はじまりの日
石造りの家の中から赤子の泣き叫ぶ声が響き渡る。
それは太陽が丁度真上に到着した頃だった。
その声を聞きつけて近くに住む人が急ぎ足でその家に駆けつける。
「アカーシャさんとうとう産まれたのかい!?」
扉を開けて飛び込んできたのはお隣に住むグレンおばさんだった。
グレンおばさんは早足で寝室まで行くとベッドに横になっているアカーシャと目が合った。
「こんにちはグレンおばさん…元気な男の子です」
上半身を起こし、父親のリアドから息子を受け取るとグレンおばさんの方へ向ける。
「グレンさんも抱いてみますか?」
リアドがそう言うとアカーシャはガラスを扱うかのように抱き上げた。
髪はまだ全然生えてないが母親譲りの茶色、瞳は父親譲りでこっちも茶色。
目元はキリッとしていて父親譲りの男前、けど表情なんかは柔らかくて母譲りというのがわかる。
「名前はもう決めたのかい?」
赤子をアカーシャに返しながらグレンがそう聞いた。
「ええ、この子はアルト、綺麗な響きでしょ?生まれてきたのが男の子でも女の子でもアルトにするって決めてたの」
微笑みながら言うアカーシャをやれやれといった感じで眉を寄せるリアドが見つめる。
どうやら名付けで根負けしたのはリアドのようだ。
「そうかいそうかい、アルト…確かに言ってて清々しい気持ちになる名前だね」
「でしょ?」
「それじゃ私は一度戻るよ。領主様にも報告するんだよー」
グレンはそう言うと家から出て行った。
「おや、アルトはいつの間にか寝てしまったか」
「そうね、どんな子に育つかしら?」
「元気があれば高望みはしないさ」
「ええ、本当に…」
……。
俺、誕生!
俺の名前は藤宮明人、高校二年生。
突然現れたティオに促されて部屋に入ると装飾過多な男が現れなにやら喋り始めた。
有無を言わさない喋りに圧倒されて戸惑っていると背後から別に近づかず勝手に喋る男に翻弄されて。
気が付くと、体が縮んでいた!
はい、転生したようです。
この世界ではアルトと名付けられました。
明人とアルト。発音が似てるのはきっと偶然だろう。
今は赤ん坊風に泣き喚いたのとどこからともなく現れたおばさんへの愛想笑いで疲れて寝ている。
結局のところ俺は何かの腕を貰ったらしい。
右腕なのか左腕なのか両腕なのか最初はわからなかったが今は感覚でわかる。
右腕だ。右腕だけ力のめぐり方が違うのだ。
それにしてもこうして転生してみると初めてわかる感覚がある。
まず視線、体中の感覚に筋力や視力、そりゃ青年と赤ん坊じゃ何もかも違うがこうも違うと今後が大変だ。
しばらくは成長するまで気長に待つしかなさそうだな。
なら後はもう本能の赴くまま寝るだけでしょ!
そういうわけでおやすみなさい。