2:天柄・盾とジルコニア
数字が若くなったことを気にしないで下さい。各物語は独立していますので。
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――盾お兄ちゃん、雲のつみきって知ってる?
朝が来て間のない、クリームブルーの空の下。森の香りをやわらかく薫らせる丸太の長椅子。朝霧にしっとりとした緑のカーペット、その下地は土色。
涼しい風の中に二人の少年と少女。
少女のくるりと円らな色素の薄い目が少年を見上げている。
――白くて、ふわふわしていて、息で吹くと飛んでいくんだよ。
十歳と少しの少女から八つ年の離れた少年、大人と子どもの境にある少年の名前は天柄・盾という。
先程からしきりと話しかけ、しかし返答の得られていない少女の名はジルコニア。字で、本名は何人として知らない。
ジルコニアの熱のこもった視線から逃げ、盾は丸太に両手をついて身体を指示する姿勢で青空を見る。
――浮かぶ雲が積木になんのかよ。
長い時間をかけて、ようやく得られた返答にジルコニアは嘲笑うように顔を歪めた。
A――――
不意に響く440ヘルツの調律音が盾を彼女の方へ振り向かせた。
――なら、見せてあげるわ。世界を作る為の、無数にある内の、一つのつみきを。
少女の声はそのまま、口調だけが一変したジルコニアが輪琴――竪琴のフレームに弦ではなく一枚の円盤がはめられた楽器――を奏でた。
旋律は、旋回し空と風に舞う。白くも黒くもなり、染みいるように、浸食するように青空に響く。
しっかりとした形はない。しかしそこにあって、自然に消えることがない。
一つの音がいつまでも消えることなく、ひっそりと重なり続ける。
積まれ続ける。
ハーモニーのつみき。
諧調の上につみきはあり、諧調が解ければ風の中に落ちていった。
――知ってる? 空の風は一つじゃないこと。空の高さに従って、幾重にも積み重ねられて、蒼穹というハーモニーを奏で続けていること。
本当にルビが出来るんですね。ここのシステムは素晴らしいです。