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月の華  作者: 桜華
第二章 人間の姿にはなったけれど……
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二歳、という事

 

 ガイアスさんに抱き抱えられ(小脇に抱えられ)、僕はガイアスさんの家と思われる建物の傍へと運ばれた。いくら人間の姿になったとは言え、僕を抱き抱えて走るとはガイアスさんは凄い力だ。実はゴリラなのかと問いたい。いや、巨人になれるんだっけ?


 しかし、この世界は剣や魔法のあるファンタジーな世界だ。普通の人間でも、前世の人間なんかよりも遥かに力が強いのだろう。しかも巨人になれるのならば、当然その力は増すだろうし。


「ここまで来れば、とりあえず安心ね。……しかし、今までワーウルフの事もあって気にならなかったけど、この娘……凄く臭いわね……。それに、抱えてた手が何だかベトベトするわ……。──あ! 手に匂いが染み付いてる!? 体も!? はぁ……。とにかく言葉を教えるにしても、寝るにしても、先ずはお風呂に入れないとダメね……」


 地面に下ろした僕を見つめ、眉を顰めながら何かを喋るガイアスさん。ときおり手の匂いを嗅いでいる。もしかしたら僕の匂いを気に入ったのかもしれない。僕って……フローラルな香りがするからね。

 それにしては僕を見つめるガイアスさんの目が何だか汚い物を見る様な目をしている。不思議だ。


 あ、もしかして……今の僕の容姿は凄く醜いのだろうか? だとすれば、ガイアスさんの反応にも納得がいく。


 しかし、僕の顔がそんなに醜いならば、これから生きていく上で非常に辛い思いをするかもしれない。醜いアヒルの子の様に虐められてしまいそうだ。いや、ノートルダム聖堂に住む怪人の様に、か?


「とにかく、あたしはお風呂の用意をしてくるから、君は少しそこで待っててね。……って言っても分からないか。とにかく待っててね!」


 そう言い残し、苦笑いを浮かべながらガイアスさんは家の中へと入っていった。その際、手の平を僕へと向けていた。


 待て……という事だろうか?


 やはり僕の容姿が醜いから家には入れてくれないという事だろうか。そうだとしたら、なんだか切ない。


 ま、それはともかく、待てと言うならガイアスさんが住んでると思われる家を見ておこう。何事も観察し、あらゆる事態に備える事が生きる上で大事な事だとこの二年間で僕は学んだのだから。


 ……観察するまでもなく、ガイアスさんの家は木造建築の家だった。とは言っても、丸太を組み合わせた様な家である。ログハウスと言えば伝わるだろうか?

 そのログハウスが草原の中にポツンと一軒だけ建っている。うん、巨人になれるガイアスさんの家だけに非常に大きく見える。


 周りを見ると、少し離れた所にぐるっと柵が作られているのが見えていて、ログハウスと柵の間に畑らしきものも見えている。その事から、ガイアスさんはここで自給自足の生活を送ってるみたいだ。


 しかし、こんな草原の真ん中で暮らしていて危なくないのだろうか?

 いくら森からは離れているとは言え、この世界は魔物がいる世界だ。どこに危険な魔物が潜んでいるか分かったものじゃない。巨人だって勝てない様な魔物もいるだろうしね。


 ん? 少し距離はあるけど、離れた所に石を組み上げて作ったと思われる壁が見える。あれはもしかして……ラノベなどで良く出てくる城塞都市というものだろうか。僕は神狼という事もあり夜行性だけど、人間の姿になってもどうやら適応されるみたいだ。暗闇でも良く見える。


 しかしなるほど、もしも危険な魔物に襲われたとしても、あの都市へとすぐに逃げれば助かるという事なのだろう。

 まぁ、例え魔物に襲われても、ガイアスさんならば逃げるよりは戦いそうだし、魔物に敵わないならば逃げればいい。

 体の大きな僕を抱えて走ってもかなりの速度を出せるガイアスさんだ、都市までの距離を魔物から逃げるのなんて簡単な事なんだろう。納得した。


 ガイアスさんの家とその周りの観察はこれくらいにして、次は僕の容姿を見てみるとするか。恐らくは人間の容姿へと変化しているはずだから、どんな顔になっているのか興味が湧く。

 幸いな事(?)にガイアスさんは僕の持ち物一式をこの場に残してくれていた。

 そして、自らの容姿を確認するのに最適な物を僕は持っている。そう、手鏡だ。


『さてさて、人間になった僕の顔はどんな顔なんだろうね』


 ドラゴンローブに(くる)まれていた手鏡を手に取り、そこに映った顔をさっそく見てみる。あれ? この手鏡ってこんなに大きかったっけ? いや、今はそれよりも僕の顔だ。人間になった自分の顔が気になって仕方ない。


『これが僕!? って言うか、僕……子供になってる!?』


 手鏡の中に映った僕の顔は……幼い少女のものだった。

 つまりそれは……ガイアスさんが巨人になれるのではなく、僕が小さくなってしまっているという事を意味していた。


『ガイアスさんが大きく見えた謎は解けたけど、なんで僕が子供になってるの!? 狼とか動物って、二年で大人になるんじゃなかったっけ!?』


 驚きから、次々と疑問の声が出てくる。だけど、僕の言ってる事も分かるだろう。

 前世の世界の動物はそのほとんどが二年で大人になっていた。一部の動物は更に数年プラスして大人になるみたいだったけど、それでも人間みたいに大人になるまで15年から20年も掛かる動物はほぼいなかった。


 それはこの世界でも適応されると思っていた。現に、人狼に変身出来る様になってから二歳になるまでのほとんどを人狼の姿で過ごしていたけど、たまに神狼の姿に戻った時は母様とほぼ同じ5メートル程の体長に成長していたのだから。

 つまり僕も、二歳を迎えた今となっては大人になったという事なのだ。


 それがどうして人間の姿になったら幼女の姿なのか。いくら考えても不思議でならない。


『もしかして……二歳ってそういう事なの!?』


 手鏡を見つめたまま呆然としていたけど、ふいに疑問が解けた。


 動物の二歳は大人だけど、それは動物だけの話であって……僕みたいに神狼から人狼、そして人間へと姿が変わる様な生き物は、もしかしたら人間としての年齢が適応されるのではなかろうか。

 いや、間違いなくそうだと思われる。そうじゃないと、今の僕の姿が幼女……それも二歳くらいの姿である事に説明がつかない。


『はぁ……。それにしてもまさか幼女だなんて……。でも、落ち込んでたって仕方ない、前向きに考えよう』


 何事もポジティブシンキングだ。

 逆に考えれば、幼女であって正解だったのかもしれない。と言うのも、幼女ならば、この世界の事を何も知らなくても問題ないからだ。

 言葉にしても文字にしても、幼女なんだから分からなくて当然。むしろ、幼女という事で何も分からないのだから、人に訊けば色々と教えてくれるはずだ。


 それに、どうやらガイアスさんは僕に言葉を教えてくれようとしてるのかもしれない。だって、自らの名前がガイアスだと懇切丁寧に教えようとしてくれたからね。


『さて、改めて自分の容姿を確認するか』


 自分の姿が幼女だった衝撃の事実から立ち直り、改めて鏡の中の自分を見つめる。

 神狼や人狼の時の白銀色とは違って、髪の色はなんと黒色だった。黒髪のボサボサヘアーだ。

 まぁ、前世が日本人って事もあり黒い髪は見慣れているけど、せっかくの異世界なんだから黒以外の色が良かった。例えば……ピンク色とか。……いや、ないな。


 と言うか、白銀色はどこ行った!?


 人狼の時まで白銀色だったんだから、人間の姿になっても白銀色の髪色が普通だと思うんですけど!?

 人狼の時に黒い毛なんてなかっ、た……あ……いや、額から前頭部に掛けてあったよ、黒い毛。

 そっか、そこの毛が今の髪の毛として残ってるのか。


 何だかやるせない気持ちでいっぱいだけど、何事もポジティブシンキングだ。むしろ人狼の時と色が違うんだから、僕の正体が人狼ってバレないと思えばこれで良かったんだろう。うん、良かった良かった。


『あ、でも、目の色は金色のままだ』


 ……目の色でバレるって事……ないよね?


『目の色はともかく、醜かったらどうしようって思ったけど、案外可愛らしい顔をしてるんじゃないか、僕……!』


 鏡に映る僕の顔。自分で言うのもなんだけど、とても可愛らしい顔をしている。……幼女だからって言う苦情は受け付けない。


 ……こほん。


 さて、続けるとしようか。……やや垂れてはいるが目は大きく、眉は柳眉で美しい。鼻を見てみればツンと少し上向きだけど、むしろそこが幼女っぽくてより可愛らしいのではなかろうか。


『口がこんなに小さくなるなんて不思議な気分だね』


 人狼の時まで耳まで裂ける様に大きかった口だが、今はその面影はどこにもなく、プリっとしていてとても可愛いものになっていた。僕が異性なら、思わず吸い付きたくなる唇だ。……幼女という事を除けば。


『案外可愛らしい顔じゃなくて、これは美少女の分類に入るんじゃない!?』


 黒髪の美少女。……いい響きだ。何となくだけど、眼帯を付けてみたくなった。

 だが、今の僕は全裸である。ならば眼帯の他に、胸や股間、片腕や片足に包帯を巻きたい。


 ……想像したら何だかドキドキしてきた。


「お風呂の用意が出来たから一緒に入るわよ!」

「ひゃうッ!?」


 妄想の世界に浸っていた僕は突然のガイアスさんの声に驚いてしまった。思わず変な声が出てしまったけど、聞かなかった事にして欲しい。あ、僕の声、可愛いや。


「……? どうしたの? 何だか驚いてるみたいだけど……? って、言葉が通じないんだった。しょうがないわね……臭くてベトベトするから抱っこしたくないけど、お風呂に入れないと洗えないし……」


 相変わらず何かを喋っているガイアスさんだけど、嫌そうな顔をして僕を抱っこするのはやめて欲しい。ホントに嫌なら抱っこするのをやめればいいのに。


 そんな事を考えながらも僕はガイアスさんの胸にしがみつき、そのまま家の中へと連れて行かれるのであった。


 ……ガイアスさんの匂いを堪能しながら。

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