DRAGON CARNIVAL 5
ドゥヴァの能力によって操られたドラゴンたちが一斉にアルトたちに襲いかかってきた。
アルトは篭手を出してそれに応戦した。
「てりゃあ!」
迫り来るドラゴンを渾身の一撃で顔を殴り飛ばす。
殴り飛ばされたドラゴンは首を仰け反らせるが決定打には至っていなかった。
視界の隅ではキースも襲われていた。キースの力は現在アルトとほぼ一緒ぐらいだった。
魔術適性も座学と訓練によって伸び、初歩以外も扱えるようになったからだ。勿論それだけではなくあの厳しい修行を乗り越えているだけあって力もついている。
「求めるは火、イグスニル!」
キースが唱えたのは火系統魔術でイグの次であるイグルの次に覚えることが出来る魔術だった。
人が三人ぐらいなら余裕で丸呑みできる程の大きさの火球を繰り出すことができる。
それをキースはドラゴンに当てたのだ。が、しかし本人もわかっていただろうが全く効いていない。
ただ、試す前に効かないと決めつけたくなかったのだろう。
片手に剣を持ち必死にドラゴンと戦っている。ドラゴンを傷つけるには上級魔術以上が必要と理解したのだ。
「アルト大丈夫か!」
「ああなんとか!」
どうにか連携をしようとして互いに距離を縮める。
しばらくしてやっとの思いで二人は背中合わせになった。
既に二人共息が上がっている。所々に切り傷も見える。
フィエロはというとあの巨大なドラゴン、ドゥヴァを相手にしていた。
それが、その戦闘が少々アルトからしたら凄まじいものだった。
轟音と共に繰り出されるドゥヴァの拳を比較したら小枝のようなフィエロの腕が受けきり辺りに物凄い暴風と音を巻き起こしていた。
それに巻き込まれて散るドラゴンがいるのを見るに自分はまだまだだと再確認してしまう。
「アルト余所見するな!」
「わ、わりぃ!」
ドラゴンの尻尾による薙払いが繰り出されて。瞬時に後ろへと飛ぶ。
どこからかケインが「ほら、早く君の力を成長させないと本当に死んじゃうよ?」などと言ってくる。
ムカつくが事実だ、それに、力のことは前々から思っていた。なぜ未だにこのままなのだろうかと。
この世界に来ているやつらを全く知らないのでどの程度で力を発揮させて使いこなしているのかはアルト自身には全くわからない。
しかし、既にこの世界に来て数年、二、三年前にやっと腕が力を解放してから全く変わっていないのだ。
篭手にした腕はアルトの意思で外したりもできる。それを飛ばしたりはできるがそこ止まり。
腕力も年齢以上にはあるが大人からしたら余りにも普通。いや、腕力に関してはもう大人以上だとは思っている。そうでなければ何のために修行しているのかわからないからだ。
余り物の巨人の腕、最初は巨人の腕と聞いて力強さを感じていた。
発現する前はくすぶっていた力に苛立ちも覚えた。が、発現してからもそれは変わらなかった。
そこに来て別の特異体質者を見てしまった。彼らはあのフィエロに本気を出させるぐらいには強いと見ている。今の自分が先程見たフィエロの蹴りを受ければ体が弾け飛んで死ぬだろう。この世界で死ぬ。
もうその先は本当に無い。
その時、アルトの脳裏に砂嵐が過ぎった。
その間にも必死にドラゴンの猛攻を受けては反撃する。
「何か…忘れている?」
「ボーっとするなアルト!」
「…なんだ?」
二度目のキースの注意も耳に入らないままアルトは自信が何かを忘れていると、違和感がまとわりついていると感じた。
俺は何かを忘れている。なにか大事なことを忘れている。それはなんだ?俺は何を…?
視界に赤い物が見えた。気になってそちらに目を移す。
「あ…あぁ…」
「根性だけはあるみたいだね…どこかの誰かとは違って」
そこにはアルトを庇って肩から思いっきり噛み付かれているキースがいた。
噛み付かれたところから血が途切れなく流れている。ただ、キースは右手に持った剣を噛み付いたドラゴンの頭に思いっきり突き刺した。
糸が切れたように崩れ落ちるドラゴン。そして同じように崩れ落ちるキース。
砂嵐が晴れていく。その記憶は目の前の光景と良く似ていた。
そして思い出してしまった。魔犬オータスとの戦いの時の記憶を。
「そうか…俺は一度、諦めちまってるのか…」
自身の右腕を見る。そこには無機質でなんの特徴もない篭手がある。
ドゥヴァのように荒々しいものでもない。ケインのように神々しいものでもない。
まるで防具屋に売っているかのような質素な篭手だ。
「いつまでそうして突っ立ってるつもりだ馬鹿が!!」
そこにドゥヴァと戦闘を繰り広げていたフィエロから叱責が飛んでくる。
「目の前の出来事から目を逸らしてんじゃねぇ!そんな暇があったらキースを助けるなりなんなりしろ馬鹿が!!」
「そうだ、キース!!」
アルトは駆け寄ってキースの傷を見る。
噛まれたようだったが肉がちぎられたような所はなかった。
気を失っているようだったがそれも出血によるものだと感じた。
アルトはキースを素早く抱き抱えて隅の方へ寝かせると今度はアルトがキースを庇うように前に出た。
「俺はもう逃げない」諦めるのは終わりだ。―――本当に?言い切れる?
「目の前の敵を倒す」手加減なんてしない。―――力はあるの?虚勢だけじゃ意味はないよ?
「俺が俺自身が成長する!」もう助けられるだけなんてあっちゃいけない!
―――――力強い意思を確認。成長開始―――――。
「GROW UP!」
そんな光景を覗き見るのはどんな人物なのか。
彼は彼を知っている。彼も彼を知っている。
彼と彼の関係性は与える者と与えられた者であり奪われた者と奪った者である。
彼は彼の成長を喜ぶがそれだけではつまらないと考えてしまう。
…だから、彼は手を加えるのだ。
「アルト君、君にはまだ…それは早いよ」
アルトの篭手が蒸気のようなものを吐いてカシャンと開いた。
そしてそれは伸びるかのようにカチャカチャと音を立てて肩の方へと伸びていく。
「お、おお!」
篭手が己に応えてくれるかのように成長していく姿に驚きを隠せないアルト。
だが…。
―――――エラーが発生しました。グロウアップを中断します―――――。
篭手、いや、巨人仕掛けの腕は肩までの防具となると成長を止めてしまった。
それを見て困惑するのはアルトだけではない。それを促そうとしたケインもだった。
歯がゆい!成長しそうでしない主人公が歯がゆい!!




