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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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演説

お掘りに掛かる橋を渡り終えると、まるでタイミングを計ったように正午を示す教会の鐘の音が、王都のあちこちから鳴り響いた。

ああ、いや、計っていたのか。

正午の一時間は前に白薔薇の園に来いって言ってたもんな、殿下は。


先頭を往くエリックさんに飛ぶ黄色い声援。

隊列を組んだ騎士達とは違い、兜を脇に抱えているのは敢えて顔を見せているんだろう。

イケメンだもんな、エリックさん。

「王国万歳、グレゴリオ殿下万歳!」

そう叫ぶ人も少なくない。

エリックさんとは違い、男女を問わずだ。

「王国の剣だ、バーゼル伯万歳!」

各地を転戦して魔獣狩りで名を馳せるバーゼル伯の人気もなかなかだ。

流石です、閣下。

「バ〜ルっ、バ〜ルっ!」

冒険者ぽい集団からはバルの名を叫ぶ人もいる。

その厳つい風貌はエリックさんとは違う意味で目立つし、五ともなれば有名にもなろう。

俺達はと言うと。

年配の方はその姿を見て両手を組み、拝む様な仕草をしていた。

アーネスに対して。

若い女性は、

「あれじゃない?

青い方の人。

結構、良くない?

勇者様〜!」

とか言われて、手を振られていた。

アーネスに対して。

「若き勇者万歳!」

って言う野太い声は、流石に仕込みなんじゃないだろうか。

うん、わかってた。

俺に掛ける声援って、なんて言えばいいか分かんないよね。

時々、

「若き勇者万歳!」

に続けて、

「若き英雄、新たな英雄万歳!」

ってのもあったけど、それこそ仕込みだろ。

うん、俺はオマケ。

民衆には印象的に弱いよね、俺は。

ちょっと安心。


一区画過ぎて、バーゼル伯の別邸の前には、この旅ですっかり馴染んだ顔が待っていた。

ドルドーニュさん、カレンさん、ターナーさん、トゥーレ、マローダさん。

ああ、マローダさん、顔色良くなったな。

皆、笑顔で手を振ってくれている。

ディディも勿論いた。

鬼教師の時とは真逆の、柔らかな笑みで手を振ってくれていた。

薄いグレーの提灯袖のブラウスに、黒の柔らかなシルエットのラップスカート。

太めの三つ編みを今日は左に巻いて留めていて、反対には黒い花のコサージュの様な飾りを着けている。

色味的に俺に合わせてくれたんだろうか。

嬉しくなって、ちょっと大きく手を振り返した。

皆の後ろには、どうやって移動したのか、ガスリーさんも姿勢良く立って笑顔を向けてくれていた。

殿下と入れ替いで出ては行ったけど、戻るの早過ぎませんかね。


貴族街を抜け市民街に入ると、沿道の人集りは驚く程のものだった。

普通に歩いている人もいたにはいたけど、一度は足を止めこちらを見ていた。

娯楽が少ない俺達の世界では、こういったパレードは祭りに次ぐ様な催しだろうとは思う。

でも、今朝の今って、皆さんのレスポンスの良さはちょっと引くわ。

軒並み背が高い建物の上階から、花びらが撒かれているし。

これも仕込みか?

ヤバいだろ、この騒ぎ。

テンションが上がっているのか、アーネスの顔はキラッキラッになって、声援に向けて手を振っていた。

お前、本当に切り替え早いな。

俺には無理。

精々、胸元で小さく手を振るので精一杯だ。

まあ、俺に向く視線は多くないから、それくらいでイイんだろうけど。


数区画先の広場で隊列が止まった。

俺達の馬車とバル、レミドさんが中央に着くと、エリックさんが俺達の前に来て、

「これより殿下の言葉を賜る、一同傾注!」

と声を張った。

深紅のマントを払う様な仕草も相まり、メチャクチャカッコいい。

「王都の民よ、グレゴリオ・エストラダ・アゼストリアの名においてここに告げる。

この国初となる勇者が誕生した。

同時に、初代国王以来我が国二例目となる「七大神の祝福」の加護を持つ者が現れた。

この国にとって新たな希望の光となるであろう。」

そこで言葉を止めた殿下に合わせたのか、整列している騎士が一斉に拳を上げ、雄叫びを上げた。

それに釣られたのか殿下の言葉を聞いていた王都の人々も、後に続いて歓声を上げた。

アレだ。

騎士さん達はアイツの知識で言う「雛壇のガヤ」だ。

主役が面白くなるように、この場合は殿下の発言に感情が昂るように、合いの手や歓声を上げるヤツ。

例えが失礼過ぎかとも思ったが、表面上は真顔を保つ。

殿下がスッと右手を上げると騎士さん達が歓声を上げるのを止める。

直ぐに周りの人々も歓声を上げるのを止めた。

「孤児院に預けられるという、不幸な幼少期を過ごしながらも、二人は読み書き、計算に留まらず豊かな見識を持ち、また我が国を脅かしていた匪賊、闇夜の牙の討伐を同行していたバーゼル伯領所属の騎士一班に魔術師一名、並びにバルガス・バルドールと協力して成し遂げた、武勇の持ち主でもある。」

今度は騎士さん達が歓声を上げるまでもなく、周りの人々がどよめきの声を上げた。

「その戦いにおいて、同行していた騎士一名、見習い二名が命を落としたのは痛恨である。

ここに集まる者だけでも良い。

彼の地の住人を守り、若き英雄達と戦い、そして命を落とした者達に、称賛と鎮魂の祈りを捧げてもらいたい。

オルトス・アルデラ、リック・イスラ、コーツ・ハーグ。

三名の英霊に。」

殿下はそう言うと、胸に手を当て目を閉じ、黙祷を捧げた。

騎士さん達は一斉に剣を抜き、眼前に立てるとそのまま目を閉じた。

俺達の世界の騎士の黙祷とは、こういうものなのだろう。

周囲の人々も胸に手を当て目を閉じる。

その光景に思わず鼻の奥がツンとした。

遅れる事、半瞬。

俺とアーネスも、三人に祈りを捧げた。


騎士さん達が一斉に納剣する音で目を開けた。

「さて、この場で余は一つ詫びねばならぬ事がある。

王都の民のみならず、全ての王国民にだ。

若き英雄達の誕生を祝うでなく、全くの偶然であるバーゼル伯ハロルドの功と妬み、あまつさえ数多の国民の血を啜り悪名を轟かす闇夜の牙なる匪賊を操り、王命である二人の若者の登城を妨げんと画策する貴族がおった。

残念な事にその貴族の特定は未だ出来ておらぬ。

だがこれは明らかな反逆行為であり、国を挙げての糾弾と調査を続けて行く事は、ここに約束しよう。

だが国民を守らねばならぬ貴族からこの様な悪逆な者を出した事は、王家の不明の証でもある。

この場におられぬ陛下に成り代わり、このグレゴリオ・エストラダ・アゼストリアが全ての民に謝罪する。

だが言葉だけの謝罪では意味が無い。

そう遠く無い未来における余の即位の場において即座に退位し、王孫であるカーソンに王権の移譲を行う事をここに表明する。」

殿下の話の最中に広がっていたざわめきが、殿下が言葉を止めたのと同時に止んだ。

静寂が辺りを包む。

今、この場にいる恐らく千を遥かに超える聴衆が、ただ立ち尽くしていた。

何処からか嗚咽が聞こえた。

それは次第に広がり、殿下を呼ぶ叫びへと変わっていった。

無理も無い。

アイツの世界ならともかく、俺達のこの世界で配下の責任をとって国の長の座を辞する者など居はしない。

俺もアイツの知識がなければ、その答えには辿り着かなかった筈だ。

それとは別にして、今のこの状況は暴徒化しそうで怖い。

駆け出す者はいないが、ジリジリと民衆が迫って来ていた。


俺とアーネスの顔が同時に焦りを浮かべた時、殿下がスッと動いた。

自ら馬車のドアを開け、優雅とも言える動きでその場に片膝を付いた。

右手は胸に、左手は拳を作り床に付く。

見た事は無い。

だけど知ってはいる。

貴族の最も重い謝罪の所作。

アイツの世界というか、国で言う土下座。

それを貴族の長、王家の第二位、王太子殿下が民衆に向けて行った。

再び辺りに静寂が訪れる。

僅かな間をおいて、それを最初に破ったのは、俺の隣に立つアーネスだった。

「グレゴリオ殿下万歳!アゼストリア王国万歳!」

整列していた騎士達も全てこちらに向き直り、騎士の礼を執る。

「グレゴリオ殿下万歳!アゼストリア王国万歳!」

アーネスに大音声で続いたのは、バーゼル伯だった。

広場を埋め尽くした民衆にも、それが広がっていく。

「グレゴリオ殿下万歳!アゼストリア王国万歳!」

やがて大合唱となった辺りの雰囲気とその光景に、身震いがした。

その時。

つと殿下が顔を上げ、立ち上がり、声に応える様に、右手を掲げた。


その瞬間。

辺りは全て声に包まれた。

万歳も聞こえるが、ほとんど意味を成さない声が、叫びが、その場を埋め尽くしていた。

万雷の歓声。

俺は普通ではないのかもしれない。

人より冷めているのかもしれない。

俺はその時、その場で、ただただ圧倒されて立ち尽くしていた。

いや。

二人。

バーゼル伯とエリックさんは、立ち姿こそ騎士の礼を執っているが、視線は周りに注意を向けている。

違う。

よく見れば、ほとんどの騎士達が声は上げながらも、目が辺りを探っている。

どこまで殿下の演説の内容を知らされているかはわからない。

涙を流す騎士も少なくない。

それでも己の「職務」を完全には手放していない。

職業軍人としての矜持、そんなものを感じずにはいられなかった。


「静まれ!

殿下のお言葉には続きがある!

一同、静まれい!」

バーゼル伯の大音声も、この場を占める熱狂には流石に小さかった。

だが。

騎士達が一斉に、ザッと踵を鳴らして民衆の側に向き直り、バーゼル伯のそれと同じ言葉を同時にに発すると、近くの人から奥へと徐々に静まっていった。

前の人が後ろに声を掛ける姿もあちこちで見えた。

ある種の連帯感が出来ているのだろう。

それでも完全な静寂には戻らなかったが、殿下は腕を下ろし先ほど迄よりも更に声を張って、口を開いた。


「余がここにいるのは、なにも謝罪の為だけでは無い。

陛下の命により、バーゼル伯家騎士団の力を借りて闇夜の牙の襲撃等の困難、危機を乗り越え参じた、我が国の新たな光、若き新星、その二つ星を皆に広くお披露目する為である。」

来たか。

まあ、さっきの殿下の「民衆に向けた土下座」の後だ。

多少、インパクトは薄いだろう。


「彼らは冒険者として、己が見聞と知識を高める為、各地にいるであろう苦難にあえぐ民を救う為、旅に赴く。

王家も協力を約束した。

騎士団から「千姿万容の魔女」レミド・レジストーリアを同行させる。

また七神教会からは、かの「拳聖」ジード・グルード殿が。

そして、先の闇夜の牙との戦いで共に槍を振るったバルガス・バルドールも引き続き旅を共にする。」

一人の名前が殿下によって告げられる度に、一部からどよめきに似た声が上がる。

おそらく冒険者とか傭兵達からなんだろうけど、ジード爺様の時は黄色い声の比率が高めだった。

ホント、どこでもモテるのな、あの爺様。

会った事がない人の方が多いだろうに。


「二人共、前へ。」

少し振り向き加減で俺達に殿下が声を掛けた。

躊躇しかけた俺に先んじて、アーネスが殿下の隣に進み立つ。

溜息を漏らし掛けたが、俺も半瞬遅れで殿下の隣に立った。

反対に殿下は一歩下がると俺達の肩に手を置き、再び声を上げた。


「紹介しよう。

黒の装束をまとったこの者が我が国二例目、初代国王様と同じく「七大神の祝福」の加護を受けし者。

勇者の親友にして固い絆で結ばれた、新たなる若き英雄。

ジェスター・トルレイシアだ。」

歓声が上がる。

勿論、先の殿下に向けた喝采には及ばない。

それでも多くの人が拳を突き上げ叫んでいた。

ごめんなさい。

嬉しいより、恥ずかしいが勝ってます。


殿下は俺の肩から手を離す直前、少しだけ後ろに力を込めた。

それを合図と受け取った俺は一歩下がる。

殿下は俺の立っていた位置に一歩で進むと、また声を張られた。

「蒼き装束の彼が、親友ジェスターと共に戦い、企みを抱いた貴族の手から逃れ、闇夜の牙を覆滅し、陛下の呼び掛けに参じた新たなる、そしてこのアゼストリアにおいて初となる勇者、アーネストリー・トルレイシアである。」

俺が下がった事で静まり掛けていた歓声が、また大きくなった。

俺の時より更に大きく。

うん、流石勇者様。

よかった。

これで俺の印象は、多少薄まっただろ。

よしよし。

視線に気付いて目を向けると、バーゼル伯が微かな苦笑を浮かべてこちらを見ていた。

どうやら見透かされたようだ。

いいんですよ、閣下。

俺は添え物で。

ホントもう、それで。


「皆のもの、今一度この新たなる若き英雄二人に喝采を!」

殿下の言葉で更に高まるボルテージの中、俺達のパレードが再開された。

うん、この鳩尾にある鈍痛はしばらく治まりそうにないな。

今回のメインはグレゴリオ殿下の演説でした


如何だったでしょうか?


やりたかったんですよ、民衆に頭を垂れる王族(笑)


中身はまるで違いますが、着想は「花咲ける〇〇年」から来ています


オッサンですが昔から少女マンガも読むんすよ

どうでもイイ情報ですね、すいません

m(_ _)m


いよいよ終わりが見えてきた王都編

もうしばらくお付き合い頂けたら幸いです

m(_ _)m


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます

モチベにつながるので、ブックマークを是非お願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネで表して頂けたら幸いです


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………


次回 黄昏時の鐘は二度鳴る

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