叛徒の首魁
俺達は慌てて立ち上がり、騎士の礼を取る。
「時間が無い。
礼節は一旦脇に置いて、座り給え。」
俺達は礼を解くと促されるままに、ソファに腰を下ろした。
「君達、この状況をそのまま利用して、反乱の頭目にならないか?」
はっ?
「今日はこの後、私と陛下、カーソンとランツを交え食事をする事になっている。
そこで私達はランツを除いて死ぬから、そこで毒を盛った張本人として、逃げ回ってくれ給え。
これがその毒だ。」
コトリとテーブルに置かれた小瓶。
握ればすっぽり収まるサイズ。
う〜ん。
いや、普通に恐い。
「擬死を用いて外戚を排除するおつもりですか?」
とっさに返しはしたけど、流石にそれはちょっと………。
「そう、レミドが侍女を魔法で傀儡にし、毒を盛ったという事にしてね。
その毒の入手を君達がやった。
それらの手引きはバーレスト侯がって筋書きだ。」
イヤイヤ、流石にそれは………。
無理筋にも程があるだろ。
「正騎士団、バーレスト候家騎士団、傭兵団から逃げ回って、大聖堂に逃げ込んで欲しい。
ルートは事前に決めて逃げられるようにしてある。
その後でランツが人頭指揮をバーレスト候に取らせるから、直接面と向かって仕返ししてくれ給え。」
いや、だから無理だって。
「騎士に囲まれた状況で、
『俺達を裏切るのか、バーレスト侯!』
とでも言ってくれれば、後はエリックが上手くやる。
エリックが問い詰めている所に、私が直接兵を率いて登場するって寸法だ。」
「あの、お言葉ですが、余りに雑な筋書きなのでは。」
「わかっておるではないか。
だが雑でいい。」
俺の返事に事もなげに殿下は返す。
「私達にしようとした事を、そのままそっくり返す形にするって事ですか?」
アーネスが混乱と困惑を混ぜたような顔で問いかける。
「そうだ。」
そうだ、って。
黙ってられなくて、再度俺も口を挟む。
「しかし、そこまでしてはバーレスト侯も引っ込みが付かなくなって、最悪は王都で市街戦になりますよ?
勿論、私にだって気持ちに収まらないものはあります。
ですがそれではバーレスト侯家はお取り潰しになって、国が乱れるじゃないですか。」
「君達のどちらかが継げ。
もしくは分割してそれぞれが治める形にしてもよい。」
イヤイヤ、絶対に無理だし、何が何でも拒否だ。
「お断りします。
何より無辜の民に被害が出るような計画には、断じて乗れません。」
アーネスは困惑してるだろうに、きっぱりと断った。
「そうか。
ならばこの話は無しだ。」
はっ?
「さて、本来の計画について話そうか。」
イヤ、冗談かよ。
冗談、ですよね?
目が一切笑って無いから本気かと思った。
にしても、悪趣味が過ぎるだろ。
「この話に少しでも色気を出したら、この場で処断するつもりだったのだ。
悪趣味な話に付き合わせたな。」
試されたのか。
まあ、どうあっても乗れる話ではなかったけど。
「大聖堂に逃げ込んでもらうというのは本当だ。
大神官長の許可も得ている。」
どういう事だ?
「今、君達に死なれては困る。
処断と言っても殺しはしなかったよ。
奴隷に落として強制的に働かせるつもりだったのだがね。
ジェスター君、君は外戚を排除と言ったが、バーゼル伯とバーレスト侯。
違いは何だと思うかね。」
「私欲と国益のバランスでしょうか。」
「ほう、面白い意見だ。」
バーゼル伯も権力は望んでいるだろう。
使い道が違うだけで。
じゃなきゃ、モレッド侯や王家との婚姻関係の構築、国や自陣への俺達の囲い込みをしようとはしなかった筈だ。
何なら他領への魔物討伐隊の派遣もその一環なのかもしれない。
だけどより国益を重視し、国内での争いからは距離を置いているように見える。
争ってはいても潰すのではなく、牽制にとどめているように感じる。
それ程深い関係ではないけれど、この旅を通じてそれは感じられた。
ある程度、俺達に自由に行動させたのも、闇夜の牙を含む不良貴族の手先とか尖兵を潰させたかったんじゃないだろうか。
説明は欲しかったけど。
他者の力を削ぎ、不正に手を染め、自身を利する事を優先するバーレスト侯と、そこは明確に違うと思う。
バーゼル伯も何かしらの裏工作なんかはやってそうだけど。
それらを説明すると、王太子殿下は少し頷いた。
「君の言った事は概ね正しい。
バーレスト侯も自領における統治に問題がある訳では無いのだ。
むしろ名領主の部類に入る。
他者を蹴落とそうとするのはいただけないがね。
それにバーゼル伯もあれで清廉潔白なだけの人物でもないが、国の為にならない事はしないからな。」
なるほどね。
他者に対してだけ不寛容な訳か、バーレスト侯は。
「アーネストリー君。
君は大聖堂で国だけでなく、教会からも勇者として正式に認められる事になる。
それは拒否させない。」
それは俺もセット、ってことですよね。
ただでさえ憂鬱なのに。
「一応極秘で式典の準備は進めているし、これに対する妨害も無い訳ではない。
だが準備が整うそれまでには、今少しの時間が必要だ。
それとこのまま城内で保護する事は困難だ。
毒殺や寝込みを襲われる可能性もある。
城内は危険だ、君達にとってはね。
どこでどういう息の掛かり方をしているか、掴みきれないからだ。」
面倒臭いな。
やっぱり、ドロドロしてるんだろうな、アイツの知識の宮廷物みたいに。
「教会が勇者と認定すれば、七神信仰がある国なら自由に出入り出来るようになる。
今なら、望めばザーベック入りする事も可能だろう。」
有り難いけど国と教会、両方から首輪とか手綱を付けられる気分だ。
「準備が整うまでの間、王都内を逃げ回ってくれ給え。」
その言葉に戸惑いながら、アーネスが殿下に問う。
「何処かに潜伏するのはダメなんでしょうか。」
「駄目ではないが、国を脅かした賊を捕らえると言う名目で傭兵達を動かし、君達を捕らえる為に暗躍する者の尻尾を掴みたい。
動きがあれば、それだけ掴む尻尾が見え易くなるからだ。
その上で国と教会、両方から勇者認定を受けられれば、相手の主張は齟齬をきたす。」
芋蔓式にバーレスト侯まで、とは行かないよな。
「二日でいい。
二千とは言えど全てに配置出来る程、王都は狭くない。
バーレスト侯を含む貴族家騎士団を動員しても、同じ事だ。」
貴族街は貴族家騎士団が、市民街は傭兵団が待ち受ける。
その中を命懸けで鬼ごっこか。
心底、嫌過ぎる。
「陛下との食事は私がキャンセルしておいた。
準備はそのままさせているがね。
君達には警戒が予想される区画が記された地図を渡す。
宿泊はせず、この後すぐに発ってくれ給え。」
予定を変更して、こっそりと王城を脱出しろって事か。
「レミド、サポートしてやれ。
同行して警護せよ。」
イヤ、この人目立つでしょうよ。
「この人と一緒だと、とても目立つと思うのですがそれは?」
アーネスが素直に口にした。
「安心していい、彼女は魔術で相手に見た目の誤認をさせる事が出来る。
というか、彼女の本来の姿は一部の人間しか知らない。
王位継承権を持つ者と正騎士団の副団長達。
それと君達の二人だけだ。」
俺も知りたくなかった。
というか、知ってよかったのか?
「国が君達と敵対する意志が無い事を証す、その一端だと思い給え。」
秘密を共有する事で、離反し難くするってのもあるんだろうな。
「この場に誰か入って来ても、君達が見ている姿とは違って見えるだろう。
人によって見える姿が違う事から、千影の魔女と呼ばれている程だ。」
どんな魔術だよ、それ。
ニヤリとしながら、舌なめずりするのは何でだよ。
採取はさせないぞ?
「二日後の早朝、城内の白薔薇の園と呼ばれる庭園に来給え。」
再登城は流石に厳しいのでは?
「そこで、式典の段取りを説明しよう。
無理はせずともよい。
厳しいとなれば、直接大聖堂に入って構わん。
そちらでも説明は出来るからな。」
「白薔薇の園に来る利点ってなんでしょうか?」
わからな過ぎて思わず聞いた。
「大聖堂に逃げ込めば、一応は君達の勝ちだ。
だが、より効果的に勝利を演出するなら、王城から堂々と出て、騎士団を従えて市街を練り歩き、大手を振って大聖堂に入れば、国と教会の庇護を受けていると王都の住民に広められる。
そうなればそれ以後の手出しはより難しくなるだろう。」
それはそれで目立って嫌だけど。
「国としても国内に勇者が出現した事を、国民にアピールする格好の機会だからな。」
アーネスが勇者だった時点で平穏な生活は無理っぽかったけど、やっぱり俺まで巻き込まれるのか。
「他人事のような顔をしておるが、君も七大神の祝福持ちとして、世間に広めさせてもらうからな。
二人が親友でパーティーを組んでいる冒険者であるとな。
騎士団には入らないとなれば、それ位の覚悟はしてもらわねば。」
ウソでしょ!?
うすうす分かっていたけど、嫌過ぎる。
本気で、心の底から嫌なんだが!?
ある意味嫌がらせに近いよ、そこまで行ったら!
「私はこれで失礼する。
再会を楽しみにしているぞ。
出来れば白薔薇が咲き乱れる庭園でな。
二日間、叛徒の首魁の立場を楽しんでくれ給え。」
後は任せるとその場に残った二人に言い渡し、グレゴリオ殿下は部屋を後にした。
空いた口が塞がらない俺達は顔を見合わせたが、口を閉じても、出てきたのは溜息だけだった。
「さて、これが王都の区画を表した図面だ。
近寄らない方が無難な場所は、印を打ってある。
まずはバルドール商会が用意している、最下級の宿に向かってくれ。
今晩は貸し切っている。
客に金を握らせて、追い出した。
一応、偽装させた騎士を宿泊させているがね。
全て私の部下で信頼がおける者達だよ。」
エリックさんが説明してくれたけど、やけに手回しがいいな。
予め計画されていたんだろうな。
「バーゼル伯の王都別邸にいる、バルガス殿にも使いを出した。
ちゃんと伝わったなら、そこで合流出来るはずだ。」
バルはバルで、目立ちそうだけどな。
「バルガス殿は、同行しないよ。
彼は目立ち過ぎるからね。
彼は自分で潜伏するようにしてもらうから。」
それなら、まあ。
レミドさんのサポートがあるなら行けるかもしれない。
「私の魔術は私専用だから、貴方達には使えないわ。」
えっ?
「移動しながら、常に魔法を掛け直す事で維持してるけど、動き回る他人には使えないのよ。
出来なくはないけど、いざという時に攻撃や防御が遅れては意味が無いから。」
その魔術に割くリソースが多くて、他の魔術を使う際の足枷になってるのか。
それで戦闘もこなせるって言うなら、ヤバいのは間違い無いけど。
「取り敢えず、御用商人の馬車に偽装したのを用意してるから、出発してもらうよ。
これに着替えて。」
そう言って室内にあったクローゼットを開いたエリックさんが取り出したのは、室内やクローゼットの作りの豪華さからかけ離れた、何処にでもありそうな古着だった。
一応、清潔に洗ってあったけど。
促され着替えた俺達は、控えの間を出ると用意された馬車の荷台に詰め込まれるように乗り込んで、王城を後にした。
登城した時とは違う不安と緊張を抱え、俺達は命懸けの鬼ごっこを始める羽目になった。
石畳から伝わる揺れを直接尻で感じながら、いくらそうしても消えないのはわかっているのに、溜息が止まらなかった。
最後までお読みくださった方々、ありがとうございます
m(_ _)m
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 逃走劇の始まり




