9:七那瀬・神恵と立浪・架夜
――この体育館にいくつのライトがあるんだろう?
退屈な全校朝会。私は天上を見上げ、骨組みの張り巡らされた空にぶら下がる電気の星を数えた。
――十二個。
十二個のライトが、それぞれ勝手に影を作っている。
斜め右前の彼の、左隣の彼女の。
あれ? 私ってこのライトの配置の中心にいる?
十二の方向から影が集まっている。
影の真ん中。重なる影。げっそりと暗く、くろぐろとした穴。
なんだかいまの私の気分そっくり――。
「神恵ちゃん、どうしたの? 全校朝会は終わったよ」
心配げな女の子の声。ハッと我に返ると周りにはもう誰もいない。
「具合悪いの? ちょっと顔色が悪いよ、保健室行く?」
「ううん、何でもないよ――架夜」
私を気遣ってくれる水色と空色の虹彩異色の双眸。
にこりと笑いかえして立ち上がった。
「今日はなんだか眠くって。ていうか、今日の話すっごく退屈じゃなかった? もう、世界がぐるぐるし始めて」
「うーん、でも朝会がつまらないのはいつものことでしょ? それに神恵ちゃん、普段は寝こけてても周りが動き始めたら自然に目が覚めるじゃない」
私より三歳年上の架夜は本当に心配しているみたいだ。
「本当に大丈夫。――さ、行こ? 授業はじまっちゃうよ」
疑わしげな、勘繰るまなざしの架夜はなかなか動こうとしないかった。でも、私が努めてニコニコしているとようやく足を動かした。
「あー、そういえば盾先生来なかったよね。いつもはあなたと一緒にいるくせに」
「盾はね、この間私とデートしたせいで仕事が溜まりまくっているの。だから朝会にも来てないよ。――それに、盾が私と一緒にいるんじゃなくって、私が盾と一緒にいるんだよ」
「あぁ、そうですか。御馳走様でございます」
今はこうして砕けた口調の架夜は、友達じゃない人に対しては同い年であろうと年下であろうと丁寧語を貫くという、チョイ悪(?)な女の子だ。
「む、何にやにやしているのよ。感じ良くないですわ」
「ふふ、気にしない気にしない」
そして体育館の入り口。敷居を踏む時に、何かが私の心を引っ張った。
振り返る背後。硬質の床の上には何もない。
「どうしたの?」
「ううん、別に。ただ、何も無いなって思って」
「落とし物?」
「えっと……、私の物じゃないやつなら」
わけがわからないという架夜の表情。吹き出しそうになるのを抑えて私は廊下に歩み出た。
「十二段に積まれた影のつみきが落ちてたの」
全校朝会って懐かしい響だぁ、とか考えながら書いていました。
最近、書くのが遅くなっているのは何故でしょう。