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えーえふぶらっど  作者: いちろくに
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第五話 下準備と災厄の魔女3



 元々、彼女カエが産まれたころには、既に全世界的な戦争が行われていた。

 死因は戦争によるものが九割を超える。

 死病を患った者は、戦争で使い捨てにされるほどに、戦死者は多かった。

 贅沢など、それこそ国の重役や王でなければ……いや王でさえも出来なかった。

 その王も、戦争に負ければ、兵と同じ道を辿って行く。

 そんな中で、ある国に特殊なスキルを持つ者が現れた。

 それは、悪魔を召還する事の出来る人物だ。

 しかし、使えるのは三度まで、三度目は自らが喰われると言う危険なスキルだった。

 それを見つけた王は、その者を味方に引き入れ、適当な敵の村から男女の少年少女を一人ずつ実験に攫った。

 それがのちの災厄の魔女である。


 少年の方は、目に光を宿していなかった。 

 それもそうだろう、何故ならば攫って来たその村に生き残っている者は自分を除いていない。

 少女もまた同じ境遇だった。 

 

 少女の方はただただ憎々しげに辺りを見渡していた。


 そんな中で行われた実験、少年の方は無事に悪魔を宿した。

 しかし、その悪魔は自らを呼び出した者を喰らい暴れた。

 結局は呼び寄せた国は何とか敵国へとその悪魔を誑かし、その敵国と悪魔は共倒れになり、損害は受けたが戦争に勝った王は喜んでいた。

 

 少女の方は、悪魔の暴走に巻き込まれ、人の少ない裏庭に吹き飛ばされ、生死の境をさまよった。





「……おきろ」

「……ッ」


 目を覚ました少女が見たのは、ただただ暗い空間。


「目を覚ましたか」


 後ろから聞こえた声に振り返るも、そこには誰もおらず首を傾げる。


「探しても見る事は出来ぬ……覚えているか? お前は、その身に悪魔を宿され倒れたのだ」

「……」

「だがな、その悪魔とのパスを使ってお前に干渉した、安心するといいその悪魔は既にこの世にはいない」

「……どうして」

「それは、どうして悪魔を祓ったのかと言う事か? どうして親が殺されたと言う事か? どうして親しきものが皆殺しにされたかと言う事か? それともどうして戦争が起きているのかと言う事か?」

「全部」

「簡単だ、皆好きなように我を通しているからだ」

「あなたも?」

「そうだ、ワシはお前に力をやろう……勿論未来に取り返しに来たりなどはしない、魂と繋がるほどに強い力だ」

「どうして」

「お前の魂がとても黒く綺麗だからだ、欲による黒では無く、単なる憎しみや怨みによる黒は美しい」

「わたしに、どうしろって、いうの」

「どうもせん、既にお前の世界は災厄と崩壊にまみれている、それがワシには心地よい」

「それは、あなたがひきおこしたから?」

「否、さすがに他世界にそこまでの干渉能力は持たぬ、お前の世界がワシを呼び寄せたのだ、この災厄と破壊を司る魔神をな」

「……」

「そして、お前が災厄と破壊をもたらせば、その分ワシの力も増す、お前はワシの巫女としてその力を振るうのだ」


 こうして少女は、勝利の美酒に酔いしれていた国を滅した。

 それを聞きつけた者が少女を雇った。

 そうして幾多の戦を渡り歩くうちに、少女は思った。

 もうこの世界はダメだ、と。

 街さえ痩せ、村など見るも無残な状況である。

 こうして少女は全ての人間を等しく殺そうとした、生き残れば辛いことになる、自分や連れてこられた少年のように。

 そしてつけられた渾名が『災厄の魔女』。

 彼女の過ぎた後には災厄がもたらされる。


 しかし、ある時女神の信託が全世界の人物に下った。

 通常であれば、神が世界に介入する事は出来ない。

 しかし、この世界はあまりにも崩壊し、酷いありさま故に見ている事が出来なかった。

 今こそ人々は手を取らなければならない、そして今最も忌むべき存在、災厄の魔女を倒さなければならない。

 女神の力を心正しい勇者に分け与える、彼らならきっとこの世界を救える。

 そんな内容だった。


 つまるとこ、少女を全ての現況にして、皆で愉しく殺しましょうと言う事だ、冗談じゃないと少女は思った。

 そして気が付いた、この世界を管理する女神と言う事は、この世界そのものが自らの敵になったのだと。

 今までは勝手な恨みと覚悟だった、しかしこちらも明確な敵が出来たために、それは確実な物となった。


 それから勇者がいるとおぼしき場所を襲った。

 襲って、襲って、襲いまくった。


 流石に女神も此処まで手を焼くとは思っていなかったのか、更に人間に力を貸す様になった。

 例えば、街に女神の結界を張るとか。

 しかし少女も眷属と言えど神の力だ、頑張れば壊れた。

 この事態を重く見たのか、女神はいやらしい力を人間に与えた。

 攻撃しなければ絶対に防げる盾、ただし少女に対してのみ。

 つまり、相手が攻撃する意思が無ければ、此方がどれだけ力を振るおうが相手は傷つかない。


 この力を持った大勢の人間により少女は包囲された、段々と包囲を縮められる中、その包囲網の中にあった洞窟へと逃れた。


 少しして入って来た六人の人物。

 彼らは勇者だった。


「追いつめたぞ災厄の魔女!」

「ハッ! 追いつめたと言っても、私を攻撃すれば即ち私からの攻撃も受けると言う事になるが?」

「それでも俺達はお前を倒す!」


 話している先頭を張っている男。

 

「勝手な話だな、今の今まで、こんな状態になるまで放置しておきながら、今更力を貸すなどと」


 相手をぐるりと見れば、微妙な顔をしたのが四人、断固とした決意を見せたのが二人。

 どうやら本当に心根の優しい物を選んだのだと少女は笑いたくなった。

 いくらこの世界が腐っていようと、今迄の行動を行ったのは自らの意志だと、少女はごまかす気は無かった。

 自らの犯した業を忘れない、だから元凶とされるのにも納得はいっていた……感情は別としてだが。


「本当に女神が人を救うと思うのか? この状態を見ても?」

「……それでも、俺達はお前を討たなければならない、人類の未来の為に」


 男は決意のこもった目を少女に向けた。


 戦いの火ぶたを切ったのは一番後ろにいた女。

 少女に向かって弓を放つ、しかしそれは届くことなく消えた。

 そしてその矢は放った本人の喉に刺さった。


「ヒュッ」

「全員戦闘開始!」


 正直戦闘と呼べるものでは無かった、少女が一方的にいたぶっている気分だ。

 しかし、相手は女神に何かしらの力を与えられているのか、堅く回復が早い。

 それでも急所を打ち抜いたら死ぬようだが。


「あれを使え」

「しかし!」

「……ッ!」


 勇者の美しき相談を待つのもまた美学、だがしかし少女にその美学は通らなかった。

 どうやら、最初に話していた男を無理やり後ろに下がらせて、他の人物が囮と壁を行うようだ。

 男は泣きながら、懐から白い占いの時に使う水晶玉のような物を取り出した。


「よそ見なんかさせねぇぜ!」


 勇者たちは手に持つ剣で応戦しながら魔術を放つ。

 少女が相手を思いっきり蹴り抜くと、横っ腹が抉れていた。

 そこを猛攻しようとして、ヒョロい男がその男を庇って少女の刃のサビとなった。

 どうやらこの中で庇われたこの男が一番長時間戦えるようだ。

 

「……ま、間に合った」


 丁度後ろに下がった男を除き、最後の人物を少女が屠った所だった。

 未だ泣きながらそうこぼした男は、水晶を少女に向けた。

 すると両手が貼り付けにされたように横に伸ばされる、足もピンと伸ばされ宙に浮く。

 そのまま壁の端に吸い付くように張り付けられる。


「俺達には、お前は殺せなかった、だが女神様から賜ったこの宝玉で、お前に永遠の封印を施す」


 既にこの状態から抜けるように行動を起こしていたが、何も起きなかった、つまり少女はこのまま封印されるしかないと言う事だ。

 だが、最後に残った男に一矢報いることなく封じられるなどまっぴらだ。

 せめてあいつを呪いたい、おおきな呪いは無理だろう、だからささやかな嫌がらせ程度の呪いを。


「……呪う」

「……! まだ口が利けるのか」

「お前を呪う! 末代まで呪おう!」


 その瞬間、相手の体に黒い靄が吸い込まれていくのが分かった。

 本当に小さな呪いになってしまった、少しずつ魔力が体から抜け出ると言う、嫌がらせのような呪い。


「クッ! 封印!」


 最後に準備が整ったのか、水晶を少女に翳した。

 





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