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三段目:始動

 「事件は以上の通りです。

 しかし誉れ高き夢囃子学園の我々生徒達が決して取り乱すことのないよう、生徒会長として皆さんに一つのスローガンを掲げたいと思います。皆さん、これを心に刻んで、いざというときも醜態をさらすことのないようにして下さい。

 『一致団結。小さなサイコロでも積めば天に届く』

 では、皆さん御機嫌よう。先程言いました通り、今日からはしばらく部活の時間を短くし、寮でも自宅でもかえる時は集団行動を心掛けて下さい」

 夕刻の集会が解散される。どうやら壇上の生徒会長は大半の生徒から熱い支持を受けているらしく、なかなか皆帰ろうとしない。だが、名残惜しそうな生徒達も生徒会員によって促され帰路についていった。

 それを見届けた後、生徒会長日輪・葵は舞台袖から控え室に入る。控え室内ではこれまた熱い視線を送ってくる彼女の部下達が待っていたが、これに短く暇を告げ裏口から外へと出た。


 物憂げな表情の葵。誰そ彼の光に彼女の薄い色の髪が銅色に染め上げられる。夜を予告する冷えた風にふわりと金細工のようにひらめく。

 ふいに気配を感じて彼女は体育館の屋上を見上げた。

 五メートル以上の高見にあるのは葵と同じ制服を身につけた少女の影。顔を見ようと目を凝らす葵の視界の中で、その影の少女は――


 飛び降りた。


 「ねぇ、葵。じゃなくて……日輪生徒会長先輩。あの――」

 「彼野ひのさん、他人の名前に称号を付ける時は一つで良いのですよ。それと、誰かの前にいきなり高いところから飛び降りるのはどうかと思いますわ」

 彼野、と呼ばれた少女、下の名前は愁奈あきなという。愁奈は断固とした葵の口調に早くも閉口しているようだった。しかし、一呼吸したのち自らを励まして話を続けた。

 「それでね」「『それでね』?」

 「それでですね、日輪先輩。……えーと、あのスローガンどうにかならなかったの、――じゃなくて、ならなかったんですか?」

 「千重様は良いと言ってくれましたわ。何か問題でも?」

 胸を張って答える葵に、あのねぇ、とあきれ顔の愁奈。

 「きっと、千重ちゃんはちゃんと聞いてなかったんだね」

 「何故その様なことを言うのです」

 これには言葉を失う愁奈。苦笑したまま彼女は固まってしまった。

 「それで、わざわざそんなことを言いに来たのですか? 他にも用向きがあるのではありませんか?」

 「あ、そうそう。緋湖さんが例のゴーレムの排除に出られたようですけど、私達も出動するべきじゃないんですか?」

 「彼野さん?」

 嫌な空気を感じる愁奈。

 「先生を呼ぶ時は、苗字に『先生』と付けるのが常識ですよ」

 もはや生返事混じりに、はぁい。

 が、葵が未だに苦い顔でいるのを見て背筋を伸ばす。

 「……『対怪異部隊』の出動ですか。あなたと、粗雑で知られるコランド・クーフナー、盗撮魔 十草・蘇芳に忘れ屋の立浪・架夜。問題児を寄せ集めたあの部隊をですか」

 「夏梅ちゃんもいますけど……」

 「彼女は学校にすら来てないでしょう」

 沈黙。愁奈は針のむしろに座っている気分だった。

 だが、冷や汗を流す愁奈の眼前で、ふ、と生徒会長は嬉しそうに笑った。

 「良いのではありませんか。とりあえず準備だけしなさい。今夜は私が出ますから」

 「あ、でも理事長の許可は――」

 「すでに取ってあります」

 微笑む葵の前に、してやられたのかな、と胸中で考える愁奈。でも、と彼女は一つの疑問に思い至った。

 「どうして、さっき日輪先輩は元気なかったのですか?」

 葵の顔から笑みが消える。表情をなくした彼女は、太陽の隠れた地平線にそのおもてを向ける。

 「今回の相手のことを思っていたのです。私が得た情報の通りなら、ターゲットは一筋縄ではいかないでしょう。……その事を私は憂いていたのです」

 残光の中、彼女の告白は影のように薄く、しかしはっきりと世界に落とされた。

二十一個目です。

今回の登場人物、ひのわ・あおい、と、ひの・あきな、て音が似てますね。

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