Wild Challenger 2
そして時は現在に戻る。王都を出て三ヶ月近く経っている。
道中で時々路銀の足しにとクエストを受けて微々たる稼ぎを作り、この歳にして馬車の揺れによる腰の痛みも味わい、なんとか大きなトラブルも無く目的の場所に到着した。馭者のおっちゃんとは山道が通れないということで麓の辺りで分かれている。故に現在はキースと二人でその目的地、山奥の自称村、正確にはただの大きなあばら家もといただの大きなお化け屋敷があるだけだった。
マルキス領主の話では村の山奥にある家とういことだったがここに来る途中で一度たりとも村らしきものは見かけなかった。だからというわけではないが最初は本当にここが目的の場所なのか疑ったものだ、しかしながら馭者のおっちゃんはここだと言うし見るからに平原と山と森しかなかったが信じざるを得なかった。
というわけで俺とキースはあばら家の玄関前につっ立っていた。
「開けてもいいのかなぁ…」
「触ったら崩れそうだなぁ…」
一応マルキス辺境伯の弟ということなのでそれなりのものを期待していたのでギャップに戸惑っている。
こっちはお土産も用意したのだ。前に立ち寄った街で買ったお酒の瓶がカバンに三つ程入っているが果たして人が住んでいるのか疑わしい。
もう立ち尽くして数十分が経っていた。もう旅路の回想もさしたる物もないのでというかもう痺れを切らしてるし埒が明かないのでアルトは勢い良く扉を引いたのだった。
いざゆかん!お化けの出そうな廃屋敷へ!
「すいませーん!誰かいませんかー?」
「あのー!誰かいませんかー!えっと、マルキス辺境伯の紹介で来たんですけどー?」
とりあえずだだっ広い屋敷の中をぐるぐると手当たり次第に徘徊して家主を探す。
屋敷の中を見れば見るほど海外のホラー映画に出てきそうなお化け屋敷だった。割れた窓ガラス、埃臭い空気、薄暗い屋敷内、辛うじてまだ動いている振り子時計の音が嫌に響いていた。
アルトとキースは疲れてしまい少し休憩することにした。ふと開いている部屋があったのでお邪魔する。
中は案の定埃っぽくて薄暗いままだが比較的綺麗なキングサイズのベッドがあった。背もたれはないが丁 度腰掛けに良さそうな長い木箱もあった。きっとソファにするつもりだったのだろうと思いアルトとキースは荷物をそこに置いてベッドにダイブした。
「ここだけ安息の地に思えるよ」
「にしても山道と屋敷の中を周ってもう足が動かないよ…俺このまま寝るから、起こすなよ…zZ乙」
「キース、疲れてるのはわかるがまずはここの…寝るのはえーよ…やべっ、俺も睡魔が…zZ乙」
そして二人が寝て間もなく、太陽は沈み月が姿を顕す。それと同時に動き出すものがあった。
アルトたちが荷物を置いていた長い木箱だ…いや、薄暗くて良く分からなかったがそれは棺と呼ばれるものだった。それが音を立てて開、開、開かない。何かが出ようとしているが荷物が邪魔して普段のように開かないのだ。
「ん?なんだ?寝てる間に天井でも落ちて蓋が歪みでもしたか?…しょうがない」
そう言うと声の主は拳に力を入れて柩の蓋を吹き飛ばした。
蓋は粉々になってあたりにばらまかれるが上に載っていたカバンは空中に放り投げられた。
中から上半身を起こして伸びをした男は落ちてくるそれを瞬時にキャッチした。
「ふわぁ~、あ?なんだこれ?なんでこんなのが乗っかってたんだよ…」
寝ぼけ眼で掴んだ二つのカバンを見る。なかに何が入っているのか少々重い。
空いた左手で頭をかきながらカバンの匂いを嗅いでみた。
ほのかに酒の匂いがした。カバンを開けてみると両方ともここから少し離れたところで手に入る酒が三つづつ、計六つ入っていた。
「景気が良いねぇ…とはいかねーよな」
男は立ち上がりベッドの横に移動して閉まったカーテンを勢い良く開けた。
窓からは月明かりが勢い良く差し込み男の全容を露にする。
貴族然とした衣服とマントを身に纏い、銀髪に紅の瞳と尖った爪や牙、まるで吸血鬼、いや紛う事無き吸血鬼がそこには立っていた。
その容姿はどこかマルキス辺境伯に似ていた。いや、似ていたではなく似ているのだ。
彼こそがマルキス辺境伯の弟にして夜の帳に紛れる吸血の鬼、フィエロ・キスタ・マントールその人である。




