君だけは天使のようで。
「うん!またあした!」
「うん。気をつけてね」
手を振って別れた。十歳の夏。あの日から彼女に会うことは一度もなかった。きっと殺されたのだ。僕が鬼だから、僕が人間じゃないから。
明日もきっと、この気持ちは消えないのだろう。ずっとずっと苦しむのだろう。僕は鬼だから死ねない。死にたくても死ねないのだ。
「あれからもう十年か」
窓の外を見ながらひとりごとをこぼした。
もう年は取らない。死ぬことも、依然として許されない。それが、大昔に与えられた鬼への天命。僕たち鬼族が人間を食ったから女神に与えられた罰なのだ。
僕も母さんも父さんも兄さんも姉さんも、親戚だって、人間を食べなかったのに。たった一人、鬼である誰かが人を食べたから。関係のない僕たちですら、人々に恐れられ、人里に入れずこんな山奥に追いやられたのだ。
でも君だけは天使のようで、関わったら殺されてしまうはずなのに僕と遊んでくれた。
いつかきっと、君に会えるのなら、僕はもう死んでもいいさ。
そんなある日、雨の音が山中に響く日のこと。たった一人の女性が、外に荷物を取りに行っている僕に話しかけた。
「ずっと、あなたを探していました。大好きです。昔からずっと、覚えていますか?私のこと」
忘れるはずがないよ。天使のような、いや、天使である君のことを。
「僕も、君が大好きだ」




