14:紅葉・千重と天柄・刀夜
青い青い月。
冴えわたり、苛み、囁き、裂く。
黒曜石の夜空を刃のような青い月光が、裂く。
裂いて、咲く。久遠の花、嘆きの声、怨恨。
月だけが円に微笑み、夜空の下のすべての者達は戦慄した。あまりに青すぎる月に、身も、心も切り裂かれ、ひた隠しにしていた忌むべき闇を曝け出されて。
青い、痛み。導かれた、たたずむ二人。
魔王と魔剣士。
正体は、十六の少女と二十一の青年。名は紅葉・千重と天柄・刀夜。
青い満月が昇り、それを知り畏怖した者達がそれぞれのねぐらに隠れきった頃、二人は何処ともなく現れた。
南東にあった月が一番高く昇るまで、彼らはただ黙したまま離れて立っていた。
ついに、刀夜が問う。何か破壊して良いものはないだろうかと。
彼がそのまま独白する。いままでこの青い月光の下で過去の回想をしていたこと。幼い頃に住処を焼かれ、穏やかだった人生を蹂躙された頃の記憶を思い出していた。
刀夜は千重に身体を向けて話しかけていた。話しかけながら、少しずつその方へ歩み寄っていった。
彼女はそれを見ていなかった。彼女は青い満月だけを仰ぎ見て、一瞬たりとも目を反らさなかった。瞬きも少なく。
千重は刀夜に気付いていないのだろうか?
否、近寄り続ける刀夜が残り十歩という範囲に入ったところで、千重は唐突に答えた。
彼女は彼に禁じた、些末な痛みだけで、己が壊れていると口にする事を。
―― 一陣の風!
魔王の白い髪がなびく。
青い月明かりに同色に染められていた白い髪であったが、風に瞬きした刀夜が一瞬の暗闇の後に見たのは真紅に輝く長い髪。
サァと彼女の動きと共に髪がマントのように翻る。刀夜より背の低い彼女だったが、彼は見下ろされるような威圧を感じた。
土台を崩されたつみきは歪み続ける。しかし、欠けたままでも、歪んだままでも、壊れてしまう必要はない。誰かを、何かを壊す必要もない。
在るように在れば、十分だ。
青い月光退けし、猩々緋の魔王。浮つき揺らめく心にそれ以上の興味を示すことなく家へと帰った。
しりとりもやってみました。それと会話を台詞として表現しないとか試してみました。