第六話 下準備と親の血
「そうして水晶は強い光を発し、私はその光に意識を刈り取られた、これが私の事情だ、特に魔神に用立ての為に災厄を振りまこうとは思わないが、今の世の中如何では私は再度力を振るうだろう」
それはあまりにも歪んだ正義感と言うか、一かゼロかと言う見方だと思う。
だが、そうせざるを得ないほどに酷い時代だった、と言う事なのだろう。
「なぁ、本当に皆殺しなんて出来ると思ったのか?」
「思っていたな、それは私の傲慢であると自覚している、しかし、既にあの世界に救いなど死しか無い、例え生きたとしても戦争に駆られ死あるのみ、生き残ったとしても直ぐに次の国との戦争が始まる、奴らは私達をただの使い捨ての駒としか見ていなかった、その復讐と、そして戦争を終わらせるために、私は私のやり方で力を振るったまで、業は背負っても迷いや後悔、反省は無い」
まぁその時代を見て来たわけじゃ無いから、俺は何とも言えない……いやいう資格すら無い。
だが既に終わった事だ、考えるのはこれからの事でいい。
だから、俺も俺の事情を話そうと、そう言う気分になった。
「俺の事情も話して良いか」
「勿論だ」
「まぁ、そっちに比べるとたいしたことは無いかもしれないけどな」
俺はため息を一つ吐き出しながら、自らを語ったカエに返す様に、ゆっくりと口を開く。
「俺は異世界の人間だ、魂だけな」
「ほぉ、ではその体の本来の持ち主はどうなった?」
「持ち主は元々死んでいたらしい」
そうして持ち主の経歴を話す。
「成程な、確かにそれは人を血祭りに上げるのも分かるな」
「まぁな……それで、此処からは俺の事情だな」
「それは異世界から来た魂の、だな?」
「そうだ……俺の住む世界はな、紛争やテロはあっても、戦争は既に終わっていたんだ、そして所謂戦争など無いある程度平和な世界だった」
「まるで夢物語だな」
「まぁそのせいで武力では無い諍いが起きているが、それによって死ぬ人数と武力での戦争による争いだと、やっぱり武力の方が多いだろうな」
「まぁ人は争わずに居られないと言うのは、私も身をもって知っている」
「そんな世界で産まれたわけだが、俺の両親が四歳の頃に死んで歯車が狂い始めたんだ」
「ほぅ、お前もかたき討ちか?」
俺は苦笑いをしながら、いいやと首を振る。
「俺の両親に敵はいない」
「それはどういう事だ?」
「両親は両親に殺された……つまり、父と母は差し違えたって事な」
「……なんとも」
「問題は父の不倫だったらしい、後から聞いた話だけどな、因みに不倫相手も母に殺されたって、そんで不倫相手を殺したその日、母は父の腹を包丁で刺した、だが父はその刺された包丁を引き抜いて母の喉を刺した、そうしてそれを引き抜いて二人して倒れた……今でもその光景は目に焼き付いているよ」
「お前は疑われなかったのか? 良いように記憶が変わっている人物と言うのを、私はみたことがあるが」
「あぁ……それならまぁ四歳児の力と、最初に刺されて引き抜かれて散った血と、刺された場所、母は喉だからな、椅子からは少し離れた場所だったから、俺だと身長も足りないって事で、確かに両親は両親を殺したって事になったらしい、その後俺は祖父母に引き取られた」
「それが、お前がこっちに来た理由か?」
「まだ話は終わりじゃないんだ、まぁそれも間接的な理由だけど……二人が死んだとき二人分の血だまりが出来てな……俺は良く分からいままそこに近づいて行ったんだ……生温かな血、独特の匂い、俺はそこに座り込んだんだ、俺にとってはそれが親って言う一番強い記憶になった……そのせいだろうけど、血を見ると安心するんだ、親の温かな愛情を俺は血に感じるようになったと気が付いた……そう理解した後、俺はたまに無性に血が見たくなった、そして血を見ると安心すると共に思考がクリアになって行く……、最初に言っておくが血を見て興奮する事は無かった、そうしていつしか自分の血じゃあ我慢が聞かなくなるような気がしてな、自殺でもするかと思っていたんだが」
「それで此方に来たのか」
「まぁ俺も死にたくはないからな」
「ある意味狂っているな」
「ある意味じゃなくて普通に狂ってるとは思うけどな……まぁアッチよりは生きやすいと思ってな」
「なんにせよ、そのダンジョンと言うのが人の敵と言うのであれば、お前はその心配をしなくてもいいようになるだろう……それと動物の血でもいいのか?」
「まぁ大丈夫だと思うけどな、俺の世界じゃ動物を守る法律があって、動物を傷つけるのもダメな訳、その為には色々と資格を取ったりとかして限定的な動物だけとかな、後は魚とかだが……流石に魚の血は生暖かさが足りなくてなぁ」
「それならば生きにくいのも納得だな」
「そーだろー、いやー俺こっちに来て良かった、しかもこんなに早く理解者を得られるとは思って無かったわ」
「その趣を認めた訳では無い、しかし理解はした」
「それで十分」
十分だ。
こんな話を聞いて、理解したと言ってくれる人間なんて、正直こっちでもいないと思ったしな。