがとうございます、とても嬉しく思います!
今日は、僕が初めてバール村へと行く日だ。朝起きてからとてもワクワクしている。ソワソワしてると言ってもいい。五歳になった記念に、ようやく母様が連れて行ってくれる事になったのだ。朝から落ち着かなくても仕方ないというものである。
今まで、母様はバール村に連れて行ってはくれなかった。まだ僕が幼いというのもあるとは思うけど、僕が思うに……母様が僕を養子にした事がたぶん要因だろう。
母様は未婚だ。そして、男性経験は無いと言っていた。
そんな母様が僕みたいな少女を養子にしたのだ、恐らく世間体が悪いと感じていたのだろう。
でもそんな母様も、ようやく僕と本当の親子の縁が結べたと思ったのだろう。最近になって今までのよそよそしさが無くなったのが良い証だ。
それも含めて、僕は朝からワクワクして、嬉しくて仕方ないのだ。
「ルウ? 早くこっちにいらっしゃい!」
「はーい、母様!」
バール村は家から少し離れているけど、歩いて小一時間程の距離に在る。なので、今日の午前中の畑仕事のお手伝いは無しだ。時計は無いけど、家を出るのがだいたい朝の九時過ぎの予定なので、畑仕事をしていたら今日も行けなくなってしまう。おあずけは嫌だ。
という事で朝ご飯を食べて、今は着ていく服を選んでる所だ。
「やっぱり動きやすいシャツとパンツかしら? でも、ルウはとっても可愛いんだから、スカートの方が良いわよねぇ……」
そして僕は今、母様の着せ替え人形となっている。
母様が選んでくれるのだから僕はどんな服でも良いんだけど、どうせならと、母様が色々と服を選んで着せてくるのだ。それも、小一時間程。もう、いつものワンピースで良いと言いたい。
だけど……好みを言っていいのなら、僕はパンツスタイルで革鎧などを着てみたい。腰には剣なども装備して。
自分のその姿をちょっと想像してみる。うん、子供が背伸びしたみたいでとっても可愛いのではなかろうか?
「やっぱりコレね! フリルの付いたスカートにしましょ!」
冒険者風になった自分の姿を想像していたら、母様はようやく僕が着ていく服を決めた様だ。中々に女の子女の子していて可愛らしいと思える服を選んでくれた。
前世は男の子だったけど、この世界に神狼のメスとして転生してから既に五年。幼女となって三年が経過している。僕も、女の子の気持ちにも随分と慣れたものだ。母様が選んでくれた服を可愛いと感じるくらいにはね。
まぁ女の子の気持ちはともかく、母様が選んでくれた服を見てみる。色は淡いピンクを基本としていて、所々に花の刺繍がある長袖のシャツと、そのシャツの淡いピンクに合わせた薄い茶色の膝丈のスカート。裾にはスカートよりも若干明るい同色系統のフリルが付いている。それらを着た僕を想像してみるに、ちょっと小洒落た町娘といった感じだろうか。
僕の黒髪も肩の辺りまで伸びているので、より女の子らしく見えるだろう。
あ、靴は柔らかく鞣した革靴だよ。人狼の姿じゃあるまいし、裸足はさすがに……ね。
「それじゃ、出発しよっか」
「はい、母様! やっとバール村に行けるのかぁ……すっごく楽しみ!」
「そうね、今日はたくさん楽しみましょ!」
母様も着替え終え、ようやくバール村へと行く用意が出来た。いよいよ出発だ。母様とのやり取りを終え、二人揃って家を出る。外は快晴、絶好のお出掛け日和だ。
春から初夏にかけての爽やかな風が、僕と母様の髪をフワリと舞わせた。
眩しい青空の下、改めて僕達の服装を見てみる。うん、僕は可愛らしく見える服装だ。
その僕に対して、母様は真っ赤な服装に身を包む。それだとさすがに派手過ぎると思うだろうけど、白のベストを着ているから多少はマシだ。
母様を上から順に見ていくと、真っ赤な髪に真っ赤なシャツ、シャツの上に白いベストを着て、そして真っ赤なパンツという出で立ちだ。まるで紅白の垂れ幕みたいに見える。うん、やっぱり派手だった。
正直に言えば、僕の服装が落ち着いた女の子って感じなんだから、母様にももう少し落ち着いた色合いの服装を選んで欲しかった。確かに似合っているから文句はないけど、僕は少し恥ずかしく感じてしまった。
しかし、これだと母様は悪目立ちしてしまうのではなかろうか。美人な母様だけに少し心配である。
まぁ、母様が目立つ事で僕が目立たなくなるのはありがたいとは思う。初めて行く場所で目立つというのは、やはりストレスが溜まってしまうからね。
でも、もしかしたら母様は、そういう事から僕を守る為に派手な色合いの服装を選んだのかもしれないね。それと、僕が変な人から絡まれない様に、と。
今向かっているバール村は冒険者の聖地と呼ばれている為、やはりガラの悪い人達がいるらしい。それに、人攫いもいるのだとか。そんな人達から、自分が目立つ事で僕を守ろうとしてくれてるのだろう、母様は。
ならば僕に文句はない。そんな心配よりも、僕は初めてのバール村を楽しまなきゃ。母様もそれを望んでる事だろうしね。
こうして、僕達親子は家を後にした。初めてバール村に行ける事にワクワクしているから、僕の歩くリズムも軽やかだ。幼女の姿だから尻尾は無いけど、思わず尻尾を振りたくなってくる。
え? あの魔法の訓練はどうなったのかって?
…………。
お尻が腫れたとだけ言っておこう……。
いや、アレは仕方なかった。と言うか、余計なイメージをしてしまった僕の失敗だった。
股間から魔法を発動するなんて考えなきゃ良かったよ……。
ともあれ、一応は魔法を使える様になったし、五歳になった記念という事でバール村へと行ける事になったのだから、今はそれで良しとしよう。
「ほら見て、ルウ。あそこの門からバール村に入るのよ」
魔法の訓練の失敗を考えてる内に、母様からそう話し掛けられた。母様が言う方を見れば、石造りの巨大な城壁と大きな門が見えている。門の前には列が出来ていて、バール村の中に入ろうとする人達で賑わっていた。
「うわぁ……! すっごく大きな壁だね! 門も大っきいや!」
「ふふふ、そうでしょ? バール村はね、結界を張ってないから壁や門が大きくて頑丈なのよ? じゃないと、森から魔物が溢れたら人間を守れないからね」
村へと入る人々の列に並びながら、母様とそんな事を話す。城塞都市という、ラノベで読んで憧れた光景が目の前にあるので、僕は凄く興奮していた。
しかし、母様の説明に聞き捨てならない言葉があった。
結界を張ってない、だって?
ラノベで出てくる城塞都市のほとんどは、巨大な城壁だけじゃ魔物から都市を守りきれない為に結界を張っていた。それなのに、このバール村は結界を張っていないと言う。
そんな事で、森の魔物からの脅威を防げるのだろうかと問いたい。
……が、実際問題、こんな大きな都市……まぁバール村は村って呼ばれてるけど、とにかくこんな大きな都市に結界を張るなんて事は出来ないんだろう。結界を張るのに、どれだけのマナが必要なんだと、そういう話なんだと思う。
僕達が住むログハウスには結界が張ってある。その仕組みは、結界を張る魔道具に毎日一定量のマナを込めて発動させるというものだ。今の僕だと、それだけで一時間は掛かる。
その結界の魔道具を発動させるだけでもかなり大変なのに、バール村の様な巨大な都市を守る結界を張るにはどれだけのマナが必要になるか想像もつかない。
例え無理矢理結界を張るとしても、それだけで莫大なマナが必要となり、そのマナを込めるのに、いったいどれくらいの人達がマナを込めれば発動するかさえ分からないだろう。
それに、結界を張れたとしても、莫大なマナを注ぎ込んで一日も保たないんじゃ意味が無い。
ならばと、結界を張らずに城壁や門を頑丈にした方が良いとの結論になったのだろう。そう考えれば納得出来た。
「ガイアスさん、その娘が例の?」
「ええ、そうよ。あたしの可愛い娘のルウファよ! 今までは幼かったから連れて来なかったけど、これからはちょくちょく連れて来ると思うから【バルデス】もよろしくね?」
僕が結界の事について考えていたら、いつの間にか僕達親子の順番が来ていた。考え事をしてると、列に並んでいる時間もあっという間に過ぎていくね。
それはさておき、母様と話しているゴツいおっさんは、きっとバール村の門を守る守衛さんだろう。歳の頃は30歳といった所か。
身長は180セルトくらいで、少しお腹のたるみが気になる所だけど、髭面には似つかわしくない可愛らしい笑顔をする人だ。僕が思うに、守衛さんの中でも名物的な人物だろう。あ、鼻毛が一本出てる。
「ほら、ルウ……挨拶は?」
「あ、僕はルウファって名前です。よろしくお願いします!」
母様に促され、僕は勢い良くおじぎをし、元気な挨拶をする。……おじぎの勢いがあり過ぎて、体勢を崩しそうになってしまった。
「あははは、そうか、ルウファちゃんって言うのか! 私は、ガイアスさんにいつもお世話になってるバルデスという者だ。よろしくね」
「は、はい、こちらこそです!」
「……ルウ? バルデスなんかに緊張してたら村に入ってからが大変よ?」
「だって……」
「ははは、何にせよ、今日はバール村を楽しんでいってくれ! 入村を許可します。さあ、どうぞ中へ!」
バルデスさんに入村を許可され、僕は少し緊張しながら、母様は普段通りの感じでバール村の中へと入った。
あ、バール村に入る際に、母様がベストのポケットから何かのカードらしき物を出して、それをバルデスさんに見せていた。
母様がバルデスさんに見せたのはやっぱりアレかな? 身分証とかギルドカードとかって例のやつ。ラノベの中で冒険者が必ずと言って良い程に持ってる例のアレ。
と言うか、僕、そんなの持ってないよ? どうして僕はバール村に入れたのかな?
ま、いっか。特に問題なく入れたんだから、僕が気にしても仕方ないね。
ともあれ、僕は初めてとなるバール村の中へと入ったのだった。
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