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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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こんな初めて、いらない

時間の流れが遅い。

俺達は、まともな戦闘が初だ。

拙い技術。

見極め。

位置取り。

だが躊躇や戸惑いは、命取りになりかねない。

僅か数分が、果てしなく長く感じた。


「ニイちゃん達、コレを使え。

多分その剣よりは多少、楽になるハズだ。」

農夫のおっちゃんの声に、叩き付けるように剣を横薙ぎに振るって大きく飛び退る。

意図を理解したのか、アーネスが声を上げながら切り掛かる。


素早くおっちゃんを見ると、三本のピッチフォークを持っていた。


確かに。


剣よりリーチがあるし、噛まれる事は避けたい相手には、リーチ分の距離が取れて良さそうだ。

剣を納めて受け取ると、再度前に出て、化け物ムカデの側面から節の間を狙って突き刺した。

が、深くは刺さらない。

それでもアーネスに突進しようとしていたムカデが、大きく体をくねらせながら伸び上がった。


そのタイミングで今度はアーネスが下がり、おっちゃんから受け取った。

「アーネス、欲張らないで行こう。」

「ああ。」


アーネスにピッチフォークを手渡したおっちゃんは、また少し下がった。

首元から何か取り出すと口に咥えた。

甲高い笛の様な音が、三度響いた。

それが間を置いて三回。


「今ので助けを呼んだ。

直ぐに守護騎士様と警備隊が来る。

ここなら四半刻もかからない。

俺も加勢するからよ、皆で生き残るぞ。」

おっちゃんの言葉に、アーネスの口角が僅かに上がった。


互いに距離を置き、囲むように対峙する。

頭部を下げ無数の足をワサワサと動かしながら、アーネスに突進するムカデ。


俺とおっちゃんは胴部の左右から、ピッチフォークを突き刺そうとするが、節の間でもなかなか上手くいかなかった。


「噛まれるのだけは、何がなんでも避けろ。

どんな毒かわからない。

下手すりゃ、一噛みでお陀仏になりかねん。」

「噛みつきを狙われたら、避ける事だけ考えよう。」

「了解。」

互いに声を掛け合いながら、なんとか対処を続けていた。


薙ぎ払うような体当たり。

下から掬い上げるような突進。

手足を狙う噛みつき。

覆いかぶさるように襲って来る、首筋への噛みつき。


それらの攻撃が何度も飛んで来た。

攻撃に合わせて突いて逸らしたり、柄の部分で受けて、当たったと同時に後ろに飛んで距離を取ったりで、ここまではなんとかやり過ごしている。


普通のムカデの体は柔らかいが、コイツの背はまるで甲殻のように硬い。

黒光りする背面は平たく、やや丸みを帯びている。

腹側は赤みが強い褐色で、ワシャワシャ動く無数の脚は鮮やかな赤。

背面の節目を狙って突き刺そうとしても、巨体の割には早く、くねる動きは不規則でなかなか上手くいかない。

腹側への攻撃は頭部を起こしてる時に、正対しなきゃ出来ないので、相手の攻撃を交わしながらになるから厳しい。

毒に対するものと、噛みつかれそうになる度に聞こえる、ガチガチという顎が合わさる音で、恐怖と嫌悪感が湧く。


対峙してから数分。

だが、確実に体力が削られていた。


五時間歩いても感じていなかった疲労を、この僅かな時間で感じている。

あと数分とはいえ保つのか。


「ジェス、止まるな!」

僅かな逡巡が、俺の動きを鈍らせた。

咄嗟に持ち手を広く取り、柄で噛みつきを受け止める。

顔の間近まで醜悪で、毒線がある顎肢が迫る。

勢いそのまま草むら側に、滑るように押し込まれて行く。

マズい。

コレはマズい。


「おいニイちゃんよせ!」

おっちゃんの、叫ぶ様な声。

その瞬間、不意に押し込んで来ていた力が弱まり、同時にムカデが大きく伸び上がった。


押し返そうと踏ん張っていたので、前のめりにバランスを崩しそうになる。

咄嗟にピッチフォークを突き出し、体勢が不十分な為に刺さらないが、反動を使って後ろに大きく飛び距離を取る。


そこで目に入ったのは、激しく暴れるムカデの上で、節の間にピッチフォークを深く突き刺し、更に深く突き込もうとしているアーネスの姿。


瞬間。


体が自然と動いた。

走りながら両手で持っていたピッチフォークを左手に持ち替え、剣を抜く。

それを伸び上がってむき出しになっている顎肢の間から、口内に突き刺した。

なんとも言えない嫌な感覚が柄から手に伝わり、切っ先が頭部の向こうに少しだけ抜ける。

すかさず手を離し一歩距離を取り、渾身の力で剣の柄を目掛けて、ピッチフォークを振り下す。

衝撃で柄が真っ二つに折れ、先端のフォーク部分が大きく歪む。

ムカデの硬い顎が軸になり、刺さっていた剣の切っ先が跳ね上がる。

衝撃で剣は鍔元から折れてしまったが、ムカデの頭を断ち割った。


すぐさまアーネスが飛び降り、剣を抜いて身構える。

俺とアーネスは素早く互いに近づいた。


化け物はしばらく暴れのたうっていた。

だが徐々に動きが鈍くなっていく。

俺達は完全に動かなくなるまで、目線を外せなかった。

いや、動かなくなってもしばらくは、じっと息を詰めて見ていた。


「おーい、大丈夫かー、おーいっ。」

その声が聞こえた時。

俺達三人は殆ど同時に大きく息を吐いて、その場に座り込んだ。

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