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月の華  作者: 桜華
第一章 生きていく為に!
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成長

 

 初めてホーンラビットを仕留めて食べてから、今日で一ヶ月が経った。

 今では僕の体の大きさも60センチ前後(感覚でだけど)となり、モフモフでモコモコのまん丸だった見た目も、幾らかは狼特有のシュッとしたシルエットになっている。自分で言うのもアレだけど、かなりカッコ良くなったのではなかろうか。


 そうそう、角の生えた兎の魂を十体以上吸収した事で力を得ると共に、兎の名前がホーンラビットである事も分かった。やはり一定量の魂を吸収する事が条件らしい。

 吸収すればするだけ知識も増えて強くなれるのならば、これからも新たな獲物を見付けたらジャンジャン吸収したい所存である。


 という事で、人間に過保護に飼われるというささやかな夢の為の旅は今の所順調である。……人間がこの世界にいる事を前提に話を進めているけど……人間、いるよね?


 ちなみにホーンラビットから得た力はやはり土属性で、主に身体強化に特化した力だった。それは純粋に筋力を上げるものから、体の強度……硬度と言えるかな? とにかく体を強化する力である。

 もっと多くの土属性の魂を吸収すれば能力も成長して、もしかしたら新たな力に目覚めるかもしれないけど、今の所はそんな感じだ。


 魂魄魔法の方についてはお察しの通り《スピリット・ラビット》を使役出来るようになっている。大きさはやはり1メートル程だ。

 このラビット、力がとても強くそして硬く、とにかく物理的方面で非常に役に立っている。

 例えば木を薙ぎ倒してそれを組み合わせ、家と呼ぶには少し烏滸(おこ)がましいけれど、眠ってる最中外敵から身を守る為の仮の寝床を作る事だったり、先へ進む道を塞ぐ大きな岩を破壊して退かしたりと、とにかく大助かりなのだ。


『見た目は可愛らしい兎なのに、こんなに役立つんだから見掛けにはよらないよね!』


 ちょっとした谷をラビットを使って木を倒して橋を架け、それを渡りながらの僕の言葉である。

 文句を言うのであれば、半透明体の色が土属性そのものといった赤茶色という事だろうか。一見すると、まるでハダカデバネズミの様に見えるのだ。

 ハダカデバネズミに文句を言うつもりは無い。アレはアレで可愛らしさがあるのだから。

 だけど想像してみて欲しい。兎なのに、ハダカデバネズミみたいに毛が生えてない様に見えるのだ。よく見れば毛が生えてる様には見えるけれど、初めて使役した時は目を逸らした程だった。


 慣れた今となってはとても可愛く見えるし、実際可愛い。……親バカ的発言だろうか?


 それはともかく、とにかく僕は成長していた。特に成長著しいのは魔力の分野だろう。

 一ヶ月前では体内魔力に頼るばかりだった魂魄魔法も、今では自然界に漂う魔力を使用する事で無限の魔力を実現しているし、素の身体能力においてもギガントードくらいであれば楽勝出来る程になっている。


 かつてはハードモードだと嘆いたものだけど、もしかしたらイージーモードなのかもしれない。

 何度か死にそうにはなったけど、その度に母様が助けてくれたし、その上神狼としての能力である。

 獲物を狩ってその魂を吸収して力に変えるなんて、どんなチート能力だよって自分でも思ってしまう。

 それに、メスだと言っても神狼とは言え獣なので、今ではそれ程悲観してはいない。メスとしてのこの体に慣れたとも言うけど。


『随分と木の種類が変わってきたけど、結構森の出口に近付いてるのかな?』


 その辺にある木を見ながら歩き、それを実感する。森林という事は変わらないけど、木の種類が明らかに違ってきていた。

 母様の巣穴があった岩山付近では針葉樹が多かった。だけどこの辺りでは広葉樹の割合が増えているのだ。

 出口が近いかもしれないという期待に、僕の尻尾も反応するというものである。


「キキィッ!」


 やっと現れてくれたよ。

 実は、昨日から何も食べていなかったのだ。栄養バランスを考えて食べられそうな草は食べていたけど、やっぱり僕は狼……基本は肉食だ。


『声が樹上から聞こえるって事は、もしかして猿の魔物かな? 鳴き声もなんだか猿っぽいし』


 声の方向、鳴き声で猿の魔物と判断する。十中八九、間違ってはいないはずだ。

 僕の予想の答え合わせをする様に、ソイツは樹上から僕の目の前へと舞い降りてきた。


 それは、正に、猿。


「グルルルル……! ワォオオオオンッ!!」


 僕は唸り声を発し、次いで威嚇の吠え声をあげる。軽く前傾姿勢を取り、速やかに戦闘態勢を取る事も忘れない。

 この一ヶ月で、油断をしないという事にも僕は成長していた。


 油断大敵、よく出来た言葉だと思う。

 例え相手が一撃で軽く潰れてしまう様なとても小さな虫でも、油断すれば命に関わるダメージを負いかねない。一度刺されれば、たちまち死んでしまう様な毒を持っていたりする事もあるのだ。その言葉を考えた前世の偉人に感謝したいと思う。


 おっと、いけない。余計な事を考える事が油断に繋がるのだ。気持ちを引き締め、僕は戦闘態勢を取りながら、油断せずに猿の魔物を観察していく。


 見た目は、某戦闘民族が変身した姿に似ている。違う点を挙げるならば、両側頭部から二本の角が生えてる事だろうか。その角の形状は短角牛の角の様である。

 体毛の色はくすんだ赤色をしており、その事から予想される属性は炎属性だろう。体長は1・5メートルといった所か。


「キキィ! ウキャアアアアッ!!」


 猿を観察して属性を予想していると、予想通りに猿は体に炎を纏った。体毛という体毛が炎へと変わり、触れればそれだけで大ダメージを喰らうだろう。


 だけど、


『予想通り! それ以上でも以下でもないね。《スピリット・トード》!』


 炎の猿が行動を起こす前に僕から仕掛ける。トードを作り出し、水球を放たせると同時に後ろへと下がり、次いで──


『《スピリット・ラビット》!』


 ──ラビットを作り出し、体の強度と硬度を上げて吶喊させた。


「ウッキャ……ブギャ!? ウッキィイイイ!」


 さすが炎の猿という事はあり、手足に纏う炎を使ってトードの水球を上手くいなしている。だけど、それまでだ。大きく迂回させる様に移動させたラビットを、無防備な炎の猿の脇腹へと打ち当てる。ラビットの額の一本角を使った体当たりだ。

 効果は抜群で、脇腹に角によるダメージを与えた事で体勢を崩させる事に成功した。そこへ、トドメとなるトードの水球だ。連弾で放たれた水球が炎の猿の頭へと当たり、体に纏った炎を消すと共にその命の炎をも消した。ちなみに、炎の猿の角はトードの水球では折れなかった。少し、残念。


『群れで襲われたらヤバかったけど、単体だったから楽勝だね。さてと、鮮度が落ちない内にいただくとしますかね』


 改めて猿を見ると、体に纏っていた炎で体毛は焼けないみたいだ。しかし、こうも思う。あの炎で体毛が焼けていてくれれば、食べる時に毛がなくて楽だろうし、焼ける事で肉が美味しくなったのに、と。

 そんな愚痴を言っても仕方ないので、いつも通りにお腹周りから食べ始めた。


『魂の色は……やっぱり赤色だったね。それはともかく、猿の脳ミソって美味しいのかな? 前世だと、どこかの国では高級珍味として食べられてたみたいだけど、この世界でもやっぱりそうなのかな? ま、いいか』


 体をあらかた食べ終わり、トードの水球によって半分見えている脳を前にそう呟く。

 今まで蛙やら兎やらの内臓を普通に食べていたのに、脳ミソを見た途端、少し躊躇ってしまった。

 内臓などは前世においても図鑑や蛙の解剖実験の授業で見ていたし、焼肉でホルモンなどを食べていたので何とも思わなかったけど、猿みたいに大きな脳というのは()()ものがある。


 しかし、食べ物をいただくという事は命をいただくという事。見た目がグロテスクと言って忌避感を持ってはこの猿も浮かばれないだろう。……魂は吸収してしまったけれど。


『先ずは、少しだけ……。ッ!? な、何この食感! ムニュッとしているけど、それよりも濃厚な旨みが口いっぱいに広がってくる! 例えるならば、ウニと白子の良いとこ取りだよ!』


 アクアトードの時と同様、気付けば完食していた。脳ミソを食べた事で、幾分かは頭も良くなった気がする。……気のせいだとの指摘はあえて無視させていただく。


『ほうれん草は見た目と違って凄く苦かったけど、猿の脳ミソも見た目と違って凄く美味しかった。何でも食べてみないと分からないもんだね!』


 前世ではピーマンが嫌いで仕方なかったけれど、もしかしたらピーマンも凄く美味しかったのかな?

 だとしたら、前世の母さんが作ってくれたピーマンの料理、ちゃんと食べれば良かったな。

 今となっては、前世の母さんのピーマン料理を食べる事は出来ないけれど、それを思い出して、僕は少しだけ感傷的な気分になってしまった。

お読み下さり、ありがとうございます。


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