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月の華  作者: 桜華
第二章 人間の姿にはなったけれど……
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白銀色の毛皮

昨日は二話更新という事もあって、何とPVが1000を超えてました!

本当にありがとうございます!

そのお陰なのか、ブクマも一気に10件増えて50件を超えました……!

重ね重ね、ありがとうございます!

 

 大空の王者グリフォン。僕はそのグリフォンとの戦いを制し、その肉を喰らっている。肉質は鶏肉に似ているけど、とても柔らかく、非常に滋味に溢れている味わいだ。


 しかし、初めは食べる事に躊躇した。何故ならば、僕がラノベでその存在を知って凄く憧れていたからだ。だけど、僕はグリフォンを喰らっている。

 それは、勝者が敗者の肉を喰らうという弱肉強食の掟もあるが、死を前にしたグリフォンから自分を喰らって強くなれって言われた気がしたから素直に食べているのだ。決して、美味そうだからとか、丁度お腹が減っていたからとか、そういう邪な考えはない。

 死して僕の糧となれって思念を送ったのだから、グリフォンの命を無駄にしない為にも喰らっているのだ。グリフォンの肉を喰らった僕は、これでまた最強への道を一歩進んだ事だろう。


 そんな事を考えたりしつつも、ともあれ、僕はグリフォンの全てを残さずに食べていく。


『いやぁ〜、死闘の後の肉は格別だね! 血となり肉となるってのは正にこの事だよ!』


 ……ツッコミは受け付けない。


 さて、そのグリフォンだけど、僕の想像通りに風属性の魂だった。強大な魔物だったからか、一体だけでその力を得る事が出来た。

 とは言っても、僕が空を飛べる様にはならない。強いて言えば、神狼形態の素の力が上がった事かな?

 その代わりと言っては非常に怒られそうだけど、お察しの通り、魂魄魔法で半透明なグリフォンを発動出来る様になった。


 今まで、僕は空を飛ぶ魔物への対策がなかった。まぁ今回、ゲイルの理不尽とも言えるブレスのおかげでグリフォンを倒す事には成功したけど、アレは万が一を考えると使い難い。もしも地上に向けて放ったとしたら、それこそ尋常じゃない被害が出るかもしれない。


 もしも、それを地上の人々に向けて放ってしまったら……想像するのも恐ろしい結果となるだろう。


 何にせよ、グリフォンを倒した事で僕は空の魔物に対する力を手に入れた。この先、ゲイルのブレスを使う事も恐らく無くなるだろう。その点に関しては非常に助かる事だけは確かだ。


『ご馳走さまでした……!』


 グリフォンの全ての肉を食べ終え、その亡骸へと向けて僕は宣言した。そう宣言するのも、命をいただいたという礼儀からだ。

 僕の糧となり力となったグリフォン……お前の勇姿は決して忘れる事はないだろう、そのお肉の味と共に。


 ご馳走さまの言葉にその意味を込めて、僕はその場を後にした。


『さて、白銀色の毛皮はどこかなぁっと……ッ!?』


 グリフォンを食べ終えた僕は岩山へと戻り、そのまま岩山の出っ張りを巣穴を目指して軽々しく駆け上っていく。

 難なく到着し、標高数百メルトにあるグリフォンの巣となっていたかつての巣穴の中へと僕は入った。そして、その雰囲気を懐かしく感じる間もなく、劇的に変化していた巣穴の様子に愕然とした。


『ほ、骨だらけだよぉ……』


 かつての巣穴の中は、僕が呟いた通りに骨だらけだった。その変わり果てた巣穴の様子に呆然とするが、それよりも今は白銀色の毛皮だ。


 あの毛皮を手に入れなければ、今回ここに来た意味が無くなる。……グリフォンの力を得たと言えばそれまでだけど、元々の目的は白銀色の毛皮を手に入れて、それを僕の身代わりのワーウルフの亡骸……いや、ワーウルフから剥いだ毛皮として提出し、そして何の憂いもなくガイアス母様との幸せな生活を送るという事が目的だ。

 なのに、かつての巣穴の中はグリフォン色に染められていて、一見するとどこにもその毛皮は見当たらない。

 グリフォンが恐らく寝床としていた辺りの木片以外は、巣穴の中は正に骨だらけであった。


『うわぁ……ミノタウルスにトロル、他にもオークジェネラルやフォレストボアの骨もあるよ……。僕が居ない間にこの森にやって来たみたいだけど、この森の美味しい魔物を網羅してる辺り、あのグリフォンはかなりのグルメだったみたいだね』


 巣穴の中に散らばるたくさんの骨を見ての言葉だ。

 もちろん、その全ての魔物を僕は食べているし、その力も得ている。

 しかし、こんなにもたくさんの骨を捨てずに巣穴の中へ溜め込まなくても良いと思う。ここは生ゴミ処理場じゃないぞ、と言いたい。

 ともあれ、その骨の数は実に数百体分にも上る。毛皮を探すのにも一苦労だ。


『やっぱり、グリフォンが寝床としていたと思う木片が組まれた所かな、探し始めるのは。そこがこの巣穴の中心だし、あの毛皮が置いてあった位置でもあるし』


 そう言った後、まずはその辺りから探し始めた。


 しかし、本当に骨の数が凄い。それに匂いも凄い。半ば腐った様な状態やら、乾燥して砕けた様な骨まで、ありとあらゆる状態の骨の山々である。

 よく見れば、寝床も木片じゃなくて乾燥した骨だった。

 そして、そんなグリフォンの寝床の中まで骨がびっしりと置かれている。つまり、骨の上にグリフォンは寝ていた事になる。

 しかし、寝てて痛くなかったのだろうか、グリフォンは。神狼とは言え僕には無理だ。

 もしや……グリフォンはまさかのM属性の持ち主だったのか!? そう考え出すと、もはやそうとしか考えられない。……うわぁ、イメージが崩れたぁ……。


 そんな余計な事を考えつつ、白銀色の毛皮を探していく。あまりにも邪魔な骨は巣穴の外へと口を使って運んで投げ捨てた。それでも探し続けて……約一日が経過した頃、僕は目的の毛皮を探し当てる事が出来た。


 ここまで掛かった日数は家を出てから約六日。僕は少しのんびりし過ぎたかもしれない。母様が家に帰ってくるまでの残りの四日で、果たして僕は間に合う事が出来るのだろうか。


『まぁいざとなったら《雷嵐(ケラノス)》を使えば間に合うはずだ』


 そう呟いた後、持ち帰る為に白銀色の毛皮を口に咥えようとした時、僕はこの毛皮が何の毛皮なのかに気付いた。気付いてしまった。


『母様……?』


 骨などは完全にない。しかし、白銀色の毛皮は体の形が分かる完全な毛皮だった。そしてその形や大きさは明らかに僕と同じ程。毛皮から感じた匂いもその事を表していた。


 白銀色の毛皮の主は……母様だった。


 僕が生まれた日、その母乳を飲んだ時に僕が吸収してしまった母様。その抜け殻とも言うべきものが、僕があの時包まっていた毛皮の正体だった。


『うぅ……か、あ……さまぁ……』


 懐かしさと寂しさ、そしてもう二度と会う事が出来ない悲しさに僕は泣いてしまっていた。次から次へと溢れる涙と、切なさから締め付けられる胸の内の苦しさに、僕は力なく体を伏せてしまった。


 ──僕はこの日、巣穴の中から動く事が出来なかった。


 ☆☆☆


 一夜明けて……僕は巣穴の外から聞こえてくる雨音で目が覚めた。その途端に漂ってくる雨の匂いとじわりとした湿気。サラサラな僕の体毛も、ふわふわでフサフサな尻尾も、僕の気分を表す様に湿っていた。


『雨……かぁ。はぁ……。ガイアス母様との幸せな生活なんて言ってたけど、なんだかやる気が無くなっちゃったなぁ……』


 巣穴の外に降る雨をボーッと見つめた後、僕は母様の毛皮に顔をうずめ、力なくそう呟いた。それまでの、母様の毛皮を見付けるまでのやる気は全て消え失せていた。

 それ程に切なくて、辛くて……もうこのままここで暮らし、そして死んでしまおうかなんて事まで頭に浮かんできた。


 そんな事を考え、心が暗く沈んでいたその時……僕の嗅覚が懐かしい匂いを感じた。

 それは母様の毛皮からじゃなくて、まるで空からふわりと舞い降りてきたかの様な突然の匂いだった。


 ──〈元気を出して、私の可愛いルウファ。あなたは私よりも強い神狼なのよ? ルウファの幸せの為なら、私はどうなってもいいの。だから気高く生きて……それが私の願い……〉


 それは幻聴だったのか、それとも僕の中にわずかに残る母様の思念だったのか……でも僕は、懐かしい匂いと共に確かにその声を聞いていた。


『母様……? 母様……! ごめんなさい、母様……。僕のせいで母様が消えちゃったのに、僕だけ幸せになろうなんて思って……。……母様? 母様!』


 やはり僕の寂しさが生んだ幻聴だったのか、母様のその声は僕の言葉に応えてはくれなかった。僕の目からは、再び涙が零れ落ちていた。


『母様……。気高く生きて……。僕の幸せが願い……か……』


 涙が止まってからしばらくして、僕はそう独り言ちる。


 でも、確かに母様の言う通りかもしれない。ギガントードの時も確かに言っていたじゃないか、母様は。僕を愛してる、気高く生きろ、お前は次代の神狼だからって。


『そうだ……! 僕は母様の跡を継いだ次代の神狼なんだ! こんな事でクヨクヨなんてしてられない……! それに……母様は消えたんじゃない、僕の中で僕の力として生きてるんだ。だったら、僕も強く気高く生きなくちゃ!』


 決意を表す様に、僕は言葉を紡いだ。そうする事で、母様の願い通りに気高くなれると思ったんだ。


 その時、巣穴の中が急に明るくなった。僕は巣穴の外へと視線を向ける。すると、雨はいつの間にか止んでいて、雲間からは青空が見えていた。


『あ……晴れてる……! だったら、ガイアス母様の所に帰らなくちゃ!』


 巣穴の中に射し込む陽射しは、僕の心を元気付けるかの様に力強く、そして暖かく感じた。まるで、気高く優しい母様の様に。

 その陽射しを感じた途端、さっきまでのうじうじした気分もどこかに消え失せ、僕は自分の心が晴れ渡るのを感じていた。


 そして、


『……さよなら、母様。僕は貴女の願い通りに気高く生きます。そして、幸せになります。もうここには戻って来ないけど、どうか静かに眠って下さい……母様』


 そう呟き、黙祷する。そして、心に誓った。

 今度こそ僕は強くなる。母様みたいに、強く、そして気高く生きる為に、と。


 母様への黙祷を終えた僕は、母様だった白銀色の毛皮を咥え、雨が止んだ後の抜けるような蒼空の下へとかつての巣穴から飛び出した。弱かった僕の心と決別するかの様に。


 ──飛び出した巣穴の外では、僕の幸せを願う母様の様に太陽が地上を明るく照らしていた。

お読み下さり、ありがとうございます。

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