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12:ツミとアカ

 さくり、さくり、鍬を撃つ。

 土を耕し、新たな命が根を下ろす苗床を作る。

 土を耕すとにおいがする。鉄のようなにおい。

 土を耕す、それは大地の衣を一つ剥ぐ事。うわべの乾いた土の下には、黒々と光る生々しい水分を持った土。


 まるで内臓のよう。


 立ち上るにおいは、血。


 僕らは土をえぐり、大地のはらわたをむき出しにし、その中に種を植える。種は、植物は、まさしく血と肉を吸い摂り育つ寄生虫だ。そして、僕らはその寄生虫を食べて、またはその寄生虫を食べた生き物を食べて、生きている。

 なんだか気持ち悪くないだろうか。

 生きることは醜い。生きることは醜い。

 今の人々は、そんなことは考えてもいないのだろうな。

 うがたれた大地に、平気で家を建て、ゴミを埋める者達は。

 それにしても――


 気分が悪いな。






 「ツミ、いつまで同じところを耕しているの?」


 夢想からさめると、目の前に一人の少女が立っていた。アカ、だ。それが彼女の名前。ちなみに、ツミ、というのは僕の名前だが。

 いつもの変わらない彼女のツヤのない赫い髪。珊瑚色の瞳が探るように、検めるように、僕の目を覗き込んでいる。

 「アカ、ずっとみてたの?」

 「いいえ。あんたのことなんて、かまっちゃいないわよ」

 居丈高な態度。けど僕は気にしない。それが彼女というものだ。僕は彼女のそんなところが好きだ。それに、彼女の高慢な態度に疲れても、家に帰れば優しいササヤキさんや、元気なキズオトがいる。

 「何、考えているの?」僕の浮ついた気分を見抜いたように彼女が問う。人と目を合わせながらものを考えるのは良くないな。くわばらくわばら、羅刹の目。目線をそらして、ついでに話題を反らしてみよう。

 「土のことについて考えてたんだ」

 「なにそれ。一丁前に農夫気取り?」

 言葉の端々がいちいち厳しい。ちょっと苦笑。

 「うぅん、それよりは哲学的に。植物って土の栄養を吸い取って育つでしょ? それが寄生虫みたいだなぁ、て思って。で、それを食べている僕らって――」「――馬鹿馬鹿しい」

 一蹴された。鼻先であしらわれた。

 「そんな事考えている間に仕事を進めなさいよね。……もう少しでお昼ご飯にするってササヤキが言ってたわよ」

 照れたような表情、彼女の瞳の奥に炎を見た。


 彼女が歩み去った方向、その彼方の山の斜面の一角はその周囲にくらべて緑の萌芽が遅い。その理由は冬の間にあの辺が焼かれたからだ。外敵に出会った炎術士であるアカが、手加減できずに森ごと敵を焼いてしまった。

 しかし、遅いとはいえ少しずつ森は再生している。夏の盛りまでには去年と同じ、瑕一つ無い緑玉エメラルドの様な美しい山並みとなるだろう。

 癒して、慈しんで、意味のないものに。

 積み直したつみき。きえていく瑕()、わすれられていくのだろうか?

 世界は決して揺るがない土台を持っている。それが凄いと思う。

 大地、土。寄生虫みたいな僕らが蝕んでも、簡単には死に絶えてしまわない。

 でも、一つだけ僕らが忘れてはいけないことがある。


 僕らが世界に許されて生きていると言うこと

 現実問題として蝕まれ続けた地球は再生不可能な状態にあるんじゃないかと思います。流石に地球というつみきは崩されすぎたんじゃないかなぁ、と思います。しかし、今回は重い話は抜きにしたかったのでその事は触れずにおきました。

 ところで、私は一時期詩人を目指していたこともあったのです。今回の話は一年前ぐらいに書いた詩のテーマでした。

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