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残された指輪

作者: 江ノ木右座

 ティックの足取りは重かった。彼の向かう先は病院で、そこには友達の妹のディーディが入院していたのだ。


 ディーディの病気は重かった。それは、もう治らない病気だった。そんなディーディに会いに行くのは、辛いことだった。


 ディーディはティックのことが大好きだった。ディーディの夢は、ティックのお嫁さんになる事だった。ティックもそのことは知っていた。だから、なおさら辛かった。


 ディーディの残り少ない命を考えたら、ディーディを喜ばせるために、結婚の約束をするべきかもしれない。しかし、ティックの初恋の相手は、ディーディではなかった。彼の意中の相手は、歌手のライラ・クォーだった。


 ライラを取るか、ディーディを取るか、ティックにとっては、とても悩ましい問題だった。ディーディは、そんなティックの気持ちを知ってか知らずか、病室に彼が入ると、力なく微笑むのだった。


 病室には、ディーディの兄のピビーもいた。ディーディの気持ちを知るピビーは、ティックに意味ありげな視線を送ると、気を利かせて病室を出た。


 「あ~あ、ティックのお嫁さんになりたかったのに…」ディーディは半ばあきらめた調子で、それでも熱っぽい視線を、弱々しくティックに送った。

 

 ティックの恋の相手は、ライラであってディーディではないことが、彼にとっての障害になった。嘘をついてまで、ディーディを喜ばせるべきなのか、それともライラへの愛を貫くべきなのか、この弱りきったディーディの顔を見ながら、ティックは何も言えずにいた。

 

 すると、ディーディの兄のピビーが、病室に飛び込んできた。「大ニュース!大ニュース!」


 ピビーが手渡した新聞には、ライラ・クォーの婚約の記事が載っていた。そこには、ライラが婚約者にもらった指輪を、誇らしげに見せている写真があった。


 ライラへの愛が一気に冷めたティックは、ディーディに婚約指輪を贈る約束をした。ディーディの兄のピビーが、その証人だった。


 ティックは病院を出ると、「マダム・マリー」というアクセサリーの店で、小さな指輪を買った。ティックはディーディに一番似合う指輪を選んだのだった。


 しかし、ティックが病院に戻ると、事態は急変していた。病室は空っぽで、ディーディは集中治療室に送られた後だった。ティックは指輪をポケットにしまい、とぼとぼと家に帰った。


 そして、彼は二度とディーディには会えなかった。ディーディの訃報は、その日の夜に、電話で告げられたのであった。


 テレビでは、ライラ・クォーの婚約が、何度も報じられた。一夜にして大事な女性を二人も失ったティックは、その夜なかなか眠れなかった。


 何日かすると、学校の前にはディーディのために花が置かれるようになった。ティックは、渡そうとして渡せなかった指輪を、献花台の上にこっそりと置いた。


 ティックの前からライラ・クォーが去り、またディーディが去った。


 思春期を迎えて間もないのに、ティックの心には、青春の痛みがあった。それが思い出に変わる頃、ティックは本当の恋を知るのだろう。

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