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月の華  作者: 桜華
第一章 生きていく為に!
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角の生えた兎

 

 ギガントードを倒した明くる日、僕は朝から魂魄魔法の訓練を行っていた。


『《スピリット・ウルフ》! 《スピリット・トード》!』


 魔法名を唱えて、半透明に光る狼と蛙を作り出す。大きさはそれぞれ、2メートルと1メートルだ。

 ちなみに狼が2メートルで、蛙が1メートルである。


『母様のおかげで昼間も使える様になったけど、いくら魔力を込めてもこの大きさまでか……!』


 色々と試した結果、大きさは今言った通りだけど、それぞれの身体能力は狼の方が僕と比べて5倍、蛙は2倍程度だった。魔法的な威力で言えばウルフが2倍でトードが5倍である。


『無いよりはマシだけどウルフの回復力は微々たる物だし、魂魄体から放つ魔法の威力自体はトードの方が強力だね。……ウルフの能力が《フェンリル》に成長すれば攻撃力はダントツだろうけど』


 魂魄体が放つ魔法として言えば、ウルフは回復能力で、トードは水の砲弾だった。これも、これからの要訓練と言った所だろうね。


 だけど、これは昼間でのお話。夜になれば、やはりそれぞれ威力が跳ね上がる。

 ウルフは《フェンリル》を数秒だけ使える様になるし、トードは《アクアアロー》、《アクアジャベリン》、《アクアキャノン》などの強力な水属性の遠距離魔法を放てるのだ。

 そう考えると、あの時のギガントードはやはり僕を侮っていたんだろう。水球以外を使わなかったのがその証だ。

 ちなみに《フェンリル》とは、母様には全然及ばないけど、雷属性と炎属性を融合させた形態である。それでも今の僕にとっては強力な事には変わりない。


『結局昨日は食べ損ねちゃったし、今日はしっかりと獲物を狩らなくちゃね。さて! 出発だ!』


 僕はほうれん草の寝床に別れを告げ、魔力を体内と体表に循環させる訓練をしながら、尻尾を振りつつ意気揚々と歩き出した。


『あの時は勝てる気がしなかったけど、今なら勝てる! 《スピリット・トード》!』


 小一時間程歩いた先、僕はソイツを見付けた。額から20センチの鋭い角を生やした、例の兎である。

 先手必勝とばかりに体長1メートルの半透明の蛙を作り出し、立て続けに直径50センチの水球──《アクアボール》を放つ。トードを作り出す為に込めた魔力はそれ程多くはないけど、連続して当たれば木の幹さえも破壊出来る威力だ。


「キュッ!?」


 角が生えてる所はともかく、その可愛らしい外見通りの鳴き声を上げて驚く兎。だけど、さすがに魔物な兎なだけはあり、すぐさまトードの放った水球に対し回避行動に移る。一発目の水球は呆気なく避けられてしまった。


『一発だけとは限らないよ!』


 角の生えた兎の移動に合わせ、二発目、三発目と水球を放っていく。その間に、僕は角の生えた兎の死角を突くべく移動する。

 トードの視界を共有してるからこその戦法だ。


 ちなみに、ウルフもトードも、僕自身の体も同時に動かす事が出来る。これは神狼としての能力なのか、それとも転生者としての僕の魂の能力なのか、どうやら並列思考を使えるみたいだ。

 二体でも三体でも同時に異なる行動を取らせる事が出来る上に、視界も共有している為、僕だけで連携攻撃をこなす事が出来るのだ。

 ここまで言うと以前から出来た様に聞こえるだろうが、並列思考に気付いたのは今朝である。……てへっ。


「キュッ……! キュッ!!」


 並列思考云々はともかく、角の生えた兎が三発目の水球を回避した瞬間に合わせ、僕は兎の死角から首筋を狙って噛み付く。

 しかし兎は、その瞬間を見計らったかの様に瞬時に回避してみせた。まるで、身体強化の魔法を使ったみたいに。いや、間違いなく身体強化の魔法を使っているのだろう。それを示す様に、兎の体は淡い魔力の光に包まれている。


 僕の噛み付き攻撃を回避した兎はその足で、すかさず僕へと狙いを定め、鋭い角を以て突撃してきた。


『え!? ぐああああ!!』


 次の瞬間、兎の角の一撃は見事に僕の右肩へと突き刺さっていた。油断はしてないつもりだったけど、僕は神狼だという事でやはり油断してたのだろう。神狼なんだから兎くらい簡単に勝てるだろう、と。


「キュッ!」


 俺様に勝てる訳ないだろうって言ってるのか、兎は一声鳴き、頭を振って角に刺さった僕を投げ飛ばした。

 体長1メートルの兎の力は身体強化の魔法も相まってとても強く、僕の体は5メートルも飛ばされてしまった。


『ぼ、僕にばっかり気を取られていると痛い目を見るよ……!』


 そう呟きながら辛うじて立ち上がったけど、正直言ってやはり辛い。出来ればこのまま寝ていたい気分だ。

 そんな、右肩を負傷して動けない僕にトドメを刺すべく、兎はのっそりと近寄ってくる。

 本来ならば、このまま兎の勝ちだろう。だけど、僕のトードはまだ消えてはいない。

 僕に気を取られて隙だらけの兎へ向けて、僕はトードから最後となる五発目の水球を放った。込めた魔力が尽きたトードはそのまま消えていく。


「キュッ……キュウゥ……ゥ……ゥ……」


 狙い違わず、水球は兎の頭部に着弾し、頭骨をへし折り、その脳を破壊した。

 トードの水球はやはりかなりの威力だ。間違っても自分で喰らわない様にしよう。水球によって頭が半分にまで凹んだ兎を見て、僕は固く心に誓った。


『《スピリット・ウルフ》!』


 角の生えた兎が死んだのを確認した後、僕はウルフを作り出し、その回復能力によって傷を回復させる。右肩を深く突き刺された為か、ウルフの微々たる回復力では治るまでに小一時間程を費やす結果となった。


『はぁ……。まだまだだなぁ、僕も。もっと成長しなきゃね』


 昨日のギガントード戦から比べれば格段の成長だとは思うけど、母様の凄まじい力を見た後だからまるで成長出来てる気がしない。……心のどこかで、実は僕がメスだったっていう精神的ダメージがあるかもしれないけど。


『とにかく、訓練あるのみだね! さて、傷も治ったし、さっそく兎を食べてみよう!』


 兎を食べる為に近付く。一応念の為、辺りの気配を窺うのも忘れずに行う。

 大自然が織り成す食物連鎖が常のこの森林で、ハイエナと同じ行動を起こす生き物や魔物がいる事だって有り得るからだ。

 右肩を穿かれるという大怪我を負ってまで仕留めたのだから、横から掻っ攫われるのは頭に来る。


 気配を探った結果、どうやら獲物を横取りする様な不届き者はいないみたいだ。


『やっぱり、脂の乗ってそうなお腹が一番美味しそうだよね。──いただきます!』


 この兎が鼠を食べていた時の事が頭に過ぎるけど、前世においても、肉でも魚でもお腹周りは脂が乗っていてとても美味しかった記憶がある。

 ならば、やはり一番美味しい所から食べるのが礼儀だろう。……まぁ、美味しい所は最後に取っておくって人もいるかもしれないけど、僕は美味しい所は最初に食べる派だったのだ。


 ともあれ、兎の柔らかそうなお腹へと齧り付き、その毛皮ごと口へと頬張った。


『すっごく美味しい! 毛皮付近はちょっと臭みを感じるけど、脂は上品な感じで程よく乗ってるし、肉自体は味が濃い! 血が固まってないからこそのコクを感じる! アクアトードも美味しかったけど、やっぱり肉らしい肉質の兎の方が何倍も美味しいや!』


 一口食べての感想である。

 その後は言わずもがな、噛み砕けなかった大きな骨と余計な毛皮以外、一日を掛けて完食しました!


 あ、兎の心臓付近を食べ進めていた時、アクアトードの時と同じ水色では無いけれど、茶色く淡い光が兎の体から浮かび上がり、その後僕の体へと吸収された。


 母様が示した行動や教えてくれた事で理解したけど、やっぱりこれらの光は魂なのだろう。そして魂と呼ぶべき光に色が付いてるのは、恐らくその生き物や魔物の属性を表していると思われる。

 アクアトードやギガントードの魂の色は水色でその力を得て放つ《スピリット・トード》は水属性なのだから、この兎の茶色い魂は土属性を表してるんだろう。

 この先その辺りについての検証が必要かもしれないけれど、僕のこの考察はほぼ正解で間違いないだろうね。


 ただし、兎の土属性の力を僕が得るまでには、少なくとも後十体の兎の魂を吸収する必要があるだろう。ギガントードの様なボスクラスの兎がいるならば、その一体を倒して吸収すれば済むかもしれないけど。


 とりあえず兎を獲物として狩る事が出来たんだから、この先も油断せずにしっかりと先を目指して進んで行こう。

 千里の道も一歩から、と心で呟き、僕は兎の後味の余韻に浸りながら心地好い眠りに就くのだった。

お読み下さり、ありがとうございます。


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