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月の華  作者: 桜華
第二章 人間の姿にはなったけれど……
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ツルツル

 

 ……どうやら気を失ってたみたいだ。体が妙に重く感じる。でも、僕はまだ眠っている。微睡んでるって感じだ。


 なんで僕は気を失ったんだろう。

 ふと、その疑問が頭に浮かんだ。そして、記憶を振り返ってみる。


 確か……森を抜けた事に喜びを爆発させて……その後……? そうだ、満月を見上げて、今日は僕の誕生日だったって思い出して……それから……?


 あ……一年前、人狼に変身出来る様になった時以上の痛みを感じたんだっけ。しかし痛かったなぁ、今回は。誤って手首を切り落としちゃった時よりも痛かったよ。


 しかし、どうして僕の誕生日を迎えるごとに痛みが襲って来るんだろう。神狼としての何かがあるのだろうか。


 そう言えば今日の満月……また花の模様が見えた気がした。

 でも、さすが異世界だね。月に花の模様が見えるなんて。凄く綺麗だし、幻想的だし……この世界の月が好きになったよ。


 こんな事を考えてるって事は、そろそろ僕は目が覚めるのかな。


 あれ? 何だかスースーする……? 全身を白銀色の体毛で覆われてるから寒くないはずなのに。

 まぁ、いっか。そんな事より、また眠るにしたって、草原で寝てたら人間に見付かって大変な事になっちゃうから、森に入った所で隠れて寝なくちゃ。


 何だか心地好い眠りから覚めた僕は、スッと瞼を開けた。

 すると、昼間の美人さんが僕の事を見下ろしていた。そして、何かを僕に向かって話し掛けてきた。


「大丈夫? 怖かったね。安心していいよ、もうワーウルフはいないから。君、どこから攫われて来たの? バール村? それともセイル村かな? あ、言葉は分かる? 話せる? 名前は何て言うの?」

「……?」

「ダメかぁ。言葉が分からないみたいね。どうしようかしら……」


 美人さんは何かを僕に聞いてるみたいだけど、人間の言葉が分からない僕には何を喋っているのか分からない。思わず小首を傾げてしまった。

 美人さんの雰囲気から何となく僕の事を心配してるってのは分かるけど、昼間の件があったのに何故僕を心配してるのだろうか。そんな疑問が浮かんでくる。


 しかしその時、僕は凄い違和感を感じた。美人さんが凄く大きく見えたんだ。

 いくら僕が横になってるとは言え、美人さんがこんなに大きく見えるなんて可笑しい。昼間見た時は僕の三分の二程の身長だったはずなのに。

 しかし今は、2・5メートルはある僕の身長よりも大きく見える。もしかして、この世界の人間は巨人になれるんだろうか?

 もしも巨人になれるとしたら、何故あの時逃げる様に走り去ったのだろうか? ……不思議だ。


「それにしてもこの娘、珍しい髪色をしてるわね。黒い髪の毛なんて初めて見たわ。あら? 瞳の色も珍しい色ね。金色なんて凄く神秘的だし綺麗ね。顔もすっごく可愛いし、親が見付かるまであたしが預かって育てようかしら。……なんて、あたしには無理よね。やっぱり孤児院に預かってもらった方がいいかな?」


 横になったままの僕の顔をマジマジと見つめた後、美人さんは何やら両腕を胸の前で組み、首を傾げながらまた何かを喋っている。本来ならば胸が強調される姿勢だけど、美人さんは白の革鎧を身に付けている為、眼福にはならなかった。非常に残念である。


 と言うか、いい加減起き上がるか。いつまでも寝たままというのも気まずいし。

 それに、僕を怖がらないと言うならば、改めて挨拶をしなくちゃね。


「起きても大丈夫? ダメならまだ寝ててもいいのよ? あ、言葉が分からないんだっけ。……しかし、孤児院に預けるにしても名前が分からないのは困った話よねぇ。……こういうのは初めてだけど、まずは言葉を教える所からかしら。言葉を教えて、先ずは話せる様にしなくちゃね。あ! ジェスチャーしながらなら伝わるかしら? あたしの名前はガイアス。ガ・イ・ア・ス! 分かる?」


 起き上がった僕に対し、何かを喋った後に美人さんは自らを指差しながらガイアスとゆっくり発音してくる。何度も自らの胸を指差しガイアスと言うって事は、美人さんの名前はガイアスと言うのかもしれない。


 もしかして……これは言葉が分からない人にするって言うコミニュケーション的なアレだろうか?

 前世のテレビの中で芸能人が外国に行った時、その様な事をしてたのを観た覚えがある。

 だとすれば、僕がこの後にとる行動は僕の名前を告げる事だろう。


 なので、


「よ……や……え……お、く……をなあえぁ……る、う、は……いええ、す……(ぼくのなまえはルウファと言います)」


 と、ガイアスと言う名前と思われる美人さんから聞いた単語の発音を真似て、僕の名前だと思う単語を並べて精一杯伝えてみた。もちろん、自分の胸を指差しながらだ。……果たして伝わっただろうか?


「あたしの名前はガイアスよ? それは伝わったのかしら? でも、今何かを言おうとしたわね、この娘。あ、もしかしたらこの娘も名前を言おうとしてるかもしれない……って、そんな訳ないか……。あぁ、もう! とにかく何回でもあたしの名前を伝えるしかないわね。……あ・た・し・の・な・ま・え・は・ガ・イ・ア・ス! ガ・イ・ア・スよ!」


 うーん、言葉が伝わらないって、こんなにも大変だったんだね。ガイアスさんは僕に対して、何回もガイアスと繰り返してばかりいる。もちろん、自らの胸を指差しながらだ。


 でも、そうなっても仕方ないよね。この世界は異世界なんだから、この世界に住む人間と僕の知っている日本語では通じるはずもない。


 ……ラノベだと言語チートで言葉が通じる所だけど、僕にもそれを適応して欲しかった。


 そんな文句を言ってもどうにもならないし、とにかく一生懸命言葉を覚えるしかないよね。


 あれ? そう言えば、なんで僕はガイアスさんと同じ様な言葉を発音出来るのだろうか?

 神狼の時はともかく、人狼の時も僕は犬が吠える様な声しか発音出来なかった。狼の顔の形状や口内の仕組みが言葉を発するのに適さない為それは仕方ないけど、それなのに今は、たどたどしいけどガイアスって名前の美人さんと同じような発音が出来ている。


 ……と言うか、僕が神狼から人狼になった時と同じかそれ以上の痛みを感じた今回、もしかしたらあの時と同じように僕の体が変化してるかもしれない。


 ガイアスさんは未だに僕に対してジェスチャーを交えて一生懸命に喋りかけてくるけど、それよりも僕は自らの体に起こってるであろう変化へと意識が持っていかれた。


 簡単に確認出来るのは目に見える範囲……つまり手や足、それにお腹などだ。僕は自らの体で見える範囲を顔を下に向け確認した。


「あぅあのらぁあ!? (なんじゃこりゃー!?)」


 思わず、舌足らずの様に叫んでしまったがご容赦願いたい。それ程に僕は驚いていた。

 何故ならば、僕の体にびっしりと生えていた美しい白銀色の体毛がなくなっていたのだ。

 それはもう、ツルツル。どこもかしこもツルツルだ。目で見える範囲の全てがツルツルだった。まるで、湯上り玉子肌と言わんばかりに全身の体毛がないのだ。おかげで、股間の小さなクレバスも丸見えだ。……少し、恥ずかしい。


「ど、どうしたの!? 自分の体を見て叫んだけど!? ──って、叫んだらアイツが戻って来ちゃうわよ! こうしちゃいられない……とにかくこの娘を連れてこの場を離れないと! ……あぁ! これも持ってかないと! この娘の匂いが染み付いてるかもしれないし、ここに残してくとワーウルフがコレの匂いを嗅いで追って来る可能性があるものね……!」


 自分の体の変化に驚き、思わず固まってしまった僕を抱き抱えてガイアスさんは走り出した。その際、僕が持っていた手鏡やドラゴンローブなどの一式もガイアスさんは持っていってくれた。

 ドラゴンローブなども僕と一緒に運んでくれるのは非常に助かるけど、それよりも僕はガイアスさんに運ばれてる途中、自らの体に起こった変化の事を考えていた。


 もしかして、僕は人間の姿に変化出来る様になったのだろうか。と言うか、それしか考えられない。

 そう考えると、このガイアスさんって美人さんが僕を怖がらない事にも納得がいく。

 つまり、僕は人間の中で普通に生活が出来るという事だ。


 これは、むしろラッキーな出来事ではなかろうか。


 人狼の姿で王侯貴族に飼ってもらおうと考えていたけど、それはどう考えても無理だと思う。誰が好き好んで人狼なんて魔物を飼うだろうか?

 答えは否だ。誰も飼わないだろう。それが例え言う事をよく聞いて人間を襲わないにしても、だ。


 いくら大人しい犬でも、何かの拍子に飼い主を噛む事がある。それを魔物に当て嵌めると、犬よりも遥かに命の危険があるだろう。

 つまり、今までの僕の人狼の姿では、どう頑張っても人間の社会に受け入れてもらえなかったという事だ。

 ともあれ、恐らくだけど僕の姿は人間となったのだ。この事を受け入れてこれからを生きるしかないだろう。


 僕はガイアスさんに抱えられ、ガイアスさんが走っているおかげで上下に激しく揺られながらも、これからの事に思いを馳せるのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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