episode1ー不快感
お待たせしました
「わたしは琴音、楪琴音だよ!」
効果音でも付きそうな自己紹介をくれたその女子生徒はそのまま暫く止まっていた、何を求めているのか分かりつつもやる気の無い拍手を送る。
「おおすごいすごい、で満足したなら帰れ、そしてここで起きたことを全て忘れろ」
「あっ酷い!今のは絶対君も自己紹介する流れだったよね!わたし帰らないからね!」
「はぁ…じゃあどっちかだ、俺の名前を聞いて帰るか、黙って大人しく座っているか、こっちは申請時間着々と浪費してんだこれ以上付き合えないぞ」
「う、ぅうぅ~」
そのまま乗ってくれたりしないだろうかと淡い期待すら打ち砕かれ面倒になってきたので取り敢えず練習を再開させにかかる、正直なところ教えてやっても良いことは良いのだが要求を全て呑む限りこいつ…楪琴音は調子に乗り続けるだろう。
拗ねたような顔で教室に置いてあった椅子に座るのを横目に見ると俺はまた弦に指を走らせ始めた。
◆◇◆◇◆◇
どれほど弾いていただろうか、ふと思い付いたメロディーを固めていたりしたら結構な時間が経ってしまったような気がする、時計を見ようと視線を巡らせ、視界に入ったものに茫然とした。
「なんでいる、楪琴音」
「え?やだなぁ君が居ても良いって言ったんじゃん、あははもう、忘れっぽいんだなぁ」
俺の質問に朗らかに答える楪琴音、その軽い態度が彼女とぶれて見えて酷く不快な気持ちになる、こうなってしまってはもう駄目だ、全てが不快な気持ちで満たされて強く当たってしまう。
「ちっそうかよ、もう帰るから、お前も帰れ」
「へっ、どうしたの?まだ下校時刻まであるけど」
「うるさい、俺が帰ると決めたんだからどうでも良いだろう、放っておけ」
荒々しく相棒をケースに戻し機材を片付ける、髪を纏めていたゴムを乱雑に取り、財布の中にしまった。
「待ってよ、理由くらい教えてくれても良いじゃん、ケチ!」
何か言っていても全て無視する、何も聞きたくない、今他人の存在なんて知覚したくない、さっさと消えてほしい。
「ん、んんん~?その髪下ろした格好、なーんか見たことあるなって思ったんだ、思い出した!君2-cだよね!確か……ネクロ君!」
「俺はそんな名前じゃないし、さっさと帰れと言ったはずだ」
語気が強くなっていくのを感じる、ただそれでも…やめる気にはなれなかった。
教室から出てきた事を確認次第鍵を閉める、早足で下足箱へ向かい、そのまま家へ帰る。
「ねぇ待ってよ、話したいことが出来たんだけど!ねぇ!」
聞こえて来る声には耳を塞いで
今夜はこれだけ