DRAGON CARNIVAL 2
三年目の修行が幕を開けた。
それはなんとフィエロ自らが指導するという待ちに待った修行だった。
久々の剣の感触を確かめながら、そして以前よりも小さくなったような剣に苦笑しながらアルトとキースは己の成長を確かめるかのように素振りを数回した。
勿論軽々と触れる。キースも既に振り回されずに扱えていた。
この二年でいやでも基礎体力は上がった。スタミナを筆頭に体力も脚力も腕力もだ、他にも生きるための知恵も体が覚えてくれている。特に息の殺し方はもう免許皆伝だと自負している。アサシンでもシーフでもないのに音を立てずに歩き走る技術もいつの間にか習得していたぐらいだ。それと気配を感知する能力もずば抜けて上がった。
…?あれ?もう俺たちアサシンとかそのものじゃね?
などと話していると後ろから音もなくフィエロに小突かれた。
「殺せない暗殺者がいてたまるか」
ごもっともです。いくら隠密行動ができていても自衛能力が足りていないのだ。
フィエロ曰くドラゴン一匹倒せるぐらいには強くなれとのこと、いやまぁそれは転生者としてはそうなんですけど早すぎやしませんかねぇ。
などと思ってしまうが逆に考えて早いに越したことはないのかもしれないと思ってみた。
こうしてフィエロ師匠直々の戦闘訓練が開始されたのだ。場所はワイバーンの縄張りよりも更に上の方にある。が、場所的にはかなり離れた山脈の奥にある人工的に切り開かれた広場だった。
ご丁寧に階段まであるのだ、こんなところにこんな訓練場所をつくるもの好きがいるとは驚きである。
この二年間きっとこれを作っていたに違いないとアルトとキースは二人して意外と真面目なんだなぁとフィエロ師匠のことをニヤニヤしながら見ていた。
鋭い目つきでこちらを睨んできますがスルーです。
修行が始まってまずやらされたのは素振りだった。縦横斜めそれを右左上下とそれぞれから確実に放てるように体に覚えさせろとのこと。とりあえずその素振りを今日は百回と言われた。今日はと…。
素振りの次はアルトとキースでの簡単な模擬戦。それを見てフィエロが二人の弱点と苦手箇所を指摘する。それの繰り返しである。
昼をちょっと過ぎた頃になると最後にフィエロ師匠対アルト&キースでの模擬戦が始まった。
二人が剣を装備しているのに対してフィエロは素手だ。
それなのに斬りかかるが当たらない、掠りもしない。
顔色一つ変えないフィエロは隙を見せるたびに蹴りや拳を飛ばしてきた。
がむしゃらにやってもダメなのはわかっているのでキースと連携してどうにかしてフィエロの隙を作ろうと模索する。が、逆に隙を突かれて崩される。
次第に息が切れてハァハァと肩が上がる。あれだけスタミナと体力が上がっても未だフィエロの足元にも届いていない現実にかなりの驚きが二人を襲っていた。
いや、そもそも足元どころか背中すらまだ見えていないのかもしれないと気づいたのはそれから数日後のことだった。
ちなみにだが夜は屋敷で魔術に関する座学と講習が始まる。
フィエロは博識で色々と知っているようだった。
この世界の魔術は異世界人のアルトからしたら親しみやすいタイプのものだった。
火系統、水系統、土系統、風系統、雷系統を駆使する属性術や鉱物を変換、錬成する錬金術に始まり召喚術、死霊術、呪詛術、聖刻術と後の方になるにつれちょっとだけ難しかった。
だが聞いている分には夢が広がる授業だったのは確かである。
キースが一番興味を示していたのはやはり既に使える属性術である。属性術は一番親しまれている魔術で、どこぞの魔導大国では授業で習うようだ。
五つとも習えるがやはり人によって得手不得手が別れるが希に五系統全てを使いこなす天才もいるらしい。その学校とやらもいつか行ってみたいものである。
そして夜中になるかならないかという時間になってやっとアルトとキースは寝る支度をするのだった。
ある日、いつものように山脈に登って修行を受けていた時だ、ある程度数もこなせるようになって一連の流れを一つのセットとしていた頃だ。それは丁度一対二の模擬戦が終わって地面に息を切らして大の字に寝ていた時に異変は起きた。
空気が重くなったのだ。何事かと疲れた体に鞭を打って起こして辺りを見渡す。キースも同じように感じたのかキョロキョロしていた。
そしてフィエロ師匠がこの広場へ上がってくる唯一の道をじっと見ているのに気がついた。
アルトもそちらを見る。瞬きを一回する。変化はない。瞬きを二回する。一人のローブ姿の男が現れた。身長180程で丸いちいさなメガネの細目で黒髪をオールバックにしている男だ。
間違いなく化物並みに強いと感じられる威圧感があった。
が、次に現れたやつのおかげでそんなものが一瞬にして吹き飛んでしまった。
三度目に瞬きをして現れたそいつは多分男、見た目は赤く金の刺青のようなものが描かれた荒々しい龍のような全身鎧を着込み、背中に身の丈ほどの大剣を二振り背負った先程の男より少し背の高い人物だった。
こいつはやばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
アルトは震えが止まらなかった。いつの日か出くわしたドラゴンなど可愛いものだ。
近づいてくる鎧の男を見ればわかる。撒き散らすような殺気には弱者を選定する意思を感じ、まるで理性が無く本能だけで動いている獣のような錯覚に落とされる。まるで災害が人型に収まったかのようだ。
呼吸が苦しくなるのをどうにか我慢してキースを横目で見るとキースも自分と同じ感覚だとわかった。
目を見開いて二人の男を黙視している。
と、ローブの男がこちらに向かって挨拶をした。
「やぁ、久しぶりだねフィエロ。私だよ覚えているかな、ケインだよ。ケイン・コーラサンドラ」
男はニコニコとフィエロにそう名乗ったのだった。




