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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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威風堂々

白薔薇園を吹き抜ける風が止んだ時、僅かな沈黙を破る様に殿下がアーネスを見詰めて口を開いた。

「最後にアーネストリー君には言っておかねばならぬ事がある。

勇者の加護にまつわる話だ。」

思わず顔が引き締まる。

アーネスも悔しげな表情を解き、真剣な目を殿下に向ける。


「勇者の加護はあるものと、対を成していると考えられている。

もう少し正確に言うなら、勇者の加護を持つ者の「誕生」と対になっていると覚しきものだ。」

アーネスの顔が怪訝さを隠せなくなっていた。

「何の事ですか?」

微かにかすれた声でアーネスが問い掛けた。

「魔王誕生。」

えっ?

アーネスの言葉尻に被せる様に短く、でもはっきり、ゆっくりと発せられた殿下の言葉は、僅かな時間差を要して脳が理解した。


「恐らくだが、世界の何処かで魔王が産まれ落ちた。

君の誕生から時を開けずに。

君が先か、そちらが先か。

それはわからぬ。

魔王と勇者の伝承は数多ある。

魔王現れし時、勇者もまた現れる、とは古くからの言い伝えだが、ある時からこの部分だけは秘匿されてきた。

不吉の象徴として、勇者の加護を持つ者を迫害、最悪は弑する事が何度となく起きたからだ。

それ故に為政者達はある時を境に、古い伝承のこの部分を可能な限り書き換えた。

口伝も少しずつすり替えた。

知るものは少ないだろう。

野に隠れ潜む賢者とかなら別だろうがな。

これは伝えるべきか迷ったのだが、敢えて言っておこう。

魔王誕生を裏付けるように、王家で長らく占術を行っていたものが、先日、星見の際に死んだ。

最初の襲撃の報を受け、君達の行く末を見させた時の事だ。い

水盤と星見表を操り始めた直後、意味を成さぬ叫びを上げ、自ら壁に頭を叩き付けて。

余の目の前でな。

事切れる前、最後に呟いた言葉が『酷く暗い、どこまでも。』だった。」

最後のは聞きたくなかったな。

しかし俺達を占う事は、直接死に繋がるのか。

殿下はそれを魔王と結び付けて捉えたけど、真実はわからない。

言葉らしい言葉を残してないなら。

俺がそれ程、闇深いとは考えたくはないけれど。


アイツが予想した、世界のバランスを保つシステムとしての加護。

そう考えるなら魔王誕生に呼応して、勇者の加護を持つ者が誕生したとしてもおかしくはない。

勇者が不吉の象徴ととられるというのも、わからなくはない。

魔王と対になっているなら。

そう考えながらも、殿下の言葉を飲み込むのは難しい。

横目で見たアーネスは息を飲んだまま、絶句していた。


「現在、ザーベックに動きはない。

予想の範疇でしかないが、恐らく此度の魔王は魔族ではない。

人類の中に紛れ、ある程度の成長を待ちながら、ザーベックの地を目指しているのだろう。

魔王は何故か必ず、魔族への強力な強制力を持って産まれる。

そしてザーベックの地で、生きとし生けるもの全ての命の灯火を消し尽くそうと、動き出すのだ。」

嫌過ぎる。

勇者を打倒出来る者というのが、何度も頭をよぎる。

だけどその度にそれは打ち消した。

魔王が七大神の祝福を受けているとは思えなかった。

俺は魔王じゃない。

理由は無いけど、何故だか確信めいたモノがあった。


「アーネストリー君。

君は今後、何処かの時点で、魔王と対峙する事になるだろう。

私が退位を決めた理由の一つは、やがて来る厄災に備えて君をサポートする為でもあるのだ。

利己的な貴族の手が、君に伸びない様にする為に。」

後ろ盾って、そういう意味もあったのか。

最早、嫌だと言っている場合じゃない。

いや、嫌だけど。

嫌なんだけど、アーネスの顔が偉く引き締まっている。

さっきまでの悔しさや怒りを感じさせない程に。

俺も勇者パーティーの一員として、確定で巻き込まれる。

やっと片道が終わったと思ったら、別の旅が始ってしまった、そんな気分だった。

しかもより危険で困難な、想像もしていなかった旅が。


「さて、長くなったな。

余も支度を整えねば。

無論君達もだ。

お披露目に相応しい装いをしてもらわねばな。

ハロルド、任せたぞ。」

そう言って席を立った殿下に、

「御意。」

と短く応え、騎士の礼で見送るバーゼル伯に倣い、俺達も立ち上がって騎士の礼を執った。

少し離れた所に控えていた文官らしき人がこちらに一礼すると、殿下に付き従った。

程なくして、スッスッと殿下の前後左右に四人の佩剣した騎士が、まるで滲み出る様に現れて囲み、護衛に付いた。

少なくとも、俺はその気配すら感じてなかった。

視界に入って初めて存在に気付いたくらいだ。

あれは近衛騎士団の、それもかなり手練れの人なんじゃないだろうか。


殿下が見えなくなるまで見送ると、バーゼル伯がこちらに向き直り、俺とアーネスを交互に見詰めてきた。

初めて会った時、バルクーアの戦いの話の後の時の様な、鋭くも真っ直ぐな目をしていた。

「二人は儂を恨んでおらぬか。

慮外の出来事が重なったとはいえ、君達を囮の様に扱った。

陛下と殿下の思いと、君達の未来。

儂は秤にすら掛けなかった。

謝罪は出来ぬ。

恨まれても文句は言えん。」

俺はその視線を受け止め、大きく息を吸い込んでから答えた。

「囮として足る、そう思ってくださったのでしょう?

信頼してもらえた事に恨みで返す等しませんよ。

もう少し話しておいて欲しかった、とは思っていますけど。

それに謝意や謝罪は命を落としたリック、コーツ、オルトスさん。

三人のご家族へ向けて下さい。」

俺が言い終えると、アーネスは小さく息を吐いてから答えた。


「俺はちょっとだけ恨んでます。

でも旅自体はしてよかった、そうも思っています。

悔しさや後味の悪さ残ってるし、この先を思うと不安だらけです。

でも来てよかった。

俺とジェスは少しだけ大人になれたと思うし、俺達がここまで来た事で救えた人もいる。

知らない所で出る筈だった、誰かの犠牲を無くす事が出来た。

それは嬉しいです。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。」

アーネスが話終わったのと同時に、二人揃って左胸に手を添えて騎士の礼を執る。

庶民の貴族に対する最敬礼。

この所作もすっかり慣れた。


「そうか、ありがとう。」

バーゼル伯のその短い言葉に、どれほどの思いが乗っているのだろう。

声が僅かに、感じ取れるギリギリで震えていた。


城内に移動した俺達は、廊下の時点で大勢のメイドさん、王城にいるんだから侍女さんか、に囲まれ部屋に入るなりもみくちゃにされた。

お披露目に相応しい装いに整えられたのだけど、感覚的にはクシャクシャにされた感じだ。

服を剥かれ、体を拭かれ、香油を擦り込まれ、髪を梳かれ、髭って程ではない顔の産毛を剃られ、眉を整えられ、爪を切られ、服を合わされ………。


「あっ、ちょっ、そこはいいです、ダメ、イヤ、あの、ジェス、助けて、ジェス〜。」

うるさい。

俺も今、クシャクシャなんだよ。

「あら、意外と育ってるじゃない。

いい感じに肉も付いてるし。

ふうん、成人直後ってのも悪くないわね。」

何の話ですかね、レミドさん。

チラリと見た彼女の目はまるで蛇の目だ。


「ふむ、服の上からも良さげな気はしておったが、なかなか良い体付きじゃな。

鍛え甲斐があろう、バルガスよ。」

イヤ、今そんな感想いらないんですよ、バーゼル伯。


「ああ、絞っても絞ってもまだまだ出代があるって感じだ。

ジード爺さんも見込みあるって言ってたし、クラウディアも嬉々として魔法を叩き込んでた。

加護があるにしても、戦う者としては有望にも程があるぜ。」

その感想は嬉しいけど、今じゃないのよ。


「遠い目をしてないで助けて、ジェス!

うわっ、あぁ〜。」

うるさい、黙れ、アーネス。

俺も一杯一杯なんだって。


一仕事終えたって感じで壁際に下がったメイドさん達は、いい顔している。

「フンス」と「ドヤァ」が頭上に見えるようだ。

整えられた俺達はある意味、疲れ切っていたが。

アーネスは歴代の勇者達が好んだという、濃い青を基調として差し色程度に白と金をあしらった、騎士の制服風の姿。

肩のフサフサ、肩章って言うんだっけか、に短いマントが付いた、

「凛々しい青年士官」

って感じだった。


俺は細部は違うけど、似たようなデザインの、黒と白を基調としたもの。

七神のそれぞれが象徴する色を全て混ぜると黒になり、光を合わせると白になるからモノトーンなんだとか。

着付けてくれた人が耳元でそう言っていた。

フサフサとマントは俺のにも付いてる。


「ガスリー、あれを。」

いつの間にかバーゼル伯の後ろに控えていたガスリーさんが、金枠で木製の「アタッシュケース」の様な箱を、俺達の前のテーブルに乗せ、中が俺達に見える様に開いた。

そこには二振り。

大振りの、鞘に収まったダガーが入っていた。

蔓を模した銀の拵えが細かく施された鞘も、柄尻の獅子の頭を模した細工も、鍔に入っている透かし彫りもカッコいい。


「無銘ではありますが、今は亡き名工ウルヴェルトにより鍛えられた短剣でございます。

お納めを。」

「えっ!」

「はっ?」

二人して驚いたが、それを見たバーゼル伯は少し呆れた顔をして口を開いた。


「褒美として短剣を渡す約束をしておったであろう。」

イヤ、それは覚えてるけど、こんな立派な、しかももう亡くなっている名工の品とか恐れ多いんですが。

「貰っとけよ。

あの時の褒美としちゃ豪華過ぎるが、諸々の詫びを込みでってなら、妥当なもんだ。

今のその格好にも、似合うと思うぜ。」

バルがニカっとした笑みを浮かべながらそう言ってくれたから、まあ渋々だったけど受け取った。

「こちらの心情をバラすでない、バルガスよ。」

やや苦笑いのバーゼル伯を見て、俺達は顔を見合わせて少し笑った。


「グレゴリオ殿下、お越しです。」

ノックの後、ドアの外からの告げに側に立っていたメイドさんが素早く動いて、殿下を招き入れた。

入室した殿下の姿は軍装と言うには豪華だが、武人のそれを思わせる出で立ちで、佩剣もしていた。

そんな殿下は何かを確かめる様に、俺達の上から下まで視線を這わせると、片手で肘を抱き、もう片方の手は顎に当てて頷いた。

「ほう、なかなか様になっておるな、二人とも。

うん?

ハロルドは短剣を渡したのか。

丁度よい、余からも渡す物があったのだ。

これへ。」

殿下がそう言うと、大きなワゴンに二振りの剣を乗せた、正装のエリックさんが入って来た。

やっぱりこの人もカッコいい。

壁際のメイドさん達の目が、一斉に輝いた。


ワゴンの上の一方、片手半の長めの剣を手にした殿下は、おもむろに抜き放った。

「この剣は王家に伝わる、勇者の「忘れ物」だ。」

曰く、建国前の初代アゼストリア国王と出会った勇者が、親しくなった際に鍔元から折れたその剣の修理を任せて行ったそうだ。

しかし修理を終えたのと時を同じくして、魔王討伐も終えた勇者様は、顔を見せに現れたがその剣を受け取るのを忘れてまた旅立ったとか。

「詳しい経緯は残っておらぬが、初代様は事ある毎に「いつかはお返しせねば」と言っておられたそうだ。

それからは国ではなく、王家の宝として保管されてきた物だ。

くれてやる訳ではないが、アーネストリー君に貸与しよう。

使い給え。」

殿下の手ずから差し出したその剣を、アワアワしながらもアーネスは受け取らない訳にはいかなかった。


満足そうに頷いた殿下はもう片方の、こちらも片手半の剣を手にすると、またもおもむろに抜き放った。

「この剣は初代様が愛用された、「予備」の剣だ。

建国の折、愛剣と共に腰にあった一振りで使われる機会はなかったそうだが、自ら手入れを行い大事にされておったそうだ。

同じく七神の祝福を受ける君が持つのに相応しいだろう。

こちらも同じく貸与する。

使ってくれ給え。」

恐れ多いんだっての。

とは言え、やはり手ずから差し出されては、断りようもない。

冷や汗もので受け取ったそれは、ヤケに手に馴染んだ。


アーネスが受け取った剣の鞘は、濃紺の造りに金の縁取り。

やや幅広だが薄身。

浅く広目にとられた血抜きの桶は、滑らかな曲線で窪む様に彫られて、鍔元まで真っ直ぐに延びている。


俺が受け取ったのは、漆黒の造りに銀の縁取り。

やや細身のその剣は、刀身の造り自体はシンプルだったけど、桶の中に鱗がわかる程細やかに蛇が彫られ、その目には小さな紫の石が埋められている。

鍔を含めたグリップの部分もまた、細かな仕事の塊だった。

その鍔はシンプルな十字のものだが、両端はアイツの知識の「打ち出の小槌」の様な意匠になっていて、四角い部分には細かな渦巻き模様が彫られている。

握りの両端は鈍く金に光っていてそこには複雑な模様が彫られている。

滑り止めとして編み込まれた革は、しっとりと指に馴染む。

これ、ただの革じゃなくて、魔獣の皮革とかなんだろうな。


どちらの柄頭にも埋め込まれた深紅の宝石のデカさは目を見張るものがある。

魔力を感じるから、魔宝石ってヤツかもしれん。

その柄頭に結われた飾り紐も複雑な編み方をしていて、留め具に使われているこちらの黒い珠も、アーネスの方の蒼い珠も、華と羽根を模した模様が彫られていて、手が込んでいる。


刀身の造りに違いはあっても、手元の造りがほぼ同じなのは、勇者の剣を直した時に合わせたのかもしれない。

あくまでも俺の想像でしかないけど。

初代国王と当時の勇者。

どんな関係だったのだろうか。

興味が湧いたけど、今はどうでもいい。


正直手にするのも恐れ多いけど、仕方ない。

二人揃って左に吊るす。

バーゼル伯からの短剣を右に。

腰元のズシリとした重みが気持ちを引き締めてくれた。

引き締まりはしたが、違う重みもまた感じたけど。

「不要になった暁には、返しに来てくれ給え。

今これを言うには早いが、その時を楽しみにしていよう。

それでは行こか。」

殿下のその言葉を合図に、俺達は城外へと向かった。


城門の前には既に王国正騎士団が隊列を組んで待っていた。

その後ろにバーゼル伯家騎士団。

間を開けて、更に王国正騎士団。

俺達はその間に連れられて行った。

そこには騎士見習いが手綱を持つ、立派な馬体の白馬が二頭。

同じ様な馬体の白馬、四頭引きのオープンになった、ヤケに豪華な装飾の馬車が一台。

その馬車にアーネスが乗るように促された。

フワフワとした足取りで乗り込むアーネスに続いて、殿下が乗り込んだ。

次いで俺も促される。

イヤ、おかしい。

おかしいって。

殿下の両脇が俺達って、流石にそれはどうなのよ。


「早くせんか。」

躊躇する俺にバーゼル伯が急かす。

クソ、バルのニヤケた顔が腹立たしい。

諦めて乗り込むと、腰までのドアがそっと閉じられた。

レミドさんとバルが、白馬に跨り、見習いから手綱を渡される。


バーゼル伯もさっき見た芦毛の巨馬に跨り、先頭ではエリックさんが、花尾栗毛の鬣を綺麗に編み込んだ美しい牝馬に騎乗した。

正騎士団の中央に王国旗が上がり、バーゼル伯騎士団の中にも、バーゼル伯家の旗が上がった。


ゆっくりと殿下の右手が上がる。

それが振り下ろされると、後方から、恐らく魔術による花火が打ち上げられた。

騎士団の列が進み始める。

バルがこちらを振り返りニヤリと笑いながら、拳で胸を二回叩いた。

胸を張れってことね。

ここまでとは思ってなかったけど今更だ。

精々、虚勢を張る事にしよう。

アイツの知識にある「良い姿勢の見本」から、胸を張るのではなく肩を開いて力を抜き、鳩尾に力を込める、というのをやっておく。


威風堂々。


そう見える隊列の中、力を込めた鳩尾がズシリ重たくなりながら。

俺達は堀に掛かる橋を越え、既に集まっている沿道の人達の歓声を浴びる事と相成った。

言及された魔王誕生


これをやりたくて、前回の引きになったんです


先に言っておくと魔王軍との戦いは、短く抑える予定(予定は未定)の二章(現在に戻っての帰還編)の後

第三章迄、お待ち頂く事になっております(予定は未定)

ご了承の程、よろしくお願いしますm(_ _;)m


次回 演説

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