白薔薇の園は遠い
昨日(2024/07/25)は完全に更新するのを忘れてました………
以後、気を付けます!
m(_ _)m
一日、王都を歩き回ってわかった。
市民街を逃げるだけなら、それ程難しくない。
人通りが多く、気付かれても、それを利用すれば撒きやすい。
レミドさんの魔法でサポートを受けられるなら、逃げられない事はほぼ無い。
難しいのは再登城と大聖堂入り。
市民街と比べると遥かに少ない人通りと狭いエリア。
それに相手も馬鹿では無いなら、大聖堂や王城への道は封鎖するだろう。
レミドさん単独なら普通に抜けられる。
他人に対して認識を誤認させられるからだ。
彼女の手配書を回すなんて事は不可能だろう。
だけど俺達はそうは行かない。
街中で何度か追われたのは、俺達の何らかの情報が広まっているのだろう。
どうすりゃいいんだ、コレ。
何か一手、欲しい。
二日目は、朝から鬼ごっこになった。
レミドさんの魔法が伝えられたのか、躱して追って来るヤツがいた。
その時は相手が金属鎧を装備していたのが幸いし、振り切れた。
レミドさんを先頭に歩いていて出くわすのだから、単純な事故だとは考えにくい。
ポイントを抑えるだけでなく、巡回もしているのだろう。
それも踏まえ、早めに休憩場所に入った。
「レミドさん。
その魔法、俺達にも教えてよ。」
そう言ってみたが、首を振られた。
「出来るとは思うし、消費が少ない魔術だから負担もないとは思うけれど、動きながら常に掛け直す手間があるわ。
光と闇の相克する魔術に、風も組み込まないといけないから、実用に足る物になるのは休憩の短時間では無理よ。」
「それって陰影を作り出して、風の魔術で動きを付けてるって感じですか?」
「あら、理解が早いわね。」
この休憩場所も空き部屋だったが、地べたに座りお茶を啜るレミドさんは、ローブの裾から健康的な太腿を丸出しにして胡座をかいていた。
「それって、光の屈折を変えて見えなくするだけじゃダメなんですかね?」
「出来るわよ。
でも今回はダメ。」
なんでだよ。
「ひっかき回すのが、肝なんだからダメに決まってるでしょ?」
それはそうだけど、逃げ切れなければ意味が無い。
それに。
「どうやって再登城するんです?
大聖堂入りだって待ち伏せ確定じゃないですか。」
「それは地下を使う予定よ。
下水道から城内の厨房に抜けるわ。」
「地下は無理では?
待ち伏せに最適じゃないですか。」
「それはそうだけど、地下なら戦闘に参加出来る人数を制限出来るから、力技で押し通れるわ。
貴族街で囲まれる方がよっぽど危険よ。」
戦闘は、正直嫌だ。
俺達の技量で殺さず無力化は難しい。
例えレミドさんの魔法のサポートがあってもだ。
「王城のお掘りって、どうやって水を溜めてるんですか?
川に繋がってる訳じゃないですよね?」
それまで鎧を解いて体を拭いていたアーネスが、手を止めてレミドさんに聞いた。
「橋で隠れているけど引き込み口があって、王都の東にあるパンヌ川から暗渠を使って引いてるのよ。
そのまま王都全域に生活用水として地下を流れてるわ。」
「そこからお掘りに入って、泳いで渡るのは?」
レミドさんはちょっと考えてから指を三本立てた。
「三つ問題があるわ。
一つは暗渠の中をおよそ五十サナを泳ぐ必要がある事。
堀に向かう本水路の話よ。
堀から分岐している分水路は遡る必要があるから無理ね。」
それはあまり問題じゃなさそう。
本水路を流されればいいんだし。
「二つ目は暗渠に入るには水源管理小屋に行かなきゃいけないけど、どこも警備がいるわ。
水源管理は何処でも重要だから、必ず騎士が一班は詰めているわね。
本水路の入口の警備にどの隊のどの班が当たってるかは、私も覚えてないしね。」
逆にエリックさんの息が掛かった班ならすんなり入れるかもしれないのか。
連絡手段さえあれば行けそうな気がする。
ただ、班の入れ替えとかをするとルートがバレる事に繋がるかもしれないな。
「最後は夜じゃなきゃ出来ない事。
昼は堀を泳いでいたら目立ち過ぎるもの。
貴方達、夜間水練なんてした事ないでしょ?
それに夜明け前に決行する事になるけど、時間読みが難しいわ。
台本にない事だからぶっつけになるしね。」
確かに暗闇を泳ぐ経験はないし、疲労の仕方も想像が付かない。
暗闇っていうのはそれだけで精神を削るって言うしな。
同様に閉鎖空間に長くいるのも良くないって言うし。
暗渠の中は明かりを点ければいいけど、堀に出た時には使えないし。
う〜ん。
いや、待てよ。
「連絡を付けて、その水源管理小屋の警護を、エリックさんの息が掛かった班に替えてもらいましょう。」
「本気で泳ぐの?」
首を傾げたレミドさんが、眉を顰めて聞いてきた。
「いえ、それと地下に潜った痕跡をあちこちに付けてもらえると助かります。」
「撹乱ね。
でも、それならどうするつもり?」
「中央突破です。」
「「はっ?」」
レミドさんとアーネスのちょっと間の抜けた声が、ピタリと重なった。
たっぷり休息を取り、昼からまた移動を続けた。
イライラもしていたのもあって、コソコソするのはやめた。
「助けて〜、暴漢に追われてる〜。」
まるで棒読みの叫び声を上げたのはアーネスだ。
視界の中に守護騎士や冒険者がいたら、誰かがそう叫んでから逃げた。
毎回、効果がある訳ではなかったけど、動いてくれる人もそれなりにいて、逃げ易い場面が増えた。
休憩場所には入らず、広場の屋台で飲み物を買って飲んだり甘い物を摘んだりした。
巡回はそうしてやり過ごし、抑えられているポイントは近付かない。
日暮れを迎えるまでは、それで問題がなかった。
そろそろ寝床に向かうかって話になった時になって、問題が発生した。
「いたぞ!囲んで捕らえろ。」
街灯が一斉に着いた時、俺達は市民街東の表通りを歩いていた。
その十字路で出会い頭に傭兵の巡回と鉢合わせた。
しかも、
「あそこだ、前方の班と合流して囲むぞ!
急げ、女の魔法に警戒しろ!」
「見つけたぞ!舐めた真似をしてくれたな!」
真後ろと右手後方の路地からも、まるで湧き出すように傭兵達が姿を見せた。
数人が剣を抜いた事で、辺りはパニックに近い状態となり、何人かの野次馬を残して街の人は逃げ出した。
仕方ない。
岩の槍の要領で石の棒を地面から二本生やし、一つをアーネスに渡した。
長さ的には普段使っている剣と同じ。
殴れば痛かろうが当たりどころが悪くなければ死なないだろう。
こちらが武器を構えたのを見て、傭兵達もそれぞれに武器を構える。
中には投網のような物や、ボーラのような物を振っている人もいる。
「網とボーラは任せて。」
溜息の後、そう言ったレミドさんに頷きだけ返すと俺達は反対方向に飛び出した。
肉弾戦では及ばないどころか、かなり押し込まれた相手もいたが、魔法を組み合わせて勝てない相手はいなかった。
レミドさんも殺さないように魔法を撃っていたが、膝を砕いたり、金的をかましたりと、かなりえげつなかった。
まあ、下半身への攻撃は躱しにくいから狙いはわかるけど。
半数程度を行動不能にしたところで、俺達は逃げ出した。
全員を打ち倒す必要はない。
俺達の目的は「逃げ回る事」なんだから。
俺達は、というか俺は股間に礫弾を喰らった傭兵さん達を心配しながら、寝床に向かっていた。
明確に殺意や殺気を向けられたから仕方ないけど、声にならない叫びを上げてたからな。
可哀想が過ぎる。
それは脇に置くとしても、俺達の剣技はまだまだだという事がわかったのは、大きな収穫だった。
悪党でもない普通の傭兵さん相手に、殺意を持って武器を向ける事は出来なかった。
それはアーネスも一緒だったみたいで、モレッド侯領で見た気迫のような物は感じられなかった。
甘さと言われればそれまでだけど、人相手は精神的にキツい。
身を守る為に戦い、怪我を負わせ、時には殺める。
手に残る肉を打つ感触に慣れる事など、この先も無理かもしれない。
殺める事への忌避感にも。
何か大きな後悔でもしない限り。
「おう、坊主達。
いい女連れてんじゃねえか。
今晩は筆下ろしか?」
ニヤついた赤ら顔の三人に絡まれたのは、今晩の宿泊場所まで後少しの所だった。
それぞれが酒瓶を持って近付いて来る。
「こんなガキを相手にする訳ないでしょ?
子守よ、子守。
てかあんたら、口が臭いのよ、散りな。」
一瞬、誰だと思うような口調でそう言ったレミドさんは、端の男を押し退けて横道に入って行く。
集中していなければ気付かなかっただろう。
すれ違う時に、彼女の手に何かをその男が握らせていた。
「おっかねえ、おっかねえ。
坊主達も気を付けろよ~、喰われちまわないようになあ。
オッシ、もう一軒行くぞ~。」
そう言ってすれ違う三人からは、酒の匂いがしない。
緊張したけど、酔っぱらいを装った連絡の騎士か。
「酔ってなかったね、今の人達。」
素早く顔を寄せ、そう言ったアーネスも気付いたようだ。
頷き返すと俺達も、手招きしているレミドさんに小走りで駆け寄った。
その一角は歓楽街になっていた。
人で溢れる酒場。
服をはだけキセルのような物をふかす女性。
笑いながら行き交う酔っぱらい。
さっき日暮れの鐘を聞いたばかりだというのに、既に酔客達で賑わっていた。
バーゼル伯領都にも歓楽街はあった。
俺達も何度か足を運んだ事がある。
当然だけど冒険者の依頼で。
手が回らない酒屋の配達の手伝いや、所謂なお姉さんのお使いなんかだ。
顔見知りになったお姉さんからは、弟に似てるとか言って駄賃代りのお菓子をもらったりもしたな。
優しくて美人なお姉さんだったけど、客に殴られてあっさり死んでしまった。
それ以来、お姉さん系のお使いはしなくなった。
アーネスがあまりいい顔をしなくなったからだけど。
その通りは表通りより狭いのもあって、人通りの多さが目立っていた。
レミドさんは立ち並ぶ酒場の一つに入って行った。
大きくも小さくもない、ただちょっとだけ小綺麗に見える普通のその酒場は、満席どころか立ち飲みしている者がいる程、賑わっていた。
それ程賑わっているにも関わらず、俺達が歩くとスッと通してくれる。
誰かに話し掛ける事も、話し掛けられる事も無くカウンター脇のドアを開け、レミドさんが手招きした。
なんだここ?
何かの違和感。
賑わっている客の視線は、さりげなく俺達を追っている。
それも全員が。
何だ?
疑問を感じながらも、奥に入って行ったレミドさんに俺達も続いた。
ドアの先には二階に続く狭い階段があった。
それを上がると、直ぐ脇の一室に入った。
「お疲れ様です、補佐。」
俺達が入るなりそう言ったのは、赤茶けた髪とバルを二回り位小さくしたようなガッシリした体付きの、雰囲気的にはベテラン冒険者って感じの男の人だった。
それには何も応じずに椅子に座ったレミドさんは、仕草で俺達にも椅子を勧めてくる。
取り敢えず従って、手近な椅子に座ると室内を見回した。
二段ベッドとテーブルと椅子、文机。
窓は無く、部屋の明かりは魔道具のランプが二つ、向かいあった壁に下がっていた。
俺達が座ったのを見て、レミドさんがその冒険者風の、多分騎士団の人に目を向けた。
「報告します。
明日、正午。
準備を整え、白薔薇の園で待つ。
一時間前までに来て欲しい、そう通達が来ております。
それと、手配は済んでいるとエリック様から。」
「わかったわ。
今回使った部屋は全て放棄。
新たに同じだけの部屋を確保しておいてちょうだい。
そっちは急がなくていいわよ。
それと食事を。」
一礼を返して部屋を出て行く男の人を、俺達はただ黙って見送った。
「楽にして。
ここは私達が使ってる、アジトの一つよ。
下にいたのはあっちこっちの騎士団の奴らだから安心していいわ。
全員知った顔だから。」
そう言って椅子に凭れたまま、大きく伸びをしたレミドさんは足を膝に乗せ、手で足首をグルグル回し始めた。
わざとなのか何なのか、赤い下着が見えている。
「さっき、何か受け取ったでしょ?あれは何?」
取り敢えずソレは見ないようにして、気になっていた事を聞いて見る。
何時の間に仕舞ったのか、懐から何かを取り出すと、それは折り畳んだ羊皮紙で、広げて目を走らせた。
「バルガスに付けていた、監視からの報告ね。」
そう言ってこちらに放って来たので読んでみると、バルはバルで大変だったようだ。
向こうは派手に暴れたらしく、出会った傭兵を容赦なく打ちのめしたらしい。
今はドナート卿が用意した所に入ったと書いてあった。
「鎧、脱いでいいわよ。
食事を取ったら、今日は早めに休んで。
私は隣の部屋にいるから、何もないとは思うけど、何かあったらこっちの壁を叩いてちょうだい。
それともどっちか、来る?」
細い指先で顎をチョンチョンと触れるような仕草をしながら、舌なめずりをしてこちらを見ている。
イヤ、行かねえし。
俺は何も言わず肩を竦めておいた。
アーネスは赤い顔で、千切れそうな勢いで首を振っていた。
つまらなさそうな顔で肩を竦めると、手を振りながら部屋を出て行った。
ドアが閉まると俺達は同時に、そして盛大に溜息を吐いた。
用意された食事は、普通に美味かった。
串肉とパン。
汁より具の方が多い、ちょっとドロリとした熱々のスープ。
切り分けられた、アイツの知識にあるスイカのような果物。
知らない果物だったけど、良く冷えていて甘みより酸味が強く、でもサッパリとしていて、濃い味の料理の後では偉く美味しく感じた。
食後にタライでお湯が用意されたのは嬉しい限りだった。
体を拭いて一息付き、ベッドに入った俺達は、明かりを消して目を閉じた。
明日。
明日を乗り切れば。
そんな思いが巡っては消えたけど、眠りに就くのにそれ程時間はかからなかった。
翌朝、俺達にある報せが届いた。
陛下倒る。
容態は重篤。
暫く誰も口を利けなかった。
最後に爆弾を落としてみました
いかがだったでしょうか?
どうなる事やらですが、次回お楽しみに
最後までお読みくださった方々、ありがとうございます
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 未定
何を書いてもネタバレになりそうで………
次回 考察から始まる最終日(2025/01/11)




