銀髪の悪魔
終始にこやかな笑顔を浮かべ、俺達を見ていた陛下に見送られ、俺達は退出した。
下がってよいと言われ、どうするか聞いていなかった俺達は一瞬焦り掛けたが、案内してくれたエリック副団長が進み出て、一礼の後、
「こちらへ。」
と、俺達を促してくれた。
こうなるのがわかってたのか。
それはまあ、そうだろうけど先に言って欲しいよね。
居並ぶ廷臣、騎士、貴族の目が俺達の後を追う。
この目の中にバーレスト候もいるのだろう。
見知った顔は当たり前だが、ドナート卿の物しかなかった
彼の後に付いて謁見の間から退室した。
「さっきの控えの間に戻るけど、少し話がしたい。
いいかな?」
出て直ぐ、エリックさんにそう言われた。
顔は笑顔だ。
「どういったお話ですか?」
笑顔で返したが、警戒感を隠しきれたか自信はなかった。
「何処にどんな耳があるかわからないから、委細をここで話す訳には行かないけど、闇夜の牙の事についてね。」
笑顔を崩さずそう言ったエリックさんに、警戒を深める。
こちらは笑顔の維持が難しくなりそうだった。
控えの間に戻ると、エリックさんは腰の剣を外し、柄をこちらに向けてテーブル脇の床に置いた。
ソファに座るように促され、アーネスと二人並んで腰を下ろす。
対面にエリックさんも座る。
室内に控えていた使用人の女性二人を仕草で退室させると、溜息を吐いてから、エリックさんは口をひらいた。
「まずはお疲れ様。
なかなか堂に入ってたよ。
まあ、多少バタバタしてても、陛下は怒ったりしなかったけどね。
兜、外しても?」
鎧姿のままやたらと高そうなソファに座っているけど、怒られたりしないんだろうか、とか無駄な心配をしたが、取り敢えずは首肯しておいた。
それにしても、謁見の間に向かった時とは違って、随分、砕けた口調で話してくれるな。
尋問ぽくならないように気を使ってくれているんだろうか。
外された兜の下からはそれ自体が輝くような、柔らかそうな金髪が零れ、アイスブルーの瞳をサラリと隠した。
緊張していて顔立ちはわかっていたけど、特に感想を持つことはなかったその人は、「貴公子」って言葉がやけに似合う人だった。
イケメン副団長とか、この人もジード爺様とは別ベクトルでモテそうだ。
輝く金髪を手櫛で掻き上げるとじっと、その氷の様な瞳を向けて来た。
「君達が登城するのに向かって来る最中に、モレッド候領の村で襲撃に巻き込まれ、これを撃退、殲滅したって話は、陛下から直々に聞いている。
間違いない?」
「襲われているのがわかって、見捨てられなくて飛び込んだって感じです、細かいですけど正確には。」
アーネスの返答に、細く形のいい顎を摘むような仕草で考え込むような表情をするエリックさんは、
「微妙に報告に齟齬がありそうだな。
君も闇夜の牙だと何でわかったの?」
と聞いて来た。
俺は襲撃者がバルの啖呵に対して暗に認めた事、それが複数回あった事を伝えた。
「正解だとはっきり口にしなかったのが、却って認めているように思えたからです。」
「なるほどね。
うん、モレッド候から上がった尋問の報告では闇夜の牙だと記されていたから、自白させたんだろうね。
他に気付いた事はない。」
アーネスが村の上空を旋回していた魔禽の事。
それを見たディディが「戦場の眼」と言った事。
俺達が魔法で撃ち落とした事。
これらを簡潔に話した。
「それはもう、貴族の関与を疑うしかないな。
かなり高価な魔道具だからね、戦場の眼は。
国や高位の貴族しか持っていないハズだから。
他に所持出来るとしたら、製作した工房位だ。
ん、撃ち落としたって言った?
かなり上空を飛んでただろう?
どうやって?」
イケメンと言うより、美男子と言った方が似合うその端正な顔立ちを怪訝なものに変え、前のめりになったエリックさんに、その時の状況を説明した。
「呆れた。
魔術師達がやるって聞いた事があるけど、かなり難度の高い技術だって聞いてるよ、それ。
耳に入ったらアイツも欲しがりそうだ。
ただでさえ難色示されてるのに、競争キツくなりそうだなあ。」
ダラリと太腿の上に両手を下ろし、何処か遠い所を見ながら、後半は呟きに変わっていた。
アイツって誰だ。
「噂をしたら来たようだ。
聞きたい事はまだあるけど、これで失礼するよ。」
エリックさんはそう言うと、兜を脇に抱え、立ち上がって床の剣を取った。
ふと廊下に意識をやると、何か声が聞こえる。
何だ?
揉めてる雰囲気だけど………。
そそくさといった雰囲気で部屋を出ようとしたエリックさんだったけど、その前にドアがバンッと音を立てて開いた。
「うるっせえな!
ここにいるのはわかってるんだよ!
あっ、ホラいた。
あら、エリック。
お帰りかしら?
ごきげんよう。」
ドアの手前で目を覆い、斜め上を向いたエリックさんを片手で押し退け、腰の辺りまで入ったスリットから健康的な太腿を見せながら、大股で入って来たその人は、腰まで伸びた艷やかな銀髪とは対照的な、闇夜のような黒目勝ちの目を持った、身に纏うローブが色々隠しきれていない豊満美女だった。
多分、年齢はディディより上。
バルよりは若く見えるけど、案外、どっこい位かもしれない。
てかこの人、今うるせえって言った。
しかも後半は副音声でさっさと帰れって聞こえたような………。
俺の気の所為だよな?
「レジストーリア副団長補佐。
なにしに来たかわかるけど、くれぐれも程々にな。」
そう声を掛けて出て行くエリックさんは少し肩を落とし、背中には何か哀愁が漂っていた。
部屋を出て行くエリックさんを、まるで無視してこちらを見るその人の目が怖い。
瞳孔が完全に開ききっている。
しかも何か頬が紅潮してるし、舌なめずりしてる。
小さくやけに赤い唇の上をこうツツゥと。
「貴方達、魔術軽騎士団に入りなさい。
いいわね、いいわ。」
いや、よくないよ。
仁王立ちのまま、そう言って来たその人に取り敢えず、用意の断り文句を告げた。
「見聞を広める為に、騎士団入りはお断りさせて………。」
「ハァ?駄目よ。
入るのよ、アタシが誘ってるのよ?
断る理由なんてないじゃない。」
駄目だ、この人。
話が通じない。
「そもそも、貴女は一体誰なんで………。」
「エリックが言ってたでしょ?副団長補佐よ。」
ドンドン、言葉を被せてくる。
面倒臭いな、この人。
美人だけど、正直会話にならない人は疲れる。
「それで、入るんでしょ。ウチに。」
「いえ、あのお断りさせて………。」
「駄目よ、入るの、入るのよ。
決定ね。
じゃあ、これにサインして。」
ローブの内側から書類を二枚取り出し、テーブルに置いたその人はキョロキョロしている。
ペンを探してるのか?
てか、書かないって。
「お断りします。」
あっ、アーネスがちょっと切れてる。
「話を聞かない人の下に付くのは、お断りします。
無理。」
「あら、見聞を広めるって言うのは嘘なのかしら。」
「方便として言ってますが、丸っきりの嘘じゃないですよ。」
「まあ、そこはいいわ。
でも貴方達、騎士団に入らないと死ぬわよ。」
流石に俺の顔色も変わっていただろう。
どういうことだ。
「取り敢えず座って下さい。
どういう事なのか聞かせてもらえませんか?」
向いのソファを差して取り敢えず座ってもらう。
溜息の後、
「しょうがないわね、もう。」
と、言って渋々な感じを隠そうともせずに座ると足を組んだ。
めくれた裾とスリットの隙間から、見えちゃ駄目な紐が見えてますよ。
「私はレミド・レジストーリア。
魔術軽騎士団副団長補佐よ。
貴方達が勇者と七神の祝福持ちって言うのは、バーゼル伯から報告があって知ったのよ。
普通は欲しくなるでしょ?
そんなレアな加護を持つ人材は。」
イヤ、聞きたいのはそこじゃ無くてね。
「貴族にちょっかい掛けられてるんでしょ?
貴族間の争いが激化してるのは、元々掴んでいたし、そこに貴方達のような、あからさまに将来有望な人材が二人も同時に出たら、火種になるのは当然じゃない。」
「アナタも俺達が、俺達の所為で人死にが出たって言いたいんですか!」
「何を熱くなってるのよ。
そんな事は言って無いわ。
でも貴方達、自分を安く見過ぎてるわね。」
「どういう意味です?」
「察しが悪いわね。
自勢力に組み込め無いなら、勇者といえど亡き者にしてしまえ、って思われてるのよ。」
それが何故、安く見ている事になるのか?
「一騎当千が誇張じゃない人材なのよ、貴方達は。
今はまだしも、将来的にはね。
二人抱えるだけで、それだけの戦力増強が図れるなら是が非でも欲しいし、囲い込めないなら成長する前に、やっぱり是が非でも潰したいじゃないの。
しかも冒険者志望。
国内外問わずに何処にでも出没する脅威。
いるかどうかわからない魔王より、遥かに恐ろしい存在でしょうね。」
返す言葉が見当たらない。
かと言って受け入れられる物でもない。
「貴方達は色々考えているようだけど、陰謀なんて無いわ。
あるとしても標的は純粋に貴方達二人よ。」
「そう言い切れるだけの根拠はあるんですね?」
なんとか声を絞り出した俺に、見下すような視線を向けてくる。
「何より傭兵団が王都に集結しているのが根拠よ。
王都に集めて、幾ら騒ぎを起こそうと、自前の戦力と合わせても、保って三日よ?
しかも集めてしまっては脱出もままならない。
脱出は人数が多くなればそれだけ難しくなるもの。
それに盾になる為だけの依頼を、傭兵団が受けるはずもない。」
確かにそれはそうだ。
「私達が掴んでいる情報では、傭兵団およそ二千。
貴方達を捕らえる為だけに集めたって考えれば、ある意味光栄なんじゃ?」
「だとして、何の名目で俺達を捕らえると?」
「何でもいいのよ。
バルガス・バルドールを首魁とした、闇夜の牙の捕縛とかね。
適当な罪状をでっち上げて王都に潜伏した賊を捕らえる。
それに手を貸した、ドナート卿やバーゼル伯を追い落とすってオマケをつけてね。」
だから、事前にバーゼル伯が闇夜の牙を操ってるて噂を流してたのか。
たけどその噂は下火なんじゃ。
「国王陛下は動けないわ。
完全な反証を出せないんだもの。
首を晒してから自白の「事実」を出してしまえば、多少辻褄が合わなくても納得してみせるでしょうしね、諸侯は。
下手すれば明日は我が身になるんだし、中立派はこぞってそっちに流れるわ。
バルドール商会に借金がある貴族なんかも一緒にね。」
打つ手なんて、この状況であるのか?
「一番手っ取り早い解決策は、王国正騎士団に入ることね。
下手に手を出せば、それこそ叛逆を疑われる事になるし。」
待てよ。
「俺達は闇夜の牙討伐を協会に照会中なんですが、それは?」
「近付けないわ。
裏が傭兵の協会よ?
待ち伏せ確定じゃない。
一度、王城に入れてから包囲ってのが肝なんだから。」
「いや、確定したら国に上がるでしょう、報告が。
それまで誤魔化せるんですか?」
「握るに決まってるでしょ。
それか改竄するか。
執政官を抱き込んでるのよ、全部じゃないとしてもそれなりの人数を。
貴方達が会った使者だけの訳がないじゃないのよ。」
「伝令を頼めませんか?」
「私が?
イヤよ。
何か対価でも出せるって言うなら考え無くもないけど。」
足元見られてんな。
でもな、背に腹は代えられない。
「何を望むのですか?」
「騎士団には入らないって言うなら、そうね。
二人の加護について調べさせてもらおうかしら。」
調べる?
「反応実験と各種耐性検査でどう?
薬物実験もしたいけどそれは追々。」
普通に嫌だ。
「助けてあげたいとは思うけど、タダってどうなのかしらね。
大丈夫よ、死ぬまでの事はしないから。」
澄ました顔で言われても、嫌な物は嫌だ。
既にアーネスの口はあんぐりだ。
「あら、嫌そうね。
じゃあ、組織の採取でどう?
皮膚、粘膜、各種体液、髪の毛は一本でいいわよ?」
これならまあいい、のか?
「種の採取は手伝ってあげてもいいわよ?」
よくない。
ニタリと笑うその顔は、口が耳まで裂けてるように見えた。
もちろん錯覚だが。
この人、本当に正騎士団副団長補佐なのかよ。
悪魔じゃないか、殆ど。
その時、ノックも無しにドアが開き、入って来た人が、パンパンパンと三度手を打った。
「その辺にしておき給え、レミド。
君が追い込んでどうする。」
低く渋みのある声。
少し生え際に白髪が目立つが、端正な顔立ち。
そしてあからさまにいい身なり。
濃い紫のマントの縁取りは金糸で複雑な模様を描いている。
この人もさっきの謁見の間にいた。
それも玉座に一番近い場所に。
「殿下。何故ここに?」
にこやかな表情で問いかける彼女だったが、こめかみから汗が一筋伝い、顎からポタリと垂れた。
「もちろん彼らと話す為だ。」
そう言って彼女の横に立ち肩をポンと叩く。
後からエリックさんが入って来て、ソファの後ろに立った。
そのエリックさんが俺達にウインクを送って来た。
助ける為に、態々呼んで来たのか。
王太子殿下を。
流石の彼女も渋々席を譲り、エリックさんを睨みながら彼の隣に並んだ。
「さて、一応は初めてましてだな。
我が名はグレゴリオ・アゼストリア。
王太子という立場にある。
さあ話そうか、君達の未来について。」
1週間振りの更新ですが、お楽しみいただけたでしょうか?
今回は勇者パーティーの一人、レミド登場です!
まあ、彼女も勝手に出てきた口ですが(^_^;)
レミドの口から爆弾発言が飛び出しましたが、真偽は如何に?
更には王太子殿下まで出て来て、書いていて楽しかったです
何気に王太子殿下の名前は初出ですね(^_^;)
さて最後までお読みくださった方々、ありがとうございます
m(_ _)m
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら、切ってくださって結構ですので………
次回 叛徒の首魁




