『初めての出会いと戦闘』
一話開始です。ご指摘ご感想お待ちしています!
基本的に主人公の一人称で書いていきます。
―????年?月?日
「・・・・・・まぶしっ!」
瞼に対してこれでもかと主張してくる日の光によって、急に意識が覚醒される。
「どこだここ・・・」
目を開けた俺の視界に入ってきたのは、見渡す限りの緑が美しい森だった。
「どこだここ!?」
思わず同じセリフが出るくらいには混乱した。そもそも俺は車に撥ねられて死んだはずだし、季節も冬だったはずだ。
「死んだはず・・・だよな?」
自分の体を確認してみる。すると、怪我などが無い事以上に驚くべきことが起こっていた。
「この服・・・ゲームの装備か・・・?」
車に撥ねられた時に着ていた服ではなく、一年ほど前までやっていたゲームの装備(その時にハマッていたロングコートにシャツとズボンという英国紳士風な服装)にそっくりだった。そのゲームは当時流行したダイブ型のVRMMOで、『今日からあなたも異世界転移!』なんてキャッチコピーで自由度の高さが売りのゲーム、だったのだが突然会社が倒産、そのままサービス終了になってしまったのは記憶に新しい。
そして、この服はそのゲームで俺が使っていた服と同じ物なのだ。
「ゲーム・・・の中なのか?」
このゲームは一年前にサービスが終了しているのだ、それはありえないだろう。ゲームなら開けるはずのメニュー画面を開こうとするが、やはり開けない。
なら夢?試しに頬を抓ってみる。
「痛い・・・・・・夢でもない、か」
いろいろと考えてみるが答えは出ない、なにより五感で感じる感覚がこれは紛れも無く“現実”だと訴えてきている。
「これはあれか・・・マジの異世界転移ってやつなのか」
これがもしあのゲームの中の世界だとするなら、つまり二次元風な俺好みの女の子がいるかもしれないわけで・・・。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「こうしちゃいられん、とりあえずこの森を出よう」
まずは近い町を見つけて、それから・・・・・・
「にょおおおおお!」
「!?」
これからのことに考えを巡らせているとなんか間抜けな叫び声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、小学生ほどに見える小さな女の子が熊っぽい何かに追われているのか必死な形相でこちらに向かって走って来ている。
「おいおい、死んだわあいつ」
そんな暢気なことを言っているうちに、少女がこちらに気づいたのか声を上げる。
「たすけてなのじゃあああああ!」
「のじゃロリ!?」
異世界にきて初めて会った人間が熊に追われるのじゃロリになるとは思わなかったよ。
「た、たすけて。あれをなんとかしてたもう!」
そんなことを言いながらのじゃロリ少女はどんだけ必死で逃げていたのか、涙と鼻水を垂らしながら俺の後ろに隠れる。
「いや、なんとかしろって言ってもな・・・」
そう言って改めてのじゃロリ少女の姿を見てみる。
目の上あたりで切り揃えられたぱっつんで、ウェーブのかかった肩口まであるふわふわとした髪、色が真っ白なのは異世界だしそういうもんなんだろう。
そしてくりくりとした黒い瞳に整った鼻、桜色の唇、鼻水を垂らしていなければ間違いなしの美少女だ。フリルの付いた白いワンピースと肩にかけるタイプのこれまた白いカバンを持っていて、華奢な体も相まってどこかのお姫様かと思うような風貌をしている。出会うのがあと数年も遅ければ間違いなくアタックしていただろう程に将来が楽しみな少女である。
・・・鼻水さえ垂らしていなければ。
「ガァアアアアアアアアア!」
「ひいっ!」
おっと、のじゃロリ少女を観察している間に熊が近くまで来ていたみたいだな。
熊は俺達から三メートル程離れたところで止まり、後ろ足で立ち上がってこちらを威嚇しているようだ。
「これ、熊だよな・・・?」
思わず聞いてしまう程には変わった姿をした熊だった。
まず、目が四つある。遠かったときは分からなかったが、近づいた今だとそれが分かる。そして爪、長さが異常だ、爪とぎをしなかったとかいうレベルじゃない、一メートルはある、この熊が立った高さが三メートルくらいだからその三分の一はあるのだ。というかよくそれで走れるな。
しかもその一本一本が薄い刃物のような形状をしている、これで引っかかれたら怪我じゃすまないだろう。
「カッターベアー・・・獲物を殺した後、均等に切り分けて食らう恐ろしい魔獣じゃ・・・」
「えらい行儀のいい熊だなおい」
均等にカットしてから食うのか、熊ならそのまま齧り付けよ!
「は、早くなんとかしてたもう・・・!」
「分かったから顔を近づけるな、鼻水付けたら怒るぞ」
さりげに顔を擦り付けようとしてくるのじゃロリ少女を避けつつ、熊を見据え思考する。
熊は新たに現れた、先ほどの獲物より大きい獲物を警戒しているのか、すぐに襲ってくる気配は無い。
(さて、どうするか・・・)
逃げるのは簡単だろう、こののじゃロリ少女を置いて逃げれば、こいつが均等に輪切りにされている間に逃げることが出来る。だが、さすがに女の子を置いて逃げるのは気が引けるし人間としてどうかと思うので却下。
なら戦うしかない、勝てるのか?いくらゲームの装備があるからってついさっきまで比較的平和な国で生きていた、ただの大学生がこのトンデモ熊を相手に。
・・・なんとなくでしかないが、やれる気がする。
ゲームにもモンスターはいたし、戦闘は数え切れない程にこなしてきた。しかし今は現実で、動きを憶えていても体がついて来るとは限らない。でも、本当に感覚でしかないが、やれる気がするのだ。
「すー、はー」
深呼吸をし覚悟を決める。
「のじゃロリ少女、危ないから下がってろよ」
「う、うむ」
のじゃロリ少女は「のじゃロリってなんじゃ・・・」と呟きながらも素直に離れた場所にある木に隠れる。
それを確認した俺は腰に差している剣の柄を持ち、そのまま抜き放つ。その剣は刃渡り一メートル、幅は根元が五センチ程で剣先に行くほど細くなっている、いわゆる細剣と呼ばれるものだ。
この剣は深緑の鞘と柄、葉のレリーフをあしらった薄いシアンブルーの護拳に、同じく薄いシアンブルーの鍔と刀身を持つ、ゲームに実際に存在していた物でこの服と見た目の相性がいいのでお気に入りの武器だった。
俺がゲームの記憶を元に剣を構えると、熊は俺の戦う意思を感じたのか低く唸りながら前足を上げ戦闘態勢に入る。
「・・・・・・」
「グゥウウウウウウウ・・・・・・ガァッ!」
一触即発の空気を先に切り裂いたのは熊の刃物のような爪だった。
熊は距離を縮めるとその腕を真上から振り下ろしてくるが、それを横に跳ぶことで回避する。
「よし、体も動くな」
表面上は冷静に言ってみせるが正直めちゃくちゃびびった、体が動かなければ輪切りにされて美味しく頂かれてしまうところだったぞ。
だが体がついてくるならこっちのものだ、単調な熊の動きなら避けつつ隙を突けばなんとかなるだろう。
「おい面白熊、その程度か?うん?」
「ガァアアアアアアアアア!!!」
挑発してみると言葉は分からないだろうがおちょくられたということは分かったらしく、かなり怒った様子で突っ込んでくる。
「ははははは!当たらん!当たらんよ!」
滅茶苦茶に振ってくる爪を避けながら、隙を見てレイピアで熊の腹の辺りを突く。
「ギャウ!」
腹を突かれた痛みでたじろぐ熊。思った通り、皮の厚そうなこの熊には刺突が有効なようだ。
「どうやら勝負は見えたようだな、熊ぁ!」
そこからはもう作業だった。
避けて突く、避けて突く、避けて突く、避けて突く、避けて突く。
それを二十回くらい繰り返した頃、熊の動きが目に見えて鈍くなる。
「グゥゥゥゥゥゥ・・・」
「いいかげん倒れろよ・・・」
さすがにこれは疲れる、そろそろ倒れてくれないとこっちの体力がやばい。
その願いが通じたのか、大きな音を立てながら熊がうつ伏せに倒れる。
「お・・・やっと倒れたか。・・・死んだフリとかじゃないよな?」
大きめの石を投げてぶつけてみるが起き上がる様子は無い。
「あ゛ー!疲れたー!」
熊を倒した達成感と危機が去った安心感で、疲労も相まってその場に座り込んでしまう。
「おぬしすごいのう!」
隠れていたのじゃロリ少女がはしゃぎながら駆け寄ってくる。こいつの存在忘れてたわ。
「ま、まあな。俺にかかればこんなもんよ」
見栄を張って答える。
「すごいのう!すごいのう!もしや名のある冒険者かの?」
この世界には冒険者が居るのか、良い事を聞いたな。この世界で冒険者として名を馳せるとか、悪くないんじゃないだろうか。
「いや、まだ無名の・・・何だろうな、一般人?」
「なるほどの、これから冒険者として名を上げるということじゃの」
何だこののじゃロリ少女、やけに乗ってくるな。冒険者に憧れでもあるのか?
まあいい、とにかくこっちでやっていく覚悟は決まった。家族のことは気になるし、向こうに戻れる手段があるなら探すべきだけど、可能性は低いだろう。
あのときのことは今も思い出せる、くっそ痛かったし怖かった。向こうで俺は死んだんだと思う。なぜここに飛ばされたのかとか、傷の無い体のこととかは考えても分からない。
せっかく異世界ってやつに来たんだから、この世界を見て回らないと損だろう。
俺はやるぞ――まだ見ぬ二次元美少女を求めて!
鼻水を垂らしていても美少女は美少女。可愛ければオールオッケー!
初っ端から初めての戦闘でした、描写が難しい・・・