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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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日常への復帰(ちょっとだけ)

え〜


一章最終話では御座いません

過去一長くなりすぎた(ダメ親父比)ので、分けました

m(_ _)m

陛下の訃報を報せる鐘が響いた夜。

俺達はそのまま、大神殿に泊まる事になった。


鐘の音が呼び水になり、ここ大神殿を含む王都各所の教会に人が詰め掛けたらしい。

全ての教会は解放され、それぞれの聖堂だけでなく、中に入れなかった人達も、庭があるなら庭で、無ければ中に入るのを順番待ちして、祈りを捧げたそうだ。

深夜までそれは続いたそうだが、これといった混乱はなかったらしい。

人混みを利用してスリをした奴が見つかって、袋叩きになったって話は幾つかあったらしいが。


俺達には使われていなかった、神官達用の部屋だという質素な部屋を案内された。

ベッドが二つと窓辺に簡素な机と椅子。

窓際には簡素なランプ。

その窓からはざわめきが、嘆きが、そっと染み込んでいた。


急遽用意したと言われたけど、シーツも毛布も洗いたてで清潔で、ちょっと失礼かもだが安心した。

部屋に案内してくれたのは、神官長のジャスミンさんその人だったのは驚いたけど。

普通の神官服に着替えていたのもあったけど、儀式の時と印象と一致しなくて直ぐに神官長とは気付けなかった。

てっきり王城に向かったと思っていたし。

それに儀式中の装束で隠れていた、波打つ様な少し癖のある黄金色の長髪が、雰囲気を全く違う物にしていた。

優しげな声と柔らかな話し方は、壇上で囁かれていなければやっぱり一致しなかっただろう。

というか、声を聞いてやっと気付けた。


「神官長様が自ら案内なんてそんな、恐れ多いですよ。」

そう言ったら、

「貴方達、私の弟弟子になるんでしょ?

シードちゃんが直接弟子を取るのは、本当に久し振りだから楽しみにしていたわよ。

私も新しい弟弟子が出来て嬉しいわ。」

と返って来た。

なんか微妙にかみ合ってない気がする。

あと、この人まで「ちゃん」ってなんなんだよ。

アレか?

爺様、もしかしてオギャりキャラなのか?


「今度、私も治癒魔法を教えてあげたいわね。

ジードちゃんみたいに蘇生魔法は使えないけれど、彼にも使えない欠損部位の複数同時復元が出来るのよ。

機会があったら見せてあげるわね。」

いや、そんな機会は来なくていいです。

てかそんな事態に遭遇したことがあるってのが凄い。

使えるってそういう事だろ。

チラリと見たアーネスの顔は青ざめていた。


その後は少し雑談を交わしてる間に、複数の神官さんが部屋にお湯と新しい肌着を用意してくれた。

この日は色々な意味で汗をかいた。

ひどく嬉しかった。


明けて翌朝。

身支度を整えていると、ディディが尋ねて来た。

なんでも、王都別邸に預けてあった荷物を持って来てくれたらしい。

とはいえ、彼女は手ぶらだ。


「こちらの前庭は既に混み合っております。

バーゼル伯様は事前に予測されておりまして、今日一日は身動きが取れないだろうと。

名目上は陛下の冥福を祈る為に、大聖堂に籠もっている事にするので、一日我慢して欲しいとの事です。」

業務連絡の様な、なんだか硬い口調でディディが告げた。


頷き返す間もなく、控え目にノックが鳴った。

俺が返事をすると入って来たのは、カレンさんとトゥーレだった。

肩に引っ掛ける様にして、俺達の背負子を持って来てくれたようだ。

「わざわざ、ありがとうございます。」

旅を共にした人達の顔を見るとなんだかホッとする。

お礼を言った俺に向かって、二人はゆるゆると首を振った。

「いいんです、これくらい。」

そう言ってくれたトゥーレの笑顔は、なんだか眩しく見えた。

あの時の彼女の叫び声が生々しく耳に残ってる。

俺の性質上、忘れる事はない。


「アーネストリー君、ちょっといいかな。」

カレンさんの呼び掛けに、アーネスは首を傾げた。

なんだろう。

「ここじゃなんだから、廊下でいいかな。」

一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたアーネスだったが、何やらハッとした後で頷いた。

「うん、わかった。

ジェス、ちょっと行ってくる。」

「おう。」

なんだ?

俺の顔も怪訝そうになっていたと思う。


その時。


フワリと背中にディディが寄り掛かった。

後ろから腕が回され、そっと抱きしめられる。

本の少し震えているディディの腕は、改めて見ると女性らしい細さだった。

それなりに筋肉が付いているから、折れそうなって事は無いけど、俺やアーネスから見ればずっと細い。

不意に胸が締め付けられて、でも荒っぽくならない様にそっと手を握る。


「ありがとう、ディディ。」

背中に伝わる彼女の体温と温かな吐息が、まるで体中に行き渡るようで不思議と安心出来た。

そっと彼女の腕を解いて向かい合う。

目を閉じたのを見てなんだかからかいたくなったから、鼻先にチョンとキスをした。

ビクっとしてから、目を開けて上目遣いで睨んでくる。

「ゴメンて。」

謝ってから改めて、短いキスを交わす。

今度もお気に召さなかったのか、軽く胸を叩かれた。


「今度、ゆっくり出来る時にね。」

そういった俺は、多分困り顔と笑顔が混ざってる。

返事はなかったけど、一拍置いて赤くなったその顔はだらしなくニヤケてた。

前にもあったな、こういうの。


二人で廊下に出ると、単に気を利かせてくれただけでなく、実際に何か話し込んでた。

三人揃ってニヤニヤしながら待ってそうとか思ってゴメンなさい。

「あっジェス、ディディ、もういいの?」

「何がだよ。」

「うん、いや、へへっ。」

照れるくらいなら弄らなければいいものを。


「で、そっちは何を話してたのさ。

何か、問題でも起きた?」

「ううん。

陛下の葬儀?

国葬って言うんだっけ?

それが慣例通り?なら、明々後日にあるんだって。」

随分、早いな。

間に合わない貴族も多いだろうに。

でも、腐っちゃうか。

魔術師が凍らせるか冷やすかしてるんだろうけど。


「それで、ここから陛下の御遺体が墓所に向かう時に、俺達も参列してお見送りして欲しいって、バーゼル伯から言われてるんだって。」

「ああ、うん、それはいいんじゃない。」

参列っていうならいいだろう。

列席とかいって貴族の列に混ぜられるってのは勘弁して欲しい。


「でね、今日はアレだけど、明日からどうするって話をしてたんだ。

バルが家に顔を出せって伝言してったらしいし、それ以外はバーゼル伯様の別邸に泊めてもらえるらしいよ。」

王城の迎賓館って話はなくなったけど、元々そうするって話だったな。


「それはいいけど、何か真剣な顔で話してたのはなんでよ?

元々そうなる予定だったろ。」

「いや、俺達さ。

パーティー組んだでしょ?」

「うん、そうな。」

「何時どこで合流して、どこに向かうのか、最初だけでも教えて欲しいんだって。

俺は一旦、帰りたいんだけどさ。」

なるほどね。

殿下にしても、バーゼル伯にしても、他の後押しをしてくれる貴族にしても、俺達を紐付きにしておきたいよなあ。

そうは言っても、陛下の国葬が終わらないと、ジード爺様は動けないだろう。

レミドさんも副団長代理って肩書きがある以上、似たようなものだろうし。


「別邸に集まらせてもらおう。

王城まで二区画だし、ここからだってそう遠くない。

明日はバルの家に顔を出して、バルにも相談してみようか。

国葬があるまでに俺達の装備も整えないとだしな。」

アーネスは笑顔を浮かべ頷いた。


「ジェス様、アーネス様。

魔禽の帰還珠が回収していない事を失念されてはおりませんか?」

ディディに言われて確かにと思う。

存在自体は当然覚えていたし、俺の会員証と一緒に首から下がっている。

使う機会が無くなったから気にしてなかった。


「おそらく伯爵様もドナート様も、わざと回収されてないのです。

どこに居られても連絡出来る様に。

ですので王城やバーゼル伯家との繋がりは一度お忘れ下さい。

ジード様、レミド様には別邸で合流を希望されている旨、こちらから伝わるよう手配させていただきます。」

それなら。


「明日は朝からバルの所に向かおう。

爺様やレミドさんからの連絡はここに来るように手配をお願いしたい。

今日の返事が難しいならバルドール商会でもいいや、バルに説明する手間が省けるしね。」

「ジードちゃんなら、今晩からこちらに来るわよ。

私と入れ替わりで。

彼も儀式を一通り執り行えるのですが、立場上は私が上位者になってますから。」

俺の言葉尻に被せる様に背後から声を掛けて来たのはジャスミンさんだった。

優しげな微笑みを浮かべているけど、何かこう威圧感がある。

なんとなく目を逸らすと、その先の女性二人からも変な圧を感じた。

アレか?

いや、触らないでおこう。


「おはようございます、ジャスミン様。」

アーネスが挨拶すると、ウフフと笑ってから、

「嫌だわ、そんな堅苦しい。

気安くジャシーって呼んで下さいな。

弟弟子になったんだし、あの人もそう呼んでくれるのよ。」

とか。

カレンさんとトゥーレからの圧が強くなる。

女のマウントってヤツか?

頼むから、そういうのは他所でお願いします。


「あの、ジード爺様が夜にこちらに来るって事はそのまま合流って事でいいんですか?」

アーネスの困り顔から出た問い掛けに、ジャスミンさんは笑顔で頷いた。

ヤケに、そして無駄にヒリついた空気の中、俺とアーネスは乾いた笑い声をあげるしか出来なかった。


三人が帰って行き、俺達は朝食を頂いた。

俺達はこれといってやる事もなく、手持ち無沙汰になってしまった。

さほど広くない部屋で型の練習をするわけにもいかず、魔力操作の練習に一日費やした。

夜になり、そろそろ寝ようかって頃にジード爺様が顔を出したけど、軽く挨拶を交わした程度で、話は明日バルの家に行ってからしようと直ぐに部屋から出ていった。


翌朝、ジード爺様が呼びに来て三人で朝食を取った。

爺様のヤケにツヤツヤした顔に少し苛ついた。

よせばいいのに、

「なんか調子よさそうだね、爺様。」

とかアーネスが言ったので、

「若い神官が話を聞きたがって離してくれなんだ、ホッホッホッ。」

とかどうでもイイ事を聞かされた。

無敵か、この爺様。

「そうなんだ。」

とか、キラキラしながら言ってるアーネスに腹が立つ。

気付けよ。


食後にすぐバルの実家であるバルドール商会に背負子を背負って向かった。

壊れた鎧とか防具の下取りや、加工もしてもらう必要があった。

一応、剣は吊るして行く。

ジード爺様は少しやる事があるとかで、夜にバーゼル伯別邸で合流を約束した。

真剣な顔をしてたから、流石に女性絡みではないと思いたい。

昨日の夕刻を前に国葬の触れが出されたらしく、一見すると王都の様子は落ち着いていた。

大聖堂の前庭も疎らに人がいたが、混み合うって程ではなかった。


教えられた場所に行ってみると、「大店」「大商会」ってのを絵に描いた様な、立派な、でも落ち着いた雰囲気の建物があった。

人の出入りも多く、入るのに躊躇する。

様々な種族の人達が切れ間無く行き交っていた。


「何を気後れしてんだ、お前ら。」

ヤケにデカい声でそう言われ、声の方を見ると建物脇の小路の入り口にニヤついた顔のバルがいた。

ラフな格好に腰から剣を一本吊るしてた。

「バル〜、今日はあの鎧じゃないんだね。」

アーネスがないはずの尻尾を振りながらバルに駆け寄る。


「あのな。

実家にいて鎧姿のわけがないだろ。」

家族に紹介されるかと思っていたけど、どうやら忙しいらしい。

大きな式典が続く関係で「書き入れ時」だとか。

「まずはお前らの装備を買いに行くか。」

それが掛け声になって、三人でワチャワチャと買い物に行く事になった。

なんだかようやく、本当に久し振りに「日常」に戻ってこられた気がした。


ちなみに約束していた食事の奢りは、バルのお勧めと言うだけあって味も量も大満足だった。

鳩って美味いんだな。

バルは途中で別れ、一旦実家に帰っていった。


気持ちも財布も大分軽くなって、夕方に大聖堂に戻った。

買った物は結構な量になったのと加工が必要な物もあった都合で、バーゼル伯別邸に送ってもらう事にした。

ちょうどジード爺様が出ようとしている所だったので、ちょっと待ってもらった。

アーネスと二人して、急いで部屋に残していた服が入ったカバンを取ると、三人でバーゼル伯の別邸に向かった。


日没の鐘が鳴り終わる頃に着いた別邸では、ここの執事であるライリーさんが出迎えてくれた。

なんでもバーゼル伯とドナート卿は王城に詰めていて不在らしい。

食事まで少し時間があると言われ、風呂を勧められた。

遅れて戻ったバルや爺様と四人で入ったけど、ちょっと後悔する事になった。


バルの筋肉は芸術的というか彫刻の様な凄みがあるけど、爺様のそれはまた違った方向で凄かった。

一切の無駄がない。

靭やかさそうな筋肉の上に薄く脂肪が乗っていて、自然と「機能美」って言葉が浮かんだ。

老人のそれとは、とても思えなかった。

比べる対象が悪いってのもあるけど、俺達二人は貧相だ。

院や公衆浴場なんかで同年代と比べて、それなりに自信はあったんだけどな。

アーネスの顔はキラキラしてるけど。


「何をしょんぼりしておるか、ジェスよ。

鍛え始めたばかりで、しかもまだまだ体は成長の途中じゃ。

肉の付き方は理想的じゃし、目指す方向性も儂ともコレとも違うじゃろ?

これから、これから。」

「爺さん、コレはないだろうよ。

まあ言ってる事はその通りだけどな。

お前らはパワー、スピード、持久力、それと頭。

スタイル的に満遍なく上げて行かないとだから、まだまだこれからだよ。

俺はともかく、この化け物じみた爺さんが何年鍛えてると思ってんだ。

焦んなっての。」

うん。

そりゃそうだ。


風呂上がり。

ここでも真新しい下着が用意されていて、素直に嬉しくなれた。

やっぱり、風呂はいいね。

さて今回はいかがだったでしょうか?


久し振りの日常回

個人的には満足です


まあ、一章最終話に出来なかったのは痛恨ですが………


次回こそ、一章最終話です(確定)


お楽しみに〜


ダメ親父でした

m(_ _)m


次回 邂逅

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