死の宣告
「やっと着いたか」
俺が眼を開けるとそこは現実ではなくFWのなかだった。
「そういや、チュートリアルで金貰ったっけ」
俺は右手を振って(メニューを出させるアクション)自分の所持金を確認した。
「3000J(単価 ジャック と発音するらしい)か……。装備とか全部揃えられるかな……」
まずは店に行かないと相場も分からないので、とりあえず俺は武器屋を目指した。
武器屋についたので装備を選んでいると、特売らしき目玉商品の二つを見てかなり悩んだ。
「う~ん、大剣が1600Jのやつとと片手直剣&スキルスロット+1アクセサリで1600Jのやつ……どっちがお得なんだ?」
家庭的スキルゼロの俺は武器屋のショーケースの前でどっちがお得なのか分からず、かれこれ30分は悩み苦しんでいた。
「なんとなく大剣は重そうだから片手直剣のセットを買うか」
なんとなくのチョイスで武器を購入して、残金が1400Jになった俺は防具屋で皮鎧、食料と回復アイテムをいくつか買って、一文無しになって虚しく思いつつ歩いているといつのまにか広場に出ていた。
「まさか一文無しになるまで買い込むとは、はしゃぎ過ぎたかな?」
苦笑しながら側のベンチに腰をかける。全身の筋肉の硬直が溶けていく感覚が俺の体に駆け巡る。
そして、その直後に景色全体が紅く染め上がった。それとほぼ同時に中年のオッサンらしき声の音声メッセージが頭上のスピーカーから発せられた。
「1万人もの全ユーザーの諸君、これから言うことは決してジョークではないので真剣に聞いておいてほしい」
いきなりの異常事態に多くのユーザーがざわめきだした。
「単刀直入に言うと君たちは、ゲームクリアつまり全150区あるこのゲームで最終区の最終ボスを倒すまでこのゲームからログアウトすることはできない。それとこのゲームでゲームオーバーとなった場合、現実の君たちの肉体も死亡します。以上の事を理解した上でこのゲームを楽しんで下さい。そんじゃまた」
景色が先ほどのように明るくなる一方でユーザー達の精神状況は壊れていった。
泣き叫ぶ者や気絶する者、自暴自棄になる者も現れた。そこに一人の立派な筋肉を持ち合わせている男性ユーザーが立ち上がり演説をし始めた。
「みんな、まだ希望はある。ラスボスを倒せば助かるんだ。だからまだ諦めるには早すぎるんじゃないか?」
俺は内心で(綺麗事並べやがって……)と思った。だがそれに伴って、(彼について行きたい……)とも思った。そして、また演説が始まる
「俺は元β版のテスターだ。ダンジョンの隠し通路もいくつか知ってる。俺はこれからゲームクリアをするためにこの街を出発する。ついて来る者はいないか?」
その演説に心を惹かれてか、俺を除く30人程のユーザーが賛同して街を出ていく。
俺はどうしようかと迷ったが、このゲームに慣れてからでも遅くはないだろうと思い、この街に残った……。
そして、この物語は始まった……。