第1話~クインと私~
私は、クインとともに生まれた。
彼は、とても食いしん坊だ。いつも何かを食べている。
彼は、とても優しい。食べ物をとりそこなった私に食べ物を与えてくれる。
彼は、怒らせると怖い。この前なんて食べ物を横取りしてしまって逆に食べられかけた。ただし、優しいのですぐに許してくれる。
彼は、薄情だ。なぜなら先に死んでしまったから。
その出来事が起こったのは私が生まれて18年後のことだった。いつものようにクインとなかよく食べていると、そこに大きな石が落ちてきた。
大きな音が鳴り、そうして静寂が訪れる。私が次に目を覚ましたのは、とても寒いと体が感じた時だった。
クインは、私のそばで、死んでいた。
周りを見ると、敵の亡骸が倒れている。そうして私は気づく。クインは私を守っていてくれたのだ、と。
眼球から涙があふれる。その涙もすぐに凍ってしまうので、悲しみが痛みに変わる。
そしてまた、痛みが悲しみに変わる。
まだ、その時には言語というものがなかったので、クインには何一つ感謝を述べることができなかったけど、3000年ほど後であったなら、私は彼に、こう伝えただろう。
「ありがとうクイン。今まで一緒にいてくれて。そしてさようなら。生涯で最高の友よ」
いくらか使い古された言葉だが、文字通り古い時代―氷河期なのでそれほど古くはないと思う私だった。