六段目:会議
「これより拡大教員会議を始める」
白髪の理事長ファイルーデンスが面倒そうに告げる。
「議題は一つ。昨夜も現れたゴーレムのことだ。まずシンメイス、昨夜の戦闘の報告をしろ」
がたり、と音を立てて緋湖・シンメイスが立ち上がる。徹夜で報告書を書かされた彼女の目はいつにもまして座っていた。
「昨夜の21:30頃、第三校門から東に徒歩五分の地点で件のゴーレムによる襲撃がありました。襲撃された生徒は、中等部三年B組の十草・蘇芳。彼は生徒会〈対怪異部隊〉の一員ではありますが、彼がその場にいたのは任務とは関係のないことです。
「直後に私が介入しました。しばらくの後、生徒会長、日輪・葵が武装状態で参戦。結果的に三人でゴーレムとの戦闘に当たりましたが、敵性体の持っていた強い再生能力のため撃破することはできませんでした。
「ゴーレムの素材は様々な物でした。多くは廃鉄鉱でしたが、瞳は炎、背中は固まった血液など、ところどころに不可思議な混ぜ物がありました。戦闘を放棄した後も私はゴーレムの行動を観察していましたが、五時間ほど夜の街を徘徊した後、月が沈むと同じくして姿を消しました」
ファイルーデンスが緋湖に座るように勧める。長く話したせいか、彼女は力尽きたように椅子を軋ませて腰を下ろした。
質問を、と理事長が議事を進行させる。挙手をしたのは初等教師の藤磐・希夾だった。
「ゴーレムは月魔力をパワーソースとするアンチデットだったと言うことですか?」
眉を顰めて、目を閉じながら緋湖が答える。
「それはどうでしょう。私には、ゴーレムの創造者が月の出の間だけゴーレムが活動するように設定していたように思えます」
「創造者の姿は側になかったのですか?」
「ありません。もしあったのなら、真っ先にその身柄を確保しています」
「探さなかったのですか? 物があるのだから、作り手を探知するのは容易なことでしょう」
「彼女はあんたみたいな魔術馬鹿じゃないでしょ」
発言したのは初等教師チャロアイトだ。教師らしからぬ、なまめかしい容姿が特徴的だ。
「探知の魔術は簡単な術で、手段さえ知っていれば誰にでも……」
「あんたにとってはでしょ。だったら、あんたの生徒はみんな使えるのかい」
「生徒と教師は違う。第一彼女は最初から索敵の任についていたのだからそれくらいの準備……」
「武術と特殊体術に偏った彼女がそんなこと思いつくわけ無いでしょ」
「おい……」
ぱんぱんと誰かが手を叩いた。理事長だった。
「お前達、何か打開案とかはないのか」
会議室から音が消えた。
「じゃあ、とりあえず俺が決めたこと。〈召喚士〉失乃・巴臨時教員と、三瓶・瀬里、それとジルコニアに動いて貰うことにした。それでいいだろう?」
あくまでも熱意のこもらない彼の声。教員たちがそれぞれ適当に首を振ろうとする。
その時、学園が揺れた。
「地震――?」
「おい、何だあの空!」
窓から空を見た男性教師が叫んだ。
地震と同時に、学園の空が緑色になっていた。太陽はまるで瑪瑙のような重々しい輝きはなっている。
「敵が来たようですね」
水晶石に学園各所の映像を映し出した魔法使いである希夾が言った。
「お前たち、あんまり暴れるなよ。教師としての立場を守れ」
何処からか、金剛石の穂先を持つ短槍を取り出した理事長が言った。
「暴れるのはガキどもだけで良い。大人は、敵を倒すだけにしろ」
苦い顔、心得顔、教師たちの顔はそれぞれだ。だが、みな彼の言葉を守ろうと決意する。
この学園を守るのは、この学園にいる者達すべての力だ。学園にいる者達の思いが砦を積み上げる。様々な気性の者達がここにはいるが、守る、その思いだけはすべての者達の心に通じているのだ。
「行くぞ」
理事長の宣告と共に、学園は戦場となる。
二十三個目です。
あと三話でまとめようと思います。私は、どうもくだらないことをだらだらと思いつきそれを書いてしまいます。一段目を書いた時は、五段ぐらいで終わると思ったんですけど。
読んで下さる方、せっかくだから最後までお付き合い下さい。