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月の華  作者: 桜華
第二章 人間の姿にはなったけれど……
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大空の王者

本日二話目の更新です!

本日朝に更新した一話目を読んでいない方は、そちらを先に読む事をオススメします。

 

 ドラゴンの骨がある場所から、魂魄魔法の《スピリット・テイル》で首を刎ねたトロルの下へと移動して、新鮮な内にその肉を食べ始める。久しぶりの生肉の味に、僕の尻尾もとてもご機嫌だ。

 生が美味いんだよ、生が! と、多少バグってはいるが、とにかく美味い。特に、その個体の味が凝縮された心臓なんかは生が一番だ。是非ともオススメする。


 …………。


 心臓を食べたあたりで、トロルの体から茶色の魂の光が浮かび上がり僕の体へと吸収される。その色から分かる通り、トロルも土属性の魔物だ。


『うーん。同じ土属性なのに、なんでゴブリンはあんなに不味いんだろう? ま、いっか。……《スピリット・エイプ》!』


 そんな事を呟いた後、僕は炎の猿の魂魄魔法を唱えた。炎で焼く事によるトロルの味変だ。

 ある程度食べ進めると、トロルやオークなどの脂肪が多い魔物はやはりしつこく感じてくる。なので、炎で焼いて余計な脂肪を落とすのだ。

 そうする事で味に変化が生まれ、また初めて食べたかの様な美味しさを感じる事が出来る。ふふふ、伊達に二年間も森を彷徨っていた訳ではないのだよ!


 と、トロルの味変を楽しんでいた時、遠くの空から不思議な声が聞こえてきた。


「キュロロロロ……ロロロ……ロロ……!」


 なんだろうと思い、そちらの方向へと視線を向ける。


『鳥……かなぁ? それにしては大きい気がする。あ、鷹とか鷲かな? 何となく声も似てる感じがするし』


 遠くの空に、鳥らしき生き物が飛んでいるのが視界に入った。


 まぁ、鷹でも鷲でも気にした所で意味はない。もうすぐトロルも食べ終わるし、食べ終わったらドラゴンの骨の傍で寝るとするか。

 あ、少しだけトロルの肉を残しておいてあげようかな? もしかしたらあの鳥もお腹が空いてるかもしれないし。

 あの鳥が魔物だとしても、まさか今の僕に襲いかかってくるとも思えないしね。トロルの肉を見付けたらそれを食べていなくなるはずだ。


『さて、明日も……いや、今夜も走るんだから、さっさと寝よっと』


 昨日の朝に家を出て、一昼夜を走ったので今の時間帯が朝だという事を忘れていた。ふぁわ〜あ……それよりも、もう眠いや。


 トロルを食べてお腹いっぱいになった僕はドラゴンの骨の傍へと戻り、夜になるまで気持ちの良い睡眠を楽しむのであった。


 ☆☆☆


 陽が沈み、辺りを夕闇が支配する。空を見上げれば、ドラゴン平原に遺されている巨大なドラゴンの骨の間から三日月が見えていた。風は微風で穏やかだし、絶好の移動日和である。……夜だけど。


 満月から比べればとても暗く感じるけど、僕は神狼……つまり狼だ。夜行性である為、夜でも昼間のようにハッキリとよく見えている。なので、夜の移動もお手の物だ。


『そろそろ行くか』


 そう呟いた後、僕は夜闇を走り出す。再び森へと入り、木々の間をすり抜ける様に走り抜けていく。今回はしっかりと木々を避けながら走っているけど、やはり速く感じる。僕は成長しているらしい。

 そんな僕が心掛ける事とは、自然を大切に、である! ……ごめんなさい、もう、《雷嵐(ケラノス)》で木々を薙ぎ倒して走る事は致しません……。


 ときおり休憩などを挟みながらも走り続け、ドラゴン平原を抜けてから三日目の太陽が中天に差し掛かる頃、僕は巣穴がある岩山の麓へと辿り着いた。


『これまた久しぶりにアクアトードを食べたけど、やっぱりギガントードの方が食べ応えがあって美味しいね。さて……巣穴は、と』


 そう呟き、巣穴から落ちた時と同じ様に生えている樹木の傍から岩山の上を見上げる。うん、神狼の母様が巣穴としていた洞穴が見える。そこへ上るための岩の出っ張りも記憶と同じだから、間違いなく僕の生まれた巣穴だろう。


「キュロロロロロロロロロッ!!」


「わぅっ!?」


 その時、トロルを食べていた時に聞いた鳥の鳴き声が聞こえた。それも、より大きく、より近く、そしてよりハッキリと聞こえてきた。

 声の出処を探して視線を動かせば、どうやら巣穴の辺りから聞こえたみたいだった。


 あの鳥は、あの巣穴を自らの巣としてたのかもしれないね。母様や僕といった神狼がいなければ、あの巣穴は鳥が住むには適してるもんね。


 そう考え、鳥が巣穴から出てくるのを待つ。せっかく巣穴を有効活用してそこに住んでるのに、わざわざ怖がらせて追い出すのも気が引ける。

 それに、今の僕ならば毛皮を取りに行くのもすぐの出来事だ。サッと上って、サッと取って、そしてサッと立ち去ればいい。


 ……なんて思ってた時が僕にもありました。


『嘘でしょ!?』


 巣穴から姿を現したのは大きな鷲……ではなく、僕よりも一回りは大きい巨大なグリフォンだった。


 ちなみにグリフォンとは、巨大な鷲に巨大な獅子の下半身が合わさった魔物である。頭部が白い羽毛に彩られ、体は艶やかな茶色の体毛に覆われた非常に美しくかつ有名な魔物だ。

 特徴と言えば、やはりその大きな翼だろう。その翼を使い、大空を獅子の下半身で駈けるが如くに飛ぶ姿は雄々しく、かつ美しい。ラノベを読んで、僕が是非とも出会いたかった魔物の内の一体でもある。一体目はドラゴンでした!


 それはさておき、グリフォンが姿を現したのはあの鳴き声の直後だった。巣穴の中から鷲が出て来たなぁって思って見ていたら、その大きさにまず驚き、次いで、獅子の下半身がある事に驚いた。

 しかし僕はこう言いたい。グリフォンの鳴き声は『グルルゥ』じゃないのかよ、と。


『鳴き声がグルルゥじゃないッ!!』


 いや、実際に言っていた。それ程に驚いたのだ。

 そんな僕の声に気付いたのか、それとも数日前に僕がトロルを食べてる時には気付いていたのか……いや、気付いていたのだろう。それにあの時、僕がドラゴン平原で感じた匂いはこのグリフォンの物だったのだ。

 もう少しこの可能性を考えておけば良かったと僕は後悔していた。僕の知らない匂いは敵の可能性がある、と。


 後悔する僕をよそに、グリフォンは巣穴から大空へ飛び立つと、岩山の上空を旋回しながらその猛禽類特有の鋭い眼差しで僕をロックオンした。


『──って、のんきに鳴き声の事を言ってる場合じゃない!』


 グリフォンは、大空の王者と言われる強大な魔物だ。いくら僕が神狼とは言え、生半可な気持ちじゃ殺られるのは僕の方だ。それに、僕は飛ぶ為の手段がない。油断せずに色々と考えてそれを実行し、確実にグリフォンを追い詰めないと倒す事は出来ないだろう。


「キュロロロロロロロロロ!」


『だからのんきに考えてって──ヤバッ!?』


 数回岩山の上空を旋回した後、グリフォンは僕目掛けて急降下してきた。その速度は尋常ではなく、一瞬の内に僕の目前まで迫っていた。


『くっ! 何とか木を盾にして避けられたけど、この一年で勘が鈍ってる!』


 間一髪で避ける事は出来たけど、かつて僕の落下を受け止めてくれた樹木がグリフォンの前脚の爪による一撃で粉々になってしまった。恐ろしい威力である。

 しかし、その犠牲を無駄にはしない。戦闘勘が鈍っているけど、グリフォンの攻撃は何とか見えた。どうやらグリフォンはあの鷲の前足による攻撃を主体に戦うらしい。


 樹木を粉々に破壊したグリフォンは再び大空へと飛び上がっていく。バッサバッサと立派な翼を大きく羽ばたかせながらだ。

 いや、翼を羽ばたかせてはいるが、鷲の前足と獅子の下半身を使って大空へと駆け上がっていく様に見える。躍動するその姿に、僕は大空の王者としての貫禄を感じた。


 その大空の王者の貫禄に惚れ惚れとするが、飛び上がっていく今が作戦を練るチャンスだ。このままだと一方的に僕が殺られる。

 ガイアス母様とのこれからの幸せな生活の為にも、こんな所で死ぬ訳にはいかない。


 しかし、空を飛ぶ敵に対して、僕が取れる行動は何だろうか。《スピリット・キメラ》の炎神(カグツチ)は発動に時間が掛かるし、発動出来たとしてもグリフォンのあの速度だ。カグツチの両腕の大剣で斬る事は出来ないだろう。

 となれば、トードやブレードダイルの水の槍……《アクアジャベリン》などが思い浮かぶが、いくら並列思考で戦略を立てたとしてもあっさりと避けられて終わりだろう。いや、むしろ僕が隙を見せてしまうかもしれない。


 だったらどうする? ドラゴンの時の様に打つ手無し、か?


 いや、そんな事はない。あの時だって一生懸命に考えて、機転を利かせてドラゴンを倒す事が出来たんだ。今回のグリフォンだって必ず倒す事が出来るはずだ。


「キュロロロロロロロロロ!!」


 くっ……! もう攻撃してきた!

 とにかく、何とか避けないと!

 咄嗟に発動出来る力は……これだ!


『《雷火(スパーク)》!』


 僕は放電現象を伴う黄色い炎を体に瞬時に纏い、その神速でもって、グリフォンの攻撃をギリギリ回避する事に成功した。だけど、本当にギリギリだった。グリフォンの攻撃が体を掠めた際、自慢の白銀色の体毛が何本か宙に舞っていた。

 それと言うのも、僕が避けている最中もグリフォンは軌道修正を行い、僕へと迫ったのだ。鷲の目を持つグリフォンのさすがの動体視力といった所だ。


 前世のテレビで放送していた猛禽類の特集番組の中で、鷲は狩りをする時には時速数百キロにも達し、その速度の中でも獲物から視線を外さない動体視力を持っていると紹介されていた。

 この世界のグリフォンにもその鷲の特性はしっかりとあるみたいだ。しかも、魔物という事で頭が良いのか、グリフォンは僕の行動を予測してる節もある。


 二回目の攻撃で感触を得たグリフォンは、恐らく次の攻撃で僕を仕留めにくるはずだ。

 ならば、僕はどうすればいい? どうすれば回避出来る?


 ……回避? 回避する、だって?


 思い付いた!

 回避しようとするからダメなんだ。回避しようとするから隙が生まれる。だったら、回避しなければいい。

 回避しない様にするにはどうすればいい?


 ──答えは簡単だ。こうすればいい!


『大空にいるから無敵だと勘違いしてるお前に僕の力を見せてやる! ──《スピリット・ゲイル》!!』


 あの巨大なドラゴンを倒して得た力は、何も体に纏うだけじゃない。しっかりと魂魄魔法としてもその力を得ていた。


 そして僕がこれから放つのは、そう……アレだ。


 アレならば広範囲に渡って放てるからそう簡単には逃げられないはずだ。更には、全てを巻き込む様なあの暴風。大空の王者グリフォンだって間違いなく仕留められるだろう。


『《スピリット・ゲイル》の……《ストームブレス》だぁあああッ!!』


 僕の背後には、自然界の魔力を無尽蔵に使用して発動した、緑色の半透明な巨大なドラゴンの姿が佇んでいた。その視界は僕のものとして、大空を飛ぶグリフォンの姿を既に捉えている。

 僕はゲイルの口を大きく開け、その半透明な巨大な体を構成する魔力の全てをブレスとして解き放った。


 ゲイルの口から吐かれた暴風嵐の息吹(ストームブレス)は渦を巻き、全ての風を吸い込む様に荒れ狂う。そして、全てを破壊する竜巻の形をしたレーザーの様にグリフォンへと瞬時に突き進む。もちろん、巣穴のある岩山には当たらない様に計算して放っている。


「キュロッ!? キュロロロロロロロロロ!」


 ゲイルのストームブレスの範囲から必死に逃れようとするグリフォン。その大きな翼を一生懸命に羽ばたき、下半身の獅子の足も空を駈ける様に動かしながら。

 しかしストームブレスは全てを吸い込み、全てを薙ぎ倒して破壊しながら突き進む暴風だ。しかも、僕が膨大な魔力を注ぎ込み、あの時のドラゴンの物よりもより強力になっている。


 久しぶりに神狼の姿になったからなのか、それとも神狼としての力が成長したのか、僕は自然界の魔力を瞬時にかつ膨大な量を使用する事が出来る様になっていた。

 もしかしたら、グリフォンとの戦闘で死を覚悟したからかもしれない。死を覚悟する時ってのは、大概何かしらが成長する時でもある。


 とにかく、僕はゲイルのストームブレスを放つ事が出来、そしてグリフォンの命は風前の灯火って事だ。


 やがて、全ての魔力を使い切ったゲイルの姿は消えていった。そして大空を見上げれば、グリフォンの姿はどこにも見えなくなっていた。


 ☆☆☆


『やっぱり、大空の王者なんだなぁ、グリフォンって』


 岩山から少し離れた場所でそう呟く僕の前には、その大空の王者が瀕死の状態で横たわっている。ブレスの直撃は免れたものの、グリフォンは上空から地上へと墜落したのだ、無傷でいられる訳がない。それも、岩山の壁面に何度も体を打ち付けながらだ。まだ息の根が止まっていない事がむしろ奇跡である。


 しかし掠った程度とは言え、あのブレスで即死しなかったのだ。大空の王者としての面目は躍如といった所か。

 それでも、その立派だった翼は両方共に失われ、鷲の前足は両方共に千切れている。力強かった獅子の下半身を見れば、その半ばから潰れて無惨なものとなっていた。


 その美しかった体は真っ赤な血の色で染まっていた。


「キュ……キュロ……ッ……!」


 苦しそうに呼吸をし、僕へと救いを求める様な視線を向けるグリフォン。死の苦しみから解放して欲しいのだろう。


『僕を襲わなければこんな事にはならなかったのに……。死して僕の糧となれ……』


 そうグリフォンへと思念を送り、その首筋へと僕は噛み付いた……

お読み下さり、ありがとうございます。

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