星城学園入学編1
サマーポケッツ買ったので初投稿です
「桃花、まだ怒ってんのか?」
「怒ってないよ」
そう言ってるが顔はいかにも怒ってますよって顔だ。
登校途中になっても桃花の態度は変わらない。ならばやることはひとつだ。
後ろから肩を叩き人差し指を立てる。その向きは当然振り返る頬めがけてだ。
しかし桃花はそれを読んでいたかのように反対側に振り向きカウンターと言わんばかりに俺の頬を突いてきた。
「ふーんだ、私に仕掛けるなんて千光年早いよ?」
「その言葉、意味分かって言ってんのか?」
「うん、光が千年進んだ距離でしょ?」
意外にも桃花の答えはあっていた。しかし千光年などというのは途方も無い距離だ。
しかし天の河の厚さ程の距離程離れていても俺は諦めなかった。
「成る程大正解だ、おめでとう」
そう褒めつつ頭を撫でてやる。
今度は髪型が崩れないよう優しくだ。
「むぅ、こんなんで・・・エヘヘ」
褒められて少し嬉しそうな顔を浮かべる、チョロいな。
俺にとって千光年など大した距離ではなかった。
そしてこの学園との距離も・・・
「とうちゃーく」
学園正門前には既に五、六十は下らない新入生がクラス分けを一喜一憂していた。
俺達はクラスを確認するまでもなく自分のクラス、1-4に向かう。
「起きろよ先生、もう朝だぞ」
真田先生は1-4の担任である事を事前に知っており、クラス分けの際融通を利かせてくれたのも先生だ。
俺の熱い要望で桃花とは同じクラスにしてもらった。
理由は監視兼見守りだ。ほっとくと何しでかすか分からないからな。
「ん・・・おう時之か」
「「おう」じゃないよ。もう朝だよ、みっともないとこ身内以外に見せんなよ」
幸い今の教室には俺と桃花、先生の三人しかいなかった。教室左奥の小さな事務テーブルにうつ伏せに寝ていた先生を叩き起こす。
昨日焼肉屋で騒いだ後ここで寝ていたようでテーブルにはノンアルコールビールが置かれてある。アルコールは自重したあたり最低限の配慮はこの人にもあるようだ。
世間的という言葉は俺には似合わないかもしれないがこの光景は十分アウトだと思い片付けに入る。
「やれやれ、どうして俺がこんな事を・・・」
身内の尻拭いという面倒な事をしている今の俺は他人にどう映るのだろう。
先生と俺達との関係は基本的に公表されてない。つまりは生徒が先生のビールを片付けるという異常な状態というわけだ。
そんな異常な光景を壁際で片目で覗いている人物がいた。
「所でそこで見ている方、何か用ですか?」
俺が声をかけると彼?は余計に隠れてしまった。何故だ?
そんな様子を見かねて桃花がテクテクと歩いていく。そして隠れてた青年を強引に連れてきた。
「あ、あああああの!本日はお日柄もよくいいお天気で・・・
「ええ、絶好の入学式日和ですね」
って違う違う、何かがおかしい。
「俺に何か用でしたか?」
「あ、あの僕今日から同じクラスになる江橋です。僕ファンです!あ、あのサイン下さい!」
「え?」
サイン?サインと言うと芸能人や有名人がするあのサインか?そのような活動をした覚えはないし憧れるような事もした覚えはない。
「失礼ですが何のファンですか?俺はそのような活動をした覚えは無いのですが」
「も、勿論ブレイブソウルです」
ブレイブソウル・・・か。
確かに俺はブレイブソウル中学部門の大会で優秀な成績を途中まで収めていたがまさか俺にファンがいるとは想定外だった。
「いや〜お兄人気者だね」
「ああ、俺のなどで良ければ」
そう言って彼から貰った色紙にサインを書いていく。
こんな事は初めてだが我ながらよく出来たもんだ。
「江橋さん、これで宜しいですか?」
「あれ?僕名前言いましたっけ?」
おいおい、大丈夫かこの人は。
焦りすぎて自己紹介したことすら忘れるような人物がこんな場所によく入れたな。
「あ、あの僕のこと知ってます?同じ中学だったけど」
「すみません、覚えはありません。しかしこれも何かの縁ですね。・・・これからよろしくな江橋」
「は、はい!よろしく天本さん」
「時之でいい、桃花と紛らわしくなる」
「うんうん、私のことも名前でいいからね」
「はい!よろしくです。時之さん桃花さん」
俺の記憶にないということは少なくもと同じクラスになったことはない。猫顔っぽいこの江橋という同級生はある意味高校初めての友達になってくれた。
いい出会いになりそうだ。
そんな問答もありつつクラスに他の人達が入ってくる。
たわいもない会話を三人で繰り替えてるうちに教室の机が埋まる。
それを見かねたようにチャイムが鳴り雑誌を読んでいた先生が重い腰を上げた。
「おはよう諸君!まずはこの栄えある星城学園に入学おめでとう。君達は厳しい試験を突破した言わばエリートだ。
だが敢えて言おう!今の君達は平凡な生徒でしかない。そんな君達をこの俺、真田昌也が本当のエリートに仕立て上げてやる。ついてこい!オー!」
その歓声は先生一人のものだった。
「ん?何だよノリ悪いな。そこの窓側後ろから二番目の目付きの悪い奴、お前先導してやれよ」
俺じゃねぇか、まあこんな状況でやってくれるのは身内の俺だけが頼りか。
「いいですか?今の俺達は完全に先生に舐められている。そんな状況見返してやりましょう。まずは気合だ!オーー!」
「おー!」
俺から始まった歓声はまず桃花に移りそのあと少しづつではあるが教室全体に響き合った。
「よし、じゃあお前クラス長な、よろしく」
この流れから自然にクラス長に任命された。まぁこんな事を押し付けられるのは慣れっこだ。そしてそんな状況に乗ってしまった俺も不器用だな。
しかしこの性格を変えるつもりもないし変えられるとも思っちゃいない。
慣れないながらもクラスの人達を先導し向かったのは全校集会の場だ。
全校生徒ざっと四万。野球のスタジアムの観客席の様に中央を開け一般生徒である俺は観客席側にいる。
中央にいる面子は姉さんを含めた生徒会室メンバーと何人かの先生方だ。
この学園には大学の様に十の学部がある。
IT 医学 芸術 スポーツ 工業 法学 文学 商業 農学 そして俺が所属する魔術部だ。
珍しく学部でクラス分けはされず選択科目形式で学部も分かれている。
高校と大学のハイブリットを謳っているが実際のところ試験的な面が強いのがこの学園だ。
全員が集まり静まった所で一人が台上に立ち、立体映像が浮かび上がる。
「姉さん?」
映されたのは生徒会副会長である天本優佳里だった。普通こういう場は会長が出るべきではないのか?
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
私は星城学園生徒会長の天本優佳里です。
この学園は皆さんもよくご存知かと思いますがかの世界的大企業ラグナルクの社長、天本幸也が創設した優秀な人材を育成する為の学園です。
貴方方には星城学園という大きな名を持ち、その名に恥じないキャリアになれる様日々精進を重ねる事を期待しています。
頑張ってくださいねっ」
今までの硬い雰囲気から一転、最後の一言と共に表情に優しい笑みを浮かべる。
そのギャップがいいと新入生は男女共に拍手と歓声を上げる。
しかし俺と桃花には分かっていた。
あの笑顔は人心掌握術的笑みだ。半分くらいは本音も混ざっていそうだが本心ではない。
あれが女神と言われる所以かと思うと少し呆れる顔にもなる。
次に現れたのは車椅子に座った初老の男性だ。両足義足であるのがチラッと見えた。
長く整えられた髪と髭、厳つくもどこか悲しみに満ちた瞳。緑のローブに身を包んだその老人は重い口を開く。
「儂はスワグマ。
ここの校長である。君達新入生が正しき未来を選択できる事を希望する」
その一言を言い放った後校長先生は姿を消す。具体的には地面部分が下がりエレベーターで下がる様な動きだ。
「正しき未来ねぇ、それを決めるのは誰なのか分からんね」
俺には校長の言ってる事がよく理解できなかった。しかしその言葉には並ならない何かを感じていた。
「なんか怖い人だったね」
「僕もそう思います」
二人が怖いというのも分からなくもない。
最後に優しさを見せた姉さんの後に優しさのかけらもない様な校長が出て来たのであれば、相対的にそう感じるのも分かる。
しかし俺はあの人にどこか底知れぬ何かを感じていた。
全校集会を終え学校の施設も粗方説明してもらい今日は帰宅だ。尚抜き打ちテストなんてものはない。
「お兄ちゃん一緒に帰ろ」
「ああ。・・・あ、姉さんに呼ばれてたんだった」
朝に放課後来るように言われていたのを思い出す。
「そうだったね、じゃあ私も行くね」
「桃花も来るのか?」
「うん。噂によればここの生徒会の人達面白い人達の集まりなんだって」
面白い人達という一言で俺は嫌な予感を察知する。桃花のそういう発言は俺の苦労を増す要因になる。
「面白い人達か、また振り回されることになるな。寝ぼけて覚えてなかったとでも言い張る・・・訳にもいかないよな」
俺は姉さんに逆らう事は出来ない。家族故の弱みを握られている。
ならなる様に回されるのも悪くない。
「行こ、お兄ちゃん」
「ああ。でもその前に・・・
俺は桃花の手を握り強引に連れ出す。向かったのは生徒会室ではなく人気の少ない校舎の隅だ。
「お兄ちゃん?こんな所に連れてきてどうしたの?・・・あ・・・」
桃花は何かを思い出したかのような顔をした後しおらしい表情を見せる。
「するの?」
「あれは誤解だ、俺はそんな気は無かったんだ」
朝の件を思い出したようで村田さんの邪魔が入らないこの場所で続きをされると思われていたのだろう。
冷静に考えれば桃花の考えと俺の行動は辻褄は合わなくもない。しかし俺が連れ出したのはそんな事じゃない。
「いいか桃花、学校内で俺をお兄ちゃん呼びは禁止だ」
「なんで?」
「俺の立場になって考えてくれ。高校にもなってそんな呼ばれ方は周りの目につく。
分かりやすく言うとなこっぱずかしいんだ」
「そっかじゃあなんて呼ぼうか?」
「他の呼び方で好きに呼んでくれればいいさ」
「んー、じゃあ親しみを込めてお兄様なんてどうかな?」
「おいおい、俺はそんな呼ばれ方されるほど優秀じゃないぞ」
「その謙遜ぶり、流石はお兄様です」
このペースのまま行くとそのまま呼ばれそうだ。もっと言えばそんな呼ばれ方はらしくない。
なので俺は少し強引な手を行使した。
ガン!
「桃花、そろそろやめてくれないと本気で怒るぞ?」
俺は村田さんから教えてもらった技、壁ドンを使う。
この技は本来ならば相手の後ろ、もしくは見える範囲の壁の脆い場所を叩き壊し相手に恐怖心を与える技だ。
流石に校舎を壊す訳にもいかないので威力はかなり抑えた。
「お・・・お兄ちゃん?」
更に脅しをかける為自分と相手との顔を出来るだけ近づける。
「もう一度言うぞ?やめてくれ」
静かに、しかしドスの効いた声でビビらせる。これがすんなり出来ないと壁ドンという脅しは効果が薄いらしい。
「取り敢えずお兄様は却下だ。普通に名前で呼んでくれ」
「時之君・・・でいいの?」
「ああ、それで構わない」
脅し終わったので距離を離す。しかし桃花はまたしおらしい表情になった。今の行動のどこにそんな要素があったのだろうか?
そんな顔されると対応に困る。
なので一つ明るく振舞ってみることにした。
「さーて、行こうぜ!俺もその面白い人達ってのに興味湧いてきちまった。ワクワクが止まらねぇ」
「お、お兄ちゃん?さっきのこと怒ってないの?」
「あれはちょっとした演技だよ。俺の演技が見抜けないなんて桃花もまだまだだな」
「むうー遊ばれてたの?」
「遊んでやったぞ?いつも弄られてばかりだからな、たまには桃花を弄るのも悪くないな」
こう上を取るのもたまには悪くない。しかし俺の立場はあっさりと崩される。
「と、桃花?」
「こうしてれば振りほどけないしお兄も振りほどく気ないでしょ?」
桃花は俺の左腕に抱きつきそのまま場所を移動しようとする。
大きいとは言えないが柔らかい感触が肘を襲うがここで動じるほど俺はヤワじゃない。
「桃花、これじゃ俺を弄るどころかむしろご褒美だぞ?」
「そう思う?これを他の人に見られたらどう思う?」
今の状況を客観的に見れば・・・俺は校舎で妹に抱きつかれている兄になる。
色々と風紀とか体裁とか不味いな。噂も立ちかねん。
「桃花、離してくれ。いや離さないでくれ、・・・いややっぱり離してくれ」
世間の目と自分の欲望が入れ混じり俺は自分でも訳わからないことを口走ってしまう。
「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃないかもしれん。色々と・・・
「色々と問題ですね時之」
どこからか姉さんがこちらに来た。驚きのあまり俺達は距離を離す。
一体いつから見ていたんだ?俺が気配を察知できないとは姉さんのステルススキルは化け物か?
「イチャつくのは良いですが時間と場所をわきまえて下さいね」
「は、はい」
別にイチャついていたつもりはない。桃花が戯れてきていただけだ。もういっそ桃花のことはトラブルメーカーの子猫くらいに思おう、うん。
そもそも俺は桃花に恋愛感情なんか持っちゃいない。正確には持てなかったというべきか。
その光景を息を潜めて見ていた一人の女生徒が居ることを時之は知る由もなかった。
「フッフッフ、これはこれは中々面白そうなネタが撮れましたね」
ハーメルンの方で二次創作も書き始めました(こちらは不定期更新)
作品はオルガイツカは勇者である、です
https://syosetu.org/novel/161720/
今回ものちのちのフラグを立てまくってしまった。回収しきれるか怪しい
因みに今回出てきた江橋君は自分のリア友をモデルに書いています
あと時之殿の村田さんから教えてもらった知識は一部世間の常識から外れている場合があります。
なので時之殿は嘘つきでは無いのです。ただ間違いをしてるだけなのです




