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大会参加作品シリーズ

非実在親類自慢

 妹は真悠実といって、よく出来た妹だ。贔屓目に見ているとしても、よく出来た子だと思う。歳は結構離れている。8つ年下だから、学校に一緒に通うなんてことはしたことがない。妹が困っているようなことは大抵俺にとっては大したことではない細事だった。一緒に苦労してとか、二人して迷子になってとか、そういう思い出は無い。でも、だからこそ妹が可愛くて仕方なかった。

 真悠実は去年の秋、高校の修学旅行で東京へ行った。東京には俺の友人が居ると言ったら、一度会ってみたいと言い出した。貴重な修学旅行の時間を使ってまで会うような奴じゃないぞと言ったら、友達にそんなことを言うのは良くないと叱られた。真面目で努力家で、それでいて消極的というか、あまり友達の多いほうじゃない妹にとって、友人という存在は大切なものなのだろう。俺なんかとは違って、なんにでも誠実に向き合う妹と俺は、性格がほとんど正反対だ。真悠実が今通ってる高校だって、中2の秋から必死で勉強して、毎日毎日勉強して、途中何度も辛くて諦めかけて、それでも頑張って、ようやく合格した学校だ。発表当日、付き添ってった俺に泣きながら抱きついてきたのは今でも覚えてる。ずっと見守ってきた俺にとってみれば、自分が合格した時なんかよりよっぽど嬉しかった。

 東京で俺の友人と会ったということは、当の友人からメールで聞いた。真悠実は開口一番、「いつもお兄ちゃんがお世話になっています」と挨拶してお辞儀をしたらしい。よく出来た妹で鼻が高い。でも、人前でも俺をお兄ちゃんと呼ぶのはやめたほうが良いんじゃないかと最近はちょっと心配している。社会に出てから、あるいは大学で、「うちの兄が~」じゃなく「うちのお兄ちゃんが~」と言うのは、こう、ちょっと心配だ。妹は友達二人と一緒に行動してたらしい。修学旅行でハメをはずしたのか、何故かへべれけに酔っ払ってるように見えたという子と、あまり記憶に残ってない子の二人。多分前者がよく話に出てくるユキちゃんで、もう一人の方がシュウちゃんなんだと思う。妹とは高校に入ってからの付き合いだけど、かなり気の合う友達だというのは、普段の話から容易に推測できる。

 まあそんなことはいいんだ。友人はいたく感心したようでしきりに妹のことを褒めそやしていたし、何でお前の妹なんだとも言っていた。俺もいつも同じことを考えてる。妹は本当にしっかりしてて、8歳も上なのに俺の方が出来の悪い弟みたいだ。部屋が散らかってると叱られ、洗濯物を転がしておくと叱られ、だらしなく昼まで寝てると叱られ、きりが無い。

 多分、妹は俺より先に生まれたかったんだと思う。真悠実という名前も、本当ならば俺に付けられる名前だった。生まれてみたら男だったということで、名前を新しく作った。それが今の俺の名前で、元々準備していた名前は妹が生まれた時に引き継がれた。本当は俺が妹で、妹が俺で、俺は妹の弟で、妹は俺の姉だったんじゃないか。たまにそんなことを考える。真悠実には頭が上がらないし、敵わないと思ってる。ただ、だからこそ、そんな真悠実が何か困った時、俺はお兄ちゃんとして、こんなお兄ちゃんを兄と慕ってくれる真悠実のために、力になってやりたい。もっとも、今のところ真悠実にそんな悩みは無さそうだけど。

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