第八話 下準備と初撃退
「あれ、此処ダンジョン?」
「ホントだわ! ギルドにも載ってないし、出来立てなのかしら」
「おっしゃラッキー、んじゃさっさと入ってコア取って自慢しようぜ!」
少年少女は元気よく洞窟に入った。
そのダンジョンは本当に出来たばかりのようで、ごつごつとした洞窟にゴブリンがちょろちょろ出て来るだけのお粗末なダンジョンだった。
「マジでついてんぜ!」
「うん、これならマスターもたいした事なさそうね」
「今日は美味しい者いっぱい食べられるよ!」
ウキウキとしながら進んで行く彼らは、やがて十匹のゴブリンを倒し石造りの扉へとたどり着く。
「こんなお粗末なダンジョンでも、一応は体裁ってのがあるんだな」
「こんな洞窟にいきなりこんな扉だなんて、ホントダンジョンって不思議よね」
そんな軽口を叩きながら、どうせ出て来てもゴブリンナイト程度だろうとそう思って歩を進める三人。
しかし、その予想は裏切られた。
三人は扉が自動的に閉まる音を聞きながら、目の前に居る同じく三人を見た。
一人は可愛らしい水色の髪の子供、一人は綺麗な赤い髪の女性、そして最後に美しさの中にまだ幼い可愛らしさの残る吸血鬼。
ヤバイ、三人は反射的に逃げようとした。
だが既に逃げることは出来なかった。
いつの間にか赤い髪の女性が扉の前に立っており、そちらに注意をしている間に水色の髪の子供が槍を構えながら飛んで来る。
何とか応戦しようとした少年は、剣を槍に合わせて軌道をずらそうとするが、その頑張りも虚しく、剣を打ち付けた瞬間にその力も使い空中でグルンと体を横に回転させ胸に一撃。
残りの二人の少女も、一人は何事も無いように赤い髪の女性に切り伏せられ、最後の一人は首筋に牙を突き立てられてその身を散らした。
*****
あぁ綺麗な赤。落ち着く。
………………。
…………。
……。
「いい加減帰ってこないか」
その声と共に、カエに造って貰った槍が消える。
「ハッ! 久々に血を見たからトリップしてた」
「アタシこんなダンジョンに召喚されて大丈夫か真面目に心配になってきたわ」
人を殺した。
でも特に何か罪悪感的な物を抱く事は無かった。
それはもしかしたら俺が地球にいたころから変わらなかったのかもしれないし、此方に来てからダンジョンマスターとして変質した時に変わったのかは分からないが、取り敢えず俺は人を殺しても特に何とも思わないような酷い人物に変わってしまった。
そんな事より血が綺麗な件。
久々に見たけど、やはり癒されるなぁ。
「ロルフ」
「んー」
「約束だったな、さっさと私達にも部屋を用意してくれ」
「あーそういやそうだったな、ポイントを確認しないと」
ダンジョンコアに手を触れるとポイントを表示される。
「2000ポイント? 多くないか?」
ログ、と言うアイコンがあったのでタッチしてみると、どうやら初めての撃退でボーナスが振って湧いた様だ、ラッキー。
取り敢えず維持に100ポイント。
そして俺が迂闊にもアパートの部屋を見られてしまって、欲しいとごねられたので女性部屋を作る事を約束させられていたので、1000ポイント使って新しくマンションの一室を増やす、そして更に500ポイント使って部屋を一つ増やして二人で使える様にする。
まぁ、この部屋を作って置く事で、ダンジョン内で死んでも此処からやり直しが出来るので、早めに準備出来て良かった事は良かった。
ただ、部屋のグレードや広さが上がって行くごとにドンドン維持費は大量になって行くので、そこは注意が必要と言えよう。
なにせ、維持費が払えなくなったら死んじゃうからな。
次にアイテムのアイコンをタップ。
此処には、先程倒した少年少女の持ち物リストが表示される。
今回は剣と弓と杖、それから少しのお金とカード。
カードを出してみると、それはギルドカードであることが分かった。
「へぇ、やっぱ冒険者ってあるんだ、テンション上がるな」
そこに書かれていたのは、名前とランクである。
流石ゲームの中の世界と言えばいいのか、文字は日本語だし、ランクはローマ字だし、冒険者って書いてあるし分かり易い事この上なかった。
「まぁ俺が自分から冒険者になる日は来ないだろうけどなぁ」
そんな現実を少し寂しく思っていると、アパートを作った事を伝えて直ぐに消えた二人が帰って来た。
「あれは凄いわね、今後もアタシにいい暮らしをさせなさい!」
フンスと鼻を膨らませながら詰め寄って来る吸血鬼。
「快適だな、だがポイントを此方に回すのも忘れてくれるなよロルフ」
「分かってるよ」
俺は冒険者カードをダンジョンコアに押し当てる。
するとそれが消えてポイントになる。
これがこの世界のシステムだ。
冒険者のランクによって得られるポイント数は違うが、ギルドカードをポイントに変えることが出来る。
少年少女は残念ながら新米だったらしく、一人100ポイントで余り稼げなかったが、取り敢えず300ポイント分のゴブリンを出して放っておいた。
「あ」
「どうした」
「何よ、そんな間抜けな声を出して」
「生け捕りにして地理聞くの忘れてた」
「そう言えば、そんな事を言っていたな」
「別に次でいいでしょ、どうでもいいじゃない」
「どうでもは良くないだろ、強い奴が沢山攻めてきたらどうすんだよ」
「こんな初心者ダンジョンに早々強い奴は攻めてこないと思うわ」
「……まぁ、そうなんだろうけどさ、そ、そうだ取り敢えず魔法の練習でもしようかなぁ」
そうだ、こういうときは気分を一新。
少年少女はダンジョンが吸収したので既に無く、ただいつもの洞窟があるばかりだった。
そこに向けて腕を突き出す。
そして魔力と言う物を放出する。
それは案外すんなりできた。
多分それは、俺のイメージ力とかでは無く、元の体の持ち主が普通にこなしていたからに他ならないだろう。
グラネに尋ねてみると、特に魔法だからと決まった形も無く、詠唱も必要は必要だが、それはイメージ付けや、とっさに出せるようにするためだと言う。
だが、人間達は詠唱しないと使えないと思っているふしがあると言う事で、バカにしていた。
まぁ多分詠唱をしないで使えるなんてことはきっと上位の人間には分かってしまう事だろう。
俺達が戦って行かないといけないのは、後々その上位になるのだから、変に気を緩めるのは良くない。
「まぁ油断はしないでおいた方がいいだろう」
だから一応は忠告しておく。
「取り敢えず、眠くなったから寝るわ俺」
なんだかさっきから欠伸の回数が増えているので、俺はアパートに引っ込んだ。
そして机の上に鍵のような物が二つ置いてあった。
そこにはカエとグラネと彫られており、これでリスポーンさせることが出来るらしい。
俺はその鍵をギュッと握ると、それは俺の中に染み込むように消えて行った。