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真実と真意 その二

謎解き編、後半です!

アーネスと違い、俺は表情を隠す。

苛立ちや歯痒さは当たり前に内にあった。

あったけど、殿下の話はまだ続いている。

少なくともこの場では感情を抑え込み、冷静な視点で事の顛末を知りたかった。

俺の代わりの様に、アーネスが気持ちを表に出してくれるのだから。


「その後の君達の動向は、こちらでもある程度ではあるが把握していた。

闇夜の牙が壊滅したのが何より大きいが、再度の襲撃がなかったのは他にも理由がある。

先ずはジード老が同行した事。

あの老人はその武勇での名望は勿論、教会内部での発言力が恐ろしい程に強い。

大聖堂の神官長、先代とジャスミン殿の師匠であったのだからな。

それも手が届かない程の高みにおられた。

手出しする事で、確実に教会を敵に回す事になる。

そもそも貴族であっても教会を無視する事は難しい。

小領地の貴族領には治癒院がない事も多い。

事治癒に関しては教会に頼らざるを得ない。

大貴族にとっても教会は無視出来るものではない。

人が集まる所には当然だが情報も集まる。

雑多の情報の精査を依頼している貴族も多い。

無論、喜捨という名の料金を払っての事ではあるが。

加えてバルドール商会が表立って協力したのも大きいだろう。

監視下に置かれながらも、ハロルドの依頼を受け入れる形で、護衛に出た騎士達の宿舎としてロックス伯領の支店を利用させた。

ハロルドとの繋がりは周知の事で、不自然ではない形でやましさはない事を暗に示した。

騎士団からの聴取を口実に王城に呼び寄せた、ヤンガスからの提案だ。

『堂々としていれば、これ以上の追求は難しい。』

そう言って笑っておったわ。

バルガスの父と言った所だな。

君達が王都に近付くにつれ、他家もその動向には注意を向ける様になっていた。

城に詰める貴族で関わりが薄い家は大半は傍観。

極一部が好機と捉え王家に擦り寄り、位が低くそれが難しい者はハロルドと縁を結ぼうと動いた。

これらの動きも相まって、こちらの勢力が僅かに拡大したのは思わぬ副産物だった。」

教会か。

余り縁がなかったけど、情報網としての機能もあるんだな。

地域に根差した情報は、そりゃ為政者側なら喉から手が出るほど欲しいだろう。

ジード爺様にしたって、わかってた事ではあるけど、ただのスケベな爺さんじゃないんだよな。

蘇生魔法をも操るモンク。

バルと試合って素手なら完勝って時点で軽く人外だ。

ジード爺様を敵に回すと、この国の教会全てが敵に回るって言うのもえげつない。

「女性神官が中心になって」っていう注釈が付きそうだけど。

それにしてもバルの実家って言うか支店に宿泊したのは、そんな理由だったのか。

なんというか本当に力ある商会なんだな。

会頭のバルのお父さんは、奴隷解放とかもやってるって話だし改めて凄いな。

豪快なイメージのバルも、俺から見てだけど判断力や決断力があって頼もしい。

加護を除いた部分は血によるものかもしれない。


「陛下も余を通して表に出ない形で、君達の護衛を命じられた。

君達一行が下船した直後から襲撃や暗殺を防ぐ様に動いていた。

幸いこちらの手の者は、動く事無く王都に到着してくれたがね。」

付かず離れずだったのか、こちらに意識を向けていなかったのか。

少なくとも俺はそんな事、これっぽっちも気付いてなかった。

気付いていたら王様に助けを求めようとはしてない。

バルやジード爺様はどうだったのか。

うつむき加減で奥歯を噛んでいたアーネスは、顔上げると少しだけ驚いた表情で殿下を見た。

アーネスも陛下が寄越した護衛に気付いてなかったんだな。


「君達が無事に謁見を済ませた事で、此方の面子を潰せなくなり、事が終わった、次の段階までまた力を蓄えようと思っていた矢先。

陛下が倒れられた。

君が指摘した通り、謁見直後だ。

君達は運が良い、

これが会食の最中であれば、国王弑逆を企んだ大罪人に仕立てられていたであろう。」

うん。

普通にありそうで怖い。

自然死や病死なのに、毒殺されたと偽って政敵を討つって話はアイツの知識にもあった。

だが、なるほど。

最初に殿下が話した計画に乗ると、その場で処断と言っていたのは、陛下が倒れられたのを俺達に伏せる目的でもあったのか。


「陛下が倒れ、余は一気に時間が無くなった。

このまま余が玉座を引き継ぐか、計画の進展を待たず前倒しをしてカーソンに引き継ぐか。

余が王位に付く事にも少なからぬ利がある。

自然な形で国政の運営が行えるからだ。

だが外戚を無視し、対立を鮮明にしてしまうと、次代での争いを深刻化させてしまうリスクがある。

準備する間を与えず、カーソンに玉座を譲る方が、最初に起きる混乱よりも、後の混乱や争いの火種を潰せる利の方が、遥かに大きいと判断した。

今ならば、長子から長子へと玉座が渡る事になる。

争いの口実を与えずに済む。

これを不服としてランツを担ぎ上げようにも、今はまだ婚約の段階で後ろ盾としては些か弱い。

今後、ランツは王弟として王家預かりになっている、アンスシオン公爵家を名乗り、直轄領になっているアンスシオン公領を治める事になっている。

補佐として文人貴族の中から、カーリアンの後を継ぎ国務大臣に就ぐオージェルム候の次男、シャンドラー子爵を付ける手筈だ。

余は退位後、自領を持たぬウォルダート公爵として王都に残り、カーソンを補佐する。

横槍を入れる暇を与えぬ。」

これ、俺達が聞いていい話なんだろうか。

国政の根幹に近い内容だぞ。


「悪く思わないでくれ。

君達は余の共犯になってもらう。

共犯と言うのが聞こえが悪いと言うのなら、協力者としておこうか。

王家、余、アンスシオン公爵家、モレッド候家、オージェルム候家、バーゼル伯家。

これらの後ろ盾を得られるのならば、そう悪い話ではあるまい。

勿論、君達が望む自由な冒険者の立場のままで良い。

いずれお抱え冒険者の立場にはなってもらうが今はまだな。

今挙げた、王家、貴族家に公認された勇者と、七神の祝福持ちの冒険者と、公言される事にはなる。

なに、放っておいても周囲からはそう見なされる。

その上で、闇夜の牙の討伐。

暗躍した貴族の魔の手を跳ね除け、陛下の謁見を成した事。

これらも公表させてもらう。

この国において初の勇者とその親友たる、七神の祝福を持つ若き英雄を、貴族の横槍から守れなかった私が退位する事で、王家が勇者に詫びたと付け加えてな。

君達の後ろ盾に付いた貴族家は糾弾の対象から除外され、それ以外の貴族に疑いの目が向けられる。

後追いで直ぐに後ろ盾に付こうとする事は、却ってやましさを強調する事になって出来はすまい。

それでも擦り寄って来る者は君達にと言うよりも、後ろ盾に付いた我々との仲立ちを期待する者達だ。

静観を余儀なくされるだろう者達にとって、君達に近付く者達の動きが圧力になる。

貴族社会で少数派である事は死活問題になりかねない。

汚いと言ってくれて構わん。

貴族の糾弾とはこんなものだ。」

嫌です、とはもう言えない。

後から後から貴族が擦り寄って来るのは勘弁してもらいたいけど。

だが妨害を試みた貴族家への牽制と罰が、暗に盛られている。

そして俺達は受け入れる以外の道が無い。

そう考えると、殿下が玉座をスルーって言うのは、確かに利の方が大きいと思ってしまう。


「ハロルドも隠居してジラルドが継ぐ事になっている。

カーリアンも引退してモイヤー子爵が侯爵位を継ぐ。

余の退位後、二人の陞爵を取り仕切るのがカーソンの最初の国事となる。

今後も一部の貴族からは目の敵にされるだろうが、表立って邪魔立てされる事は無くなるだろう。

時々、陰はチラつくだろうがな。」

思わずバーゼル伯の顔を見てしまった。

ヤケに穏やかな顔で微笑んでいる。

その表情の真意はわからないけれど、少なくとも俺は淋しさを感じていた。

同時に陰を気にしないといけない事にはうんざりしたが。


「レミドはこのまま、君達と行動させる。

既に冒険者登録済みだ。

ネートの恩寵持ちで君達の中でも埋もれる事はなかろう。

ジード老も既に同行の決意を固められた。

国と教会、双方からの紐付きだと考えてもらって構わない。

拒否を認めん。

君達の自由を認める代わりの最低限の条件だ。

無論、護衛の意味合いもある。

そちらの方が意味としては大きいがね。

勇者パーティーの誕生だな。」

恩寵持ち三人と俺、勇者アーネスでパーティー結成か。

冒険者として過剰戦力ではなかろうか。

俺達二人はまだまだひよっこだけども。


「さてこれで粗方話は終わりだ。

何か質問はあるかね。」

「協力していた他の貴族家もいますよね?

少なくとも一家は。」

俺の質問に殿下が目を細める。

勿論、笑ったのではなく鋭くする様に。

「聞かれたからには答えるとしよう。

余の持つ情報の中からいくつかの家が浮かぶが、実際に動いたと分かるのは一家だけだ。

彼の家は当主はそれなりに有能だが息子二人は、まあ有り体に言えば屑だ。

今回の件で触れる事は出来ないが、元々の悪評を理由にそれぞれに廃嫡と蟄居を命じた。

そのまま放っておくと潰れる訳だが、後の事を鑑みると良くない展開が予想された。

そこで現当主より幾らか若いある貴族家の者を、既に鬼籍の先代の養子として送る事になった。」

なるほどね。

トーレス子爵家にも盗賊を用いて闇夜の牙に合流したという、証拠らしい物は出なかったのか。

しかもバーレスト候の手が及んでいたなら、潰れる筈のトーレス子爵家を金鉱ごと持っていかれる可能性まである。

対策を執ったのはわかるけど、でもそれってかなり強引な手なのでは。

「派閥に興味を示さない凡庸な男でな、ある才覚以外は。」

「どういう事で?」

「よく言えばバランス感覚が抜群に優れておる。

本質は蝙蝠だがな。」

うわあ。

二重スパイとして使う気なのか。

聞かなきゃよかった。

まあバーレスト候の勢力をちょっと弱めて、尚且つ情報の入手も狙ってるのね。

上手いこと金だけ吸い上げて、距離を置くとか対策されそうではあるけど。

でも盗賊貴族なんていう、ヤバい存在は当面心配しなくてよくなるっていうのはありがたいな。

俺達的にも、周辺の人達にも。


真剣な顔をやや俯かせ、黙って話を聞いていたアーネスが顔を上げて殿下を見据えた。

「バーレスト候へ直接の処罰は無いのですか。」

「気持ちは理解出来るが、無理だ。

やりようは無きにしもあらずだが、君が嫌う様なやり方にしかならん。

更に言うなら、これ以上の急激な変化はより多くの代償を払う事に繋がる。

諦めろとは言わん。

時間をくれ。

約束は出来ないのが残念ではあるがな。」

それはそうだ。

現状、状況証拠のみで、確かな証拠は何も無い。

やりよう、というのはおそらく相手がしようとした、証拠のでっち上げなんかの事だろう。

それは無理押しすれば、最悪は内乱だ。

流石にそれは俺達の本意から外れ過ぎる。

実際、間接的な罰は見込める。

王家の派閥ではありながら、傍流に近い所へ転落するのだから。

血の繋がりはあっても、国王と一世代分だけ離れる。

殿下の用意した落としどころとしては、理解は出来る。

でも向こうは黙って座してはいないよなあ。


未だ悔しさを隠さないアーネスに殿下が話し掛けた。

「君の気持ちは理解出来る。

だが今は小さな勝利で満足し給え。

納得がいかなければ、強く成り給え。

力を付け、如何なる邪をも退ける強さを身に着け、守りたい者や事柄を守れる様に成り給え。

少なくとも余は玉座におらずとも闘いは続ける。

小なりと言えど勝利は勝利と受け入れ、次はさらなる戦果を手に入れる為に。

余の闘いに明確な終点は無い。

天秤が傾き過ぎないように見守り、支え続ける闘いだからだ。

それを汲んではもらえまいか。」

また強く噛み締めた奥歯はそのままに、アーネスは小さく頷いた。


その時、少し強い風が吹き、辺りは来た時の様に、白薔薇の香気で場が包み込まれた。

旅の往路は、今終わりをの時を迎えた。


殿下が次に口を開くまでは、そう思っていました。

はい

分割にした理由、おわかり頂けたでしょうか?

振り返りながらの謎明かしなので、長くなる長くなる(苦笑)


トーレス子爵家の事なんて、ダメ親父の脳内メモリーにもほとんど残ってなかったし(汗)


とは言え一連の事件の真相を明かせてホッとしています


まあ、まだ殿下の話は続くんですけどね(汗)


次回 威風堂々 (2/24更新確定です!)

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