世界への別れ?
朝から賑わうこの店は、大体店が開く午前7時から1時間くらい賑わった後、すっと客足が減る。その後はチラホラ客が来る程度で、朝のように店がガヤガヤしている感じではなく、シーンと静まりかえっているような感じになる。だがまた午後5時頃になると賑わい始め、その後4時間程賑わうと午後9時に閉店となる。
午前8時から午後5時の間は、皆それぞれの仕事に励む時間帯。だから店に来る人は減るし、隼も学校に行ってしまう(一応私は17歳ではあるが、学校には行っていません)。
ちょうど今の時間は1人で店内の整理をする時間。のほほーんとゆっくりと商品の補充をしたり、点検をしたりするのだ。朝の賑わいがあると、その後商品棚がスッカラカンだったこともあるからな。
売り切れが多いのはやはりグリモワール。葉月魔法店では有名な魔法師が弟子のために書いたとされるグリモワールや、遠い昔に使われていたグリモワール等の、沢山の種類のグリモワールを取り扱っており、それらのグリモワールの複製を作って売っているのだ。そうすれば後世に受け継いでいくことも出来るだろうという考えだ。
グリモワールは使い方を間違えれば大変な事態になることもある物。
現在のグリモワールには既に魔法が記されている物と、一文字も書かれていない物がある。
既に魔法が記されている物は、その魔法を参考にして新しい魔法を作ったり、その魔法を研究したり出来る。この場合だと、誰もが一定のレベルに到達していれば出来る魔法である。
だが、一文字も書かれていない物の場合だと、そのグリモワールは「自分専用のグリモワール」となるのだ。だから、自分のレベルや心の状態に合わせて新しい魔法がどんどんと出来て行く。だけど、それを他人が使うとその魔法は制御できず、大惨事を起こしかねない。
他人のグリモワールを使い、惨事を起こすという事件は最近増加傾向にあり、ウチのようなグリモワールを扱う店では、白紙のグリモワールを購入するお客さんに一言、「このグリモワールは貴方の物です」と言って、そのグリモワールに持ち主にしか扱うことの出来ないように「鍵」を掛けることになっている。
それでも増えるのはまだ鍵のかかっていないグリモワールがあるからだろう。だから、国は自分専用のグリモワールを持つ国民全てに早急に近くの魔法店で鍵を掛けるように言って貰いたい所だ。
「……あれ?3ペンとインクの在庫切れてる」
この繰り返し世界で使われている筆記用具は万年筆か羽ペンか鉛筆。この3つしかないので、万年筆・羽ペン・鉛筆を合わせて「3ペン」と呼んでいるのだ。
3ペンは様々な人が買うため、消費が激しい。だから在庫はいつも多めに蓄えておいたはずなのだが、ついに切れてしまったか。
切れてしまったとなると、勿論買いに行くしかないので、私はカウンターで「店主は現在出掛けています」と紙に書いてレジに置く。
そして、財布をバッグに入れて店を出た。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お、いらっしゃい!葉月魔法店のお姫様!!」
店の奥の方でニカッ!と笑顔を浮かべる厳つい男性。それに続いて、この店にいる人達も「こんちわ~」と緩い挨拶をしてくれる。
3ペンとペン用のインクを買うために街に出た私が、何故このような厳つい男性が店主の店に入っているかと言うと______
「急に呼んで悪かったな~。どうしても会いたいってヤツが来てよ?」
そう、このマスターにお呼ばれしたのだ。
この店は年季の入った居酒屋で、毎日無事成人となった大人の男性達が集まり、お酒を呑んでいる。基本的に未成年お断りの店だが、私はここでバイトをしていたという経験もあるので、特別に入れて貰っているのだ。
私はこの店の唯一のアルコール分が入っていない飲み物であるジンジャーエールを頼むと、店主に案内されて、「どうしても会いたいってヤツ」が座る席へと導かれる。
さて、「どうしても会いたいってヤツ」について考えるとしよう。
「どうしても会いたい」というくらいなら、きっと1度は会ったことがあるだろう。それに、マスターが怪しいと疑い、追い返すことをしないのだからな。
だが1度は会ったことがあり、この店に来て「どうしても」と言うのだから、きっとその人はウチの客ではない。違うところで面識がある人だ。
「ほら、アイツだよ」
マスターは立ち止まり、1つの方向を指さす。そこには上だけフレームが無い眼鏡を掛けた、結構なイケメンが居た。
真っ白な髪は一本一本が細く、外からの光を受けて金色に輝いている。前髪の奥から眼鏡のレンズ越しに見える瞳の色は、透き通ったルビーのような感じ。足を組むことなく静かに本を読んで待つ姿はどこかで見たような気がして不思議な感じがした。
マスターの後ろを追ってその人が居るテーブルに着くと、マスターは「頑張れよっ」と言い残して去って行った。案内してくれたのは嬉しいのだが、最後のは何なのだろう。
「………あの」
こういう恐らく初対面ではない場面では最初が肝心なのだ。最初次第でそれ以降が変わってしまうから。
やり直しが効くこの世界だが、私は前のリセットでもその前のリセットでもこの人に会ったことがない。だから、一時的に迷い込んでしまっただけの可能性もある。そうすると、次のリセットの時に必ず会えるという訳では無くなってしまう。
つまりこれは、久しぶりの「ONE CHANCE」到来。
本から顔を上げた男性は暫くこちらをジッと見つめ、やがて口を開く。
「オマエ、葉月宙だよな?」
絶句。こんな格好いいイケメンが、多分初対面の相手をいきなり「お前」呼びかよ。というか、何故私の名前を知っているのだろう。
そこまで考えると、ある考えがポッと頭の中に浮かぶ。きっと私がどこかで見たことがあると思ったのも、この口調もきっと、きっと______
「私に死刑を宣告した刑務官!?」
______のアルビノ君。
本名は「如月白露」。見た目がアルビノ種のようなので、あだ名は「アルビノ君」。この世界に来る前に私に死刑を宣告した刑務官だ。
「声が大きい。少し黙れ」
基本的に無口な人で、表情もとても硬い。口を開けば冷たい言葉ばかり言うコイツ、私は嫌いだ。だけどコイツの仲間は口数の少ないコイツでも仲良くしているという。その意図は全くと言って良いほどわからない。わからないから知りたいと思う。
「オマエ、本当に葉月宙か?」
「失礼な!」と言い返したいところだが、言い返したところで意味が無い。言い返したってきっとそれが続くだけだから。
言葉を喉の辺りでグッと抑えて俯く。代わりに、口パクで「どの世界へ来てもキャラがぶれないね、アンタ」と言う。
「………俺の知っている葉月宙は、もっと刺があるヤツだった気がする」
今度こそ言い返しそうになったが、もう言い返す気も失せた。早く帰らないと隼に怒られるし、何よりコイツと一緒に居たくない。
そしてガタッと椅子を引いて立ち上がろうとすると、その前に白露は私の腕を掴んだ。決して強く力を入れているわけでは無いが、何故か痛みを感じた。
「………離して。アンタの知ってる『葉月宙』なんて、もうとっくに死んだ筈でしょう」
死刑が執行されたとすると、もう私の肉体は墓の中か、何処かに棄てられている。つまり、私はずっとこの世界に居るしか無いということ。
それを覚悟してこの世界に来たのだ。別にずっとこの世界に囚われようが関係ない。
「いいや、まだ生きている」
「は………?」
殺されても生きている?私は不死存在なのだろうか。否、そんなわけがない。となると、私は死刑を受けていないことになるな。まぁ、その理由は分かっている。
私はこの世界に入る前にも殺人を犯した。なので、その件の裁判もする必要があるのだ。裁判を受ける身が裁判に姿を見せないなら裁判も出来ないため、つまり死刑は延期にされる。これが私が死刑を受けていないことになる理由。
「オマエは罪を犯していなければ世界から称えられる程の事をした。だから、早く現実に戻れ」
周りの音がスッと引いていき、やがて何の音も聞こえなくなる。
視界も真っ白に染まり、その真っ白な空間に、私と白露だけが居る。
いきなり訪れる選択は今までで1番最悪な物だった。